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第3話 合気術の神童

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 美少女ルナに交際を申し込まれる ?!

 感謝の笑顔が怪訝けげんそうな顔に固まって行き、言葉に詰まる女の子。

「え……と、てゆうか、あなたスッゴク強いですけどメチャ可愛いですよね。……やっぱり……女の子……ですよね?……単にフレンドでもいいですか?」

「でも強いから守ってあげられるよ、だからカノジョとかの方で……ダメ……かな?」

 さりげなく友達から始める、とかも出来ずこんな言い寄り方、ビビられるに決まってるが工夫も出来ない不器用ポンコツぶり。

「ごめんなさい……あ、でもお友達なら……え、待って~」

 真っ赤な顔をうつむき気味に隠し、ソソクサと走ってその場から逃げ出すルナ。


  
 これで遂に30回目だーっ! あーん、やっぱこんなヤツ誰も理解なんてしてくれないよー!
……確かにボクは同性愛者じゃない。けど自分も相手も可愛いくないと! 
 だって可愛い事こそ正義! 可愛い子じゃなきゃダメなんだ~! 

「だれかこんなボクに救いの手を――っ! 」

 そう言って街を駆け抜けるルナは心中で呟く。


 ……そう、ボクは日々さ迷ってる。 
 失った理解者を求めて。だから分かってる。
 多分恋人が欲しい訳じゃない。
 でも、訳あって可愛い子を求めてしまう……
 可愛い子、可愛い子、カワイイ子っ!

「おっとぉ……!」

 走り去る道すがら、道路に飛び出す小さな子供を事故寸前で制止。
「いい子にするんだよ」
 と優しく声をかけて走り抜けるルナ。
 声高に礼を言う母親にニコやかに挙手。

 いつもの場末の公園に逃げ込むと、夕日に向かい黄昏《たそがれ》る。

 それを物陰からじっと見つめる美しき袴姿の人影。



 ねえ、お兄ちゃん……。
 今日もちょっと良い事出来たよ。これで褒めて貰えますか? 恩返し出来てますか? 
 あの星空からちゃんと見ててくれてますか? ……

 もう守られてばかりの女の子じゃない。
 弱い者イジメなんか絶対に許さないんだから!


 木陰にそっと手を伸ばすルナ。蜘蛛の巣に捕まった蝶を優しく解き放つ。 

「ほら、もう捕まるんじゃないよ」
 と、愛らしく柔らかな表情で見送った。


「ああ、にしてもまたフラれた~……」


 でもメゲてちゃダメ、もっと守れる強い人にならなきゃ。お兄ちゃんみたいに強い男の人の様に……
 ケド可愛さも捨てちゃダメだよね……。

「はぁ――っ……」


 ため息と共に、また頑張るか~、と空を見上げるルナだった。



  ***



 とあるヒト気の少ない街路。

 白と朱赤のはかま姿の美少女の姿。
 ムサい男子から言い寄られ困っていた。


 真っ白な肌、子鹿の様に優しげで黒目勝ちな瞳を伏し目にしてはかなげに見える。

 少し下がった眉がそれを助長し気弱な従順さを想像させる。誰が見ても綺麗な巫女などを思わせる。


「なあいいだろ、俺と付き合おうぜ~(けどムネがネェなぁ~。ま、可愛いからいっか)」
 
 美少女の微かな嘆息たんそく―――
 


 私は身をまもるプロにして天才。
 天ノ川流合気術の師範。流火《るか》・高1。

 ただ、神童とすら呼ばれるこの才能を無駄使いさせるこの世が虚しい。
 こんなに素晴らしい技術を持っていても、それを使う『価値あるもの』に出逢った試しがない。

 イジメられてる人や襲われてる人を探して助けたりする事がせめてもの慰め。

 コイツもサッサと片付けて、また人助けにでも行こう……



 男は妙に馴れ馴れしく肩に手を回そうとしたがその瞬間、体が宙にフワリ……

 ドスン。

「イッテ――ッ……何だよっお前、つよっ?!  これ合気道? まさか男?」

「そう、私は男。つまりトランスジェンダー(性別越境者)。私は女の子になりたいの。だけど女の子が好き。……だからキミに用は無いから」

 先程まで気弱な姿はたおやかさを伴った凛々りりしさに変わって去ってゆく。



 そんな流火るかだが毎日ボヤき続けている。

 ああ今日も憂鬱だ。見た目と心が一致しないのがトランスジェンダー。でも私は見た目も心も女の子。平らな胸と足の付け根にあるソレを除いて。

 そう、性別的に男でかつ無敵。これでイケメンで女子にモテるとかなら一般男子なら満足だろうけど、私はこの見た目が気に入ってる。
 このままを受け入れてくれる可愛い女子こそ理想だけどそんな人いない。

 そして今、チカンから助けてあげた非常に私好みの子が迷ってる。


「あの……流火るかさん、私、助けてもらって……気に入ってくれて……嬉しかった。 でも自分より可愛い男子と付き合うなんて屈辱……受けたい女子なんていないから! ごめんね~っ!」


 あうぅ! またか……はぁー……



 何処かにこんな私でも良いって言ってくれる、この護身術で護ってあげたくなる様な人居ないかなぁ……。

 そうだ! あの公園に行ってみよう。
 

 あの凛々しくて可愛い子、今日も来てるかな……
 って……ちょっと私、ストーカーっぽいかな……


 とそこへ妙な老婆がやって来て話しかけてきた。かなり腰の曲がった姿。顔の皺の多さが不気味さを助長している。

「そこのコ、アンタ、死相が出てるよ。気をつけなされ」

 え……何このおばあさん。ボケてる?

「もし近い内、その境遇を理解してもらえる様な事が有ったらその時こそ危ない。今は誰にも心を開かぬ事じゃ」

「そんな……ヒドイ! でもそんなの嘘。 だってどうせ理解なんてされっこないし」

「信じるかは自由。じゃが警告はしたゾ」

 余りの唐突さとその内容。去り行く老婆をただ呆然と見る流火るかだった。


 * * *


 いつもの黄昏公園。ルナのお助け活動の帰り道。

 ルーティンで立ち寄ると、取り囲まれて酷くやられている少年が白目をむき、口から泡を吹いている。
 それでも蹴り続ける暴漢達の姿。

 それを目にしたルナは逆上し、

「ヤメロ―――ッ」

 取り巻く四人に襲いかかり全員蹴り倒すと更に執拗に殴り続ける。

「どうだ、やられる側の気持ちはっ! 
 これでもっ、まだっ、こんな風にっ、
 されたんだぞ!」

 既に血まみれでヘタッている四人。
 だが、怒りが収まらず殴り続けるルナ。

「―――それ以上はダメだよ」

 そう言ってルナの振り上げた拳を合気術でいなす赤袴の美少女――流火《るか》である。

「ちょっと! 邪魔しないで! だってコイツラはサイテーな奴らなんだっ!」

 だが声の主に目を合わせるルナに衝撃が走る。余りに見た目がドンピシャで好みだった。









 異様に目立つその赤袴にルナの病気『可愛いもの好き』がロックオン。

 ……か、か! カワイイ――ッ! 
 何? この人は巫女さん ?!


「あなたは正しいけどこれじゃ犯罪になっちゃう! あなたが困る所を見たくないの」

「いや、でもコイツら懲らしめとかないと!」

 と流火《るか》を振り払おうとしたがその瞬間、

 フワリッ!

 合気技で投げられる。何とか宙で翻し着地。
 その隙に逃げようとする輩《やから》達へ即座に再攻撃のルナ。

 ちょっ……

 しかし流火るかに立ち塞がられ、その手もいなされ思う様に出来ず。

 え……このボクが振り切れない? 
 と、その妨害を払おうと躍起になってゆくルナ。 
 徐々にエスカレートし、そして直ぐに分かった。相手の底知れぬ実力があるのを。
 やがて手合てあい以外の選択肢など全く感じず勝手に体が動き出す。

 そう、敵対でも何でもなく、純粋に己の武術力に対するプライドを懸けた競り合いに。



 ――― 初の二人の激突が始まる。








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