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第一章 [序] 目覚め
第7話 エアバトルと反動
しおりを挟む「行ってきまーす」
例のストーカーまがいの一件で今日も兄妹で登校。
世間の目にも慣れた二人。だが薊の存在、それが淑やかな百合愛を模した澄美怜のペースを乱してしまう様になった。
出会って2年は非常に仲も良い友達として頻繁に遊んでいたが、最近はとかく張り合う関係に。
「おはよう、深優人~」
鞄を後ろ手にアザトく体を傾けてキラキラと笑顔と放つ薊。ロリ顔は保っているものの、高校生になって元々の可愛らしさにキレイさが増して一層魅力的だ。
軽い挙手で挨拶する深優人。女子二人、目が合うと早速火花を散らす。無言で三人で歩き出す。
薊は小柄の154cm、いわゆる萌え系だ。それを狙ってのツインテールか。声も声優ばりのアニメ声で、澄美怜《すみれ》と一緒に歩いていると薊の方が妹に見えるだろう。
ラノベの妹属性をほぼ一通り併せ持つポジティブ系メンドクサイ属の女子。その親しみ易さから異性なのにまるで友達感覚で接する事ができ、深優人としては長時間一緒でも一切苦痛が無い。但し妹との競り合いを除いては。
この日は特に昨日からの冷戦に火がついてヒート気味だ。
「深優人は今日も妹ちゃんのナイトさんなんだ-。エラーい。でもそろそろ切り上げてもいいんじゃない? 人目もあるしぃ」
「んっ! まだ危ないからって心配してくれてるんですーっ。お兄ちゃん優しいから」
「てゆうか深優人はガマン強いからね。人付き合い良いってゆーか。いつも大変だねっ」
満面の笑顔で深優人を覗き込み、アザとくねぎらう。
「ガマン強いってどーゆー意味ですか、アザトさん」
「ハア?! 何それ、パンジー・スミレ! 花言葉は『私を想って』って強要ラブのくせに!」
「はいっっ?! なら薊の花言葉は『報復』とか『触れないで』とか、全っ然可愛くないし!」
「なっ……グギギ」
これ以上はマズイな……澄美怜も淑やかで超優しい子だったのに……
「はい、そこまで。所であざみん、今日の髪型可愛いね。サイド少し変えた? 」
「さっすが深優人~! 分っかるぅ? この触角のところのスタイル変えたんだ~!」
「うん、とてもいい感じだね」
「えー照れる~。何にも出ないよ―」
「いや、お世辞じゃないって」
「えー嬉しいしー。今日ランチ一緒する?」
「いや、いつもじゃん」
ぐぬぬ~。折角のお兄ちゃんとの大事な登校のひと時を! アザトっ子はクラス一緒なんだから何も待ち伏せまでして一緒に来なくても!
薊は当て付けで、じゃあ今日は特別に 『ア~ン』 してあげるね、と澄美怜へ流し目。
『プチッ』
あ、今切れた音、しました……よね……と、眉を顰めた兄がおそるおそる目玉だけ妹の方を見ると、
「お兄さん、させるつもりですか?」
ヤバイッ、これは兄キ3段活用の《お兄ちゃん》 《お兄さん》 《兄さん》 の内の『シリアス度・中=ヤヤ切れ』 ってヤツだ。
放置していつものカイガイしさと会話が1週間なくなった事もある……そう、この子は怒ると陰湿でメンドーだ。アニメ妹の様にぶっ叩かれて終わりとかじゃ済まない。
何とかしないとヤバイ。
エエイこうなったら止むを得ん……
『えっ?』
ノールックで妹の手を探り、さりげなく軽く繋ぐ深優人の行動に驚く澄美怜。
目だけ笑ってない引きつりモードから、瞬時に顔を赤らめスンデレ状態に。
……お兄ちゃん……街中で何て大胆な……でも何このスリルと幸福感♥
嬉しさのあまり妹もキュッキュッと握り返して来る。
あ、ちょ、澄美怜! それ恋人のやるヤツなんだけど。でも未だケアしてた方が確実か。
敢えてこちらからもキュッキュッしてみる。と、また返ってくる。
ん?……
気配を察知した薊が覗き込む。その直前にギリ手を放す深優人。
もう、ホント朝から疲れるんですけど、全くこの二人は……。
うっっっ!!
逆の手の小指を薊が指切りの様に絡ませた。深優人のカバンを持つ側の手のため、妹には見つかりにくい。何食わぬ顔で会話を弾ませる薊。
暫くして空いている方の手を今度は澄美怜から握ってきて再びキュッキュとして来る。
くっ……両手を繋がれたこれは一体何の羞恥プレイでしょうか……と、うつ向く深優人。
ふと薊と深優人の腕の振りが完全にシンクロしているのに気付いた澄美怜が、話題に夢中になってるフリのフェイントでハッと背後から覗き込む。と、驚くほど自然に指をほどく薊。女のカンの鋭さに青ざめる深優人。
――― 結局このエアバトル&監視状態で学校まで行く事になった。
◆◇◆
日々の登校で薊は深優人へのアプローチの度合いを増して行く。
『深優人とまた選択授業で同じになったね~。もうずっと一緒だね』 『今度の体育祭で一緒の混成チームでさぁ、あれやろうよ』 『お弁当でクラブハウスサンドにチャレンジするんだけど何通りか作りたいから食べるの手伝ってもらっていい? 明日』
登校時、反撃の暇も無い程に次々と繰り出される当て付けのジャブ攻撃にサンドバッグ状態の澄美怜。
居場所を失くしてうつ向く。兄は不穏な空気を感じていた。こんな風に落ち込む時は大抵……
**
俺はその夜、ベッドで眠りかけていた。布団の中に入って来る人の気配を感じ、少しスペースを空けようとに体を壁に向けた。
背中に顔を埋める様な感覚。いつも以上にピッタリとくっついてくる。少し震えているのが分かる。
「大丈夫……?」
返事は無い。その代わりその細い腕全体で背中から俺を包む。力強く抱きしめて来る。胸の前に来たその腕に俺の手を優しく載せて指でさする。ちょっとすすり泣きが聞こえて
「誰も恨みたくないのに……」
そう聞こえ、ゴクリ、と生唾を飲み込む音のあと、息を大きく吸って、まるで温泉に浸かるとき最初に出てしまう安堵の吐息か、或いは延々と泣いてた子が漸く止んだ時に出る溜め息か、そんなのを一つ吐き出した。そして抱きついたその力が一気に抜けていった。
と同時に目眩を覚えるほどの消耗が深優人《みゆと》を襲う。
「お兄ちゃん……………………寝てたのに……ごめんね……」
「いいよ。でも大丈夫なの?」
「うん……多分……もう」
優しい囁きで会話する様子は端から見ればさながら恋人の様でもある。
「ならいい。……おやすみ」
「……うん………………おやすみ……」
だが腕を解こうとしなかったので俺も眠りに落ちる迄そのままの姿勢でいてあげた。
翌、明け方。いつも通り部屋に戻って行った澄美怜。朝食時、居間で顔を合わせた瞬間、
「あ、お兄ちゃんおはよっ!」
と言った澄美怜の満面の笑顔はいつも通り爽やかで美しく、こちらが癒されてしまう。
昨日の事は夢なのだろうかと思ってしまう程に何事もない普段通りの朝が始まった。
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