妹のままでいさせて

深宙 啓 kei Misora

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第二章 【破】愛の真実

第33話 じゃあ私って…… 一体だれなの

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 澄美怜すみれの検診の日。

 激しい発作を起こして母と同日入院したあの日以来、総合内科で予後の検診をしてもらっていた。

 折しも先日、夜のデートの件で闇堕ちしかけた事もあり、これ以上悪化せぬ様に真面目に診療を受けに行く澄美怜すみれ

 ……近い将来、私はあの力に頼れなくなる。今までだったら『どうせ原因不明って言うのだから』って事で途中から通わなくなるところだけど、今は万に一つの改善の可能性にすがるしかない。
 大好きなあの二人の邪魔になりたくない。

 そんな気持ちで診察室へと赴くと―――

 主治医は発作による痙攣の再発の様子が無い事から通院も次回で終了出来そうだと言った。

 ……やっぱり今回も原因の特定不能か……


「今の所、救急時のような発作の再現性が無いから何も確証は無いけど、神経系の可能性もありますね。例えば血管迷走神経反射なんかも考えられるし、ストレスとかでも脳内の虚血などで体に大きく影響を及ぼす事もあるし……。今回調べた範囲ではその辺が疑わしいかな。
 前にも言ったけど以前の脳内MRIやCT検査には異常は無かったしね。その後、何かストレスを感じる事はありますか?」


 ……はい、お兄ちゃんと兄妹以上になれないのがストレスです

 
 ……なーんて、そんなの言えっこないよね。ハハハ。他に思いつかないのはまだマシなのかも。

「え……特に思い当たりません」

「そう。それと採血の結果なんだけどね……」

 主治医は体に変調がある事でストレスが掛かってる場合もある事を考慮し、内臓にも問題が無いか一応採血もしてくれていた。

  ―――診断の結果、やはり問題無しと言われた。

 その際、ついでに頼んだ血液型検査を澄美怜《すみれ》は実は楽しみにしていた。父と兄はA型、母と妹はO型で、それぞれ見た目だけでなく性格まで似た者同士で血液型まで同じ。

 今まで自分だけ調べる機会が無かったので、ちょうど良い機会だった。

 ……お父さんとお兄ちゃんはちょっと潔癖性な所があっていかにもA型。多分、自分とお母さん、蘭は、3人とも見た目もそっくりで鷹揚な性格だから、自分もきっとO型だよね。
 まさかのA型だったら何か言われそう……フフフ。と何気に診断書を見ると


『B型!……』


 一瞬何が何だか全く分からなくなってしまった。

 どうして? 何かの間違い?  と、病院側に問い合わせるも、取り違いを含めて断じて間違いではないと言われた。


―――じゃあ私って……  一体だれなの…… 
  拾われた子?






  **


 その夜。
 食後しばらくして深優人みゆと、そして蘭が各自の部屋に戻っていったのを見計らってから、意を決っして夫婦そろっている居間へと神妙な面持ちで向かう。

「お父さん、お母さん、ちょっと話しがあります。そこに座ってもらえますか?」

 台所に立っていた母と居間でくつろぐ父にテーブルに付くように促す。

 ただならぬ切り口に父と母はアイコンタクトをとりながら、妙に重々しい態度で着座する。如何にも不自然だ。疑いの目のまま澄美怜すみれも着席した。

 目が泳いでいる二人を睨みつける様にして、暫く溜めを作って大きく深呼吸した後、やにわに――――


 バンッ……


「正直に答えて下さい。私、お母さんの子ですか? 遺伝的に」

 テーブルを叩いた手は威嚇的にその上に置かれたままで身をのりだしている。叩きつけられた掌の下には血液型の記された診断書。

「そ、そうよ。もちろん」

  不満げな面持ちで手を握り締める澄美怜すみれ。嘘をつく様な母ではない。ギロリと父を睨む。

「なら同じ意味で、お父さん、私はあなたの子ですか?」

「……澄美怜。その事についてずっと話そうと母さんと相談していたんだ。丁度良い機会だから、全部ちゃんと話すから落ち着いて聞いて欲しい。ちょっと長く成るかも知れないけど」


―――つまり、YESって即答出来ないのは『違う』 って事?
  でも隠さず話すって言うならまずはそれを聞くしか……。もちろん騙されてた訳じゃないにせよ何かを隠してた事に変わりはない。
 ああ猛烈に頭に血がのぼって手も震えてる……下手な答えでも返って来ようものならテーブルをひっくり返して家を飛び出してしまうかも知れない。
 心臓がバクバク言ってる……。

 息詰まる澄美怜すみれに対し父は優しげな目をしてゆっくり口を開いた。



  : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜


―――時は15年ほど遡る。

 父親:克己の当時の妻、そして母親:ゆかりの夫は大病を患いそれぞれ入院する事に。

 偶然二人は同日に入室した。個室希望だったが空きは無く、用意できるまで隣同士となったため、互いに軽くご挨拶したのが最初だった。

 実はこの二人の患者はどちらも余命宣告を受けていた。

 看病の合間にも何度か顔を合わせたが、その待合ラウンジで0才児の澄美怜すみれと1才児の深優人みゆとは出合う事になる。

 赤子の澄美怜にミルクを飲ませるゆかり。とても整った顔立ちだがどこか陰のある、美人薄幸と言った感じだった。

 こんにちは、と人見知りせず挨拶する深優人みゆとの父:克己。イケメンだが愛想も良い。

「あら、今日は、小さなお子さんを?」
「はい、1才の男の子です」
「まあ可愛い」
「普段お婆ちゃんに見てもらってますが、たまには連れて来てあげないと」
「そうですね。ママも寂しがるでしょうから」

  ええ。と微笑んで深優人みゆとを抱き上げて、ゆかりの前ヘかざして見せた。それを見て微笑んだゆかりは、

「お名前はなんて言うのですか?」
「みゆとです」
「めずらしいですね。字はどんな?」
「深く、優しい人、で 『みゆと』 と読みます」
「まあいい名前ですね」

「父が私に『強く育って欲しい』と、克己とつけたんですが、そのせいか負けん気が強くやたらやんちゃに育って。
 男の強さは優しく、それでいて黙々と不言実行……がモットーだった父が『この名前は失敗したー』 なんて。それでじーじの想いを英語の『MUTE』に掛けて、男は無言で優しく実行する人に、となったんです」

「成る程~!素敵です!」

「そちらのお子さんは? 女の子ですよね。お母さんに似てて美人さんだぁ!」

「すみれ、って言います。一文字の『菫』にしようかと迷ったのですが、やっぱりもっと思いを載せたくて。で、澄んだ、美しく、心から祈りを捧げる……って事で澄美怜です」

「すごく良い名ですね。なんか心が洗われます」

「名前負けしないと良いのですけど……育てる責任が重大です」

「親は常に願うばかりですよ」
「そうですね」

「ほら、澄美怜、お兄ちゃんですって。これからもよろしくね―って」

 それを受け克己は深優人を腹話術の人形の様にして

「うん。ヨロシク――ッ」

「フフフ……」 「ははは」

 これがまさか本当に兄妹になるとはその時は思ってもみなかった。

 その後、それぞれ個室に移れたものの、何度もラウンジで顔を合わせて馴染みが出来た。


 そんなある日、永遠園とわぞの克己の妻が他界する。白い布を顔にかけたベッドが運び出されるのを見かけたゆかり。

 そしてその3日後にゆかりの夫も死去する。

 後日、ゆかりの夫の納骨の際、偶然 同じ墓地で永遠園(克己)と再会した。只、そのゆかりの極度に憔悴し、やつれきった姿に克己は愕然とした。

 休憩室での二人。―――残念でしたね、と色々あった事を話している内に、突如倒れそうになるゆかりを受け止め、肩を貸してソファーへと介添えする永遠園。

  その消耗ぶりが尋常でなかったので事情をきくと

―――夫は自営業、保険は手薄なもの、遺族年金も僅か、ギリギリの生活、アパート暮らし、元々体が弱い上に親戚や頼れる身寄りもなく、といった状況だった。家賃と食費だけで精一杯。この先を思い悲嘆にくれていた。

「あの、もしお嫌でなければ、うちを貸しましょうか」
「え?!  でもそんな図々しい事は……」

「私達、結婚当時、リフォームで上下階の2世帯住宅にしたのに程なくしておばあちゃんが亡くなって。今はムダに空いてるけどアパート化は意外と改装費用もかかるし、手続きとか業者とやり取りする時間もなくて……」

「でも…………ホントにいいんでしょうか……大した家賃も払えない私が」

「じゃあこうしましょう、遠慮しない為にあなたの言い値でちゃんと頂きますから。或いは払いたい額を払える様になってからでも構いません。ならギブアンドテイクでしょう」

 そうして共同生活が始まった。

 一階をゆかり達に貸し、二階が永遠園家という住み分けで暮らした。
 その際、保育園にからむ雑事が大変そうだったのを見かねたゆかりは『一緒にみてあげられます』 と申し出をしてお互い助け合いの生活が続いた。

 その頃のゆかりは以前の無理がたたり、体も弱く、よく体調を崩した。そんな時、克己は看病と娘同然の澄美怜もしっかり世話をした。

 子供逹を守るため日々お互いを大事にして精一杯尽くした。やがて生活が軌道にのり、その結果この兄妹も仲良くなった。

――――幸せな毎日が続いた。

 しかしある時ゆかりはそんな日々に終止符を打とうとしていた。これ以上甘えてられない、と求職活動へ。近日面接に行くという。


 聞けばアルバイトではなく家を出るための正社員という。深優人《みゆと》3才の頃だ。

「あの……このままここを使って貰っていいんですよ」
「いえ、そう言う訳には」

 不穏な空気を読み取った深優人みゆとは、「ママ」……としがみ付く。

 ゆかりをママだと信じ切っている深優人《みゆと》。2才になった澄美怜《すみれ》も克己のことをパパと呼ぶ。

「自分たちは、このまま家族にはなれないのでしょうか? それともまだご主人への……」

  と克己が問う。 

「いえ。私みたいな何のメリットも取り柄もない者が良くしてもらって……克己さんこそまるで家族を演じてくれて、きっと無理してるのでは? 」

「演じてません! あなたの誠意は誰よりも近くで見てきたつもりです。でもあなたの方こそパートナーとして僕の事、遠慮したいと言うならハッキリそう言って欲しい。それなら出て行きたがるあなたを引き止める理由はありません!」

 辛そうにうつむくゆかりは少し間をおいてからゆっくりと語り出した。

「いいえ。―――あの人への気持ちは……あの時全力で支えてとっくに整理はついてました。そうではなく、子供達には申し訳ないと思ったけど、これ以上ここにいたら私は苦しくてどうしようもなかったんです。  
 私は母です。女の気持ちは捨てなければと……」

 顔を上げたゆかりは唇を噛み締めてから微かに震えながら続けた。

「でも、本当は、本当はあなたに引き止めて欲しかったんです……あなたを慕う気持ちが止められそうになくて……もうこれ以上……そう言う仲に成れないなら、つらくて……居られなく……なって……」

 泣き崩れるゆかりの肩に優しく手を当てる。

「そう思ってくれてたならもう我慢ばかりの人生を終わりにしましょう。僕と一緒になって下さい。共に幸せになりましょう。そして折角授かったこの宝物を大事に育てて行きましょう」

「ありがとう……ありがとう……ありがとう……ございます……」


  : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ 


 テーブルを叩いたまま載せられていた澄美怜の手の甲には幾つもの雫が落ち、それらはテーブルにも流れ落ちて行った。

「お父さん、お母さん……ありがとう。それとあんな言い方、ごめんなさい」




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