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第三章 【急】全てを懸けて
第37話 第一、二章総括 そして事件
しおりを挟む<ここ迄のおさらい>
以前に掲載した拙作の2つの長編はいずれも [起承転結] 形式でしたが、当作は [序・破・急] の三部構成です。
当話では、これまでをまとめながら激変の第三章へと突入したいと思います。
◆第一章―― 【序】目覚め
兄に恋人が出来てしまう。この人が誰かのものになる事、それは淡い恋心を抱き始めていた澄美怜《すみれ》にとって、どうしても有ってはならない事でした。それは命にかかわる事。
【 妹の謎の死への願望に歯止めをかけ、兄のトラウマを満たす相互の約束 】
・癒しの力で必ず守るからずっと生きてて欲しい
・そうしてくれて、望んでくれる限り死なずにいる
この事は澄美怜にとって永遠の誓いに相当する事でした。つまり生涯パートナーでなければ成しえないと。
しかし兄妹関係は法的にも社会的にも結ばれることの許されない仲であると、約束後に知った。
一方、兄は妹だからこそ恋愛破綻もなく愛し続けることが出来る存在だとして妹へ秘めた想いを封印して約束を貫こうとする。
だが育ってしまった恋心をぶつけて来る妹。裏腹な本心を抑えつつ妹をいなし続け、それでも守ろうとする兄。
そうした澄美怜の持つ特殊な事情は兄の癒やしの力により安定的に抑えられていた。
しかし、薊というライバル的な存在により不安定になり、兄の抑止力を越えて現れるように。
それによる症状も少しずつ明かされていきました。
・ 命を奪いに来る|黒い氷の悪夢
・ 消えたい衝動
・ 黒い感情と破壊衝動
兄は禁断の恋から遠ざかろうと薊を恋人として選ぼうとします。
兄を失えない妹はその依存度をどんどん高め、もはやその気持ちを隠そうとせず、遂に告白して仕舞います。
こうして仲良しだった薊との恋のぶつかり合いに翻弄されながらも、真正面から薊と向き合った事で最後には理解者となって関係が一段階深化、友情と共に初恋の波乱を乗り越える所が描かれました。
そしてこの人により、明確に恋が芽生えたことを自覚した澄美怜でした。
◆第二章―― 【破】愛の真実
ライバルが去り、穏やかな日々が始まると思っていた澄美怜に極大のピンチがやって来ます。
それは兄以上に慕う存在、そしてこの世で最も兄に似つかわしい女性、百合愛の帰国でした。
深優人、百合愛はその前世の記憶のトラウマ持ち。
恋人に命を救われ、逆に大切なその人を救えなかった深優人の前世。 故に大切なものを二度と失いたくないというトラウマを持つ。
一方、最も信頼していた夫に裏切られて絶望の中で死に、誰も信じられぬ子として生まれて来た百合愛。
幼なじみとして出合った二人は『心が通じてしまう異能持ち』として自覚し、互いの誠意と揺るぎない思い遣りに満ちた行動を示し合う内にやがて恋人として愛を伝え合うように。
生まれながらに傷付いている心優しき幼馴染みの百合愛をどうしても救いたいと願う深優人。
心が通じるが故に百合愛は、そんな誠意と偽りのない心を誓う深優人こそが世界にただ一人、信じられる存在となり、一生を捧げる覚悟を伝えた。
それは正に双方にとって二重の特異さで心の鍵穴がピッタリ合ってしまった、『運命の人』と呼べるものでした。
半ばそれを知る澄美怜は、その二人の関係の復活を目の当たりにして絶望に打ちひしがれます。生涯守られ続ける約束が潰えてしまうと。
本来の澄美怜であれば幼き頃から兄と同等に大切にしてくれて憧れていた絶対的存在の百合愛へと全て譲れようものだが、何故か魂が深優人を手放す事を諦めさせてくれなかった。
それに苦しみ続けた末に、更に自分の出生の秘密――兄とは血縁関係にない事――を知った澄美怜は、考えを改めます。
兄妹関係という檻にどうにか閉じ込めていた気持ちが放たれて、自由に愛を叫ぶ事のできる立場となってようやく自分の心が何を求めていたかの本質に気付きます。ある意味でこれは恋ではなかったという事に。
あの約束の日、死を求めてさ迷う自分に対し、命をかけて存在を守りその後も癒しの力で守り続けてくれた兄の願いと約束を何より大切にした澄美怜。
死なずにいる事がこの人への誠意であり、だからこそ生きて、命を預けた。だがそのためにはあの力で守られ続けねばならない。生涯パートナーとして。それ故に誰にも譲れなかったと言う事を理解した。
しかし百合愛の復活により、これからの自分の存在は、むしろ彼を苦しめるだけのものだと判断し、消えて行く覚悟を決める。
それは自分の人生に悔いを残さぬよう、これ迄の感謝とケジメとしての再告白をしてこの世から去るという事でした。
しかし深優人から澄美怜への真の想いを吐露され、その心は激しく震えました。
絶対的存在の百合愛に引けを取らぬ程に好かれ愛されていたと言う事を告げられた。
これこそがこの時の澄美怜にとっての全肯定であり全目標だったが故に激しく満たされ、遂に自害を思い留まる事になった。
仕切り直した澄美怜は新たな関係――世界一愛されている義妹――として歩み出す決意をしたのでした。
そしていよいよ最終章です。
この後、更に大きく事態が動きます。
――澄美怜の恋と愛の行方。
ぜひそれを見届けてやって下さい。
: + ゜゜ +: 。 .。: + ゜ ゜゜ +:。. 。
第三章◆―― 【急】 全てを懸けて
<本文>
義妹生活開始。
そうした関係開始から数日後、夜も更けて11時過ぎに澄美怜が兄の部屋のドアををノック。
「お兄ちゃん、未使用のノート持ってない?」
「どーぞ、開けていいよ。……ん、どうした?」
「明日提出の課題。ノ―トのペ―ジ切らしちゃって」
ちょっと探す、と言ってあちこち漁ったが……う―ん、ないな、と残念顔の深優人。
「そっか~、ヤバ。明日絶対提出なんだ。仕方無い、今からコンビニで買ってくる」
「え?! 今? って危ないだろ、買ってきてあげるよ」
「ううん。悪いよ、自分で行く。ついでに選んで買いたい物もあるし」
案ずる深優人。永遠園家からコンビニまでは暗い道もある。
「いや、時間考えろよ、じゃ、ついてってあげるよ」
「え、ありがとう」
これが澄美怜にとっては思いもよらぬ夜の散歩デ―トになった。
考えてみればこれまでこんなシチュエーション等無かった。ちょっとワクワクしながら上着をはおり、親に声をかけてから二人して夜道に出る。
静かな夜の街を歩くと登校時にも通る道なのにまるで印象が違う。大人の恋人が手をつないで歩くのをドラマで見て憧れたのを思い出す。
……そうだ! 私、好きって気持ち、遠慮をしないんだった。こ、ここは手を繋ぐくらい! い、良いよね……恋人繋ぎで……
途中まで普通に手を繋ぐモーション。そこからなし崩しで指を絡めた。
だがそれはすんなりと受け入れられた。思えば子供の頃からよく手を繋いでいたからか。ただ違うのはこの繋ぎ方だ。凄く胸が熱くなった。嬉しくて少し胸が苦しくなる。付き合い始めた恋人が愛しさと、もどかしさ故に感じるあれだ。
ああ、出来るものなら一生この手を離したくない――――
至福の時が緩やかに流れる。澄美怜はわざとゆっくり歩いた。街は静まり返り、昼には聞こえないはずの遠くの電車の音が耳に心地良く響く。
その音はまるでこのデートの特別感を演出してくれている様だ。
空には弓張り月。その遥かな天上の球体は灰色のはずの体なのにまるで自ら発光してるかの如く輝かせて主張している。
兄のお陰で輝いて居られる自分に重ねた。
大きく息を吸い、昼と違う空気に秋の薫りを感じた。そよ風が兄の方から漂うといつもの「スン」癖が発動。微かに感じるこの世でもっとも安心する甘い何かを深く吸い込んだ。
思いがけないイベント。愛おしいひと時が瞬く間に過ぎていき、コンビニに到着した。
「いらっしゃいませ」
夜のコンビニの挨拶は心なしか昼よりも落ち着いた感じに聴こえる。
澄美怜は目的のコーナーで多少悩んで選り抜いてから、品物を手にレジに向かった。
その時まで運命の歯車が大きく回った音に二人は気付いていなかった。
**
澄美怜がレジに立つのと同時に刃物を持ったフルフェイスのヘルメット男が入口側から駆け寄った。その時深優人は目的もなく雑誌コーナーをフラリと物色。だが直ぐに事態に気付き、速攻で走り出す。
「動くなっ!」
レジ係と澄美怜に刃物をかざして男が叫んだ時、驚きの余り澄美怜はビクっと大きく飛び退いてしまった。それが犯人の頭に血をのぼらせ、
「てめー、動くなっつってんだろ!」
と刃を突きつけようと真近まで急接近。後方からすっ飛んで来た兄が
「うおお―っ」
と叫びながら走り込むその勢いのままヘルメットを掌底で殴打して吹っ飛ばした。普段から鍛えている深優人の渾身の一撃をモロに受け、男はレジカウンターの中まで文字通りぶっ飛んでいった。
深優人は反撃に備えレジ奥に飛ばされた犯人に構えをとり、立ち上がって来ないかを警戒しつつ、妹を自分の背後の陳列棚の間へと控えさせる。
しかしその時には入口と逆側に最初から潜んでいた仲間の援護の特攻に気付かなかった。
深優人の警戒する反対側からかっとんできた男。手中の刃に気付いたは澄美怜は「危ないっ!」と叫び
『―――この人だけは命に代えても守る!―――』
横から突っこんで身を呈し、凶器の軌道上から兄を突飛ばした。刃物男と澄美怜《すみれ》は交錯。
ズバッッ――――
勢いのままにその刃は澄美怜の左脇腹を切り裂き、そのまま半身同士が大激突、その衝撃で男は陳列棚に吹っ飛んで行った。
澄美怜はカウンターヘ血を撒き散らしながら直撃。
ドガガッッ――――
深優人は振り返り様、妹の惨状に正気を失い
『だあああ―――――っ!! 』
と逆上、その刃物男を全力の拳で殴り撃沈、即座に店員へ「救急車―――っ」と叫ぶ。
2人の犯人はのびたまま動かない。
頭と腰をカウンターへと激しくぶつけた澄美怜も微動だにせず、脇から大量の血が散乱し意識も無い。抱きかかえて絶叫。
「大丈夫かぁっ、澄美怜っ、澄美怜―――っ」
ああ! 守るために来た俺が、何で! 何で! 何で! 何で!……
半ば発狂しそうになる深優人。『時間よ巻き戻ってくれ!』――― 無理は解っていても何度もそう心中で唱えずには居られなかった。
やがて警察と救急隊が早々に現れて事態を収拾していった。
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