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閑話
南京の守り
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南京に残った清正と義弘は、南京を守るために四方の門に出城を建設し、長江上流からの侵攻に備え、山城の建設も行っていた。
本来であれば、義弘は上海へと戻りそちらの防備に当たる予定だった。
だが、実際にはその任を甥の島津豊久に任せ、義弘が南京に残る理由。
それは、清正が病に臥せったことだった。
「・・・・・・情けない」
床几に身をもたげ、清正がそう言う。
千姫達が日本に発ってより、南京防衛軍の司令官であると言うのにその役を果たせていない。
経験から部下達に指示する南京城の改築も、実際に自分の目で見て回ることが出来ていない。
「何の、明の水が少々合わなかったのじゃ、直ぐに良くなる。気にしても仕方が無かろう」
気心の知れた猛将同志。
何時もであれば昼と夜と知れずに酒を酌み交わす。
親子ほど年が離れていても、二人の間にすでに壁は無かった。
だが、今の二人を見れば、先に逝きそうなのは明らかに清正。
子の方が先に逝きそうなのだ。
「すまぬ、島津殿。上海に向かわねばならぬと言うのに」
「寂しい事を言うでない。苦しむ友を置いてなど行けぬわ。それにの、これは豊久に一軍の将たる気質をつけさせる良い機会。何も悪い事ではない」
それに、もとよりその予定であったとは言え、千姫が離脱した後の日本軍の士気は大いに下がった。
もともと何か熱に当てられたような士気の高さであったが、その分冷めてしまえば元のそれにも及ばないものとなる。
「・・・・・・今攻められれば大変なこととなる。一刻も早く防備を固めねば」
「うむ。じゃが、加藤殿。無理は禁物じゃ、焦れば焦るほど病と言うものは治りにくくなる。ゆっくり養生されよ」
「すまん」
悔しそうにしながらも、清正もその言葉に甘える。
実際、加齢により無理が効きにくくなっているのも確かなのだ。
だが、それを言えばまさに義弘こそ76歳。
疾うに老人と言っていい年頃。
「島津殿、明に動きはないか?」
先程までは力のない言葉だった清正だが、ガラリと打って変わり張りつめた緊張感を発する。
「無い。いっそ不気味なほどに何も伝わって来ぬ」
南京制圧から二週間。
小競り合いすら発生しないその状況は、むしろ異常であった。
当然、防備を固める方からすればありがたい。
だが、相手とてそれが分かっていれば、当然攻めてくる。
「一体どういうことなのだ? 儂が敵なら妨害に出るじゃろう」
「うむ。何かあると考えた方が良い」
しかし、黄海の戦いで大量の船を破壊され、上海で大軍を焼いた。
首都北京に近づく金軍のことも含め、こちらに対応できていないだけなのかもしれない。
そんな甘えも頭によぎる。
「明は計り知れぬ大国。それを忘れてはならん。すまぬが、兵達に今一度檄を飛ばし、士気を高めてくれ」
「分かった。さぁ、あとのことは任せ、もう寝るが良い」
そう言って清正の肩を押し、寝かせる。
明と言う大魚に深く刺さった針は、確かにそれを釣り上げるために必要なもの。
魚はそのまま釣られてはくれない。
必死に暴れ、針をばらし、糸を切る。
だと言うのに、この魚は一切暴れようとしないのだ。
針に刺さったことすら気に留めていない、そのようにすら思える。
「なにを企んておる・・・・・・」
北京を睨み、二将は気を引き締めたのだった。
本来であれば、義弘は上海へと戻りそちらの防備に当たる予定だった。
だが、実際にはその任を甥の島津豊久に任せ、義弘が南京に残る理由。
それは、清正が病に臥せったことだった。
「・・・・・・情けない」
床几に身をもたげ、清正がそう言う。
千姫達が日本に発ってより、南京防衛軍の司令官であると言うのにその役を果たせていない。
経験から部下達に指示する南京城の改築も、実際に自分の目で見て回ることが出来ていない。
「何の、明の水が少々合わなかったのじゃ、直ぐに良くなる。気にしても仕方が無かろう」
気心の知れた猛将同志。
何時もであれば昼と夜と知れずに酒を酌み交わす。
親子ほど年が離れていても、二人の間にすでに壁は無かった。
だが、今の二人を見れば、先に逝きそうなのは明らかに清正。
子の方が先に逝きそうなのだ。
「すまぬ、島津殿。上海に向かわねばならぬと言うのに」
「寂しい事を言うでない。苦しむ友を置いてなど行けぬわ。それにの、これは豊久に一軍の将たる気質をつけさせる良い機会。何も悪い事ではない」
それに、もとよりその予定であったとは言え、千姫が離脱した後の日本軍の士気は大いに下がった。
もともと何か熱に当てられたような士気の高さであったが、その分冷めてしまえば元のそれにも及ばないものとなる。
「・・・・・・今攻められれば大変なこととなる。一刻も早く防備を固めねば」
「うむ。じゃが、加藤殿。無理は禁物じゃ、焦れば焦るほど病と言うものは治りにくくなる。ゆっくり養生されよ」
「すまん」
悔しそうにしながらも、清正もその言葉に甘える。
実際、加齢により無理が効きにくくなっているのも確かなのだ。
だが、それを言えばまさに義弘こそ76歳。
疾うに老人と言っていい年頃。
「島津殿、明に動きはないか?」
先程までは力のない言葉だった清正だが、ガラリと打って変わり張りつめた緊張感を発する。
「無い。いっそ不気味なほどに何も伝わって来ぬ」
南京制圧から二週間。
小競り合いすら発生しないその状況は、むしろ異常であった。
当然、防備を固める方からすればありがたい。
だが、相手とてそれが分かっていれば、当然攻めてくる。
「一体どういうことなのだ? 儂が敵なら妨害に出るじゃろう」
「うむ。何かあると考えた方が良い」
しかし、黄海の戦いで大量の船を破壊され、上海で大軍を焼いた。
首都北京に近づく金軍のことも含め、こちらに対応できていないだけなのかもしれない。
そんな甘えも頭によぎる。
「明は計り知れぬ大国。それを忘れてはならん。すまぬが、兵達に今一度檄を飛ばし、士気を高めてくれ」
「分かった。さぁ、あとのことは任せ、もう寝るが良い」
そう言って清正の肩を押し、寝かせる。
明と言う大魚に深く刺さった針は、確かにそれを釣り上げるために必要なもの。
魚はそのまま釣られてはくれない。
必死に暴れ、針をばらし、糸を切る。
だと言うのに、この魚は一切暴れようとしないのだ。
針に刺さったことすら気に留めていない、そのようにすら思える。
「なにを企んておる・・・・・・」
北京を睨み、二将は気を引き締めたのだった。
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