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ゼント : 学園生活は迷宮入り
1.33 - 迷宮パーティ結成、ユーフィンツ亭会談【エウローン帝国 : 中街・ゼント3ヶ月】
しおりを挟むゼントの班決めは結局、ゼント、シャルマ、エボロスの3人となった。
その日の放課後。
「今日は僕が支払う。少し時間をくれないか? 親睦を深めたい……というか、今までろくに話したことすらないからな。」
「んん~。まぁ、俺は夜までは多少時間あるか。」
「シャルマ。イーリはいいのか?」
「ばっ!? おま、オーズ! いいんだよ、今は!」
「うん。では、店に行こう。」
そうして中街の飲食店に移動した3人だった。
「この店でいいかな。」
エボロスが選んだ店は、ユーフィンツ亭という"オーズ"の記憶にもある店だった。
パスタのようなものや、サンド的なものがあり、裕福な学生の小腹を満たすのに重宝されている店だ。
庶民的だが小洒落てもいて、現代的に表現すれば、カフェに近いものである。
「あ、ああ。」
そんな店を前に、シャルマは少し気後れしているようだ。
「オレは構わんが、ここは他生徒が多いんじゃないか?」
ゼントはそこが少し引っかかるようだった。
「ああ、大丈夫さ。そこは任せてくれ。」
エボロスはニヤリと笑みを浮かべると、中に入っていった。
――――
――
「お前さん、ただの真面目くんかと思ってたが……」
「ふふふ。少しは見直したかい?」
エボロスが店に入り店主に案内された部屋。
そこは、個室だった。小規模な商談なら十分な造りである。
「なるほど……」
これなら確かに人目も気にならない。ゼントも納得したようだ。
「さて。今日はもちろん奢らせてもらう。好きなものを注文してくれたまえ。」
「ううむ……。俺だけこんな贅沢して……いいのか……アイツらに悪ぃな……」
シャルマは難しい顔をしながらメニューを睨んでいる。
「オーズ君。あ、同じ班だし、オーズ君でいいかな?」
「ああ。」
「……オーズ君は、あの召喚事故以来、すっかり大人しくなったと思って見ていたけど、話してみるとよりそう感じるな。」
「そうか。」
「オーズ君も、貴族らしく今日は接待を受けているという事で、僕に奢らせてくれ。」
「……持ち帰りでもいいか?」
「ん? お腹空いていないかい? もちろん構わないさ。好きなものを包んでもらおう。じゃ、一先ず飲み物だけ頼むとするよ。」
そう言って、人を呼びにいくエボロス。
「お、おいオーズ、お前まさか……」
「オレに食事は必要ない。腹を空かせた奴らに持っていってやる方がいいだろう。食料はまだあるはずだが……」
「いや、すまねぇな。ありがとよ。じゃあ俺も……」
「いや、シャルマ。お前はちゃんとここで食え。招かれたという手前……」
「ああ、そうか。そうだな。」
そんなことを小声でやり取りする2人であった。
「さ、飲み物だ。どうぞ。」
「ああ。」 「おお、ありがとよ。」
エボロスは、商人よろしくすっかり接待モードのようだ。わざわざ飲み物まで取りに行き、手渡す有様だった。
「で、本題なんだが、オーズ君は力術が得意だったよね。」
「ああ。」
「で、シャルマ君は、噂では……」
「ああ、気付いてんだろうが、俺は力術は一切使えねぇ。だが……」
「ああ。武技の授業の凄まじさはもちろん知ってるさ。学園で右に出るものはいないってことをね。と、いうこともだけど……」
「ん?」
「少し小耳に挟んだのだけど、シャルマ君は、酒場で用心棒をしてるとか……何やら小さな組織のリーダーだとか……」
エボロスのその言葉を聞いたシャルマは、感心したような顔をした。
「ほー。なるほどなー。エボロス。お前さんはしっかり"商人"してんだな。」
「そりゃあね。窮地から這い上がるには大事だろ?」
「ちげぇねぇ。はっはっ!」
当然だが、シャルマは学園内で鉄鋼団の話をしたことなどはない。秘密にしているといっても過言ではないのだ。
だが、情報の把握は生き残りの戦略には重要である。
エボロスが熱心なのは、授業だけということでもないようだ。
それを察したシャルマは、途端に好感を抱いたようだった。
真面目くんと呼び、少し侮っていたような表情は、すっかり消え失せている。
「うん。問題児だとか言われていた2人だが、こうして話してみると全く問題がないね。」
「おいおい、今度はそういう戦術でくるのかぁ? はっはっ!」
「いやいや、思ったことを素直に言っただけに過ぎないよ。」
エボロスとシャルマは和やかな雰囲気になっていた。
しかし、ゼントは何か思うことがあったようだ。
「だが、オレは……いやオレたちは、必要であれば容赦なく殺すぞ。」
「うん? それは普通のこと……というか、そんな2人だからこそ、こんな時は最も信頼出来るとも言える。」
淡々としたゼントの精一杯の悪ぶった言葉だったが、エボロスにしてみればその部分こそがパーティ参加への決心ですらあるのだ。どうということもないようだ。
「あー。そりゃ迷宮の怪物の話か? アレはホントに出るのかぁ?」
「うーん。おそらく演習という体裁である以上は、ある程度の安全確保はされているとは予測しているのだが……
本当にナーストロンドの迷宮に行くのだとしたら、いるのはいると思う。出るかは分からないが、ね。」
「まぁ、あの迷宮、未解明らしいからなぁ。ミドガルズオルムみたいなもんか。」
「そういうことだね。まぁ、そんな場所だ。危険はあるだろう。だが、僕は必ず生きて帰らなくてはいけないんだ。よろしく頼む。」
「はっはっ! 俺もまだまだ死ぬわけにゃいかねーからよ! ああ、でもついでに宝探しはしねぇとなぁー」
「宝探しか。それは中々夢があるな。よし、見つけたら僕が捌こう。取り分はもちろんもらうが、そこらで売るよりは儲けさせてみせるよ。」
「ほー? そりゃいいな。よっしゃ! こりゃ、"仕事の依頼"としてエボロスを護ってやらねぇとだな! はっはっ!」
「そうだね。遠征が上手くいったら、今後ともよろしく頼むよ。」
「おお!」
(仕事か。鉄鋼団にとっての新しい依頼元……取引先となるかもしれないということだな。そうか。)
「あ、そうだ。オーズ君。」
「ん?」
「オーネス君は大丈夫なのかい? 何やら凄い目で見ていたが……」
(オーネスか。ずいぶんと"オーズ"に執着しているようだからな。少し邪魔ではあるな……。
だが、迷宮がどんな所かによるが……ゲーム的にモンスターのようなものがうじゃうじゃいるのであれば……
オーネスも密かに消してしまえるが……あくまで学生の演習のようだしな。そんなことはありえないだろう。
どうするべきか……)
ゼントは考え込んでしまった。
「何があったのかは知らないが、人間関係で揉めると色々と面倒なことになる事が多いからね。注意した方がいいよ。」
「ああ。そうだな。」
ゼントは、人間関係で揉めたことは前世ではなかった。それは無抵抗のまま散々搾取されてきたからだ。
今世では、理不尽に搾取されないために、自由に生きようと思っているのだ。
現にその障害になるものは、今世のゼントは容赦なく排除してきていた。
だが、学園生に手を出したことは今のところない。大きな問題に発展する恐れがあるからだ。
(今はまだ、その時ではないのかもしれないな……)
それはそれで、あまり望む結果にならないと思うゼントなのであった。
「うっし! じゃあ気合い入れていくか!」
「ああ、頼むよ。」
シャルマは、そう言って上機嫌でジョッキを飲み干した。
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