猫のきおく

すんのはじめ

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シーン4

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 夏の日の朝、お母さんが出掛けた後、すずりチャンがキッチンでなんやらガタガタしていて、お弁当を作っていた。出来たのを包んでリュックにつめた。「完了 」と言ってバタバタ部屋に戻っていった。
 
 しばらくして降りてきたら青い短パンに胸に猫の絵がかいたシャツ、そして頭には前にツバのついた白い帽子をかぶっていた。眼はそんなに大きくないがクリッとしていて、足がスーっと伸びているせいか、わりとかわいいと思う。そして、手には網目の袋を持っていた。そうだ昨日の夜、いきなり俺を抱え上げあの袋に入れようとした。俺は、びっくりしてすずりチヤンの手を引っ掻いたかもしれない。顔だけ出るようにして、網袋を閉めた。練習、練習とか言って「おとなしくしてるんだよ」って言っていたのを思い出した。
 
 やっぱり、今も、俺を抱えて網袋に入れた。そのまま抱きかかえて、「プチ 散歩だよ」っていって玄関を閉めて出た。表の道路に出ると、かけるが自転車に乗って待っていた。すずりチャンの自転車も用意してある。

前のカゴに俺を袋ごと入れて、
「おとなしくしているんだよ」と声をかけて、こぎだした。

 じょうだんじゃぁない、危ないだろう。この娘はやることが割と思い切りが良いというかなんか・・・。うしろからかけるがついてくる。すぐに、下り坂になって、スピードがあがった。ううーっ、飛び出せない。思うように動けないんだ。まてっ、まって、声もあげれない、危ない、怖いよー・・・。すずりチャンは「ひゃー〇〇〇いいー」って言ったような気がした。

 あの公園の横を抜けて、大きな道路に出ると、よぉーやく ゆっくりと進んでくれた。すれ違う人がおどろいたようにこっちを見ている。しばらく行って、お店の前に止まったかと思うと、すずりチャンが中に向かって声をかけている。中からお母さんが出てきて、俺の頭を少しなでながら、「気をつけてね」と二人に言っている。でも、俺に向かっては何も声掛けがなかったように思う。気をつけなければいけないのはこっちのほうだよー・・・。

もう一人女の人が中から、「可愛いわねぇー」と手を振っていた。俺なのか・・・すずりチャンのほうなのか・・・。

 又、自転車は進む。ゆっくりなので安心した。大きな道を二回ほど渡り、大きな長い橋も渡ったと思う。時々、すずりチャンは自転車を降りて押して歩いた。意外と慎重だったので助かった。

 着いたのは、大きな樹が何本も並んでいて、その向こうには、すごく白っぽく何にもないようなところが広がって見えた。自転車を置いて、すずりチャンは俺を網のまま抱き上げて、その並んだ樹の間を歩き出した。中はひんやりして涼しい風が通っていた。かけるは先に走って抜けていった。

 樹の間を抜けると、白い砂がひろがっていた。その先にあるのは・・・これが海というものなのか、初めてだ。とてつもなく、大きくたくさんの水が押し寄せてくるようだ。なんだぁー これは、エェー、怖気づいてしまった。
 
 樹の間を抜けると、俺をおろして袋から出し、背負っていたリュックから紐みたいのを取り出して、俺の首に縛りつけ、反対側をすずりチャンは自分の腰に巻き付けた。「よしっ、いくぞ」とそのまま歩き出した、砂と海に向かって。またぁーと思っていたとたんに引っ張られて、俺も砂に足を入れてしまった。なんとなく熱い。すずりチャンとは少し距離があるが、嫌々ながら引きづられるようについて行った。

 朝とは変わって、時おり陽が陰ってきている。歩くにつれ、色んなものが落ちていて、まあまあ面白くなってきた。ただ、すずりチャンは足首の少し上までバンドみたいなので縛ってある編み目靴を履いていたが、ときどき砂が入るのか、足を振るんだ。そのせいで砂が俺の顔に飛んでくるから・・・

 海辺に着くとすずりチャンはリュックからポリ袋を取り出して、波がすれすれくるところで砂を掘り、それを浸していた。かけるは先に来ていて、靴を脱いで、波に向かって笑いながら足を蹴り上げていた。すずりチャンもそのまま波打ち際まで歩いて行ったが、俺はとんでもないと踏ん張っていた。だから紐の距離があったのかもな。

 しばらくして二人は大きなボールを投げあってキャーキャー言いながら遊んでいた。すずりチャンの髪の毛が背中で興味ありげに激しく揺れていた。かけるもすずりチャンとおなじような服を着ていて、帽子だけは紺色で横に金に光る角みたいなものを付けている。こういうのを見ると遠目には、二人は仲の良い姉弟に見えるんだろうな。確かに二人がこうしているのを見るのは俺も初めてだ。少し離れたところでは、人がいっぱい居て、色んな傘が立っていて、音楽も鳴っていて、騒がしくしている。
 紐はもう外されていたが、俺は二人の近くで落ちているものの匂いを調べたり、砂をかいて掘ったりしていた。

 もう飽きたみたいで、さっきの波に浸っていた袋を取り出して、二人座って、その中のものを食べだした。ああ ご飯だったんだ。すずりチャンは俺にも肉を差し出してくれた。並んで三人して食べました。
 
 帰りも同じようにして帰ったんだけど、近くの坂道に来ると、網袋から解放された。小走りに、ときおり後ろを振り返りながら駆け上がった。すずりチャンも懸命に上がって来る。日差しが当たらない反対側を頑張っているが、すずりチャンの腕や太ももがほんのり赤く光っていた。
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