妹のままでいさせて

深宙 啓 kei Misora

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第二章 【破】愛の真実

第36話 だから恋心を向けて欲しくなかったんだ

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 兄の部屋で告白のリベンジを続ける澄美怜すみれ


「小学生になってからは自発的に見守り続けたって父さんから聞いたっ!  だからどの発作でも対処出来た。 偶然近くにいて癒してくれてたんじゃないって初めて知った」

「いや、偶々たまたま…」
「嘘っっっ!!」

 誤魔化される筈もない。全てを知らされたのだから。

「……何時も陰から見守ってくれてた。……ううん、それどころか、その力で癒したあと、もの凄く消耗するって聞いた……。 

 そんなの知らなかったよっっ!!!

 そのせいで入院寸前まで行ったなんて事も。全部ひた隠しにして堪えてくれてた……そうやってどんな時も無償の愛で支え続けてくれてた!

 でもね、知らなくても感じてた。どれだけ私の為を思ってくれてたかを……感じてた。 ……その分だけ兄さんを想う気持ちが、どうしようもなく掛け替えのないものになっていった……」


 ゴクリと生唾を飲み込み、口調を緩めた澄美怜すみれ


「……けどね、そんなに想っていてもね……うっ……好きと言うことも言われる事も許されない『妹』という立場を後から知って……ずっとずうぅっと我慢してきた。
 それでも時々我慢しきれずあふれてしまって何度も迷惑をかけてきた……ズズッ……」


 ……そう、私が7才の時、兄さんが自害を阻止して約束してくれた日、この人は私の全てとなった。そしてその約束は生涯続くと……

 でも後から知らされた。兄妹はつがいには成れないと。




    : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:

  もしも身近に一生を誓い合った唯一無二の人が居たとして。

  当然結ばれると信じて生きて来て。

  それがある日、意識した時に……

  そう、例えば今この瞬間、兄妹だったと知ったら……

  ―――その時、あなたはその想いを諦められますか?

    : + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ 



「だからといってまた暴走した所で百合愛ゆりあさんから取り戻せるなんて思ってないし、もう実らないと分かり始めてる――――
 これまで妹なのに兄を好きだなんて後ろめたい気持ちで想い続けてばかり……うくっ……
 そして叫び続けて私の心はもうとっくにズタズタで……ズズッ……只でさえ消えたかったのに、それ以上に今まで何度も消えたくなって……」

 溢れる想いは幾つもの雫となって床を濡らして行く。

「……それでもこの気持ちだけは消えなかった……  はううくっ…… ズッ……」

 ゴクッ……と喉を鳴らして唾をのみ、どうにか伝え切ろうと息を吐く澄美怜すみれ

「は――っ……。  でも――今は妹じゃない。
 だから……やっと言える……やっとなんだよ……
 一度でいいから堂々と言わせて欲しかった……私、本当に心の底から想い続けて来たんだよ、あなたのこと!」

 大粒の涙がポロリと溢れた。

「澄美怜……」

「だから深優人みゆとさん、やっぱりどうしても、どうしても本当にあなたが……」

 ―――力強い眼差しで声を大にする。


「―――大好きですっ!!……」


「……」


「―――これが……私の……告白」



 辛そうに澄美怜すみれと向き合った深優人みゆとの瞳には光るものが。

 「……あ……ありがとう……もし君を守る約束をした時点で兄妹じゃないと分かってたら、きっと……。でも、今になってこんな事分かるなんて……」

「いいの。だって私達は血の繋がりのない他人。もはやあなたは守りつづける義理も義務もなくなった。私があなたを自由に好きと言える様になったのと同じく、あなたもいつ私を捨てても構わない赤の他人」

「澄美…」

「お陰で全力で伝えられて悔いはないから……私はもうこれで……今まで本当に、本当にありがとう」

「今まで……って…」

「だからあなたももう無理せず約束のことも忘れ…」

「冗談じゃないっっっ!!……」


『  !!!  』


「他人、他人って二度と言うなっっっっ!!」



 ―――本気で怒鳴ったの……初めて見た……




「確かに義理の妹かもしれない。でも俺達はその前に家族だ。俺たちを命懸けで守って来てくれた父さん、母さんの子。その前では義理なんか関係ない。今までもこれからもずっと大事な家族なんだよ!……だから約束を無かった事にするつもりなんてないっ!」

「……兄さん……でも……そうだとしても私ばかり兄さんを縛り続けるなんて心苦し…」

「俺だって本当はっ!……そっちが思ってるより遥かにスミレのこと……す……ミレの事が……す……」

 首を横に強く振り、うつむく深優人みゆと。そして遂に涙を床に落とした。

「兄さん?! 」
「だから恋心を向けて欲しくなかったんだ……俺がこうなる事……分かってたから……」 


 !! ――――そこまで私の事を……


「うう……ふあああぁぁ……   ズズッ……    うううぁぁぁ……   にい……さん……あ……ありが……とう……」

(私の心の病が消えない内は恋愛感情を口にしないと誓ってた……だから……今はお互いこれが精一杯……)

 泣きながら澄美怜すみれはうな垂れる兄をその胸に優しく抱いて、愛おしく髪を撫でる。





 やがて二人、涙しながらながら抱擁し続けた。

 深優人みゆとは微かに呻くようにすすり泣きし続けながら、抱擁した澄美怜すみれの肩を震える手で握りしめた。兄の辛さがダイレクトに伝わり、もうそれだけで満たされた澄美怜《すみれ》は、

「……苦しまないで。私への誓いを大事にしてくれて……ありがとう」

「……俺は……妹だから言わなかったんじゃない……『好き』より『愛』を優先しただけ……言ったはずだよ」

「そう……だったね……。ズッ……でも兄さんはずっと前から百合愛さんを恋人として受け入れてた。ちゃんと物事の順序を守る兄さんが今さら裏切る事が出来る人じゃないって事も誰より分かってる」

「スミレ……ゴメン……でも……それでも、これからも見守る……だってそれには…」

「無理しないで。……私、ちゃんと告白出来たから……今はそれで満足。……ねえ、今度は……ズッ……爪痕ぐらい残せたかな……」

「フッ……もう、ボロボロだよ」

 それを耳にした澄美怜の泣き顔に満たされた想いが滲んだ。



――――そして決断した。



「ごめんなさい……私、また消えようと……勝手に約束破るところだった」

「そんなのダメって言ったよ」

「うん。……だから明日からまた妹として生きて行く事になる。
 そうなったら……もしかしたら恋人志願最期のお願いになるかも知れないから……一つ叶えて欲しい。
―――キスして欲しい」

「……悲しいものになっても?」

「構わない。その価値はある。少なくともあの人百合愛さんは……そうした」

「……澄美怜すみれ

 静かに瞳を閉じる澄美怜すみれ

「……愛してる」

 そうしてキスを交わした。この日の愛しい記憶全てを、涙混じりの唇に刻んだ―――



 恋はやはり成就しなかった。しかし最愛の人と同格だと確かめることが出来、兄妹でない立場からの告白も叶った。
 パートナーとして選ばれなかったのは単なる時の運だと知れて、兄の向けてくれている真の想いを胸に『まだ生きてていいんだ』と思うことにした澄美怜《すみれ》。

 そしてこの想いを再び妹というオブラートに包んでの再出発を決意した。


―――そう、別に妹だから駄目だったんじゃない。世間的に引け目を感じてただけ。さっきの一言でやっと分かった。

 だって兄さんは駆け落ちの話の時もちゃんと聞いてくれた。それに病いの心配が無ければ恋も考えられると言ってくれてた。
 なのに事ある毎に自分が妹であるせいにしようとしてた。本当に向き合うべきは病の方だったんだ……。

 実妹じゃなくなってから気付くなんて―――


 百合愛ゆりあさんとこの人は、どう考えても運命の二人。幸せになって欲しい。
 そして何時かこの人の傍に居られなく成ったとき、やはり消えてくしか無いのだと思う。

 でもそれは今じゃない。

 二人の結婚だってまだ先のはず。それまでは未だあの力で支えて貰える。そしてもしそうしている内にこの病気が治せるなら、その時こそこの兄から離れてあげられる……。

 だから、こんなに思って貰えてた事、これ迄にしてくれてた事に感謝して、少しでも恩返し……しなきゃだね。

 

  **


 後日、これからどう接していくかだとか、どう呼びあうのか、干渉してもいい範囲等を話して、二人の関係を仕切り直した。その中でもやはり気持ちがゼロになる訳ではないからと、どうにか澄美怜がもぎ取ったのは、


  ・好きでいることは捨てなくてもよい。

  ・お互い想いを口にするのは構わない   (強引にもぎ取った)

  ・この関係が止むなき理由で見直す必要ある時は、この宣言はゼロから見直す。


 と言うものだった。  澄美怜すみれは少しだけ何かが吹っ切れた。




「じゃ、これからもヨロシクね、お兄ちゃん。大好きだよ」

 この上なく優しげな顔で困ったように苦笑する深優人《みゆと》




『別に届かないなら、もう気持ちを我慢なんかしてあげない』




 限りなく恋人に近い義妹―――

 新しい関係が始まる。





―――――――――――――――――――――――
第二章 終幕です。 次章(最終章)、いよいよ大きな運命の荒波へと飲み込まれてゆく二人。

その想いの行方を見届けてもらえたら幸甚です。



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