妹のままでいさせて

深宙 啓 kei Misora

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第三章 【急】全てを懸けて

第53話 だって、お姉ちゃん……あんなに苦しんだんだ……

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「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ご……お姉さん……ありがとう……」

 そう言って涙を袖で力強く拭って振り返り、前方へと刮目する。
 視界には月に照らされ、光の粒がより一層舞い降りて、波立つ湖面に反射する光がキラキラと照り返す。

 魂が吸い込まれるような美しさに澄美怜すみれは心奪われ無心にその世界に浸った。

 照り返し燦めくその光の誘う水面の道しるべを進むと、森の夜空は開けて行き、やがて水平線の果てへと近付く。すると『ドドドド』と聞こえて来る大轟音。


 そこは広大な宇宙の谷へと落ちるナイアガラフォールズの様な光の滝となっていた。









 そこへ神の声のようなものが頭中に鳴り響いた。




 ≪ その滝壺の渦の先にお前の求めるものがある ≫



 そこへと飛び込む覚悟を決める澄美怜すみれ
 落下点に差し掛かり大きく宇宙の谷底へと舟首を傾ける。

 進み行く舟ごと成すすべも無く光の滝を落ち始めると、落下と共に舟と体は離れて行く。

 見えてきた滝つぼは、まるで光と闇が渦巻く銀河。

 光の滝を真っ逆さまに落下しながら加速して行くと、子供の頃からのあらゆる記憶の破片がキラキラ輝きながら体へとぶつかってくる。
 それを受け止める程に輝きを増してゆく澄美怜すみれ

 ……お父さん、お母さん……

 お兄ちゃん、お姉さん……

 蘭ちゃん……薊さん……


 落下が進む程、次第に愛の光をまとってゆく真っ白な自分。



 すると下方から遂に姿を現す








―――闇の自分が睨みながら上昇して来た。



 先へ行くのを阻止せんと下方から急上昇してくる青黒く鈍い光沢の氷の鱗を纏った過去の自分。


―――正面から対峙。


 グオォォォォォォォォォォォ―――― ッ


 近付くに連れ、互いに物凄い圧力を放ちあう。

 更に近付く程に速度が落ち、巨大な相反するエネルギーがまるで強力な磁石の反発のように寄せ付けずに立ちはだかる。


 放たれる膨大な白と黒のエネルギーの光芒が大きく弾け合う。


―――黒い自分のテレパシーが響く。

《これ以上行かせない! お前は望まれずに生まれて来てしまった。恨みと不幸でまわりを巻き込む前に消えるべき!! ―――》







―――白い自分が応える。

《あなたを苦しめた存在は自らの過ちに気づいて天に召された。もう全てを許してあげて》

 黒き自分は聞く耳を持たず、腕を大きく煽り、背後から夥しい青黒い氷粒群を爆噴させ総攻撃してくる。


『これでも喰らえ!』


 白き自分はかざした両の掌からヴァイオレットのそれを思わせる花弁状の威光を噴出。

 ……私は行くっ! 全てを捨てて私に譲ってくれたあの人の為にもっ!!!!!


 押されつつも踏ん張り返し、氷粒群を向かえ撃ち全て消し去ってゆく。


《往生際が悪いっ!  お前は死ぬと決めたんだろうが―――― っっ!!》








《ううっ……そ、それでも……みんなの想いを無駄に出来ない……。それに……あなただけ苦しんでるのはおかしいって……教えてくれて……私もそう思えたんだ……》


《うるさいっっ!! 呪い呪われたくなければ今すぐ消えろ―――っっ!!》


憤りの収まらぬ黒い自分は恨みの化身と化して巨大化。









 そして第2群の信じられないほど圧倒的な量の氷粒を渦巻き滝壷銀河の底から湧き起こし、猛然と襲い掛からせて来た。

 空間を満たすそのあまりの数に白い自分が怯んで後ずさりしたものの、


 ―――ここで逃げたら駄目だ、私は信じる! 私に力をくれた皆を!


 その瞬間、滝の上から大瀑布となって辺り一面を埋め尽くす程の光る花びらが降り注ぐ。百合、カトレア、薊、そしてブルーエの花弁状の光りのシャワーが加勢して、膨大な氷粒群とぶつかって打ち消し合いを始めた。

 それはまるで銀河同士の衝突の如き攻防―――

 激烈な凌ぎ合いは二人の目の前に事象の平面となって境界を生じさせ、やがて時空を歪める臨界に達して全て消滅し合っていった。



 静まって行く内なる宇宙空間―――― 



 反発しあう圧力が消え、自由になった二人は遂にそこで出会う。

 無重力状態で正面からゆっくり近付くと、互いに両手で相手の頬をうやうやしく包み、見つめ合う。

 テレパシーが両の頭に響き、白い自分が言った。



『今までゴメンね、ちゃんと向き合えなくて―――』



 黒い自分は

『全てを否定するしかなかった……もう恨まなくていいの?……私は生まれて来ても良かったの?……』

『そう。今まで独りで抱え込んで、よくえたね。頑張ったんだね……でもね、私は孤独じゃなかった。皆に支えられてた。そして全部分かってくれてた人もいた。
 その人が教えてくれたの。もう、報われてもいいんだよって……』 

 その一瞬、黒い自分は懺悔の念と恩赦への感謝を伴って大きく眉をひそませる。







 そしてその青黒く深い悲しみの瞳からは大粒の涙が溢れ、それがゆっくりと宙に舞った。


―――こんな私を許して…… ―――


 同時に青黒いウォーターサファイアのような氷の鱗がみるみる剥がれ落ちてゆく。

 それを見た白い自分の慈愛に満ちた瞳が潤んで煌めいた刹那、突如二人の胸の中の白い核と黒い核が急膨張して一つに重なり融合。


 ピカァ―――――――― ッッ


 急拡大する光芒、巻き起こる大爆発。それは大鳴動と共に空間全てを光の海へと化した。

 その光の中心から現れた澄美怜すみれ。一つの存在に生まれ変わり、その衝撃で失神した状態のまま真っ逆さまにきり巻いて落下し始める。

 そのまま滝壺銀河に突入し、その中心の光のトンネルを抜けて、まるで天国を思わせる輝く雲状の大地へと叩きつけられた。



――――ドスンッ。



 その衝撃が全身に伝わり、走った痛みでその不思議な夢は終わった―――




 そのたただならぬ落下音。




 廊下の奥、それも澄美怜の眠る部屋の方角から響いて来た音に、ハッと目覚める深優人みゆと

 力尽きてソファーに横になって失神していた彼は、状況をどうにか捉えようと疲れきった体を起こす。

「ぅ……うう……」

 ……今の音……澄美怜の部屋?……





『―――― !!!』





 飛び起きて居間から音のした方へ猛然とダッシュする。



   .  • * ¨ * • . ¸ ¸ ♩


 ベッドから落ちていた澄美怜すみれは、うつ伏せから上半身を起こし、ぼやけた視界から辺りを見回す。

 そこは夢ではない我が家の部屋が。


 廊下を駆けてきた兄が勢いよくドアを開けると、そこには信じられない光景。

「ん……んんっ……はぁ……はぁ……」 

 と、車椅子を手掛かりにしてうめきながらガクガクと立ち上がろうとする妹の姿。ゆっくりと顔をあげ、兄を見ながら必死にこう言った。


「はぁ、はぁ、私……立……てた……立てたよ……全部……思い出せた……お兄ちゃん……」

「スミ……レ ?!……」  とただ呆然と見守る深優人。

 完全に立ち上がって、よろめきながら一歩、二歩と兄に近寄る。ずっと車椅子、そしてとこに伏していた澄美怜すみれは、その弱りきった脚で全力を尽くしてゆっくり歩を進める。


 何ヵ月も動かせず細りきった脚。
 それでも立てた奇跡と歩む強い意志。



 深優人も一歩、部屋へ入る。何も声に成らない

「ずっと……ずっと……こう……して……お兄ちゃんと……い、一緒に……はぁ、はぁ……
 一緒に……………歩きた……かっ……」

「……」

「はぁ、はぁ、……
 ったあああ――――――――っっ、
 うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ――――――――――――――っっっっっっ」

 絶叫し、号泣する澄美怜すみれ。 

 ひざが持たずに遂にガクッと折れて崩れるも、素早く駆け寄って支え、抱き抱える深優人みゆと

 ただただ、今まで自分を偽って我慢してきた分だけ、澄美怜すみれは絶叫した。 まるで癇癪をおこした駄々っ子の様に、更に一段かん高くなって魂の限り泣き叫んだ。

「うああああああああああああああああ――――――っっっっ、わあああああああああああああああああああああっああ――――――――――――っっっ……」

 ただひたすらに泣きじゃくる澄美怜すみれ。抱き支える深優人みゆと が肩をさすり頬を寄せて、

「良かった……もう……もういいんだよ……もう絶対……離さない……」

「わああああああああああああああああああああああああ――――――――――っっっっ、
わあああああああああああああ―――――――――――――っっっ……」

 ただ受け止められるだけ、号泣を受けとめ続ける深優人みゆと。 

 胸の中でそのシャツにしがみつきながら、涙でビショビショにし続ける澄美怜すみれ

 そんな手にはまだ、いつかのシャツも握られたままになっていた。
 

  *


 泣き声は廊下にまで響き続けた。

 その開け放たれていたドアの外。兄の少し後に駆け付けた蘭が廊下側で壁を背に身を隠し、声を押し殺して泣いていた。

 ……さっきのは……邪魔してみせるってのは……取り消し。今は……今日だけは……お邪魔虫は終了。お姉ちゃん、思いっ切り甘えていいんだよ……


 姉の泣き声は時折切なそうに烈しい嗚咽に変わる。息も出来ぬほどに苦しそうな嗚咽。そして再び叫ぶような泣き声に。
 
 ……それほど嬉しいんだ!


―――もう大声で泣きたくなる蘭。

 だって、お姉ちゃん……あんなに苦しんだんだ…… 

 そう思うともう声が! 

 でも絶対二人の邪魔になるもんかっ!

 寸前で必死に口にフタをして無理矢理押し殺して宙を仰いだ。

「うぐぅっっ」

 押し殺した感情は行き場を失い、その大きな瞳から滝となって逆噴出してしまう。

 目から滝ってホントにあるんだ…… 

 そこへ更に兄も泣いているのが聞こえた。

 『お兄ちゃん!……』

 あの冷静で忍耐強いお兄ちゃんが大きな声で男泣きしている!

 そんなの聞かされたら切な過ぎてもう止め切れない!!

 慌てて更にもう一方の手で力を加え、前屈みになって強引に押さえ込む。それでも声が!……  


『んぐぐぅっっっっ!!』


 そのしわ寄せで押し寄せた更なる激しい噴出。

 苦しく歪められたその両の目からは瞬きの度に飛沫しぶきとなって歓喜の大雨スコールを床に撒き散らし続けた。

 全身震わせながらのその雨量。

 それは、姉のものより多いと思える程だった―――








< continue to next time >

 次回、最終話。





―――――――――――― 
推奨BGM 兄がドアを開けて驚くシーンから蘭の歓喜の大雨まで

▼look To The Stars
https://youtu.be/24k-MQnSNZk?si=AS1jN8-3wB7tIvFy

.  • * ¨ * • . ¸ ¸ ♩    このマークからラストまで、宜しければBGMにして再読して貰えたら……。

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