古からの侵略者

久保 倫

文字の大きさ
20 / 95

キャナル・シティ

しおりを挟む
 交番より一番近いキャナルシティの入り口は、上川端商店街を南に抜けた、平清盛の建立した博多総鎮守たる櫛田神社の向かいにある。

 そこから連絡橋で国体道路を越えるとキャナルシティを構成するノース・ビルに入る。
 
 そこを起点に永倉は、壬生と遊び回って、地下1階のムーミンカフェで休憩していた。

 地下1階と言っても、その名前の由来たる疑似運河の上に天井は無い。
 解放された空間には、普通に光が入る。

「東京の方に比べれば、こういった商業施設で目新しいものはないでしょうけど、とりあえず今日は楽しんでもらえたでしょうか。」
「は、はい。」

 そう返事をしたが考えたのは別の事だった。

 今日はって、次はあるのかな。

 考えてみれば、壬生はどうして自分を誘ったのだろう。
 周囲にちょっと目を配ると、通り過ぎる女性が、皆壬生を見ているのがわかる。
 それだけの容姿が目の前の男性には備わっている。
 黙っていても、女性など選び放題であろう。
 
 助けてくれたのは、単純な親切心で間違いない。
 その後、遊びに誘ったのは、どうしてだろう。
 聞いてみたいが、返事が怖くて聞けない。

 ただの気まぐれだったらどうしよう。 

 気を落ち着かせるために、紅茶を口にする。

 最初は、その容姿にときめいた。
 だけど、今は違う。

 ぜんざい広場で見せた振る舞い。
 危険な状況から、女性をだけを逃がそうとするのは、なかなかできることではない。

 完全に壬生にまいったことを、永倉は自覚していた。

 それは、ヤクザと関係があるかもしれない、そう思うようになっても変わりない。
 むしろ、逆に想いが強くなったような気がする。

 正直、長浜家を出た辺りから、永倉は壬生のことばかり考えている。

 地下に降りて、疑似運河の噴水ショーや中央のステージのパフォーマンスを見ても頭に入らず、滑るばかりだった。

 ハムリーズで、シュタイフのテディベアをもふもふしても、頭の中には壬生がいた。

 5階のイベント会場が、ラーメンスタジアム内の一角と気づかず迷ったのは、かえって楽しかった。
 いつまでも一緒にいられる気がして。

 そして、今も。

「どうしました?」

 不思議そうな顔で壬生が聞いてくる。

「何か僕の顔についてます?」

 永倉は、思わず顔を伏せた。
 考えながら壬生の顔をガン見していたようだ。

「いや、ちょっと考え事を。」
「考え事?」
「いや、マンガのこととか、ちょっと。」
「あぁ、これから書く作品のことですか。」

 壬生は、信じてくれたようだ。

「いい作品がかけるといいですね。」

 うん、そうなんだけど。

 紅茶を口にする。

「今回の事とか、うまくかければいいんだけど。」

 我ながらとんでもないことを言ったなと思うが、言葉は取り消せない。

「あはは、さすが、漫画家になろうと言う人は違いますね。」
「……いや、その。」
「まぁ、あのぜんざい広場の件だけでも原因とかわかれば。」
「何だったんでしょうね。」

 突然、立ち上がり、操り人形みたいにぜんざい広場を出て行く人たち。
 永倉にしてみれば、ホラーでしかない。壬生がいなければ、恐怖でおかしくなったもしれない。

「催眠術の類としか思えないんですけど、僕のせいで永倉さんに効かなかった、とか訳がわかりません。」
「催眠術にしても、何らかの形で働きかけないとかけられませんよね。それなりにお客さんいたのにどうやって。」
「お客さんの近くに彼らの内の誰かが近寄った気配は無かったですし。」
「警察の人に店員さんが『ぼぉーとっとして』って言ってましたけど、何かガスみたいなのを撒いたとか。」
「ガスで意識をもうろうとさせることはできても、行動させるには指示が必要だと思うんです。」

 二人とも黙ってしまった。

 どちらも、ぜんざい広場での出来事を合理的に説明できるような知識は無いのだ、ということを再確認しただけだった。

「止めにしましょう。アキム達の件は警察に任せる以上のことはできません。」
「そうね、下手な考えをしても疲れるだけだもん。」

 今までに読んだマンガなら、魔術などで説明できるが、現代日本にそんなものは存在しない。

「そろそろ、帰りましょう。」
 そう言って壬生は自然に伝票を手にした。
「あ、あの。」
「ここは、僕をたてて下さい。」

 有無を言わせる気はないようで、そのまま席を立つ。

 高い身長もさることながら、長い手足に小さい頭。
 一体全体何頭身なんだろう。

 顔がいいだけじゃない。スタイルもいい。おまけに身体能力も高い。
 頭も悪そうじゃないし、性格のよさは、今日一日でたっぷり堪能させてもらってる。

 ほんと、なんでこんな完璧超人パーフェクトちょうじんがいるんだろう。

 そう思う永倉。
 長浜家から出てから、壬生のことばかり考えていたせいで、初歩的なミスをしたことを帰った時に気づかされる羽目になる。


「妙子叔母さん、戻りました。」
「お~かぁ~えぇ~りぃ~。」

 ドアを開け、挨拶をした永倉を出迎えたのは、その眼に狂気を宿した妙子だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

忘れ去られた婚約者

かべうち右近
恋愛
『僕はレベッカしか選ばない』 甘い声音でそう話したはずの王太子サイラスは、レベッカを忘れてしまった。 レベッカは、王太子サイラスと付き合っていることを、ある事情により隠していた。舞踏会で関係を公表し、婚約者に指名される予定だったのに、舞踊会の夜にサイラスは薬を盛られて倒れ、記憶喪失になってしまう。 恋人が誰なのかわからないのをいいことに、偽の恋人が次々と名乗りをあげ王太子の婚約者の座を狙ってくる。おかげで不信に陥ったサイラスに、レベッカは自分が恋人だと名乗り出せなくなってしまった。 サイラスの記憶喪失を解消するため、薬師兼魔女であるレベッカは恋人であることを隠しながら、事件調査を協力することになった。そうして記憶が戻らないまま二人の距離は再び近づいていく。だが、そんなおりにサイラスの偽の恋人を名乗りでた令嬢たちが、次々と襲われる事件も起き始めて……!? ※他のサイトにも掲載しています。 毎日更新です。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...