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二カ月後、バルリウス将軍が、カミロ導師と一緒に工房に来られました。
「バルリウス将軍、カタラン王国に勝利したことおめでとうございます。」
そう、バルリウス将軍は、カタラン王国との戦争に従事し、勝利して凱旋したのです。
凱旋したのが昨日ですから、疲れをいやす間もなく、こちらに来られました。
工房への関心の高さは、やはり利益の5%を支払うからでしょう。
「と言われましても、私は戦場で敵将の首を一つ取っただけです。勝利の功績の大半は、ドラード公にあります。」
「そうらしいですね、凱旋パレードでも国王陛下の隣に乗られてましたし。」
凱旋パレードで、国王の隣に座るというのは、その戦いでの功一等であることの現れだそうです。
「ドラード公の戦いぶりは見事ですよ。庶子の一人マカリオに、親ドラード派に己が兵四分の一を加えて構成した部隊を委ね、城外に潜めていたのです。」
「大軍に包囲された中でも、その部隊を動かさず、じっとタイミングを見計らわせたそうですね。」
私も噂で聞いた情報を出してみます。
「ドラード公の胆力は大したものです。誰でも大軍に包囲されるとわかっている中、それだけの兵を手元に置かぬなどという選択はできるものではありません。」
「そうなのですか。」
「マカリオに委ねた兵力を手元に残せば、かなり楽に防戦を展開できたでしょうし、包囲軍の後方で蠢動させるだけでも、その対応に兵を割かせ、やはり防衛の負担を削減します。それを温存し続けたのですから、ドラード公は大したものです。」
軍事のことはよくわかりませんので、バルリウス将軍の言う通りなのでしょう。
「陛下率いる軍とカタラン王国軍主力が激突するタイミングで、マカリオの軍を動かし監視部隊を挟撃して粉砕。その勢いのまま、カタラン王国軍主力を後方から襲って、撃破しました。私が敵将を討ったのは、この時ですので、ドラード公のおかげです。」
「ところでバルリウス将軍、ちょっと伺いたいのですけど。」
「おじさん、で構わないぞ、アズナール君。ここは軍ではない。」
「では、バルリウスおじさん、マカリオの率いた部隊、どうやって隠れていられたのですか?それなりの人数がひそめば、食料などの問題が……。」
「うむ、ドラード公は魔法道具のいくつかをマカリオに委ねていたのだ。入れた料理が少しでも残っていれば、そこから再び料理が増える不滅の幸せや、ほぼ無限に物資を収納できる小さき方舟などといったアイテムが役立ち、補給なくとも潜んでいられたと聞いた。」
「なるほど、それなら潜んでいられそうですね。」
「そういったところに関心を持つとは、さすがアズナール君だ。それに比べて……。」
「何だよ、オヤジ。」
「お前も少しは、戦略とか部隊運用に興味を持たんか。」
「うっせえ。もうオレはお嬢様の護衛だから関係ないっての。オヤジこそ、こんなところに遊びに来たわけじゃねえだろ。」
「そうだね、オラシオ君の言う通りだ。」
カミロ導師が私の方を見ます。
「いかがです?化粧品の量産の方は?」
「順調です。」
新しく雇った女性達も、頑張ってくれました。
化粧品の調合に始まり、原材料の加工まで覚えてくれて。
金紅石からの成分抽出のようなことまでやれるようになってます。
「ただ、素材の確保が問題ですね。」
「やはり、金紅石は、この国ではドラゴンの住まう山奥に行かねば採取できませんからね。」
「はい、雲母などは入手できるのですが……。」
素材の一部の入手しづらさは、どうしようもありません。
「冒険者ギルドに金紅石の採取を依頼しているのですが、応じて下さる方がおりません。」
「山奥まで行くだけでも大変なのに、ドラゴンの目をかいくぐって集めねばならないからね。平凡な石のようなアイテムがあればいいのだろうが。」
「ドラード公のコレクションの一つですね。」
私も聞いたことがあります。
首にかければ誰もが、ドラゴンのような魔獣までも、その人を無害な石ころとしか認識しないという首飾り。
昔、敵対陣営の美姫に恋した若き王子が、愛を伝えるために使ったという恋愛譚に登場するアイテムです。
「機会があれば、譲って頂けないか交渉してみます。」
バジリオ君の冒険者ギルドでの訓練も、そろそろ終了します。
山中深くで長期間行動する訓練では、教官も舌を巻くほどの成績だったそうで。
そんな彼にドラード公の持つアイテムを持たせれば、金紅石の採取に大いに役立つでしょう。
ぜひとも入手したいものです。
クルス王子のパーティーなどには出席しているので機会を伺うしかないでしょう。
30歳くらいの女性が好みという噂がある方なので、接近できるか。
一応、婚約披露の場で挨拶はしているのですが、
「できるのかい?」
「ドラード公から化粧品4人分の注文を頂いています。この支払いを現金でなくアイテムで、とできないか。」
「4人分もだって。金貨四百枚の契約を結んだのか。」
カミロ導師が驚きます。
「今回のカタラン王国との戦争で、かなりの戦費を使ったはずだ。交渉できないことはないだろうな。」
「そう思いますか?」
バルリウス将軍に言って頂けると、心強いです。
「あぁ、絶対に応じてくれるとは断言できないが、可能性はある、と思う。」
「それにしても金貨四百枚。その5%が私の取り分となるなら20枚か。」
「他にも結んで下さった方は多いですよ。契約総額は、ざっと金貨3000枚になります。」
「……だとすれば、150枚!」
カミロ導師が珍しく声が大きいです。
アズナールも驚いてます。
「一年分の化粧品が金貨百枚と聞いているから、30人の貴族が契約したのか。」
バルリウス将軍、計算が早いです。
「他にそれに合わせたドレスやアクセサリーなどの契約もありますので、30人というわけではありません。」
それこそドラード公のように4人分の契約を結んだ方もいるのですから。
「それでも大金だ。」
カミロ導師は、何やら計算を始めています。
「それだけの金があれば、研究費用に不自由しないか。」
「あぁ、西方の孤島探索に行ける。地質学的に金の鉱脈があるはずなんだが、誰も信じてくれない。探索隊を組織して探索するしかないが、冒険者を中心に人数を集め、船を用意する費用が捻出できる。」
カミロ導師、興奮されていますが。
「申し訳ありません、カミロ導師。お約束した配当の5%は利益からとなります。金貨3000枚は総売り上げで、ここから工房で雇っている方への給料や素材の仕入れにかかる費用、税金などを払った後ですので、金貨150枚にはなりません。せいぜい、金貨10枚くらいでしょうか。」
「……そうか。」
「なかなかうまい話は無いと言うことだ。」
「そうだな。だが、無いよりはマシだ。」
「できるだけ安く生産できるように努力します。」
そのためにもドラード公から、魔法道具を譲って頂けるよう交渉せねばなりません。
バジリオ君を一人前の冒険者にするためにも。
「バルリウス将軍、カタラン王国に勝利したことおめでとうございます。」
そう、バルリウス将軍は、カタラン王国との戦争に従事し、勝利して凱旋したのです。
凱旋したのが昨日ですから、疲れをいやす間もなく、こちらに来られました。
工房への関心の高さは、やはり利益の5%を支払うからでしょう。
「と言われましても、私は戦場で敵将の首を一つ取っただけです。勝利の功績の大半は、ドラード公にあります。」
「そうらしいですね、凱旋パレードでも国王陛下の隣に乗られてましたし。」
凱旋パレードで、国王の隣に座るというのは、その戦いでの功一等であることの現れだそうです。
「ドラード公の戦いぶりは見事ですよ。庶子の一人マカリオに、親ドラード派に己が兵四分の一を加えて構成した部隊を委ね、城外に潜めていたのです。」
「大軍に包囲された中でも、その部隊を動かさず、じっとタイミングを見計らわせたそうですね。」
私も噂で聞いた情報を出してみます。
「ドラード公の胆力は大したものです。誰でも大軍に包囲されるとわかっている中、それだけの兵を手元に置かぬなどという選択はできるものではありません。」
「そうなのですか。」
「マカリオに委ねた兵力を手元に残せば、かなり楽に防戦を展開できたでしょうし、包囲軍の後方で蠢動させるだけでも、その対応に兵を割かせ、やはり防衛の負担を削減します。それを温存し続けたのですから、ドラード公は大したものです。」
軍事のことはよくわかりませんので、バルリウス将軍の言う通りなのでしょう。
「陛下率いる軍とカタラン王国軍主力が激突するタイミングで、マカリオの軍を動かし監視部隊を挟撃して粉砕。その勢いのまま、カタラン王国軍主力を後方から襲って、撃破しました。私が敵将を討ったのは、この時ですので、ドラード公のおかげです。」
「ところでバルリウス将軍、ちょっと伺いたいのですけど。」
「おじさん、で構わないぞ、アズナール君。ここは軍ではない。」
「では、バルリウスおじさん、マカリオの率いた部隊、どうやって隠れていられたのですか?それなりの人数がひそめば、食料などの問題が……。」
「うむ、ドラード公は魔法道具のいくつかをマカリオに委ねていたのだ。入れた料理が少しでも残っていれば、そこから再び料理が増える不滅の幸せや、ほぼ無限に物資を収納できる小さき方舟などといったアイテムが役立ち、補給なくとも潜んでいられたと聞いた。」
「なるほど、それなら潜んでいられそうですね。」
「そういったところに関心を持つとは、さすがアズナール君だ。それに比べて……。」
「何だよ、オヤジ。」
「お前も少しは、戦略とか部隊運用に興味を持たんか。」
「うっせえ。もうオレはお嬢様の護衛だから関係ないっての。オヤジこそ、こんなところに遊びに来たわけじゃねえだろ。」
「そうだね、オラシオ君の言う通りだ。」
カミロ導師が私の方を見ます。
「いかがです?化粧品の量産の方は?」
「順調です。」
新しく雇った女性達も、頑張ってくれました。
化粧品の調合に始まり、原材料の加工まで覚えてくれて。
金紅石からの成分抽出のようなことまでやれるようになってます。
「ただ、素材の確保が問題ですね。」
「やはり、金紅石は、この国ではドラゴンの住まう山奥に行かねば採取できませんからね。」
「はい、雲母などは入手できるのですが……。」
素材の一部の入手しづらさは、どうしようもありません。
「冒険者ギルドに金紅石の採取を依頼しているのですが、応じて下さる方がおりません。」
「山奥まで行くだけでも大変なのに、ドラゴンの目をかいくぐって集めねばならないからね。平凡な石のようなアイテムがあればいいのだろうが。」
「ドラード公のコレクションの一つですね。」
私も聞いたことがあります。
首にかければ誰もが、ドラゴンのような魔獣までも、その人を無害な石ころとしか認識しないという首飾り。
昔、敵対陣営の美姫に恋した若き王子が、愛を伝えるために使ったという恋愛譚に登場するアイテムです。
「機会があれば、譲って頂けないか交渉してみます。」
バジリオ君の冒険者ギルドでの訓練も、そろそろ終了します。
山中深くで長期間行動する訓練では、教官も舌を巻くほどの成績だったそうで。
そんな彼にドラード公の持つアイテムを持たせれば、金紅石の採取に大いに役立つでしょう。
ぜひとも入手したいものです。
クルス王子のパーティーなどには出席しているので機会を伺うしかないでしょう。
30歳くらいの女性が好みという噂がある方なので、接近できるか。
一応、婚約披露の場で挨拶はしているのですが、
「できるのかい?」
「ドラード公から化粧品4人分の注文を頂いています。この支払いを現金でなくアイテムで、とできないか。」
「4人分もだって。金貨四百枚の契約を結んだのか。」
カミロ導師が驚きます。
「今回のカタラン王国との戦争で、かなりの戦費を使ったはずだ。交渉できないことはないだろうな。」
「そう思いますか?」
バルリウス将軍に言って頂けると、心強いです。
「あぁ、絶対に応じてくれるとは断言できないが、可能性はある、と思う。」
「それにしても金貨四百枚。その5%が私の取り分となるなら20枚か。」
「他にも結んで下さった方は多いですよ。契約総額は、ざっと金貨3000枚になります。」
「……だとすれば、150枚!」
カミロ導師が珍しく声が大きいです。
アズナールも驚いてます。
「一年分の化粧品が金貨百枚と聞いているから、30人の貴族が契約したのか。」
バルリウス将軍、計算が早いです。
「他にそれに合わせたドレスやアクセサリーなどの契約もありますので、30人というわけではありません。」
それこそドラード公のように4人分の契約を結んだ方もいるのですから。
「それでも大金だ。」
カミロ導師は、何やら計算を始めています。
「それだけの金があれば、研究費用に不自由しないか。」
「あぁ、西方の孤島探索に行ける。地質学的に金の鉱脈があるはずなんだが、誰も信じてくれない。探索隊を組織して探索するしかないが、冒険者を中心に人数を集め、船を用意する費用が捻出できる。」
カミロ導師、興奮されていますが。
「申し訳ありません、カミロ導師。お約束した配当の5%は利益からとなります。金貨3000枚は総売り上げで、ここから工房で雇っている方への給料や素材の仕入れにかかる費用、税金などを払った後ですので、金貨150枚にはなりません。せいぜい、金貨10枚くらいでしょうか。」
「……そうか。」
「なかなかうまい話は無いと言うことだ。」
「そうだな。だが、無いよりはマシだ。」
「できるだけ安く生産できるように努力します。」
そのためにもドラード公から、魔法道具を譲って頂けるよう交渉せねばなりません。
バジリオ君を一人前の冒険者にするためにも。
応援ありがとうございます!
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