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3.リク、マウノに侯爵位を奪われる
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「マウノ様、リク様に何を?」
「ふん、ソフィー、メイドは引っ込んでいろ。」
「そうはいきません。」
ソフィーは、リクをかばうべく膝をついているリクの前に立つ。
「サラマンダー!」
ソフィーは、ルビーに普段封じているサラマンダーを、己とマウノの間に呼び出す。
「何をしたか存じませんが、リク様に害をなすのであれば、私が相手になります!」
「無駄なことをするな、ソフィー。兄貴をかばおうとしても無駄だ。」
「あぁ!!」
さらに頭痛がひどくなる。
体を支えきれず、リクは左手を床についた。
「ほら、見ろソフィー。兄貴は俺の呪詛に抗えない。かばっても無駄だ。」
「えっ?」
マウノ、今なんて言った?
「兄貴、親父の死ぬ前のあんたなら、俺の呪詛だけなら簡単に跳ね返しただろうね。あんたは魔力でも身体能力でも俺の上を行っていたから。」
マウノの顔に強烈な憎しみが浮かぶ。
ソフィーは、ひるみそうになるが、必死の思いでリクの前に立ち続ける。
「だけど、一年前親父が死んでから魔力が弱った。」
「そ、それは……。」
強烈な頭痛のせいで、言葉をうまく紡げない。
「俺が思うに、あんた、なんらかの手段で自分に魔力があるかのように誤魔化した。親父をだまし、侯爵家の地位を継ぐためにね。騙された親父は、あんたを侯爵にした。侯爵になったから、もう誤魔化す手間はいらないと思って本来の魔力に戻った。」
「そ、そんな……。」
僕は、そんなことしていない。できもしない。
リクはそう言いたかったが、強烈な頭痛が邪魔をする。
「馬鹿だな。一生誤魔化さないと。もう遅い。弱くなったとは言え、反撃や抵抗されるのはいやだからな。念のために、あんたの体に呪紋を植え付けた。俺からの呪詛や魔術にあんたは抗することはできない。以前のような魔力になっても無駄だと思うぜ。」
マウノは大笑する。
「違う、魔力の……。」
「黙れ!」
さらなる頭痛。思考が一瞬完全に停止してしまった。
「本当は、事業も欲しかったのだろうけど、そっちは、俺の方が優秀だったからどうにもならなかった。あんたは侯爵とその地位に付属する所領を活かすための林業だけ受け継ぐにとどまった。」
誤解だ。僕は事業など欲しくはなかった。あんなものめんどくさいだけだ。
「マウノ様、お止め下さい。リク様が苦しんでおります。」
「黙れ、メイドが!俺に指図するな!」
「お止め下さい!お止め下さらないならば、攻撃します。」
「やってみろ。」
マウノが一歩足を踏み出す。
「サラマンダー!あの男を灼け!」
ソフィーの言葉に応じ、サラマンダーが炎を吐く。
「ノーム俺を護れ。」
マウノの全身を黄色のオーラが覆い、炎からマウノを護る。
マウノは、浴びせられる炎をものともせず、突進し、リクをかばうソフィーを脇へ突き飛ばす。
「きゃあっ!」
「止めろ!」
さすがにリクもじっとしていられず、マウノに体当たりする。
マウノは、突き飛ばされ倒れ込んだ。
「止めないか。何か誤解がある!!」
頭痛が止んでいる。精霊の使役と呪詛は並行して行えない。
今なら話ができる。
「聞け、マウノ。僕は……。」
再びの頭痛に、リクは絶句し、床に突っ伏してしまう。
「ふん、残る体で勝負かよ。ざまぁないな。」
マウノは、体を起こしながら毒づく。
その顔には歓喜の表情が浮かんでいた。
「リク様。」
ソフィーがリクに駆け寄る。
「うぅ。」
息があることに安堵しながらソフィーは、マウノをにらみつける。
「マウノ様、何故このようなことを?貴方様は、林業以外の事業を受け継ぎ、豊かさだけならリク様をしのぐではありませんか。」
確かにそうだ。マウノには商才がある。特に金融や不動産でそれは遺憾なく発揮され、父以上の財を成すことに成功している。
「貴族ではないにしても、この国で十分な尊敬も勝ち得ています。爵位がそんなに必要ですか?」
「必要なのは林業だ。そのためには土地が必要、だから爵位ももらい受けねばならない。」
「よ、よくわからないな……。」
「しゃべるな。」
「グッ!!」
さらなる強烈な頭痛。
リクがしゃべろうとする気力は、奪い取られてしまった。
「我がローレンツ家の全ての事業は、林業から始まっている。林業なくして他の事業もうまくいかない構造になっているんだ。例えば海運業を拡張するには船が必要だが、その船を建造するには木材がいる。」
あぁ、そんな書類があったな。
「だが、そこの馬鹿兄貴は木を伐り過ぎていると言って調達を許してくれない。これでは、船も馬車も家も何も作れない。それでは、資金を作れない。よって金融業も拡張できない。」
「……森の再生力が……。」
「うるさい!何が再生力だ!馬鹿兄貴が!」
再度の強烈な頭痛。
マウノは、リクに反論する自由を認める気はないようだ。
「マウノ様、お止め下さい。リク様を苦しめてどうするのですか?この世でただ一人の兄弟ではありませんか。」
「お前は黙っていろ、ソフィー。サラマンダーも宝石に戻せ。さもなくば兄貴への呪詛をもっと強力にするぞ。死ぬかもしれんな。」
ソフィーは、苦しむリクを見て、サラマンダーを宝石に戻した。
「それでいい。俺達兄弟の会話を邪魔するな。」
満足げな表情でマウノは、リクの方を見る。
「俺は伐採した後、植林する計画もちゃんと立てている。根こそぎ伐採して森を消滅させる人間のような愚行を犯すつもりは無い。それがわからず、陛下にも盾突く馬鹿兄貴などこの国には不要なんだ!」
「お前の植林計画では、リノ杉しか植えない。それでは……うわぁ…。」
慣れることのない強烈な頭痛が、リクの言葉を奪う。
「ふん、リノ杉の何が悪い。まっすぐに生育し、材木にすれば腐食に強く強度も十分にある。軽いから運搬もしやすい。ブナやカシのように節くれだって重い木なんぞいらないんだよ。」
「そ、そんな森の木を入れ替えるよう……グッ。」
「いい加減しゃべるのをやめろ。ベッドに戻れ。お前は病人で療養が必要なんだ。」
「リク様、ベッドに。」
苦しむリクを見かね、ソフィーがリクを支え、ベッドに運ぶ。
ソフィーも女性ではあるが、エルフである。並みの成人男性を上回る腕力があるソフィーにとって、リクを運ぶくらいなんでもない。
「そうそう、大人しくしてろ。」
「マウノ、爵位を簡単に継承できるとでも。」
「ベッドにいる限りは、呪詛は勘弁してやる。これも見て欲しいしな。」
そう言ってマウノは、一枚の書類をリクに示した。
「ほれ、この通り。あんたが寝込んだ一週間で、俺は必要な手続きを完了させている。もう俺はローレンツ候マウノなんだよ。わかったな。」
確かにその書類は、マウノが侯爵になったことを示すものだった。それ以外の記述は無い。
書類の末尾には、リクも見慣れた国王の署名と玉璽も押印されている。
間違いなく正式な書類で、日付はリクが倒れた翌日のものだった。
「馬鹿な、たった一日で認められるはずもない。」
「式典があったからな。ローレンツ家のためならと、国王陛下も特別にご配慮下さった。」
「裁判に訴えるぞ。口頭だけで認めるなんておかしい。」
「あんたの血判付きの委任状もある。問題は無い。」
さらにマウノは、リクの血判のついた委任状も差し出した。
「まぁご覧の通りだ。俺がぬかると思うか。」
確かにその通りだ。魔術や弓術ならともかく、書類仕事は、リクよりマウノが優れている。
「近日中にあんたは、ラニオンに行って、そこで療養生活だ。」
マウノは、ローレンツ領の中核都市の港町の名を告げた。
そこには、ローレンツ家の本宅もある。
「監禁生活ってことだな。」
「生活の面倒は見てやるよ。気が楽でいいじゃないか。働かなくていいんだぜ。」
「かわってやろうか。」
「いやいや、俺は根が真面目で小心なんでね。働かないと落ち着かないのさ。」
「あぁ、その通りだな。」
リクは、精一杯の皮肉を言ったが、マウノは気が付かなかった。
「マウノ、頼みがある。」
「なんだ?」
「ラニオンへ早く行かせてくれ。なまけられるならとっととなまけたい。早くここを出たい。」
マウノは、爆笑した。
「あんたらしいな。わかった、ソフィー準備してやれるか。」
「……リク様がお望みでしたら。リク様はさほど物をお持ちではありませんので、早く荷造りはできると思います。」
「後、服は全部持って行く。礼服も含めてな。」
「いいぜ、あんたが袖を通した服なんざ見るのもごめんだ。好きに持って行け。他に何かあるか?」
「蒸留酒は飲み放題で頼む。酒は百薬の長だ。療養には不可欠だろう。」
「ますますあんたらしい。ジェロームに伝えてやるよ。じゃあな、兄貴。」
それだけ言って、マウノは、笑いながら部屋から出て行った。
「ふん、ソフィー、メイドは引っ込んでいろ。」
「そうはいきません。」
ソフィーは、リクをかばうべく膝をついているリクの前に立つ。
「サラマンダー!」
ソフィーは、ルビーに普段封じているサラマンダーを、己とマウノの間に呼び出す。
「何をしたか存じませんが、リク様に害をなすのであれば、私が相手になります!」
「無駄なことをするな、ソフィー。兄貴をかばおうとしても無駄だ。」
「あぁ!!」
さらに頭痛がひどくなる。
体を支えきれず、リクは左手を床についた。
「ほら、見ろソフィー。兄貴は俺の呪詛に抗えない。かばっても無駄だ。」
「えっ?」
マウノ、今なんて言った?
「兄貴、親父の死ぬ前のあんたなら、俺の呪詛だけなら簡単に跳ね返しただろうね。あんたは魔力でも身体能力でも俺の上を行っていたから。」
マウノの顔に強烈な憎しみが浮かぶ。
ソフィーは、ひるみそうになるが、必死の思いでリクの前に立ち続ける。
「だけど、一年前親父が死んでから魔力が弱った。」
「そ、それは……。」
強烈な頭痛のせいで、言葉をうまく紡げない。
「俺が思うに、あんた、なんらかの手段で自分に魔力があるかのように誤魔化した。親父をだまし、侯爵家の地位を継ぐためにね。騙された親父は、あんたを侯爵にした。侯爵になったから、もう誤魔化す手間はいらないと思って本来の魔力に戻った。」
「そ、そんな……。」
僕は、そんなことしていない。できもしない。
リクはそう言いたかったが、強烈な頭痛が邪魔をする。
「馬鹿だな。一生誤魔化さないと。もう遅い。弱くなったとは言え、反撃や抵抗されるのはいやだからな。念のために、あんたの体に呪紋を植え付けた。俺からの呪詛や魔術にあんたは抗することはできない。以前のような魔力になっても無駄だと思うぜ。」
マウノは大笑する。
「違う、魔力の……。」
「黙れ!」
さらなる頭痛。思考が一瞬完全に停止してしまった。
「本当は、事業も欲しかったのだろうけど、そっちは、俺の方が優秀だったからどうにもならなかった。あんたは侯爵とその地位に付属する所領を活かすための林業だけ受け継ぐにとどまった。」
誤解だ。僕は事業など欲しくはなかった。あんなものめんどくさいだけだ。
「マウノ様、お止め下さい。リク様が苦しんでおります。」
「黙れ、メイドが!俺に指図するな!」
「お止め下さい!お止め下さらないならば、攻撃します。」
「やってみろ。」
マウノが一歩足を踏み出す。
「サラマンダー!あの男を灼け!」
ソフィーの言葉に応じ、サラマンダーが炎を吐く。
「ノーム俺を護れ。」
マウノの全身を黄色のオーラが覆い、炎からマウノを護る。
マウノは、浴びせられる炎をものともせず、突進し、リクをかばうソフィーを脇へ突き飛ばす。
「きゃあっ!」
「止めろ!」
さすがにリクもじっとしていられず、マウノに体当たりする。
マウノは、突き飛ばされ倒れ込んだ。
「止めないか。何か誤解がある!!」
頭痛が止んでいる。精霊の使役と呪詛は並行して行えない。
今なら話ができる。
「聞け、マウノ。僕は……。」
再びの頭痛に、リクは絶句し、床に突っ伏してしまう。
「ふん、残る体で勝負かよ。ざまぁないな。」
マウノは、体を起こしながら毒づく。
その顔には歓喜の表情が浮かんでいた。
「リク様。」
ソフィーがリクに駆け寄る。
「うぅ。」
息があることに安堵しながらソフィーは、マウノをにらみつける。
「マウノ様、何故このようなことを?貴方様は、林業以外の事業を受け継ぎ、豊かさだけならリク様をしのぐではありませんか。」
確かにそうだ。マウノには商才がある。特に金融や不動産でそれは遺憾なく発揮され、父以上の財を成すことに成功している。
「貴族ではないにしても、この国で十分な尊敬も勝ち得ています。爵位がそんなに必要ですか?」
「必要なのは林業だ。そのためには土地が必要、だから爵位ももらい受けねばならない。」
「よ、よくわからないな……。」
「しゃべるな。」
「グッ!!」
さらなる強烈な頭痛。
リクがしゃべろうとする気力は、奪い取られてしまった。
「我がローレンツ家の全ての事業は、林業から始まっている。林業なくして他の事業もうまくいかない構造になっているんだ。例えば海運業を拡張するには船が必要だが、その船を建造するには木材がいる。」
あぁ、そんな書類があったな。
「だが、そこの馬鹿兄貴は木を伐り過ぎていると言って調達を許してくれない。これでは、船も馬車も家も何も作れない。それでは、資金を作れない。よって金融業も拡張できない。」
「……森の再生力が……。」
「うるさい!何が再生力だ!馬鹿兄貴が!」
再度の強烈な頭痛。
マウノは、リクに反論する自由を認める気はないようだ。
「マウノ様、お止め下さい。リク様を苦しめてどうするのですか?この世でただ一人の兄弟ではありませんか。」
「お前は黙っていろ、ソフィー。サラマンダーも宝石に戻せ。さもなくば兄貴への呪詛をもっと強力にするぞ。死ぬかもしれんな。」
ソフィーは、苦しむリクを見て、サラマンダーを宝石に戻した。
「それでいい。俺達兄弟の会話を邪魔するな。」
満足げな表情でマウノは、リクの方を見る。
「俺は伐採した後、植林する計画もちゃんと立てている。根こそぎ伐採して森を消滅させる人間のような愚行を犯すつもりは無い。それがわからず、陛下にも盾突く馬鹿兄貴などこの国には不要なんだ!」
「お前の植林計画では、リノ杉しか植えない。それでは……うわぁ…。」
慣れることのない強烈な頭痛が、リクの言葉を奪う。
「ふん、リノ杉の何が悪い。まっすぐに生育し、材木にすれば腐食に強く強度も十分にある。軽いから運搬もしやすい。ブナやカシのように節くれだって重い木なんぞいらないんだよ。」
「そ、そんな森の木を入れ替えるよう……グッ。」
「いい加減しゃべるのをやめろ。ベッドに戻れ。お前は病人で療養が必要なんだ。」
「リク様、ベッドに。」
苦しむリクを見かね、ソフィーがリクを支え、ベッドに運ぶ。
ソフィーも女性ではあるが、エルフである。並みの成人男性を上回る腕力があるソフィーにとって、リクを運ぶくらいなんでもない。
「そうそう、大人しくしてろ。」
「マウノ、爵位を簡単に継承できるとでも。」
「ベッドにいる限りは、呪詛は勘弁してやる。これも見て欲しいしな。」
そう言ってマウノは、一枚の書類をリクに示した。
「ほれ、この通り。あんたが寝込んだ一週間で、俺は必要な手続きを完了させている。もう俺はローレンツ候マウノなんだよ。わかったな。」
確かにその書類は、マウノが侯爵になったことを示すものだった。それ以外の記述は無い。
書類の末尾には、リクも見慣れた国王の署名と玉璽も押印されている。
間違いなく正式な書類で、日付はリクが倒れた翌日のものだった。
「馬鹿な、たった一日で認められるはずもない。」
「式典があったからな。ローレンツ家のためならと、国王陛下も特別にご配慮下さった。」
「裁判に訴えるぞ。口頭だけで認めるなんておかしい。」
「あんたの血判付きの委任状もある。問題は無い。」
さらにマウノは、リクの血判のついた委任状も差し出した。
「まぁご覧の通りだ。俺がぬかると思うか。」
確かにその通りだ。魔術や弓術ならともかく、書類仕事は、リクよりマウノが優れている。
「近日中にあんたは、ラニオンに行って、そこで療養生活だ。」
マウノは、ローレンツ領の中核都市の港町の名を告げた。
そこには、ローレンツ家の本宅もある。
「監禁生活ってことだな。」
「生活の面倒は見てやるよ。気が楽でいいじゃないか。働かなくていいんだぜ。」
「かわってやろうか。」
「いやいや、俺は根が真面目で小心なんでね。働かないと落ち着かないのさ。」
「あぁ、その通りだな。」
リクは、精一杯の皮肉を言ったが、マウノは気が付かなかった。
「マウノ、頼みがある。」
「なんだ?」
「ラニオンへ早く行かせてくれ。なまけられるならとっととなまけたい。早くここを出たい。」
マウノは、爆笑した。
「あんたらしいな。わかった、ソフィー準備してやれるか。」
「……リク様がお望みでしたら。リク様はさほど物をお持ちではありませんので、早く荷造りはできると思います。」
「後、服は全部持って行く。礼服も含めてな。」
「いいぜ、あんたが袖を通した服なんざ見るのもごめんだ。好きに持って行け。他に何かあるか?」
「蒸留酒は飲み放題で頼む。酒は百薬の長だ。療養には不可欠だろう。」
「ますますあんたらしい。ジェロームに伝えてやるよ。じゃあな、兄貴。」
それだけ言って、マウノは、笑いながら部屋から出て行った。
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