10 / 54
第一章 [序] 目覚め
第10話 いつの日か、『キュン死』させるまで日夜鋭意努力中
しおりを挟む「お兄ちゃん、今日学校帰ってきたら一緒にアニメ見よう!」
澄美怜すみれは兄との楽しい時間が長いほど、自分の中の闇が抑えられる事を本能的に知っていた。
それ故に昨夜の足掻きを思うと嫌な感覚を早期に払拭しておこうと、眠り際の想いを今朝一番に兄にぶつけていた。
快諾する兄。澄美怜の微妙なストレス状態を見抜いての事だ。勿論こんな約束はちゃんと覚えてくれていて必ず守ってくれる。
澄美怜と言えばその恩返しとして、兄の百合愛との心の傷を兄洗脳作戦で少しでも忘れさせて癒やそうと、今日もとり憑く事にご執心だ。
そんな事からマンガとアニメはこの兄妹をつなぐ重要なツールだった。
小・中学生の頃、妹澄美怜に押し付けられるままにオススメされた少女マンガ。1つ目は破天荒な少女が様々な因難を乗り越えて、その青春と夢を手に入れるというものだった。
「これすっごく面白かった。ありがとう」
その後もこれが共通の話題となって盛り上がり、嬉しくなってもっと語り合いたくなった。楽しい時と共通の話題が増えていくのが何より楽しく、どんどん貸し借りする様に。
「ホント少女マンガって凄く奥が深いね」
お兄ちゃんは少年マンガ等もそれなりに楽しむ方だ。でも人の心理描写に興味があったみたいで、特に恋愛物は『女子の心情がリアルで参考になる』 なんて言って興じてた。
「お兄ちゃん、乙女のフクザツな心境が分かりますか?」
な~んてからかっていたのも束の間、その真面目さでその手のマンガをどんどん読破。私の膨大なコレクションを全制覇。心配になって、そっち系なの? って聞いてみたら
「いや、単に面白いし……あと百合愛ちゃんとの仲の参考になるかなと思って……」
……それ、女心のカンニング! あまり恋愛ものは見せるべきじゃなかったかな……なんかちょっぴり不安。だってお兄ちゃんと百合愛お姉ちゃんて仲良すぎるし。
自分など二の次、或いはそれ以下だ。そう思わされて、それが少し寂しかった。それからはそうした傾向のものをオススメから避けて、アニメをはじめ他の分野で意気投合出来るよう慎重に選ぶ様になった。
「恋愛マイスターになっても困るし、何か私に気持ちを向かせるものって無いのかな?」
そんな頃に百合愛の海外永住の話が……。私達はお姉ちゃんと生涯のお別れとなってしまい、お兄ちゃんはとても塞ぎがちになった。
余りに異常に想い合っていた二人。その相性は私の想像を遥かに超えていた。どんな事情があったのか、それとなく聞いてみた事もあるけど教えてはくれなかった。
そこで事情はともかく元気付けの為に何か、と色々調べてる時に『妹ものアニメ』の存在を知り、それをお兄ちゃんへの洗脳教育? もとい、元気付けの一貫として導入する事に。
先ずはライトなものから徐々に刷り込み、かなり変態っぽいものまで間違いを起こさず? 一緒に見れる程になった……ってのもどうなんだろ。クス。
私のヘンタイっぽさはきっとコレのせい……って事にしといて下さい。
まあでもそれも 『妹道』 その① ……のためだ。『妹に特別萌える体質改善』を施して恋人を忘れさせてあげるのです。
結果、着々と計画は成就へ向かって進んでる……のかな?
昔の三人の思い出から現実に戻る澄美怜。兄と肩を並べてリビングのモニターを見入ると、あえて肩を触れさせてソファーに座るゴキゲンな妹ぶり。
私、それにしても判ってるんです。お兄ちゃんの好きな『妹キャラ』は誰なのか。それは『お兄ちゃん的にポイントの高い小言娘』でも、究極の『反発ツンデレエロゲー娘』でも、仕事パートナーとして高め合いながら『引き篭もりを続けるヤンデレ娘』でも、はたまたケチャップソース大好き『萌え萌え世話焼き娘』でもない、と言うことを。
それはやっぱりあの『魔法科高校の優等生』が好みだって事!
「ね、当てて見よっか、妹キャラの兄的ランキング1位は絶対、『みゆきちゃん』でしょ」
「えっ……どうして?!」
これはちょっと見抜かれて焦ってるって顔。『やっぱ図星ぃ~』
照れなくてもいいよ。悔しがらなくてもいいんだよ。この妹に全て任せておけば何も問題ないんだよ。だってあのキャラ、上品で従順で淑やかで誠実で、その上有能で。……百合愛ちゃんとスッゴク被ってるんだもん……
「お前には敵わないな。じゃ、澄美怜すみれの兄キャラランキング1位は誰かな……」
フフ。そう。だからお兄ちゃん、いつも私の事を見ていて下さい。あなたは私の全てなのだから。
柔らかな作り笑顔の裏で真顔の澄美怜が呟く。
―――だってそれは大袈裟でも何でもなく、命に直結してる程に……私の全て……なのだから。
**
そんな二人はこの所タイムリープものや異世界転生もの等も見尽し、気分転換に大評判の感動作を、と言う事で、1つはS月はキミの嘘、そしてもう1つはこれになった。
『V.E.G.』
それはKアニメーション製作の最高傑作と呼び声の高い逸品で、感情を持たぬ孤児が人間性を獲得して行く、とある少女の成長を描いたヒューマンドラマアニメだ。
「ほらお兄ちゃん、偶然ね、私と同じような名前の主人公なんだよ。 Violet:スミレ Ever:永遠 Garden:園 ――― ね、そうでしょ」
「本当だ……じゃ主人公は澄美怜すみれみたいな人だったりして。何か楽しみだね」
早速サブスク画面からオンデマンド再生スタート。
第1話……設定が興味深くて凄いね、画もめちゃくちゃキレイで引き込まれる。2話……イイ話し。これからどうなる、目が離せない 3……4……5話 ヤバイ泣けるね。音楽も凄く素晴らしい。 6……7……もっと泣けるし……作画最高に美しいね、 8……9……ああ、なんて運命なんだ……胸が張り裂けそう 10話 ああ、神回!これヤバイ~、泣き死ぬかも……11……12……13話 ああもう尊すぎる! 切なすぎる! 愛しすぎる! うああ、もうこれ最高すぎだ~ 神だ~ テッシュが足りない~!!
洗濯物を取り込み、かごを持って横切った母が呆れて叱る。
「ちょっとあなたたち、も―アニメばっかり見ててしょうがない子達ね、声だして泣かないでよ、小学生じゃないんだから!」
え~、そーゆーならお母さんも見てみなよ、とそんな訳で母と2周目突入
『泣き死ぬ~、深優人、テッシュを箱で持ってきて頂戴!』
「はい、 母さん」
その日以来、その二つのアニメは我が家では感動作の最上階に殿堂入りをした。私達兄妹の特別な存在で宝物だ。
「ねえお兄ちゃん、あのとき『アン』 がね……」
うゎっちょっ、今はダメ……勝手に目から汗が……と狼狽する兄に、じゃ、『かをちゃん』の好きなカヌレ……と言いかける澄美怜すみれの口を手で塞ぎ、それもだめっ、と制止する。
それ以来 『アン』そして 『かをちゃん』は気やすく言ってはいけない禁句となった。
以後――――
「ねえ、ちょっとお兄ちゃん……」
「あ、ちょうど良かった。そっち行くついでに電子レンジの中のカフェオレ持ってきてくれる?」
ビシッと敬礼をするや「了解しましたっ!」と颯爽と持って届けると、すかさずスカートの裾を持ち上げ一礼し 、『お兄様がお望みならどこでも駆けつけます。自動手記人形サービス……』
深優人みゆとは、それヤメテ! なんか複雑な気分になるし! とニガ笑い萌え。そして心では、
……全くこの妹は。時々悪ノリしてからかって来るけど、そんなお茶目さに実はコッソリ萌えちゃう。こんな俺はもう完全に手の内ですかね……危うく今、『キュン死』しかけたよ。
そんな兄の瞳を覗き込む澄美怜は、
フフフ、お兄ちゃんかわいい!……いつもこんな感じに萌えてくれるんです。
そう、そしていつの日か、『キュン死』させるまで日夜鋭意努力中なのです。
< continue to next time >
1
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています
木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。
少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが……
陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。
どちらからお読み頂いても話は通じます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる