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長浜家
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「わかった。とりあえず別の警官にぜんざい広場に行って貰うから。それで彼らがいなければ現地で事情を聞かせてもらえるかな。」
「わかりました。ただ、できるだけ警官を集めて頂けるとありがたいのですが。」
「そうだね。限度はあるけど、できるだけのことはしよう。運が良ければ逮捕できるかもしれないしね。」
そう言って警官は無線機に向かってやり取りを始めた。
「大丈夫だよ。幸い近くに警官がいてね。確認してもらったけど、君たちが言うような連中はいないそうだ。」
壬生はサンダルを借りた。
「寒いけどガマンしてくれ、申し訳ないが。」
「仕方ありません。早く済ませましょう。」
裸足で見るからに寒そうだが、壬生は気にした様子もなく交番の外に出た。
交番を出て左にぐるっと回って商店街に向かう。
「あっ長浜家だ。こんな所に。」
博多川を渡りきった所にある白地に黒の「長浜家」の看板を永倉は指さした。
「あんた知ってるの?」
警官が聞いてくる。
「はい、叔母の友達の旦那さんに連れて行ってもらったことがあります。」
イベント前の徹夜明け、何か食べようとなった時、車を運転していた妙子の友人の旦那さんが強引に和知達を連れて行ったのだ。
妙子は「朝っぱらからラーメンなんて」とグチっていたが、永倉にとっては新鮮で、いい思い出になっている。
「福岡市民のソウルフードだ、って叔母の友人の旦那さんは言ってました。」
「間違いない。一時オーナーの体調不良で締めた時は西日本新聞(福岡の有力地方紙)の社会面は大きく扱ったし、替え玉50円から100円に値上げした時は各紙地方面で大きく扱われたよ。」
「たかが、一店舗のことでですか?」
「壬生君は福岡の人間ではないね。」
「両親は共に福岡市出身ですが、僕は生まれも育ちも埼玉です。」
「そうか。ならわからないだろうが、夜通し飲んで、長浜ラーメンで〆るのが福岡市民の流儀なんだよ。若い人は特にね。」
案外、この警官もそうしていたのかもしれない。
「私が行ったのは立体駐車場の1階のお店でした。」
「それなら『家』じゃなくて『屋』だね。」
「何か違うんですか?」
「最初にあったのが『元祖 長浜屋』。」
「最初にあった?新しいお店でしたけど?」
「道路拡張などで立ち退いて新しく店を建てたんだよ。その前にそこの従業員が分裂独立したのが『元祖 長浜家』。ここのは、さらに『元祖 長浜家』から分裂してできた『元祖 長浜家』が移転してきたんだよ。」
警官は親切に教えてくれた。
「ちょっと待って下さい。分裂したのはわかりますが、店の名前が一緒っておかしくないですか?」
「裁判にもなったし、市民の間でも混乱はあったよ。今じゃ一応落ち着いているけどね。」
「結構ややこしいんですね。」
「もっとややこしいことに、今泉に『#元長屋__もとながや__#』なんて店も出てる。自分もまだ入ったことは無いが、店構えは『元祖 長浜屋』風だ。」
「今泉と言うと警固神社の辺りですね。」
壬生の言う警固神社とは、神功皇后が警固大神を祀ったのが始まりとされている。もとは福岡城本丸の辺りにあったが、福岡城築城により現在地に移転させられたという神社である。
「君の言う通り、警固神社前の細い路地を入ったところの店だ。自分も私用でその辺に入って見つけた時はびっくりしたよ。」
「パクリとか言われないんですか?」
「店の名前が違っているから大丈夫じゃないかな。長浜屋か長浜家で修行して店を出しているのは間違いない。ま、違いと言えばあれかな。」
警官は店の中を指差した。
指差しているのは、丼を両手に持った店員の脇を子供が走っている看板だ。走ると危ない、という注意書きの古いデザインの看板だが。
確か妙子達と行った店にもあった。そこだけなぜか古めかしく感じたから覚えている。
「外から見た限りではあの看板は無かった。ひょっとしたら中にあるかもしれないが。」
「あの看板が、その『元祖 長浜屋』由来か否かを区別すると。」
「この店を見ていると自分はそう思うよ。」
確かにこの「長浜家」は狭い。カウンターしかなく、壁や入り口との間も狭い。子供だってこんなところでは走れない。
しかし、走ると危ない、という注意書きを残しているのは、店のこだわりなのだろう。
その長浜家を曲がって3人は、ぜんざい広場に向かう。
「わかりました。ただ、できるだけ警官を集めて頂けるとありがたいのですが。」
「そうだね。限度はあるけど、できるだけのことはしよう。運が良ければ逮捕できるかもしれないしね。」
そう言って警官は無線機に向かってやり取りを始めた。
「大丈夫だよ。幸い近くに警官がいてね。確認してもらったけど、君たちが言うような連中はいないそうだ。」
壬生はサンダルを借りた。
「寒いけどガマンしてくれ、申し訳ないが。」
「仕方ありません。早く済ませましょう。」
裸足で見るからに寒そうだが、壬生は気にした様子もなく交番の外に出た。
交番を出て左にぐるっと回って商店街に向かう。
「あっ長浜家だ。こんな所に。」
博多川を渡りきった所にある白地に黒の「長浜家」の看板を永倉は指さした。
「あんた知ってるの?」
警官が聞いてくる。
「はい、叔母の友達の旦那さんに連れて行ってもらったことがあります。」
イベント前の徹夜明け、何か食べようとなった時、車を運転していた妙子の友人の旦那さんが強引に和知達を連れて行ったのだ。
妙子は「朝っぱらからラーメンなんて」とグチっていたが、永倉にとっては新鮮で、いい思い出になっている。
「福岡市民のソウルフードだ、って叔母の友人の旦那さんは言ってました。」
「間違いない。一時オーナーの体調不良で締めた時は西日本新聞(福岡の有力地方紙)の社会面は大きく扱ったし、替え玉50円から100円に値上げした時は各紙地方面で大きく扱われたよ。」
「たかが、一店舗のことでですか?」
「壬生君は福岡の人間ではないね。」
「両親は共に福岡市出身ですが、僕は生まれも育ちも埼玉です。」
「そうか。ならわからないだろうが、夜通し飲んで、長浜ラーメンで〆るのが福岡市民の流儀なんだよ。若い人は特にね。」
案外、この警官もそうしていたのかもしれない。
「私が行ったのは立体駐車場の1階のお店でした。」
「それなら『家』じゃなくて『屋』だね。」
「何か違うんですか?」
「最初にあったのが『元祖 長浜屋』。」
「最初にあった?新しいお店でしたけど?」
「道路拡張などで立ち退いて新しく店を建てたんだよ。その前にそこの従業員が分裂独立したのが『元祖 長浜家』。ここのは、さらに『元祖 長浜家』から分裂してできた『元祖 長浜家』が移転してきたんだよ。」
警官は親切に教えてくれた。
「ちょっと待って下さい。分裂したのはわかりますが、店の名前が一緒っておかしくないですか?」
「裁判にもなったし、市民の間でも混乱はあったよ。今じゃ一応落ち着いているけどね。」
「結構ややこしいんですね。」
「もっとややこしいことに、今泉に『#元長屋__もとながや__#』なんて店も出てる。自分もまだ入ったことは無いが、店構えは『元祖 長浜屋』風だ。」
「今泉と言うと警固神社の辺りですね。」
壬生の言う警固神社とは、神功皇后が警固大神を祀ったのが始まりとされている。もとは福岡城本丸の辺りにあったが、福岡城築城により現在地に移転させられたという神社である。
「君の言う通り、警固神社前の細い路地を入ったところの店だ。自分も私用でその辺に入って見つけた時はびっくりしたよ。」
「パクリとか言われないんですか?」
「店の名前が違っているから大丈夫じゃないかな。長浜屋か長浜家で修行して店を出しているのは間違いない。ま、違いと言えばあれかな。」
警官は店の中を指差した。
指差しているのは、丼を両手に持った店員の脇を子供が走っている看板だ。走ると危ない、という注意書きの古いデザインの看板だが。
確か妙子達と行った店にもあった。そこだけなぜか古めかしく感じたから覚えている。
「外から見た限りではあの看板は無かった。ひょっとしたら中にあるかもしれないが。」
「あの看板が、その『元祖 長浜屋』由来か否かを区別すると。」
「この店を見ていると自分はそう思うよ。」
確かにこの「長浜家」は狭い。カウンターしかなく、壁や入り口との間も狭い。子供だってこんなところでは走れない。
しかし、走ると危ない、という注意書きを残しているのは、店のこだわりなのだろう。
その長浜家を曲がって3人は、ぜんざい広場に向かう。
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