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「何、死なせても金にならんからな。生かして金を得るようジャネスやその配下が気を配っておる。」
「どうしてそんなことがわかるのです?」
「それがヤクザのやり口じゃからじゃよ。対象を脅して、そこから解放する恩を売る。」
ウーゴさんが言うことが事実なら、この場合……。
「夫が殴っていれば悲鳴も出すだろうし、物音もする。そこにジャネスの配下がかけつけ、夫をなだめ仲裁する。そして、ジャネスが現れ返済を猶予する。」
助けられたことに女性は感謝し、ジャネス親分に好感を持つようになる。
「自分で火種まいておいて……。」
「そういうもんさ、ヤクザってのはな。」
「どうにかならないのでしょうか?」
「どうにかとは、なんだね、お嬢ちゃん?」
「彼女の夫に博打をやめさせられないのでしょうか?」
彼女達の夫が博打を止めさえすればいいのです。
そうすればお金を家族のために有効に使えるようになります。
「無理だな。あいつらは、博打で勝利した時の快感が忘れられん生き物だ。」
フロラさんの言葉を思い出します。
「『昔勝った』『銀貨を積み上げたこともあるんだ』と賭場に行くんです。」
「お嬢ちゃん、悪いことは言わん。お父さんも前に言ったそうだが、貧民街の女を切り捨てなさい。彼女達に同乗しては、延々と金を吸われるだけだぞ。」
「ですが、私の事業には彼女達が必要なのです。」
今更、化粧品事業から撤退できません。
撤退すれば、得られるはずだった利益を失うだけでなく、違約金の支払いも発生します。
「それでもだ。彼女達の教育などに投下した資金の回収がまだだ、と言いたいかもしれんが、ここは切り捨てるべきだとお父さんは思うよ。」
「無理です。今彼女達を解雇して誰が化粧品を作るのですか?」
「レシピなどはお前の手元に文書化されて残っているのだろう?それを使って新しく雇った人に作らせればいい。」
「それでは納期に間に合いません。」
そもそも品質が確保できるか。
正直、何度か失敗しているのです。
納品するわけにもいかず、廃棄するしかありませんでした。
慣れた彼女達ですら失敗があるのに、慣れていない新人が失敗しないと、どうして言い切れるのでしょうか。
「何、一度に解雇する必要はない。能力の低い者から順に入れ替えればいいだけだ。そうすれば彼女達が教育していく。そうやって徐々に彼女達を切り捨てればいい。」
能力の低い者って。
そんな人いません。
皆、私に雇われたことを喜んで頑張ってくれてます。
そんなあやふやな理由でクビは切れません。
「お父さんのおっしゃる通りだよ、お嬢ちゃん。ワシが信頼できる人間を紹介しよう。真面目で家庭環境に問題がない若者を。博打に手を出したりしない人間だ。ジャネスのような輩に金が流れることはない。」
「グラシアナさんだって若くはありませんが、真面目ですよ。」
「若い方がいいだろう。長く働けるぞ。」
「お断りします。」
冗談じゃありません。
「ロザリンド、お前意地を張るんじゃない。」
「お父様、意地ではありません。」
「じゃあ、何なのかね、お嬢ちゃん。ワシの紹介するのが気に食わないのかね?なら、ワシでなくお父さんに紹介してもらえばいい。」
「そういう問題ではありません。」
私は、一息にペリエを飲み干しました。
「なんだって、真面目に働いている人のクビを斬らなきゃいけないんですかっ!」
理不尽極まりない話です。
そんなことできません。
真面目に頑張っている人は、報われるべきなんです。
「だがな、お嬢ちゃん。このままでは、お嬢ちゃんの稼ぎは貧民街の女を通してジャネスに吸われる。あの男は吸い上げた金で力をつけ、より多くの人から金を得るになるだろう。それがいいとは、ワシには到底思えないし、思いたくもない。」
苦々し気な顔でウーゴさんは、言いました。
「そうかもしれませんが……。」
ここで気が付きました。
「ウーゴさん、どうしてジャネス親分に金が流れることを嫌うのですか?」
別に大して関係ないでしょうに。
「ん、お嬢ちゃんが嫌っておるではないか。」
「それはそうです。ですが、ウーゴさんも嫌ってますよね。」
先ほどの苦々し気な顔、あれは本気でジャネス親分に金が行くことを嫌がっています。
「どうしてウーゴさんが嫌がるのですか。」
「お嬢ちゃんに釣られたかな。お嬢ちゃんは本気で嫌がっているだろう。」
「とぼけないで下さい。私の考えにウーゴさんが釣られるはずがありません。」
「どうしてそう思う?」
「そんな方を私の説得役にしようなんてこと、お父様がするはずありませんもの。」
そんな人だったら、私に感化されて私の味方になる可能性があるじゃないですか。
お父様がそんなリスクをとるはずがありません。
「それにしても。」
どうして、ウーゴさんはジャネス親分にお金が流れるのを嫌うのか。
ウーゴさんは、ジャネス親分と何らかの理由で対立関係にある。
口入れ屋としてでしょうか?
いや、それはありません。ウーゴさんは、以前、口入れ屋には縄張りがあるとおっしゃってましたから。
むしろ、顧客と雇う人々の質の高さで、ウーゴさんが圧倒しています。
真面目で裏切らない労働力と、不真面目で下手をすれば犯罪を犯す労働力では、どっちが需要が高いか言うまでもありません。
なら別の側面。
ジャネス親分は、ヤクザですから……。
「ウーゴさん、あなたもヤクザの親分なのですか?」
そう結論するしかありません。
そうでもなければ、ジャネス親分と対立する理由がありません。
「聡いお嬢さんですな。」
ウーゴさんは笑いました。
「聡すぎるのも考え物です。親の言うことを聞かない時がありますから。」
「どうしてそんなことがわかるのです?」
「それがヤクザのやり口じゃからじゃよ。対象を脅して、そこから解放する恩を売る。」
ウーゴさんが言うことが事実なら、この場合……。
「夫が殴っていれば悲鳴も出すだろうし、物音もする。そこにジャネスの配下がかけつけ、夫をなだめ仲裁する。そして、ジャネスが現れ返済を猶予する。」
助けられたことに女性は感謝し、ジャネス親分に好感を持つようになる。
「自分で火種まいておいて……。」
「そういうもんさ、ヤクザってのはな。」
「どうにかならないのでしょうか?」
「どうにかとは、なんだね、お嬢ちゃん?」
「彼女の夫に博打をやめさせられないのでしょうか?」
彼女達の夫が博打を止めさえすればいいのです。
そうすればお金を家族のために有効に使えるようになります。
「無理だな。あいつらは、博打で勝利した時の快感が忘れられん生き物だ。」
フロラさんの言葉を思い出します。
「『昔勝った』『銀貨を積み上げたこともあるんだ』と賭場に行くんです。」
「お嬢ちゃん、悪いことは言わん。お父さんも前に言ったそうだが、貧民街の女を切り捨てなさい。彼女達に同乗しては、延々と金を吸われるだけだぞ。」
「ですが、私の事業には彼女達が必要なのです。」
今更、化粧品事業から撤退できません。
撤退すれば、得られるはずだった利益を失うだけでなく、違約金の支払いも発生します。
「それでもだ。彼女達の教育などに投下した資金の回収がまだだ、と言いたいかもしれんが、ここは切り捨てるべきだとお父さんは思うよ。」
「無理です。今彼女達を解雇して誰が化粧品を作るのですか?」
「レシピなどはお前の手元に文書化されて残っているのだろう?それを使って新しく雇った人に作らせればいい。」
「それでは納期に間に合いません。」
そもそも品質が確保できるか。
正直、何度か失敗しているのです。
納品するわけにもいかず、廃棄するしかありませんでした。
慣れた彼女達ですら失敗があるのに、慣れていない新人が失敗しないと、どうして言い切れるのでしょうか。
「何、一度に解雇する必要はない。能力の低い者から順に入れ替えればいいだけだ。そうすれば彼女達が教育していく。そうやって徐々に彼女達を切り捨てればいい。」
能力の低い者って。
そんな人いません。
皆、私に雇われたことを喜んで頑張ってくれてます。
そんなあやふやな理由でクビは切れません。
「お父さんのおっしゃる通りだよ、お嬢ちゃん。ワシが信頼できる人間を紹介しよう。真面目で家庭環境に問題がない若者を。博打に手を出したりしない人間だ。ジャネスのような輩に金が流れることはない。」
「グラシアナさんだって若くはありませんが、真面目ですよ。」
「若い方がいいだろう。長く働けるぞ。」
「お断りします。」
冗談じゃありません。
「ロザリンド、お前意地を張るんじゃない。」
「お父様、意地ではありません。」
「じゃあ、何なのかね、お嬢ちゃん。ワシの紹介するのが気に食わないのかね?なら、ワシでなくお父さんに紹介してもらえばいい。」
「そういう問題ではありません。」
私は、一息にペリエを飲み干しました。
「なんだって、真面目に働いている人のクビを斬らなきゃいけないんですかっ!」
理不尽極まりない話です。
そんなことできません。
真面目に頑張っている人は、報われるべきなんです。
「だがな、お嬢ちゃん。このままでは、お嬢ちゃんの稼ぎは貧民街の女を通してジャネスに吸われる。あの男は吸い上げた金で力をつけ、より多くの人から金を得るになるだろう。それがいいとは、ワシには到底思えないし、思いたくもない。」
苦々し気な顔でウーゴさんは、言いました。
「そうかもしれませんが……。」
ここで気が付きました。
「ウーゴさん、どうしてジャネス親分に金が流れることを嫌うのですか?」
別に大して関係ないでしょうに。
「ん、お嬢ちゃんが嫌っておるではないか。」
「それはそうです。ですが、ウーゴさんも嫌ってますよね。」
先ほどの苦々し気な顔、あれは本気でジャネス親分に金が行くことを嫌がっています。
「どうしてウーゴさんが嫌がるのですか。」
「お嬢ちゃんに釣られたかな。お嬢ちゃんは本気で嫌がっているだろう。」
「とぼけないで下さい。私の考えにウーゴさんが釣られるはずがありません。」
「どうしてそう思う?」
「そんな方を私の説得役にしようなんてこと、お父様がするはずありませんもの。」
そんな人だったら、私に感化されて私の味方になる可能性があるじゃないですか。
お父様がそんなリスクをとるはずがありません。
「それにしても。」
どうして、ウーゴさんはジャネス親分にお金が流れるのを嫌うのか。
ウーゴさんは、ジャネス親分と何らかの理由で対立関係にある。
口入れ屋としてでしょうか?
いや、それはありません。ウーゴさんは、以前、口入れ屋には縄張りがあるとおっしゃってましたから。
むしろ、顧客と雇う人々の質の高さで、ウーゴさんが圧倒しています。
真面目で裏切らない労働力と、不真面目で下手をすれば犯罪を犯す労働力では、どっちが需要が高いか言うまでもありません。
なら別の側面。
ジャネス親分は、ヤクザですから……。
「ウーゴさん、あなたもヤクザの親分なのですか?」
そう結論するしかありません。
そうでもなければ、ジャネス親分と対立する理由がありません。
「聡いお嬢さんですな。」
ウーゴさんは笑いました。
「聡すぎるのも考え物です。親の言うことを聞かない時がありますから。」
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