妹のままでいさせて

深宙 啓 kei Misora

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第二章 【破】愛の真実

第24話 閑話。春休みのとある長い一日 後編

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 お前~! と逆上男に蘭のポニーテールはムンズと捕まれ『ギャーッ』

―――どうしようっ、でも蘭を守らないと! 


 寸時、澄美怜すみれは思い出した。慌てて店を出た瞬間、持てる限りの荷物を無造作に掴んだ時、何故か持っていたフタ付きの特大カフェオレカップもそのまま手にしてた事に気付き、もうなりふり構わずフタを外して男の顔面に目掛けてブチ撒けた。未だアツアツのそれが男の目に入り、

「ぬぉあっちいぃ……」

  と後ろ向きで顔を押さえた。その隙に『行くよっ!』と蘭の腕を強く掴み走り出す。

 いざという時、その強さを発揮する。普段はあんなにただ優しいこの姉が―――

 かつて、公園でいじめっ子に絡まれた時も。他にも誤解で悪者になってしまった時に担任の先生まで談判しに行ってくれた日も。自分の大事なものには凄く芯の強い所を見せてくれた。久しぶりに見たその勇姿。

―――やっぱり好きだ……お姉ちゃん!

 まるで王子様に助けられるお姫様気分で夢の中の出来事の様に引っぱられてゆく。

 迷いなく路地から目抜き通りへ駆け抜け、デパートまで妹を引っぱって行く。人が引っ切り無しに出入りするそこならばもう心配はない。

 10Fの大型ホールのベンチまで行った所でヘタって座り込む。息を落ち着かせ顔を見合わせるとス卜ップモーション。そして同時に大笑いした。

 蘭は笑い終えたあとも胸が熱くて、この事だけで頭が一杯だった。

 ……とんだプチ冒険なっちゃったな。でも……。お気に入りのキャップはもう戻って来ないけれど、偶然風にイタズラされてなければこんな冒険級のことなんて……
 じゃなきゃお姉ちゃんの勇姿も見れなかった……だからあれはお姉ちゃんとの思い出だいと考えたら安いもんだ。うん。この日をきっと一生忘れない……。

 蘭にはそんな風に思えた。

  *

 家に帰り就くと、その夕飯時、大興奮でその武勇伝を家族に話す蘭。その夜はこの話で持ちきりだった。

 特に自分のピンチを颯爽と助けてくれた姉のカッコイイ姿を熱く雄弁に語った。

 でも蘭は一つだけ話さなかった事がある。

 今回のお出掛けは姉を保護者として、というのは立て前だったという事を。大好きなお姉ちゃんがこの所恋愛モードになってしまって干渉する時間が激減、寂しさを感じていた。

 お兄ちゃんの方しか気持ちが向いていない事は痛いほど分かっていた。そんな大好きなお姉ちゃんをいつかお兄ちゃんから引き剥がして、遠くへ二人でお出かけしてみたくて……

 本当はちょっとした姉妹デー卜だった事、言えずに自分の中だけにしまっておいた。 そしてこの冒険は蘭にとっての宝物になった。

 *

 その武勇伝を温かい目で見守って聞いていた深優人みゆと。だが少し心配もしていた。
 その冒険の一瞬の恐怖がフラッシュバックしない様にと案じていた。

 夕食後、フロから出て部屋へ戻ろうとした時、2階のトイレの電気が点いていてドアが少し開いている。消し忘れか?と、通り掛かるついでに消そうと近づいて行くと、深刻そうな声で

、絶対に閉めないで、あと見ないで」

 と言う澄美怜の声。やはりパニック障害が。もし発作が出たらすぐ飛び出すつもりでこんな……

―――そう、極度の不安症で閉塞状態への拒絶があるとドアを閉める事さえ恐怖となる。直ぐにそれを察する深優人みゆと

「わかった。何かあったら直ぐ呼んで」

 そう声だけかけて、目を逸らして自室へ入る。うら若き乙女がそうするぐらい恐さが勝っている。
 直ぐ後で何かケアする必要があるかも知れない、と気構える兄。

 ほどなくして蘭が兄の部屋に来て同じ見立てを話して来た。そこで計画を練る二人。


 澄美怜すみれが自分の部屋に戻り、しばらく落ち着いた頃合いを見計らって作戦開始。
 いかにもそれっぽく「お姉ちゃん、ちょっとこっち来て」と兄の部屋へ誘導する。

「お兄ちゃんが腕立て伏せの負荷をもっとかけたくてさっき私が乗ったんだけど軽すぎちゃって、お姉ちゃんぐらいがいいかもって」

「え! ムリじゃない?」

「良いから乗って。背中に座る感じで。足着かないように」

「うん、お兄ちゃん体壊さないでね」

 だが澄美怜すみれの想像を越えて、それは十回続いた。真っ赤な顔して潰れた深優人。

「ぐあーっ、はぁ、はぁ、キッツーっ、でもちょうどの負荷だ」

「やっぱお兄ちゃんスゴーイ」

 姉妹二人で感激する。そこで蘭が気を利かせて更にこう言って煽った。

「でもちょっと腰がキビしそうだから次はおんぶガエルにした方がいいんじゃない?」

『!!!』 澄美怜の目がギラリと輝いた。
 ……蘭ちゃん、それグッジョブよ! 

「じゃ、もう一度乗ってみるね」 

 急に積極的になる澄美怜すみれ。手を床についてから、兄の背にそっと胸から体を載せて行く。うなじに鼻先が触れる。

 ……この合法的スンスン。はぅ――っ、そしてこの胸のドキドキがモロに伝わるカンジ。チョト、いや、かなりエロくない?!   こ、こんなに密着したの初めてかも……ああ、幸せだ~……いや、これはお兄ちゃんの方が幸せなシチュ?……なら見返りに6パック触るぐらい良いよね?!  良いよね~~~~っっっ!! 

 等と考えながら既にまさぐってたりと、暴走状態に。二十回ほど行った所で蘭も乗っかってきて三段おんぶガエルに。そこから更に2回目で笑いながらドシャッと潰れた。

「さすがに無理ーっ、はぁ、はぁ……」 

 と深優人みゆとが息を切らして音を上げた。キャッキャと喜ぶ二人。

 次はバーベル替わりにお姫様抱っこ風でア―ムカ―ルに挑戦。兄による初・お姫様抱っこに、もう萌えまくる澄美怜すみれ。ウットリと下から顔を見上げる。

 上腕二頭筋をプルプルさせながらも持ち上げる度に顔同士が限界まで近づく。頬に唇が当たっちゃった、なんてわざとらしく言い訳するつもり満々。蘭が見てるというのにもうリミッターが外れっぱなし。僅かに唇が尖っている。

 はぅ~、やっぱお兄ちゃんって細目なのに力もちだ~。 惚れてしまう~……とっくにだけど!

「あっ、今どさくさに紛れてチューした! お姉ちゃんずるい!! 」
「わざとじゃないって!  キャハハ……」

『じゃ次、蘭も』と言ってすぐさまマネて、唇を兄の頬に近付ける。だがもちろん兄への異常な独占欲は相変わらずの澄美怜すみれだ。
 ギリギリ隙間に人差し指を挟んで蘭の行動を阻止。蘭の唇を押さえたまま、

「ダメよ、蘭。したいならそう言う事はこのお姉さんにやりなさい」

「……いいの?! 」

「え?! ……(やばっ、蘭ちゃんが益々変態になっちゃう!)」

「お姉ちゃ~~~~~んっ!」
「ダメ―――ッ」

 兄の周りを逃げ回るスミレ。

「お兄ちゃん、助けてーっ、蘭に襲われる~~っ!」

 まるで小学生の頃にやったふざけっこのように大騒ぎ。散々ドタバタグルグル回ったものの、兄の裏切りで後ろからハグするように捉えられ、『ダメーッ』
 遂にそのスミレの頬は蘭の唇の餌食となる。

『ブチュー』 
『ヤハハハハハ、く、くすぐったいー』 

 と、暴れても逃してもらえず、逆サイドにも

『こっちにもブチュー』 
『イヤーン』

 床に転がり大爆笑しながら全員力尽きてグッタリして「笑い過ぎて苦しー」と大騒ぎ。

 ようやく落ち着いて、『あー面白かった……』と笑顔と虚脱状態の二人が部屋から出て行く間際、蘭が兄へ親指を立てて作戦成功の合図。勿論成果は有ったようだ。


―――その深夜


 それでもやはり澄美怜が神妙な雰囲気で深優人みゆとの布団に入り込み、手を繋いで来た。

「ごめんね、せっかく気を遣ってくれて……私も持ち直せたと思ったのに……恐怖のパニックは消せたの。……でも黒服男に蘭が乱暴にされて……例の『恨みの気持ち』が湧いて来て……止められなくなりそうで……それが怖くてイヤで……鎮めて欲しくて……」

「いや、変にガマンしない方がいい」

「……でも本当に凄く助かったの……あれが無かったらもう……ありがとう」

「それは蘭に言ってあげて」

「うん。……蘭ちゃん……私の大切な、大好きな妹……」

「そうだね。それに今日は澄美怜もホント良くやったよ。もっと誇りに思っていいんだよ」

「うん……」

 ……あのテーブルに落とした涙……守れて良かったな……

 それを想いながら安堵の溜め息をつくと、更に癒しの力がフワリと流れ込んで来る。


 その瞬間ス卜ンと眠りに落ちた。





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