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読み切り短編
雨の日の手紙
しおりを挟む古びた町のはずれに、ひっそりと佇む小さな喫茶店があった。店名は「風待ち屋」。常連客しか訪れることのない、静かな場所だ。店内は木の温もりに包まれ、窓の外には小道と広がる田園風景が見える。いつも穏やかな雰囲気で、店主は温かな笑顔を絶やさずに迎えてくれる。
ある雨の日、ひとりの女性が店を訪れた。彼女は、見た目こそ年齢を重ねたように見えるが、どこか不思議な輝きを持っている。彼女は名もなく、ただ「おばあさん」と呼ばれていた。普段から雨の日にだけ現れるという彼女は、その日はいつも以上に落ち着いた様子で店の中に入ってきた。
「今日は少し寒いですね。」と、おばあさんはカウンター越しに微笑んだ。
店主は温かい紅茶を淹れながら、優しく頷いた。「そうですね、雨の日は心も体も少し重く感じます。」
その言葉を聞いて、おばあさんはふと空を見上げると、「雨の日にだけ、思い出すことがあるんです。」と小さな声で話し始めた。
「昔、私は小さな子供を抱えていました。その子は、雨が好きで、よく雨の音を聞きながら寝ていたんです。」おばあさんは窓の外を眺め、何かを思い出すように言った。「でも、ある日突然、その子はどこかへ行ってしまって…。」
その言葉には、どこか物悲しさが滲んでいた。
「それからずっと、私はその子を探していたんです。でも、どうしても見つけることができなくて。」
店主は何も言わず、静かにおばあさんの話を聞いていた。
「でもね、今でも雨が降ると、どこからともなくその子からの手紙が届くんです。とても小さな手紙で、雨に濡れているけれど、ちゃんと読めるんですよ。」おばあさんは微笑みながら話した。
「手紙…?」店主は不思議そうに尋ねた。
「はい、たまに小さな手紙が、窓辺にひょっこり現れるんです。」おばあさんは優しく笑った。「そんな手紙には、『ありがとう』や、『大丈夫だよ』と書かれているんです。私のために、いつも心を寄せてくれているんだと思うと、胸が温かくなります。」
その言葉を聞いて、店主はふと気づいた。外の雨音が、いつの間にか少しだけ優しく、そして静かになっていたことに。おばあさんが話している間に、雨の音がまるで手紙のように、心の奥深くに響いてきたような気がした。
「雨が降ると、やっぱりその子が戻ってくるのかな?」店主はふと思い、つぶやいた。
おばあさんはゆっくりとカップを持ち上げ、「そうかもしれませんね。」と言った。「でも、それでも私は、どんな時でもその子を待ち続けるんです。雨の日の手紙が届くたびに、少しずつ心が癒されていくから。」
その後、雨は少しずつ止み、空に雲が切れた。おばあさんはカップを片手に、静かに立ち上がり、店主に微笑んだ。
「また雨の日に、お会いしましょう。」と言って、彼女は静かに店を出て行った。
その日以来、雨の日になると、店の窓にひょっこり現れる小さな手紙があるという。それは、おばあさんからの思いが込められたものか、もしくは、雨の日にだけ現れる「誰か」の存在が持ってきてくれたものなのか。どちらにせよ、その手紙は、心の中に温かさと共に、どこか遠い場所からのささやかな囁きのように感じられるのだった。
そしてある夜、店主が閉店準備をしていると、カウンターの上に濡れた小さな紙切れが置かれているのを見つけた。見覚えのないそれをそっと開くと、そこには幼い文字で、こう書かれていた。
『おかあさん、みつけてくれてありがとう』
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