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4.ウワサをすれば影と言うけれど
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オレ流のしごきに耐えてきたからなのか、最近のクラスの生徒たちは、前よりかは面がまえがしっかりしてきたように思う。
と言っても、正直オレの手の上で転がされているようじゃ、まだまだなんだけど。
なにしろここは『勇者学校』だ。
当然ながら生徒を勇者にするための施設なわけで、勇者が必要だってことは、裏をかえせばこの世界にはその対になる魔王もいるってことだ。
魔王、それはこの世界を手中に納めんと欲する魔族のトップであり、それはいくら勇者が倒しても倒しても、必ず次の魔王と呼ばれる存在がこの世に生まれてくる仕組みになっていた。
つまり、ヤツらは代替わり制らしい。
「つーかさ、俺たち『勇者』になるために勉強してるわけじゃん、倒さなきゃいけない今代の『魔王』って、どんなんだろうな?」
剣士のガウディオが、ふいにそんなことを言い出す。
「そうね、今までこの学校で勉強してきたのは、初代魔王のベンデラから先代魔王のイリオスまでだものね」
あいづちを打つのは、ナタリアという名の強気な少女で、初日にオレに杖の大切さの件で食ってかかってきた子だった。
このふたりは、今のところクラス内で及第点を出しているものの、正直なところ対魔王という視線で見たら、その足もとにもおよばない相手だろう。
なにしろ今代の魔王ときたら、このオレと互角に戦えるヤツだしな。
なんていうか、本当に面倒なヤツというか……。
でも……。
「───アイツ、わりと態度は紳士的ではあるんだよな……冷酷な面もあるけどさ」
「えっ!ぼっちセンセ、知ってんのっ?!」
思わずぽつりともらしてしまったひとことに、予想以上のいきおいでガウディオが食いついてくる。
「ん?まぁ、知らないわけじゃないからな。なにしろ三日三晩にわたって死闘をくりひろげた相手だし」
おたがいに実力が拮抗していたがゆえに、決め手に欠けて、長引いちゃったんだよなぁ。
おかげでその跡地は、いまだに一面焦土と化していたっけ。
「えっ?!三日三晩……っ!??」
「はあぁっ!?この悪魔と互角とか、ウソでしょ!?」
ガウディオもナタリアも、失礼なヤツだ。
いったいオレのことをなんだと思ってんだよ!?
でもパッと見渡したかぎり、このクラスの生徒たちはみんな一様に顔を青くしていた。
なぁお前らは、ホントにオレのこと、なんだと思ってんだよ……?
「まぁいい、とりあえず今日は近くのライデンの森での実戦だ。各自きちんと用意しとけよ?」
「はーい!わかったよ、ぼっちセンセ!」
「だから、ぼっちって言うな!」
そんなやりとりをしていた、ちょっと前の自分を責めたい。
昔から『ウワサをすれば影』っていうことわざがあるだろうに。
ライデンの森の奥、昼間でも若干の薄暗さがあるそこで、オレたちは最大のピンチを迎えていた。
「どうも、ごぶさたしてしまっていたね、我が愛しの白百合よ」
「……………っ!」
ふわりと空に浮かぶ、小さな人影。
なのにそこからもれ出るのは、その小ささにそぐわない、恐ろしいほどに濃密な魔力だ。
まさか、こんなところに来るなんて……!
「シエル……っ!」
「覚えていてくれたんだね、うれしいよリアルト」
うっすらとした笑みを刷く薔薇色のくちびるは、きれいな弧を描いている。
「まさか、『シエル』って……」
突如としてあらわれたその存在に、生徒たちがざわめき出す。
そうだよ、それであっている。
その目の前に浮かぶガキは、たぶん今お前らが想像したとおりの存在だ。
「まさか、今代の魔王……!?」
「ウソだろっ!?」
ビリビリと皮膚を焼くような濃い魔力に、生徒たちの顔が一斉に青ざめていく。
オレたちの前にあらわれたのは今代の魔王、シエル・アヴァランチェだった───。
と言っても、正直オレの手の上で転がされているようじゃ、まだまだなんだけど。
なにしろここは『勇者学校』だ。
当然ながら生徒を勇者にするための施設なわけで、勇者が必要だってことは、裏をかえせばこの世界にはその対になる魔王もいるってことだ。
魔王、それはこの世界を手中に納めんと欲する魔族のトップであり、それはいくら勇者が倒しても倒しても、必ず次の魔王と呼ばれる存在がこの世に生まれてくる仕組みになっていた。
つまり、ヤツらは代替わり制らしい。
「つーかさ、俺たち『勇者』になるために勉強してるわけじゃん、倒さなきゃいけない今代の『魔王』って、どんなんだろうな?」
剣士のガウディオが、ふいにそんなことを言い出す。
「そうね、今までこの学校で勉強してきたのは、初代魔王のベンデラから先代魔王のイリオスまでだものね」
あいづちを打つのは、ナタリアという名の強気な少女で、初日にオレに杖の大切さの件で食ってかかってきた子だった。
このふたりは、今のところクラス内で及第点を出しているものの、正直なところ対魔王という視線で見たら、その足もとにもおよばない相手だろう。
なにしろ今代の魔王ときたら、このオレと互角に戦えるヤツだしな。
なんていうか、本当に面倒なヤツというか……。
でも……。
「───アイツ、わりと態度は紳士的ではあるんだよな……冷酷な面もあるけどさ」
「えっ!ぼっちセンセ、知ってんのっ?!」
思わずぽつりともらしてしまったひとことに、予想以上のいきおいでガウディオが食いついてくる。
「ん?まぁ、知らないわけじゃないからな。なにしろ三日三晩にわたって死闘をくりひろげた相手だし」
おたがいに実力が拮抗していたがゆえに、決め手に欠けて、長引いちゃったんだよなぁ。
おかげでその跡地は、いまだに一面焦土と化していたっけ。
「えっ?!三日三晩……っ!??」
「はあぁっ!?この悪魔と互角とか、ウソでしょ!?」
ガウディオもナタリアも、失礼なヤツだ。
いったいオレのことをなんだと思ってんだよ!?
でもパッと見渡したかぎり、このクラスの生徒たちはみんな一様に顔を青くしていた。
なぁお前らは、ホントにオレのこと、なんだと思ってんだよ……?
「まぁいい、とりあえず今日は近くのライデンの森での実戦だ。各自きちんと用意しとけよ?」
「はーい!わかったよ、ぼっちセンセ!」
「だから、ぼっちって言うな!」
そんなやりとりをしていた、ちょっと前の自分を責めたい。
昔から『ウワサをすれば影』っていうことわざがあるだろうに。
ライデンの森の奥、昼間でも若干の薄暗さがあるそこで、オレたちは最大のピンチを迎えていた。
「どうも、ごぶさたしてしまっていたね、我が愛しの白百合よ」
「……………っ!」
ふわりと空に浮かぶ、小さな人影。
なのにそこからもれ出るのは、その小ささにそぐわない、恐ろしいほどに濃密な魔力だ。
まさか、こんなところに来るなんて……!
「シエル……っ!」
「覚えていてくれたんだね、うれしいよリアルト」
うっすらとした笑みを刷く薔薇色のくちびるは、きれいな弧を描いている。
「まさか、『シエル』って……」
突如としてあらわれたその存在に、生徒たちがざわめき出す。
そうだよ、それであっている。
その目の前に浮かぶガキは、たぶん今お前らが想像したとおりの存在だ。
「まさか、今代の魔王……!?」
「ウソだろっ!?」
ビリビリと皮膚を焼くような濃い魔力に、生徒たちの顔が一斉に青ざめていく。
オレたちの前にあらわれたのは今代の魔王、シエル・アヴァランチェだった───。
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