古からの侵略者

久保 倫

文字の大きさ
上 下
43 / 95

乱戦

しおりを挟む
「署長、逮捕せよ。ただの暴力犯かと思えば、侵略を宣言だ。無視するわけにはいかん。」
「かしこまりました。」

 署長の言葉が引き金となり、警官による包囲の輪が縮まる。

「やる気の様ですな。」
「蔵宇治、木っ端どもは任せる。我は、あの大臣の首を取る。」

 秋夢の言葉にさすがにSP達が動いた。
 膝をついたままの大久保とアキムの間に位置し、拳銃を構える。

「動くな!動けば撃つ!」

 SP達が銃を構える。

「拳銃とやらか。ちょうどいい。撃ってみよ。我ほどの巨体相手ならば外すことはあるまい。」

 秋夢が一歩前に出る。

「待って下さい!後ろに警官がいます。」

 さすがに部下を銃撃されてはかなわないと署長が叫ぶ。
 SP達が外すとは思えないが、貫通するなど万が一のことがある。
 SP達はアイコンタクトし、全員膝をついた。

「どうした?撃たぬのか。お主らは警護の者のようだが、それでは主を守れぬぞ。」
「止まれ、次は撃つ。」
「だから撃てと申しておる。」

 秋夢は更に一歩近寄る。

 SP達は引き金を引いた。
 銃声が2発、確かに響いた。


「え……?」
 SP達が、万が一にも警官を傷つけぬよう、秋夢の頭を狙ったのは、永倉にもよくわかった。
 秋夢の被っているニット帽が吹き飛んだからだ。

 秋夢の身長は2m強。膝立ちして下から撃てば、まずその射線上に人はいない。

 そこまではSP達の想定内だった。

「どうした。我は何ともないぞ。」
「……馬鹿な。」

 SPの一人が呆然と呟く。
 厳しい訓練の成果は間違いなく発揮できた。間違いなく銃弾は、この大男の頭に命中したはずなのだ。
 それが証拠にニット帽は吹き飛んでいる。
 切れ端が頭髪に絡みついているくらいだ。

 秋夢が煩わしそうに頭に手をやり、残っているニット帽の残骸を取り払った。

「何あれ……?」

 さらけ出された秋夢の頭髪を押し分けるように生えているもの……。

「なんだ、頭のそれは。」

 壬生の指さした先。
 秋夢の頭に二本の突起がある。

「しまった。こうなるとは思わなんだ。」

 秋夢は、苦笑いしながら頭に、頭の突起に手をやる。

「撃たれるにしても、当てやすい体を狙われると思っておった。しくじったわ。」
「秋夢様、もうよろしいでしょう。」
「厳奈寺?」
「そうです、もうこそこそするのも飽きました!」
「伊西の言う通り、我らは今の権力者と戦うと決めました。はばかることもありますまい。」
「むしろ、誇示すべきでは、と思います。」

 じりじりと接近する警官達と対峙しつつ、軽口をたたくかのように、秋夢に従う者たちが意見を述べる。

「そうだな。皆、被り物をとれ。」

 秋夢の言葉で、男たちは頭を覆っているものをとった。
 野球帽、ベレー帽、バンダナが床に投げ捨てられ、パーカーのフードが下ろされる。

 皆、頭に二本の突起があった。

「お前たち、何者なんだ?」

 壬生の問いは、その場にいる者全員の気持ちを代弁していた。

「我らか。我らは、かつて朝廷より『鬼』と呼ばれ、迫害された者よ。」
しおりを挟む

処理中です...