それから 本町絢と水島基は

すんのはじめ

文字の大きさ
13 / 80
第2章

2-5

しおりを挟む
 帰省する日の朝、僕が駅に行くと絢はもう着いていた。グリーングレーのハイウェストワイドパンツに白のニットのフレンチ袖のTシャツ、少し大きめのサイドバッグを下げていて、あの青と紅の蝶々お守りはいつものことだ。

 脇に、ショートカットの女性が立っていた。絢と同じような恰好をしている。僕に向かって、微笑みながら頭を下げていた。

「お姉ちゃんに、車で送ってもらったの。美人でしょー。せっかくだから、モト君に会ってみたいんだって」

「初めまして、絢から、いつも聞いていますわ 仲よくしてくださって」
 
 くっきりとした眼に瞳がキラキラしていて、見つめられて、ドキっとした。僕は、少し、あわてて

「いや、僕も、聞いています。お姉さんのこと とっても理解があって、いつも助けてくれるって」

「あらぁーそう 私、こんな、素直で、賢くて、かわいい妹が出来て嬉しくてねっ」

「おねえちゃん ほめすぎ! もう行くよ」

「思っていたより、上半身もがっしりして、頼りがいありそうね 絢をよろしくね 迷子にならないようにね」

「もう、子供みたいに言わないで! じゃぁ行くね 送ってくれてありがとう」
 
 絢は、お姉さんの胸を軽く叩いて、バイバイしていた。僕も、頭を下げて改札に向かった。絢は、直ぐに手をつないできた。もう、確かに恋人同士なんだと感じていた。

 座席に座ると、絢はバッグの中から包まれたドッグを出してきて

「ハイッ モト君、多分、朝食食べてこないんじゃぁないか思って、作ってきた 食べてよぅ」

 確かに、僕は、ギリギリまで寝ていたので、焦って寮を出てきた。口にほおばって

「絢は? 食べないの」二つあったから、絢の分かなと思った。

「ウチは、いらないからモト君、食べて」

 山間を列車は走っていたが、窓の下に見える峡谷を、絢は時折、声をあげながら、見ていた。そして、手をつないできて

「新婚旅行みたいだね!」と小声で言って、僕の顔を、同意を求めるように、覗き込んだ。

「ウチ お願いがあるねん 中華街で小籠包食べて それから異人館歩きたいねん だめー?」

「えぇー 途中下車やん 絢が行きたいのならかまわんけど 遅くなるぞー」

「ええのー 家には帰る時間までいうてへんから」と、隣の座席の様子を見ながら、ほっぺにチュッとしてきた。

 新神戸から歩いても良かったけど、日差しが強いので、絢が嫌って、三宮まではバスに乗った。そこからは、ぶらぶらと歩いて、中華街には1時過ぎに着いた。有名な持ち帰り豚まんの店も並んでいる人が多かったので、結局、小籠包目当ての店で並んで、立ち食いだけど、なんとかお店の中で食べることが出来た。僕だけ、ワンタンラーメンも頼んだけど、絢は、普段からあんまり食べないのかもしれない。
 
 北野坂からパンの焼き上げの香り嗅ぎながら、トーマス坂を登って行った。汗だくになって、絢はバッグからタオルを取り出して、渡してくれた。首に巻くと、絢のあの柑橘系の香りがして、僕は、花火の夜のことがかすめた。絢は、自分では頭からかぶって

「帽子被ってくればよかった。髪の毛長いのって、こういうの暑苦しいんだ」

「でも、普段は女の子らしくって良いからね」と、僕は、もう一度絢の手をつなぎ直した。

 坂の途中で、手作りのアクセサリーの店の前で、絢は目を止めた。僕も目を止めていた。僕は、リボンのペンダントを見ていて、今日の絢の耳には、お兄さんから貰ったというリボンをモチーフにしたイアリングをしていたから。でも、絢が見ていたのは、小さな蝶々が付いたネックレスだった。

「買ってあげるよ 襟元が寂しいから」

「えっ ウチにこうてくれるん!  うれしーい」

 風見鶏の館の前の石段に、ふたりでジュースを飲みながら、疲れたと座っていたら、絢に電話がかかってきて、お母さんかららしかった

「ウン 8時頃・・・あんまり、ぎょーさん食べられへんでー・・・帰ったら話すわ」

 家でも、帰って来るのを、お母さんも楽しみにしているんだろう。あんまり、僕と一緒に居るのはナァと僕は思っていた。まだ、夏休みの間は会うことが出来るし

「そろそろ、帰ろうか」と言うと「もう少し、一緒に居たい」と返してきて

「今、こうやってモト君と居て、とっても楽しいんだけど、去年の今頃はウチすごく悩んでいたんだ。苦しくって、誰も相談する人居なくって。 モト君はウチのこと嫌いになったんじゃぁないんかなとか、いづみちゃんのことも疑っていたし、他の女の子と付き合っているんカナとか でも、田中大樹君が言ってくれた言葉を信じて、あなたを追いかけようと決心したの 小さい頃、ウチなぁ 男の子嫌いやってん でも、モト君は最初から違った 優しかったし それでナ、モト君がウチを嫌っていてもかまわへんわ 自分で決めたんやから前に進もぅって 良かった 本当に今は幸せって感じているの ありがとう モト君 本当に好きや」

「絢 僕だって 昔から何かで結ばれていたんだって・・ すごく努力してくれていたんだね そんなに苦しんでいたなんて知らなかった ごめんね、あの頃、僕は勇気がなかったと思う。離れて、初めて、絢のこと気づいたんだ。 絢 僕も大好きだよ 今も、可愛くて、仕方ないんだ」

 僕は、いとおしくて我慢できなかった。絢を木陰の人気のないところに連れて行って、抱きしめて、ながーいキスを交わしていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

みんなの女神サマは最強ヤンキーに甘く壊される

けるたん
青春
「ほんと胸がニセモノで良かったな。貧乳バンザイ!」 「離して洋子! じゃなきゃあのバカの頭をかち割れないっ!」 「お、落ちついてメイちゃんっ!? そんなバットで殴ったら死んじゃう!? オオカミくんが死んじゃうよ!?」 県立森実高校には2人の美の「女神」がいる。 頭脳明晰、容姿端麗、誰に対しても優しい聖女のような性格に、誰もが憧れる生徒会長と、天は二物を与えずという言葉に真正面から喧嘩を売って完膚なきまでに完勝している完全無敵の双子姉妹。 その名も『古羊姉妹』 本来であれば彼女の視界にすら入らないはずの少年Bである大神士狼のようなロマンティックゲス野郎とは、縁もゆかりもない女の子のはずだった。 ――士狼が彼女たちを不審者から助ける、その日までは。 そして『その日』は突然やってきた。 ある日、夜遊びで帰りが遅くなった士狼が急いで家へ帰ろうとすると、古羊姉妹がナイフを持った不審者に襲われている場面に遭遇したのだ。 助け出そうと駆け出すも、古羊姉妹の妹君である『古羊洋子』は助けることに成功したが、姉君であり『古羊芽衣』は不審者に胸元をザックリ斬りつけられてしまう。 何とか不審者を撃退し、急いで応急処置をしようと士狼は芽衣の身体を抱き上げた……その時だった! ――彼女の胸元から冗談みたいにバカデカい胸パッドが転げ落ちたのは。 そう、彼女は嘘で塗り固められた虚乳(きょにゅう)の持ち主だったのだ! 意識を取り戻した芽衣(Aカップ)は【乙女の秘密】を知られたことに発狂し、士狼を亡き者にするべく、その場で士狼に襲い掛かる。 士狼は洋子の協力もあり、何とか逃げることには成功するが翌日、芽衣の策略にハマり生徒会に強制入部させられる事に。 こうして古羊芽衣の無理難題を解決する大神士狼の受難の日々が始まった。 が、この時の古羊姉妹はまだ知らなかったのだ。 彼の蜂蜜のように甘い優しさが自分たち姉妹をどんどん狂わせていくことに。 ※【カクヨム】にて編掲載中。【ネオページ】にて序盤のみお試し掲載中。【Nolaノベル】【Tales】にて完全版を公開中。 イラスト担当:さんさん

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

独占欲全開の肉食ドクターに溺愛されて極甘懐妊しました

せいとも
恋愛
旧題:ドクターと救急救命士は天敵⁈~最悪の出会いは最高の出逢い~ 救急救命士として働く雫石月は、勤務明けに乗っていたバスで事故に遭う。 どうやら、バスの運転手が体調不良になったようだ。 乗客にAEDを探してきてもらうように頼み、救助活動をしているとボサボサ頭のマスク姿の男がAEDを持ってバスに乗り込んできた。 受け取ろうとすると邪魔だと言われる。 そして、月のことを『チビ団子』と呼んだのだ。 医療従事者と思われるボサボサマスク男は運転手の処置をして、月が文句を言う間もなく、救急車に同乗して去ってしまった。 最悪の出会いをし、二度と会いたくない相手の正体は⁇ 作品はフィクションです。 本来の仕事内容とは異なる描写があると思います。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...