古からの侵略者

久保 倫

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 永倉の携帯が鳴ったのは、日が変わってからだった。

 スピーカーに切り替えて応答する。

「永倉さんですか?」
「ご期待に添えず、すまぬな。」
「~~!」

 怒鳴りたいのをこらえて質問する。

「永倉さんは、無事だろうな?」
「殺しはしない。それだけは信じろ。」
「わかった。で、僕はどうすればいい?」
「名島城跡に来い。」
「は?」

 思わず情けない声が出てしまった。

「待て、名島城跡ってどこだ?」
「……ふざけているのか?」
「いや、本気で聞いている。」

 名島は、香椎からバイト先に行くのに通るだけで、よく知らない。

「朗ちゃん、ここから三号線の向こう側に野球のグランドあるのわかる?」
「えぇ、箱崎埠頭に行く橋の近くですね。」
「そこから、道路渡ったらすぐよ。歩道橋渡ったら、看板があるからわかるわ。」
「はい。」

 そんな場所あったか。
 そう思いながら、スマホに向き合う。

「場所はわかったか?」
「わかった。そこに行けばいいのか。」
「今すぐだ。」
「わかった。その前に永倉さんの声を聞かせろ。」
「よかろう。」

 携帯から聞こえる音が変わった。

「壬生さん、逃げてぇーーーっ!!!」

 スピーカー越しでも、永倉が絶叫しているのがよくわかった。 

「み、み……。」

 何を言っているのかわからなくなった。

「わかった、そちらに向かう。」

 これ以上は無駄だろう。下手に時間を稼ぐより、急いで名島城とやらに行った方がよさそうだ。

「待っているぞ。」
「念のためだ、通話はそのままにしておいてくれ。永倉さんが死んだら、そこには行かない。」
「いいだろう。永倉に持たせておく。」

 携帯を扱う音の向こうで「下手に騒がぬように。」というアキムの声が聞こえた。

「永倉さん、大人しくしていて下さい。下手に騒いだら殺されるかもしれないんですから。」
「……わかった。携帯渡されたの。マイクの所指で叩き続けるね。もし音がしなくなったら、その時は逃げて。」
「はい。」

 スピーカーから流れるのは、指の音だけになった。

「朗ちゃん、行くの?」
「人質取られてますから。大丈夫です。ちゃんと姪御さんは返します。」
「君、我々も行くから。」
「あなた方もですか?」

 刑事が付いて来て、こじれでもしたら、と壬生は思った。

「大丈夫だろう。東署でのことからして、彼らは我々を歯牙にもかけていまい。今だって、警察に連絡するな、とは言っていない。むしろ我々が来ることを前提に待ち構えていると思う。」
「わかりました。」

 どうせ外に出れば、士道会の連中もいるのだ。

 幸いと言うべきか、春吉も大久保もいない。それぞれ、やることがあるとマンションから立ち去っている。
 何をするか不明だが、変に騒がれるよりはやりやすい、と壬生は思っている。

「ただ僕は永倉さんの安全を優先します。自分の安全よりも。」
「いいだろう。」

 刑事達も立ち上がった。

 壬生が先頭になって、玄関に向かおうとする時、妙子が壬生の袖を引っ張った。

「何か?」

 妙子は指を唇に当てている。
 壬生は、黙って妙子の次の行動を待った。

 妙子はプリント用紙に何か書いて壬生達に見せてきた。


「あの子、LINEでアキム達の情報を送ると言ってきた。」

「私と朗ちゃんとでグループ作ったって。私、情報を会長や大久保議員にも送る。」

 壬生は、頷いた。
 
「おい、中山、お前残れ。本部にこちらの方の受け取った情報を送るんだ。」
 刑事のリーダーが、若手に小声で指示を出す。
 中山と呼ばれた青年は、リビングに戻る。

 永倉さん、上手く交渉して携帯を持っただけでなく、画面を指で操作してもおかしくないようにやったんだ。

 壬生は、ほっとした。

 これなら自分に何かあっても、残った情報で永倉さんを救出してくれるのを期待していい。 

「永倉さん、ちゃんと助けますから。」

 やらなきゃ申し訳ない。

 永倉さんも頑張っているんだから。
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