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48 リク、ソフィーに条件を飲ませる。
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「ペルル」号に戻るクロードを見送ってから、リクとソフィーはイェーリングの下を訪れた。
イェーリングの妻が家の中に案内してくれた時、ランベルトとイェーリングが話し合っていた。
大方、北方の無人島にスヴァールの探検隊が出発したことについてやり取りしていたのであろう。
「辺境伯、いかがされましたか?」
そう言いながらイェーリングは、リクに椅子を進めてくれた。
ソフィーにもランベルトが嬉しそうに椅子を進める。
椅子に座ってからリクは口を開いた。
「スヴァールが北方の無人島に探検隊を派遣したと聞きまして。」
「それで我らのことを案じて来られたのですか?」
「まぁそんなところです。」
それ以外にもあるが、とりあえずはそう言っておく。
「お気遣いは感謝しますが、こればかりは、我らもいかんともできません。」
「今から北方を目指しても、スヴァールの探検隊を出し抜くなんて不可能だ。」
「やけに弱気なこと言うじゃないか。」
「常識で考えればわかるだろう。」
「海のことは素人なんでね。」
「スヴァールの王子が正副の隊長を勤めるような探検隊だぞ。乗る船も高性能なら船乗りも腕利き揃いってガキでもわかるぞ。」
「えっ!?」
「王子二人ですか?」
さすがにソフィーも声をあげた。
「ソフィーさん聞いていないのですか?」
「探検隊の隊長までは聞いておりません。」
「第二王子のヴァレンチン王子が隊長で、第五王子のエドアルト王子が副隊長だが、クロード船長から聞いてないのか?」
「いや、そこまで教えてくれなかった。」
リクは答えながらスヴァールの王族のプロフィールを頭から引き出す。
第二王子のヴァレンチンは学究肌の人物で、年少の頃から政治より科学に関心の高かった人物だ。
与えられた離宮を研究所に改装して、最低限の公務の時以外はそこに引きこもっていると聞いている。
第五王子のエドアルトは、対称的に冒険者になりたいと公言するような人物だった。
今回の探検隊の隊長になってもおかしくないが、そこは兄に譲ったのだろう。
「教えなかったのではなく、知らなかったのではないでしょうか。」
「そうかもしれませんね。クロード船長はそれほど探検隊に興味が無かったようです。ガリア王国、特に僕の旧領に関することを中心に語りましたから。」
「そうか。そうだろうな。」
「ランベルトよ、そのことお前たちは調べたが、彼はいちいち調べはすまい。お前は彼の能力を高く評価しているが、民間人である以上、視点や関心が武人である我らと異なるだろう。」
クロードはランベルトのことをあれこれ言わなかったが、ランベルトはクロードのことをイェーリングに語ったようだ。
「そうですね、あの人はできる人だけど、関心が無ければいちいち情報収集はしねえな。」
「なんだ、やけに高く評価してるな。」
「あぁ、助けてもらったからじゃねえからじゃねえけどよ、あの人はできるな。人望だってあって人をまとめるのがうまいし、交渉事も巧みだ。」
「スヴァールの港で、まごついているところを色々助けて頂いたようです。私からもお礼を申し上げます。」
「いえ、僕が助けたわけではないので。」
クロードは自分の部下でも何でもない。頭を下げられる理由はない。
「ところで、民間人と違う視点で色々情報収集したようですが、よろしければお聞かせ願いませんか。」
リクとしては、スヴァールの動向が少々気にかかる。
アズレート王が即位してから、ビエールイ公国の併合や北方の無人島への探検隊の派遣など、領土を拡張する動きが目立つ。
それが、今後も続くのなら、ガリア王国との戦争もあり得るかもしれない。
「どんなことを聞きてぇんだ?」
「アズレート王の対外政策とか。」
「特にこれといった情報はねえ。」
「対外戦争を起こすとか、噂レベルでも構わないけど、聞いてないかい?」
「さすがにそれは無理です。そういうこと知りたくば首都にでも行きませんと。」
確かにイェーリングの言う通りだ。地方の港町でそんな情報が収集できるはずもない。
「探検隊に王子が二人も参加するわけだけど、何か変わった点は無かったのかな。」
「目的の一つが、新型船の試運転だってのが変わった点だろうな。けったいな船らしいが。」
「けったいな船?」
「おぉ、左右の両舷にでけえ水車がついてるんだよ。」
「水車が?何のためかわかる?」
「さあな、こっちも艦隊に近寄れなくてな。遠くから見ただけだからよくわからん。」
王子二人が参加する探検隊である。新型船のこともあって警備が厳重なのだろう。
「それにしても、やけにスヴァールの情勢を気にかけてますな。何かあったのですか?」
「子爵、実は……。」
リクは、クロードから旧領に戻って欲しいと請われたことなどをイェーリングに話した。
「ガリア王国に戻るかもしれない、ですか。」
さすがにイェーリングの顔が驚きの表情になる。
「はい、戻って弟から旧領を取り戻すか、せめて税の引き下げなどの生活改善策を講じさせます。」
「その時、スヴァールが侵攻していれば、国王が介入できない、と辺境伯はお考えなのですな。」
「はい。」
元の地位を取り戻すことは不可能だ、とリクは考えている。
減税などをのませて、自身はシルヴィオで隠棲してガリア王国に戻らない、というところで話がつけばいい。
場合によっては首謀者、すなわちリクの処刑が要望されるだろう。
領民の安全が担保されるならそれもやむを得ない、とリクは考えている。
「戻るにあたっては、ご迷惑をかけないようにします。せめて作付した野菜などが収穫できるまでは、戻らないつもりですが。」
「結界はどうすんだ?森に入れねえと燃料なんかが困るぜ。」
「解除したままにするか、ソフィーに管理を委ねるかする。」
「リク様、私にここに残れと?」
「危険が予想される場合はね。」
不満が暴発する形での暴動を抑えるために戻るような時は、残ってもらうつもりである。
「リク様、私は常にリク様のお側にいたいのです。」
「ありがとう、だけど、君を危険に晒すつもりはない。安全な所にいて欲しいんだ。」
「それを言うなら私もです。リク様、本気で戻るおつもりですか?」
「僕だってここで過ごしたいさ。でもラニオンの人々やローレンツ領の領民が困っているのも見過ごせない。」
「お気持ちはわかりますが……。」
ソフィーは、うつむいてしまった。
「おい、ソフィーさんを泣かすような真似はやめろや。」
「泣かす気はないんだけど。」
「まぁまぁ、ソフィーさん、まだ辺境伯が貴方をここに置いていくと決まったわけではない。そもそも戻ると決めたわけでもない。今は可能性の話をしているだけなのです。」
見かねたイェーリングがなだめにかかった。
「わかった、ソフィー。君を連れて行けるよう努力はするし、勝手に置いていくような事は絶対にしない。」
「約束して下さいますか。」
「約束する。」
「約束ですよ。連れていって下さい。」
そう言ってソフィーは、顔をあげたが眼鏡の奥の瞳は、ほのかに赤かった。
「ソフィー、連れて行くよう努力はする。だから君も一つ条件を飲んで欲しい。」
「なんでしょう?」
「僕の指示に絶対服従すること。」
「それは、メイドとして当然のことです。条件にもなってません。」
やっとわずかにソフィーは笑った。
「それならいい。連れていくことを約束するよ。」
二人のやり取りをランベルトとイェーリングは、温かい目で見ているだけだった。
イェーリングの妻が家の中に案内してくれた時、ランベルトとイェーリングが話し合っていた。
大方、北方の無人島にスヴァールの探検隊が出発したことについてやり取りしていたのであろう。
「辺境伯、いかがされましたか?」
そう言いながらイェーリングは、リクに椅子を進めてくれた。
ソフィーにもランベルトが嬉しそうに椅子を進める。
椅子に座ってからリクは口を開いた。
「スヴァールが北方の無人島に探検隊を派遣したと聞きまして。」
「それで我らのことを案じて来られたのですか?」
「まぁそんなところです。」
それ以外にもあるが、とりあえずはそう言っておく。
「お気遣いは感謝しますが、こればかりは、我らもいかんともできません。」
「今から北方を目指しても、スヴァールの探検隊を出し抜くなんて不可能だ。」
「やけに弱気なこと言うじゃないか。」
「常識で考えればわかるだろう。」
「海のことは素人なんでね。」
「スヴァールの王子が正副の隊長を勤めるような探検隊だぞ。乗る船も高性能なら船乗りも腕利き揃いってガキでもわかるぞ。」
「えっ!?」
「王子二人ですか?」
さすがにソフィーも声をあげた。
「ソフィーさん聞いていないのですか?」
「探検隊の隊長までは聞いておりません。」
「第二王子のヴァレンチン王子が隊長で、第五王子のエドアルト王子が副隊長だが、クロード船長から聞いてないのか?」
「いや、そこまで教えてくれなかった。」
リクは答えながらスヴァールの王族のプロフィールを頭から引き出す。
第二王子のヴァレンチンは学究肌の人物で、年少の頃から政治より科学に関心の高かった人物だ。
与えられた離宮を研究所に改装して、最低限の公務の時以外はそこに引きこもっていると聞いている。
第五王子のエドアルトは、対称的に冒険者になりたいと公言するような人物だった。
今回の探検隊の隊長になってもおかしくないが、そこは兄に譲ったのだろう。
「教えなかったのではなく、知らなかったのではないでしょうか。」
「そうかもしれませんね。クロード船長はそれほど探検隊に興味が無かったようです。ガリア王国、特に僕の旧領に関することを中心に語りましたから。」
「そうか。そうだろうな。」
「ランベルトよ、そのことお前たちは調べたが、彼はいちいち調べはすまい。お前は彼の能力を高く評価しているが、民間人である以上、視点や関心が武人である我らと異なるだろう。」
クロードはランベルトのことをあれこれ言わなかったが、ランベルトはクロードのことをイェーリングに語ったようだ。
「そうですね、あの人はできる人だけど、関心が無ければいちいち情報収集はしねえな。」
「なんだ、やけに高く評価してるな。」
「あぁ、助けてもらったからじゃねえからじゃねえけどよ、あの人はできるな。人望だってあって人をまとめるのがうまいし、交渉事も巧みだ。」
「スヴァールの港で、まごついているところを色々助けて頂いたようです。私からもお礼を申し上げます。」
「いえ、僕が助けたわけではないので。」
クロードは自分の部下でも何でもない。頭を下げられる理由はない。
「ところで、民間人と違う視点で色々情報収集したようですが、よろしければお聞かせ願いませんか。」
リクとしては、スヴァールの動向が少々気にかかる。
アズレート王が即位してから、ビエールイ公国の併合や北方の無人島への探検隊の派遣など、領土を拡張する動きが目立つ。
それが、今後も続くのなら、ガリア王国との戦争もあり得るかもしれない。
「どんなことを聞きてぇんだ?」
「アズレート王の対外政策とか。」
「特にこれといった情報はねえ。」
「対外戦争を起こすとか、噂レベルでも構わないけど、聞いてないかい?」
「さすがにそれは無理です。そういうこと知りたくば首都にでも行きませんと。」
確かにイェーリングの言う通りだ。地方の港町でそんな情報が収集できるはずもない。
「探検隊に王子が二人も参加するわけだけど、何か変わった点は無かったのかな。」
「目的の一つが、新型船の試運転だってのが変わった点だろうな。けったいな船らしいが。」
「けったいな船?」
「おぉ、左右の両舷にでけえ水車がついてるんだよ。」
「水車が?何のためかわかる?」
「さあな、こっちも艦隊に近寄れなくてな。遠くから見ただけだからよくわからん。」
王子二人が参加する探検隊である。新型船のこともあって警備が厳重なのだろう。
「それにしても、やけにスヴァールの情勢を気にかけてますな。何かあったのですか?」
「子爵、実は……。」
リクは、クロードから旧領に戻って欲しいと請われたことなどをイェーリングに話した。
「ガリア王国に戻るかもしれない、ですか。」
さすがにイェーリングの顔が驚きの表情になる。
「はい、戻って弟から旧領を取り戻すか、せめて税の引き下げなどの生活改善策を講じさせます。」
「その時、スヴァールが侵攻していれば、国王が介入できない、と辺境伯はお考えなのですな。」
「はい。」
元の地位を取り戻すことは不可能だ、とリクは考えている。
減税などをのませて、自身はシルヴィオで隠棲してガリア王国に戻らない、というところで話がつけばいい。
場合によっては首謀者、すなわちリクの処刑が要望されるだろう。
領民の安全が担保されるならそれもやむを得ない、とリクは考えている。
「戻るにあたっては、ご迷惑をかけないようにします。せめて作付した野菜などが収穫できるまでは、戻らないつもりですが。」
「結界はどうすんだ?森に入れねえと燃料なんかが困るぜ。」
「解除したままにするか、ソフィーに管理を委ねるかする。」
「リク様、私にここに残れと?」
「危険が予想される場合はね。」
不満が暴発する形での暴動を抑えるために戻るような時は、残ってもらうつもりである。
「リク様、私は常にリク様のお側にいたいのです。」
「ありがとう、だけど、君を危険に晒すつもりはない。安全な所にいて欲しいんだ。」
「それを言うなら私もです。リク様、本気で戻るおつもりですか?」
「僕だってここで過ごしたいさ。でもラニオンの人々やローレンツ領の領民が困っているのも見過ごせない。」
「お気持ちはわかりますが……。」
ソフィーは、うつむいてしまった。
「おい、ソフィーさんを泣かすような真似はやめろや。」
「泣かす気はないんだけど。」
「まぁまぁ、ソフィーさん、まだ辺境伯が貴方をここに置いていくと決まったわけではない。そもそも戻ると決めたわけでもない。今は可能性の話をしているだけなのです。」
見かねたイェーリングがなだめにかかった。
「わかった、ソフィー。君を連れて行けるよう努力はするし、勝手に置いていくような事は絶対にしない。」
「約束して下さいますか。」
「約束する。」
「約束ですよ。連れていって下さい。」
そう言ってソフィーは、顔をあげたが眼鏡の奥の瞳は、ほのかに赤かった。
「ソフィー、連れて行くよう努力はする。だから君も一つ条件を飲んで欲しい。」
「なんでしょう?」
「僕の指示に絶対服従すること。」
「それは、メイドとして当然のことです。条件にもなってません。」
やっとわずかにソフィーは笑った。
「それならいい。連れていくことを約束するよ。」
二人のやり取りをランベルトとイェーリングは、温かい目で見ているだけだった。
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