古からの侵略者

久保 倫

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壬生任意同行

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「壬生さん、ごちそうさま。」
「あきらちゃん、ごちそうさま。ペペロンチーノ美味しかったわ。」
「お粗末さまでした。」

 壬生が洗い物を始めた時、インターフォンが鳴った。

「東署の者です。今一度、貝塚駅前のひったくり犯について、永倉さんからお話を伺いたいのですが。」

 永倉に断る理由はない。
「いいですけど。上がりますか?」
「いえ、玄関で結構です。」
「そうですか、寒いので中に入って下さい。」
「どうも。」

 刑事たちは、玄関の中に入ってきた。
「では、最初からご説明頂けますか。」
「はい。」

 永倉は、駅の階段を降りるところから話始めた。

 当然、壬生が登場するくだりになる。 

「で、壬生 朗さんが公園から飛び出してひったくり犯を蹴り倒したと。」
「はい、そうです。」

 逃走する赤いパーカー、イサイとかいうひったくり犯を壬生が、公園の柵に登って蹴りを叩き込んで、着地する間にかごに入ったバッグを取り返してくれたくだりを、永倉は長々と壬生への称賛を交えて話した。

「なるほど、大したものですな。」
「そうでしょう。」
 壬生が褒められることを我がことのように永倉は喜んだ。

「ね、壬生さん。刑事さんたちも褒めてるよ。」

 永倉が、リビングの壬生に話を振った。

 壬生は、照れくさそうに笑うだけだが、刑事たちの表情が変わった。

 どうしたんだろう?不思議に思う永倉に、刑事の一人が投げた質問は、意外なものだった。

「永倉さん、あなたは壬生さんの動きをどう思いました?」
「どうって、かっこいいなと思いました。」

 ウソ偽りない本音を語った。

「タイミングよすぎるなとか思いませんでしたか?」
「えっ?」
「いや、自転車で逃走する人間のこめかみを蹴り飛ばすってのは、なかなかうまくいくもんじゃないですよ。」
「そりゃ、そうかもしれないですけど……。」

 刑事さんたち、何を言いたいんだろう。

「あなたは、ひったくり犯を追いかける際、大声を出した。それを聞きつけてそちらの壬生さんが、咄嗟に公園の柵に登り、ひったくり犯を待ち構えて蹴った。」
「そうです。壬生さん、そうでしょう。」
「ええ、そうです。永倉さんの叫びを聞いて、見たら僕の方に自転車が向かってきたので、植木を踏み台に飛んで柵に登って、そこから蹴り飛ばしましたが。」
「なるほど、永倉さんの叫びを合図にですか。それにしても都合よくいってますな。」
「壬生さん、運動神経いいんですよ!」

 刑事さん、壬生さんとひったくり犯がグルだと言いたいの?

「それにひったくり犯は、ぜんざい広場にも表れたんです!壬生さんに蹴り倒されたことを逆恨みして。」
「それもおかしいんですよ。どうして、翌日、都合よくぜんざい広場にひったくり犯は現れたのですかな。しかも前日着ていたのと同じパーカーを。」
「そ、そんなこと言われても。わかりません。」
「しめし合わせれば簡単なこととおっしゃるんですね。」

 壬生も自分が警察にどう思われているか悟った。

「でもなんでそんなことをするんです?この子を、有希を助けても何の利益もありませんよ。私だって、大して売れてない漫画家です。お金があるわけじゃありません。」

 そう、妙子の言う通りだ。自分は何もないただの漫画家志望の女の子に過ぎない。金持ちでもないし、権力のある親とかがいるわけでもない。

「さてその辺は、まぁ壬生さんにご説明頂きたいところで。」
「何にも。僕が永倉さんを助けたのは、ただ、ひったくり犯を許せなかっただけです。」
 壬生は冷たい目を刑事に向けた。
「ですが、警察の方は、別の考えがあるようですね。」
「いかがでしょう。我々の考えが間違っているとおっしゃるのでしたら、署の方で詳しくお話願えますか。士道会のことも含めて。」

 士道会!
 あの小倉が所属する暴力団の名前に、永倉の心臓は跳ね上がった。
 驚きの余り、意味もなく胸をおさえてしまう。

 刑事たちも、永倉が何か知ってるのか、というような顔になった。

「いいでしょう。僕にやましいところはありません。」
「壬生君、行かなくていいよ。刑事さん、これは任意同行でしょう。断る権利があるはずです。」

 妙子が、壬生を引き止めにかかる。

「はい。ですがそれを行使するかは、この場合壬生さんの一存ですな。」
「そうですね。権利を行使せず、伺いましょう。ただ、バイト先に休みの連絡だけさせて下さい。」

 壬生はスマホを取り出した。

「壬生さん……。」
「大丈夫ですよ、永倉さん。」

 壬生は、スマホで会話し始めた。
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