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45 リク、クロードと再会する
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数度の練習航海は順調に終わった。
船は「シェーア」号と名付けられることも決まった。
ライエン王国で歴史に名を残す提督の名前だそうだ。
最初、ソフィーの名をつけようとしたが、隠れる身なので名前を出すのは止めてほしいと、ソフィーが反対したためランベルト達も断念している。
隠れる身とソフィーが言った時、リクの心は傷んだ。
隠れる身になったのは自分だけで、ソフィーは関係ない。
そもそも自分の考えが、甘かったせいだ。
野心家のアルバン三世が、ローレンツ家の財産を狙う可能性と合わせて考えるべきだった。
自分だけなら構わないが、ソフィーには申し訳ない。
「春、畑の種まきなどが一段落すれば、スヴァールに向かいます。」
沖合を航行する「シェーア」号を見ているリクにイェーリングが説明してくる。
「まずはスヴァールですか。」
「えぇ、ここから近いのはスヴァールですからな。」
一足飛びに自らの故地を目指すつもりはない、ということだ。
素人のリクにもそれはわかる。
「航海が成功すればいいですね。」
本気でそう思う。
そうやってスヴァールなど、シルヴィオの外部と連絡できるようになれば、ソフィーをどこかマウノの手が及ばない土地に行かせられる。
リクの願いが届いたか、種まきが終わってからの出港した「シェーア」号の航海は、無事に終了した。
戻ってくるときに「ペルル」号も一緒に来た。
「リク様、お久しぶりでございます。」
カッターで上陸したクロードが、リクに駆け寄る。
「クロード船長もお元気そうで何よりだ。」
見知った顔が来てくれるのは、単純に嬉しい。
リクもクロードに歩み寄る。
「リク様、これは手土産です。」
「あっ、それは!」
クロードが差し出したのは、スヴァール名産のプラムのスピリッツだった。
「いいのかい?渡せるような対価は無いけど。」
「はは、土産品に対価は無いでしょう。」
「いや、君に持たせるようなものが……。」
「いや、お話もあって押しかけたのですから。」
そう言ってクロードはリクにボトルを押し付けてくる。
「大した話はできないと思うけど。」
そう言いながら受け取ろうとするリクより早くボトルを手にした者がいる。
「クロード様、結構な品をありがとうございます。」
「……ソフィー、僕への手土産なんだけど。」
「主への贈り物を受け取るのはメイドの仕事でございます。」
「ソフィーさん、後程でいいから、あの、別荘に伺いたいのでその時に開封して頂けますか?」
「えっ?」
「は、はい。クロード船長、ここに長居してよろしいのですか?」
クロードは、交易船の航海途中でここに寄っているだけだ。長居するはずもない、とソフィーもリクもそう思っていた。
「色々お話ししたいこともございます。」
そう言いながら「シェーア」号を岸につける指揮を執っているランベルトの方を見る。
「何かあったのかい?」
ランベルトがスヴァールで何かトラブルを起こしたのだろうか?
それとも、僕のことをローレンツ商会の支店か、ガリア王国の領事館に密告したとか。
「いや、あの船ですよ『シェーア』号とか言いましたか。港に着いた時は、帆が独特で、ひどく目立ってました。」
やはりキャンバス地でないのが目立ったか。
「知らない顔じゃないですからね。悪目立ちして、リク様に害になってはいけないと思い、予備のキャンバス地を譲りました。」
リクが「シェーア」号を改めて見れば、帆がキャンバス地になっている。
「他にも旗など色々。」
「旗?」
「国籍などを表示するのは、交易船であれ漁船であれ、他国から来る以上掲げなきゃなりません。」
ライエン王国の旗を掲げるわけにもいかないし、バーデン帝国の旗を掲げるのはまっぴらということだったのだろうか。
船の運航などに素人のリクやイェーリングが知らなかったのは仕方ないが、ランベルトが一言言ってくれればよかったのに。
「色々すまないね。その辺ライエン王国の方からもお礼があると思う。」
物や金銭的な謝礼はできないが。
「当人たちは、『事故で旗を失った、自分達はバーデンの人間』、とスヴァールの役人に主張してました。」
その辺は、最初からそうするつもりだったのだろう。
それでもいいが、やはり一言欲しかった。
それとも、イェーリングにだけ話をしていたのだろうか。
「幸い知った役人だったので、口添えしてうまく収めました。」
「重ね重ねすまないね。」
「幸か不幸か、スヴァールの国王がなくなりまして。その絡みで役人たちもバタバタしてましたから、うまく誤魔化せました。」
「えっ、トロフィム王が亡くなったの?」
確か、60歳くらいだったはず。
「病死だそうです。年明け早々のことでした。」
「そうか。」
一度だけ、父コンラートのお供で謁見したことがある。
穏やかな顔で一言、父を見習って誠実に生きよ、と言われたことを覚えている。
「後は長男のアズレート殿下が即位しました。」
「”大兄”アズレート殿下か。」
リクも名前や噂くらいは聞いている。
人望があり、4人いる弟たちも即位を支持していると、侯爵だった頃に聞いたことがある。
小さいことに拘泥しない、鷹揚な人物らしいが。
「詳細をお話ししたいので、ちょっと長話にお付き合い下さい。」
口調は丁寧だが、引かぬ雰囲気がクロードにはあった。
「わかった、なら僕の家に行こう。」
家に移動して、リビングでクロードと向かい合う。
「即位したアズレート王は、喪が明けるや、ビエールイ公国を占領し併合しています。」
「ビエールイ公国は、確かスヴァール南方、騎馬民族との国境にある小国だったな。」
リクは、記憶を総動員して頭の中で地図を描く。
「確か火山があるせいで、スヴァールと国境を接する割には温暖な国だけど、沼沢地帯が多く農業がそれほど盛んではなかったな。」
小さな国で、軍も小さく、スヴァールが動けば鎧触一蹴の国だ。
大した産物もないはずで、価値が無いが故に存続してきた、と言ってもいい。
「その国を真っ先に軍を動員して陥落させてます。」
何の意味があってやるのだろう。
即位して何か派手な業績が欲しかったのかもしれない。
ただ、軍を動かす。
つまり、相応の準備があったはずで、その準備に見合うリターンがあったのだろうか。
リクは、そのリターンが思いつけなかった。
価値が無いゆえに存続してきた国を、今更併合したからと言って、国民や貴族が称賛するだろうか?
考え込むリクに、クロードは話を続ける。
「もう一つ、これが先ほどの役人たちのバタバタと絡むのですが、北方の無人島への探検隊を出発させています。」
それは、ライエン王国の船が最初に目指した島の事だった。
船は「シェーア」号と名付けられることも決まった。
ライエン王国で歴史に名を残す提督の名前だそうだ。
最初、ソフィーの名をつけようとしたが、隠れる身なので名前を出すのは止めてほしいと、ソフィーが反対したためランベルト達も断念している。
隠れる身とソフィーが言った時、リクの心は傷んだ。
隠れる身になったのは自分だけで、ソフィーは関係ない。
そもそも自分の考えが、甘かったせいだ。
野心家のアルバン三世が、ローレンツ家の財産を狙う可能性と合わせて考えるべきだった。
自分だけなら構わないが、ソフィーには申し訳ない。
「春、畑の種まきなどが一段落すれば、スヴァールに向かいます。」
沖合を航行する「シェーア」号を見ているリクにイェーリングが説明してくる。
「まずはスヴァールですか。」
「えぇ、ここから近いのはスヴァールですからな。」
一足飛びに自らの故地を目指すつもりはない、ということだ。
素人のリクにもそれはわかる。
「航海が成功すればいいですね。」
本気でそう思う。
そうやってスヴァールなど、シルヴィオの外部と連絡できるようになれば、ソフィーをどこかマウノの手が及ばない土地に行かせられる。
リクの願いが届いたか、種まきが終わってからの出港した「シェーア」号の航海は、無事に終了した。
戻ってくるときに「ペルル」号も一緒に来た。
「リク様、お久しぶりでございます。」
カッターで上陸したクロードが、リクに駆け寄る。
「クロード船長もお元気そうで何よりだ。」
見知った顔が来てくれるのは、単純に嬉しい。
リクもクロードに歩み寄る。
「リク様、これは手土産です。」
「あっ、それは!」
クロードが差し出したのは、スヴァール名産のプラムのスピリッツだった。
「いいのかい?渡せるような対価は無いけど。」
「はは、土産品に対価は無いでしょう。」
「いや、君に持たせるようなものが……。」
「いや、お話もあって押しかけたのですから。」
そう言ってクロードはリクにボトルを押し付けてくる。
「大した話はできないと思うけど。」
そう言いながら受け取ろうとするリクより早くボトルを手にした者がいる。
「クロード様、結構な品をありがとうございます。」
「……ソフィー、僕への手土産なんだけど。」
「主への贈り物を受け取るのはメイドの仕事でございます。」
「ソフィーさん、後程でいいから、あの、別荘に伺いたいのでその時に開封して頂けますか?」
「えっ?」
「は、はい。クロード船長、ここに長居してよろしいのですか?」
クロードは、交易船の航海途中でここに寄っているだけだ。長居するはずもない、とソフィーもリクもそう思っていた。
「色々お話ししたいこともございます。」
そう言いながら「シェーア」号を岸につける指揮を執っているランベルトの方を見る。
「何かあったのかい?」
ランベルトがスヴァールで何かトラブルを起こしたのだろうか?
それとも、僕のことをローレンツ商会の支店か、ガリア王国の領事館に密告したとか。
「いや、あの船ですよ『シェーア』号とか言いましたか。港に着いた時は、帆が独特で、ひどく目立ってました。」
やはりキャンバス地でないのが目立ったか。
「知らない顔じゃないですからね。悪目立ちして、リク様に害になってはいけないと思い、予備のキャンバス地を譲りました。」
リクが「シェーア」号を改めて見れば、帆がキャンバス地になっている。
「他にも旗など色々。」
「旗?」
「国籍などを表示するのは、交易船であれ漁船であれ、他国から来る以上掲げなきゃなりません。」
ライエン王国の旗を掲げるわけにもいかないし、バーデン帝国の旗を掲げるのはまっぴらということだったのだろうか。
船の運航などに素人のリクやイェーリングが知らなかったのは仕方ないが、ランベルトが一言言ってくれればよかったのに。
「色々すまないね。その辺ライエン王国の方からもお礼があると思う。」
物や金銭的な謝礼はできないが。
「当人たちは、『事故で旗を失った、自分達はバーデンの人間』、とスヴァールの役人に主張してました。」
その辺は、最初からそうするつもりだったのだろう。
それでもいいが、やはり一言欲しかった。
それとも、イェーリングにだけ話をしていたのだろうか。
「幸い知った役人だったので、口添えしてうまく収めました。」
「重ね重ねすまないね。」
「幸か不幸か、スヴァールの国王がなくなりまして。その絡みで役人たちもバタバタしてましたから、うまく誤魔化せました。」
「えっ、トロフィム王が亡くなったの?」
確か、60歳くらいだったはず。
「病死だそうです。年明け早々のことでした。」
「そうか。」
一度だけ、父コンラートのお供で謁見したことがある。
穏やかな顔で一言、父を見習って誠実に生きよ、と言われたことを覚えている。
「後は長男のアズレート殿下が即位しました。」
「”大兄”アズレート殿下か。」
リクも名前や噂くらいは聞いている。
人望があり、4人いる弟たちも即位を支持していると、侯爵だった頃に聞いたことがある。
小さいことに拘泥しない、鷹揚な人物らしいが。
「詳細をお話ししたいので、ちょっと長話にお付き合い下さい。」
口調は丁寧だが、引かぬ雰囲気がクロードにはあった。
「わかった、なら僕の家に行こう。」
家に移動して、リビングでクロードと向かい合う。
「即位したアズレート王は、喪が明けるや、ビエールイ公国を占領し併合しています。」
「ビエールイ公国は、確かスヴァール南方、騎馬民族との国境にある小国だったな。」
リクは、記憶を総動員して頭の中で地図を描く。
「確か火山があるせいで、スヴァールと国境を接する割には温暖な国だけど、沼沢地帯が多く農業がそれほど盛んではなかったな。」
小さな国で、軍も小さく、スヴァールが動けば鎧触一蹴の国だ。
大した産物もないはずで、価値が無いが故に存続してきた、と言ってもいい。
「その国を真っ先に軍を動員して陥落させてます。」
何の意味があってやるのだろう。
即位して何か派手な業績が欲しかったのかもしれない。
ただ、軍を動かす。
つまり、相応の準備があったはずで、その準備に見合うリターンがあったのだろうか。
リクは、そのリターンが思いつけなかった。
価値が無いゆえに存続してきた国を、今更併合したからと言って、国民や貴族が称賛するだろうか?
考え込むリクに、クロードは話を続ける。
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