妹のままでいさせて

深宙 啓 kei Misora

文字の大きさ
5 / 54
第一章 [序] 目覚め

第5話 オタク澄美怜の悪癖

しおりを挟む




 カリカリカリ……夕食後、澄美怜すみれは自室で勉強に勤しんでいた。成績は学年トップ級、オタクだが意外にも努力家だ。

 すると、隣室からの物音に気付き少し壁に近づく。

 ん?!  お兄ちゃん……その声は……と、何やら気になって壁に耳を寄せた。

『はあはあ……』

 なんか荒い息遣いが聴こえる……こ、これはまさか……

 と急にドキドキしはじめる。息が段々エスカレートしてくる。 

 これはなんか青春のイケないコト?……

「はあ、うっ、はあ、くっはっ……っ    ……スミ……レッ……くっ」

―――ええ?!  私のこと考えながら! そんな、お兄ちゃんたら!

 真っ赤に染まる耳。だが髪をばっちりその耳に掛け、ぴったりそれを壁に密着させる。

「28、29、くっそ……ぬあぁ、……負けるか……んぐぐ」
「え?」

 ガチャン!……ドコッ……ダンベルを置き台に戻す音だ。

 やっぱトレーニング……ハハ……私も集中力切れてきたからちょっと筋卜レ講義でも聞こっかな。でも乗せちゃうと長いかもなー。構ってくれるのは嬉しいんだけど。クスッ

 ドアノックにタイムラグがあり、荒く息を切らせて「どうぞ」と返事が返る。
 ゆっくりドアを開き、お兄ちゃん筋トレしてるの? と覗くとダンベルの後は腹筋をしていた様だ。

「ああ、うるさかった? 悪い」

「ううん、ちょと気分転換におじゃまするね。私最近もっとウエスト引き締めたいなー、なんて思ってて。何か有効なやり方知ってる?」

「ああ澄美怜《すみれ》くん、コホン、その場合はダネ―……」

 ヤッパリ講義が始まっちゃった。でも、こんな風に楽しそうに一生懸命語るお兄ちゃんが好きだ。それにこうして気軽に部屋へ来て話が出来るのは妹の特権だよね。恋人だってこんな機会はそうそう無い筈! フフン。

「ねえ、ところでトレーニングって辛いんだけど、特に最後に後もう1回とか、力が入らない時ってどうしたらいいカナー?」

「それ、俺も以前父さんが毎日続けてる腕立て伏せについて同様な質問した事があって、そしたら父さんがね、
『あと十回が辛い……なんて時に 《この十回は家族の誰かの分》て事にするんだ。 そしてそれをやり遂げなければ助けられない、とかって設定にすると踏ん張れるんだ』
―――って教えてくれたんだ。コレが実際かなり有効で。んで、それ以来取り入れてるんだ」

 ナルホド―……さっきのはそれね……って何考えてたの私。

 思い出して赤面するも、ブンブンと顔を横振りしてリセット。早速自分もアブローラーをやってる所を想像する。しかもその1回を遂げねば兄は死す、という設定で。

『……ムンっ…はぅぅぅ、お兄ちゃ―ん! ぐぐぐっ、』

 ナハハ、確かに力が出そう。

「ありがとう。ためになりそう。じゃあそろそろ戻るね。お兄ちゃんはまだやるの?」

「ああ、もう少し」

「ならそっちのシャツ洗いに出しとくよ(これはレア・アイテムゲットのチャンス!)」

「いや、いいよ(って優しすぎ!……或いはまさかヘンタイ目的?)」

「でも、洗い物有ったら早く出してってママが……(言って無いけどw)」

「え、そう? じゃお言葉に甘えて」

 そもそも深優人は潔癖症で、少し汗をかくとすぐに汗拭きシート等で拭いて着がえてしまう。何でも以前にちょっと汗くささを指摘されて気にする様に。だから汗臭いどころかフェロモンまで拭き取ってしまって勿体ない、等と澄美怜は残念がる。故に……

 やった~、アイテムゲット~! 私はお兄ちゃんの匂いが大好き。表現が難しいけど、そう、それはまるでお兄ちゃんが愛飲してるあれ、あの青く美しいブルーエ(矢車菊)の花びらがたくさん入った兄お気に入りのフレーバーティーの香りに似ている。

 様々な果実、バニラ、そしていくつかの花で香り付けされた、あの甘い香りにも似た何とも落ち着くけど抱きしめたくなる様な感じにウットリしてしまうのです!

 最近の深優人みゆとは汗拭きシートのせいで人工香料の爽やかな匂いしかしない。故にその微かなものをゲットするべく廊下で背後を取った時など居間まで押してく振りしてついうなじの背後からスンスンとしてしまう澄美怜すみれ

 清潔なのはいいけどちょっと神経質なんだよね。洗たく物もさっさと洗濯機へと入れられちゃうし。ん? て事はこれ、私的末端価格、プライスレスってヤツ? このまま封詰め……いやそれは流石にマズいか、でもすぐに洗濯機ヘって言うのもちょっと惜しいし。

 キョロキョロ ――――誰も居ないよね……。

 廊下に一人佇み、おそるおそる鼻を近づけると、スンスン、スンスン。

 ああ、これ!  高純度兄フェロモンがまさに濃縮されてて自分史上最強! マジヤバイかも。今迄に無い甘い香りと汗のハ―モニー。う~最高過ぎる―。あーもったいない~……

 やっぱりもう一回だけ。永遠園澄美怜、次は思いっきり顔から行きますっ!


 ……ガバッ
 はうぁあ~


 ……正にこれはアニメのシーンならピンクのグラデの背景にソフトフォ―カスで天国的なミスト、そこにシャボン玉が飛んでるってヤツだよね―。

『ハァ―――幸せ……』


 だらしなく緩みきった顔を上げると、そこには物陰から半身で覗き見る妹・蘭の姿が。

「……ら!!   蘭……ちゃん……」
「あ、いえ、私は何も」

「ちょっと! どこに行くの!」
「おフロへ……」

「この事は……」
「はい、何も、いえ、誰にも……」

「やっぱ見たのねっ!」
「ひっ」

「ちょっと来なさい。そんなに怖がらなくていいのよ~。お姉さんがちょっとだけ、蘭ちゃんにも大人のヒ・ミ・ツ、教えてあげる」

「あ、いえ」

「遠慮しなくていいのよ。  ほんとは興味あるんでしょ~」

「実は……(お姉ちゃんのマネしたがり屋の私としては) 少しだけ……」

「まあ、物分かりがいい事。それならこちらへ。さ、一緒にドーゾ」


 姉妹同時に、スンスン ……スンスン、「んはぁ―」 と顔を赤らめ恍惚とした表情の二人。どう?  と聞かれ、デレーっとしながら、

「お姉ちゃん……これがスン・デレってものなのでしょうか」

「何それ?……でもそうね」

「何かちょっと幸せになってしまいました。お姉ちゃんこれ、やばいかもです」

「でしょー、蘭もこれで大人の階段を一段登れたね。でもま、初心者はこの位にしておきましょ。あ、取りあえずこの事は二人だけの秘密と言う事で」

 はい、お姉様、と少し酔い気味で部屋へと向かう蘭。『あ、鼻血が……』とフラつきながら去って行った。

 こうしてヘンタイ姉のささやかな秘め事の口封じは成功。

 だがその後洗濯機に入れる前に名残惜しさに負けてもう一回悦に入ってしまった澄美怜すみれであった。


 **


 フロ上がり、部屋で髪を乾かしながら物思いに耽る澄美怜。

 う~ん、よくよく考えれば蘭ちゃんにヘンな教育をしてしまったのでは? さすがにちょっと自分でも変態ぶりが心配になってきた。こんな人間、どんだけいるのだろう。

 アニメではクンクンしてる女の子キャラとかいたけど、サスガにあれはかなり誇張してるはず。そうだ、ネットで調べて見よう!


 オタク澄美怜すみれの小学生以来の悪癖、それは何かとネットに頼ってしまう事―――


 ハイスペックノートpcを颯爽と開き間髪入れずカチャカチャカチャ……


「どれどれ、……え?! ……こ、これは、こんなに居るんですか? うそーっ、これじゃまるで世の女性はヘンタイだらけじゃん。
 うっわー、この掲示板、凄い数の人がカミングアウトしてる。あ、嗅いでるところの動画アップしてる人まで(笑) 
 世の男性の皆さーん!  この件は絶対に調べないで下さいねー。私程度は可愛く見えてしまいますヨー 」


 そして更に深掘りして行くと……


「え―と、何々?  匂いが好きな理由の解説サイトまである。その訳は……」

  ●女性が嗅ぎ取っているのは、男性がフェロモンとして分泌する白血球に含まれるHLA遺伝子であり、嗅覚重視タイプの女性はその能力でチェック……
          『やっぱフェロモンてあるんだぁ』

  ●体臭をいい匂いと感じる相手とは、遺伝子レベルで相性がいいと言える。   基本的に最も異なるタイプの遺伝子ほど……
          『相性がいいとイイ匂いに感じるのかー』

  ●女性はもともと子孫繁栄の為に多様性を残せる良いパートナーを嗅ぎ分ける能力を持っていて、そのため近親者の匂いは好きになりづらくなっているという……


『ん?……てことは私達は結局変態ってコトー?……アタタ』





< continue to next time >




しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...