プニプニほっぺの魔王様

アイム

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教会と天使

天使と悪魔

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「……先輩?」

 すっかり呆けていたけれど、私よりよほど志保ちゃんの方が混乱しているだろう。大好きな先輩は人じゃなかったなんて――

「素敵!」

 ……あばたもえくぼって奴なのかなぁ。

「前々から天使みたいな方だと思っていましたけど、本物なんて」

 キラキラと目を輝かせながら、志保ちゃんは先輩を見つめている。どうしよう、親友の懐の深さが半端じゃない。

「おや、気付かれていましたか。上手く隠していたつもりだったのですが、私もまだまだですね」

「……いえ、普通に天使だなんて思うわけがないじゃないですか。今は科学全盛の時代ですよ」

 確かに志保ちゃんは一瞬で信じちゃったけれど、私はいまだに信じられない。いや、とら君に会っていなければ信じられなかったはずだ。

「その羽、本物なんですね?」

「ええ。美月さんが少々遅れているようでしたので、その間に掃除をしていたのです」

「……え、掃除?」

「はい。天井に付いているステンドグラスを拭いていました」

 言われてみれば、確かに先輩は雑巾を手にしている。神々しい天使の翼で飛びながら高いところのお掃除……なんか、あまり凄みを感じない。

「それで、そちらが貴女の契約している悪魔ですね?」

「え?」

 志保ちゃんが先輩の言葉に驚く。天使の次は悪魔だなんて、普通だったら笑ってしまいそうな話だ。まぁ、その悪魔であるところのとら君は「くあぁ」と欠伸しているけれど。

「……先輩が天使なのだとして、私に近づいた目的はとら君ですか?」

 とら君を庇うようにして前に出る。天使と悪魔、当然の如く水と油なのだろう。だけど、だからと言ってとら君に危害を加えようとするなら、絶対に私が守らなくちゃいけない。

「いえ、始めは違いました。私の目的はあくまで美月音子さん。貴女です。貴女の様な美しい魂を持った人間を悪魔に堕落させられるわけにはいかない。そのために接触しようと思ったというのが嘘偽りのないところです」

「・・・・・・堕落?」

「はい。ですが、その悪魔に会ったことでそれも少し変わりました」

「どういう意味ですか?」

 先輩は私の質問に答えることなくしゃがんでとら君と目線を合わせ、頭を撫でようと手を伸ばし――

 バチッ

――突然、大きな静電気が起きたような音が鳴り慌てて手を引っ込める。

「……警戒されてはいるようですね」

「えっと?」

「美月さん。悪魔と一言に分けてしまいがちですが、実際には悪魔にも色んな者がいます。美月さんは悪魔がどうして生まれるかご存知ですか?」

「確か、天使が堕天して生まれるって」

「ええ。そして、堕天する理由は神の意に逆らったがためです。例えばです。犯罪者というくくりで人間を見た時、殺人を犯した者もいれば100円の商品を盗んだことがあるというだけの者もいるでしょう。それはもしかしたら信号を無視して道路を横断しただけかもしれない。はたまた冤罪で犯罪者ではないのに犯罪者にされた者もいるかもしれない」

「大なり小なりその理由に関わらず、神の意志に逆らえば天使は誰でも悪魔になると言う事ですか?」

 それも随分と狭量な話だと思ってしまう。……教会で神様への文句なんて流石に考えるべきではないと思うけど。

「その通りです。以前は全ての悪魔を滅すべしという方針だったのですが……まぁ、最近それも変化してきまして」

 少し何かを思い出し、一瞬だけ辛そうな顔をした三神先輩は直ぐに笑顔を取り戻し、言葉を続ける。

「悪意を感じない悪魔に対しては継続観察を行う方針となっているんです。そして、その子からは悪意ではなく、貴女に対する好意しか感じられない。まぁ、私には明らかな敵意を感じますが」

「……ごめんなさい」

 私の後ろに庇っていたはずのとら君は腕の隙間から顔を覗かせて三神先輩にあっかんべぇをしている。まぁ、確かに明らかな敵意だろう。

「美月さんはその悪魔に取り付かれてから特に変化はないんですね?」

「えっと、多分」

 無い、と答えようとしたけれど、何か変化があったような気もする。だけど、それがどんな変化だったのかも分からない。

「で、でも。とら君が来てから私は毎日が充実しているんです。だから!」

「……ご安心ください。今すぐどうこうしようという気はなくなりました。ですが、同時に条件を付けさせていただきます」

「条件?」

「はい。その悪魔が悪さをしないか経過観察をさせていただきたい。美月さん、以前からお願いしている生徒会への参加、これを条件にさせていただきます」

 そう言って三神先輩はニッコリと今まで以上に良い笑顔で笑った。……そう言えば誰かが言っていた気がする。天使にも良い天使もいれば悪い天使もいるって。
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