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54 マウノ、献金命令に苦悩する
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マウノは、忙しかった。
「こちら、南方のティレニアからの小麦の書類です。」
「バーデン帝国より、豆が届きました。」
「西方よりの羊の輸入、価格の交渉が難航しています。」
商会の部下たちからの矢継ぎ早の報告を受け、労をねぎらったり、対応を指示する。
報告や対応などに追われ、気が付いた時には、日が暮れようとしていた。
「大変だな。」
ダミアンがねぎらいの言葉をかけてくる。
「不作だからな、食料を輸入してでも確保しないとならん。」
そうしなければ、せっかくバーデン帝国から雇い入れた傭兵達を食わせることができない。
雇い入れた傭兵や従来から仕えている兵士達に食事を与えて、残りを領民に配分している。
そうしておかねば、傭兵どもが中心になって暴動を起こす可能性があるぞ、とダミアンに脅されての処置である。
「まったく、不作だけでなく、ドラゴンなどの出現などまで起こるとは。どうなっているんだ。」
マウノならずとも愚痴りたくなる。
不作だけなら食料の輸入にまでせずとも備蓄の放出などでしのげた。
それだけでなく、カタランヌ山脈裾野の森から多量の魔獣、さらにその頂点に立つドラゴンが出没したことが、食料の輸入に追われることにつながった。
魔獣の撃退は冒険者があたるが、それだけでは追いつかなかったので軍も動員したのだ。
魔獣が来るとあって、軍としても全力で戦わねばならず、畑や牧場などの保護にまで気を回せず、収穫間際の農作物を踏みにじったり、牧草地帯に魔獣の毒を巻き散らして汚染して使えなくするなどの二次的な被害を引き起こし、結果食料輸入に踏み切らざるを得なくなった。
ラニオンの街は海産物などもあって多少の余裕はあったが、周辺からの難民の流入で余裕などあっという間に吹っ飛んでいる。
結局、ガリア王国の他の地方同様、食料の確保のための手配に追われることとなった。
同じようなことを王都でアルバン三世が愚痴っているのをダミアンは知っているが、いちいち教えてやることはしなかった。
代わりではないが、別のことを告げた。
「先ほど王都から書状が来た。イスファハーンへの遠征は、来年に延期だそうだ。」
「そうだろうな、不作に魔獣騒動まであっては、それどころではない。」
それは構わないが、雇い入れた傭兵の給料などを払い続けなければならないわけで、それを考えると頭が痛い。
「それと金貨10万枚の献金依頼が来ている。不作による難民保護と農村の再建のために必要だ、と。」
「……10万!!」
マウノは一瞬絶句してしまった。
献金依頼と言っているが、実質命令である。
断ったり無視しようものならどうなるか。
「金貨10万枚となれば手配だけでも時間がかかる。」
「無論、年内で構わないとある。」
「後、2か月しかない。」
「2か月もある。ローレンツ商会の貯えなどを使えば用意できないことは無いだろう。」
言ってくれる。
献金依頼自体、これが最初ではない。
侯爵になって最初の謁見の時にも1万枚要求された。
献金でなくとも、造船所の拡張や軍の増強などで資産をつぎ込んでいる。
父も兄もさほど財産に関心が無いため、ローレンツ家の資産は大した額ではない。
マウノは必至で債権市場などへの投資をすることで増やしてきたが、それを上回りかねない勢いで、軍や造船所などへの設備投資、新規に雇用した船乗りへの人件費で消費されている。
先日は、耐え抜いて王室直轄領の森林の伐採権という形で支払わせたが、その収益も取り上げられるようなものだ。
「逃げてやろうか。」
一瞬マウノの脳裏にそんな考えがよぎった。
献金すべき金貨10万枚をかかえてどこかの国に亡命するのだ。
商会は、亡命先の国に本店を移せば経営できる。
アルバン三世も無論黙って財産を移転させるはずもなく、妨害をしてくるだろうが構うことは無い。
経営者は自分なのだ。仮に財産の多くをガリア王国に接収されたとしても、他国に置いている財産を活用することで、商会の経営をもとに戻す自信はある。
問題は、いかにダミアンの監視をかいくぐるかである。
マウノは一度ならず、ダミアンの監視下から逃れようと試みたことがある。
娼館にまで付いて来るな、と言って一人で入って裏口から出てみたりするなど、色々試してみた。
無論、その手のことでダミアンを出し抜けるはずもなく、ことごとく失敗に終わった。
制裁を受けること3度。脱出先と手配した場所に先回りされたこと5度、と惨敗しかしていない。
亡命するにしても、ダミアンの監視をいかにかいくぐるか。
その問題に答えを得なければどうしようもない。
「妙なこと考えているんじゃないだろうな。」
ギロリと睨みつけて来たので慌ててマウノは、目をそらした。
「何も、どうやって金貨10万枚を調達するかを考えていただけだ。」
「そうか、他国の債券証書を金融業者に持ち込んで換金すればいいだろう。」
「簡単に言うな。金融業者も金貨を現物で保有しているわけでは無い。彼らも金貨を確保しなければならん。時間は相応にかかる。年内で確保し得るか。」
正直難しい。
不作に伴う食糧輸入の決済のため、金貨は国外へ流出する一方であり、金融業者も現金の確保に困っているはずだ。
それに債券を換金するにしても、足元を見られて額面より少ない金貨になるのは自明の理である。
「なんで満期を待って満額受け取らない?」と、どうしても今現金が必要なのだろうと、いうわけだ。
「ま、何とかするんだな。なんとかしないと。」
「わかっている、わかっているから、呪紋は止めろ。」
頭をかばうように抱えてしまうマウノだった。
「こちら、南方のティレニアからの小麦の書類です。」
「バーデン帝国より、豆が届きました。」
「西方よりの羊の輸入、価格の交渉が難航しています。」
商会の部下たちからの矢継ぎ早の報告を受け、労をねぎらったり、対応を指示する。
報告や対応などに追われ、気が付いた時には、日が暮れようとしていた。
「大変だな。」
ダミアンがねぎらいの言葉をかけてくる。
「不作だからな、食料を輸入してでも確保しないとならん。」
そうしなければ、せっかくバーデン帝国から雇い入れた傭兵達を食わせることができない。
雇い入れた傭兵や従来から仕えている兵士達に食事を与えて、残りを領民に配分している。
そうしておかねば、傭兵どもが中心になって暴動を起こす可能性があるぞ、とダミアンに脅されての処置である。
「まったく、不作だけでなく、ドラゴンなどの出現などまで起こるとは。どうなっているんだ。」
マウノならずとも愚痴りたくなる。
不作だけなら食料の輸入にまでせずとも備蓄の放出などでしのげた。
それだけでなく、カタランヌ山脈裾野の森から多量の魔獣、さらにその頂点に立つドラゴンが出没したことが、食料の輸入に追われることにつながった。
魔獣の撃退は冒険者があたるが、それだけでは追いつかなかったので軍も動員したのだ。
魔獣が来るとあって、軍としても全力で戦わねばならず、畑や牧場などの保護にまで気を回せず、収穫間際の農作物を踏みにじったり、牧草地帯に魔獣の毒を巻き散らして汚染して使えなくするなどの二次的な被害を引き起こし、結果食料輸入に踏み切らざるを得なくなった。
ラニオンの街は海産物などもあって多少の余裕はあったが、周辺からの難民の流入で余裕などあっという間に吹っ飛んでいる。
結局、ガリア王国の他の地方同様、食料の確保のための手配に追われることとなった。
同じようなことを王都でアルバン三世が愚痴っているのをダミアンは知っているが、いちいち教えてやることはしなかった。
代わりではないが、別のことを告げた。
「先ほど王都から書状が来た。イスファハーンへの遠征は、来年に延期だそうだ。」
「そうだろうな、不作に魔獣騒動まであっては、それどころではない。」
それは構わないが、雇い入れた傭兵の給料などを払い続けなければならないわけで、それを考えると頭が痛い。
「それと金貨10万枚の献金依頼が来ている。不作による難民保護と農村の再建のために必要だ、と。」
「……10万!!」
マウノは一瞬絶句してしまった。
献金依頼と言っているが、実質命令である。
断ったり無視しようものならどうなるか。
「金貨10万枚となれば手配だけでも時間がかかる。」
「無論、年内で構わないとある。」
「後、2か月しかない。」
「2か月もある。ローレンツ商会の貯えなどを使えば用意できないことは無いだろう。」
言ってくれる。
献金依頼自体、これが最初ではない。
侯爵になって最初の謁見の時にも1万枚要求された。
献金でなくとも、造船所の拡張や軍の増強などで資産をつぎ込んでいる。
父も兄もさほど財産に関心が無いため、ローレンツ家の資産は大した額ではない。
マウノは必至で債権市場などへの投資をすることで増やしてきたが、それを上回りかねない勢いで、軍や造船所などへの設備投資、新規に雇用した船乗りへの人件費で消費されている。
先日は、耐え抜いて王室直轄領の森林の伐採権という形で支払わせたが、その収益も取り上げられるようなものだ。
「逃げてやろうか。」
一瞬マウノの脳裏にそんな考えがよぎった。
献金すべき金貨10万枚をかかえてどこかの国に亡命するのだ。
商会は、亡命先の国に本店を移せば経営できる。
アルバン三世も無論黙って財産を移転させるはずもなく、妨害をしてくるだろうが構うことは無い。
経営者は自分なのだ。仮に財産の多くをガリア王国に接収されたとしても、他国に置いている財産を活用することで、商会の経営をもとに戻す自信はある。
問題は、いかにダミアンの監視をかいくぐるかである。
マウノは一度ならず、ダミアンの監視下から逃れようと試みたことがある。
娼館にまで付いて来るな、と言って一人で入って裏口から出てみたりするなど、色々試してみた。
無論、その手のことでダミアンを出し抜けるはずもなく、ことごとく失敗に終わった。
制裁を受けること3度。脱出先と手配した場所に先回りされたこと5度、と惨敗しかしていない。
亡命するにしても、ダミアンの監視をいかにかいくぐるか。
その問題に答えを得なければどうしようもない。
「妙なこと考えているんじゃないだろうな。」
ギロリと睨みつけて来たので慌ててマウノは、目をそらした。
「何も、どうやって金貨10万枚を調達するかを考えていただけだ。」
「そうか、他国の債券証書を金融業者に持ち込んで換金すればいいだろう。」
「簡単に言うな。金融業者も金貨を現物で保有しているわけでは無い。彼らも金貨を確保しなければならん。時間は相応にかかる。年内で確保し得るか。」
正直難しい。
不作に伴う食糧輸入の決済のため、金貨は国外へ流出する一方であり、金融業者も現金の確保に困っているはずだ。
それに債券を換金するにしても、足元を見られて額面より少ない金貨になるのは自明の理である。
「なんで満期を待って満額受け取らない?」と、どうしても今現金が必要なのだろうと、いうわけだ。
「ま、何とかするんだな。なんとかしないと。」
「わかっている、わかっているから、呪紋は止めろ。」
頭をかばうように抱えてしまうマウノだった。
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