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ゼント : 学園生活は迷宮入り
1.34 - 迷宮入り口にて【エウローン帝国・ナーストロンド迷宮 : ゼント3ヶ月】
しおりを挟む帝国学園の生徒たちは平均で約一日かけて歩き、ついに目的地であるナーストロンドの迷宮の入り口まで来ていた。
移動も、もちろん班ごとであり、その間は演習よろしく野外での野宿であった。
ゼントたちの班は、野外慣れしていないエボロスの移動速度が少々遅かったため、結局他の生徒たちと到達時間自体は変わらなかった。
だが、その道程では他班には味わえないような贅沢さのある旅となった。
エボロスの持ち込んだ様々な道具類、シャルマの体力、ゼントの狩り能力で、野外演習というより、肉に魚にエレボスの持ち込んだ酒やテントまであり、楽しいキャンプさながらだったのだ。
「おっしゃ、着いたぜ!」
「ああ、ここだね。」
(これが迷宮か……)
ところどころ土がむき出しになった草原を進んだ先にあった、小さな森。
その中央辺りに存在する迷宮。
どうやら迷宮は地下らしく、地上部分にあるものといえば、苔むした小さな石製だろう入り口のみが露出していた。
その入り口からは、空気が漏れてきているのか、地鳴りのような人の声のような、気味の悪い音が微かに響いてくる。まるで地獄からの呼び声のようだ。
「うわ……まじかよ。こんなところに入るのかよ。」
「くそう……」 「それもこれもデヴィングのせいだ!」
他班の生徒たちは入り口を前に尻込みをしているものも見受けられた。
「さっさと行って、さっさとクリアしようぜ!」
「ああ、俺たちならいけるさ!」
「何と言っても優秀組だからな!」
自信満々な生徒の姿もあるようだ。
「さぁ、出発前には説明をする。こちらに並ぶように。」
教師ラウムが入り口前で受け付けのようなことをしていた。どうやらその前に出来ている列に並び、説明を受ける必要があるようだった。
「ああ、そうか。一応学園行事だっけな。ま、説明とやら受けに行くかー」
「ああ。」
「いや、行事だぞ? シャルマ君さすがにそこは忘れないでくれたまえよ。」
列に並び、ゼントたちの順番がきた。
「エボロス君、シャルマ君、オーズ君の3人班だね?」
ラウムが確認する。
「はい。」
エボロスが代表して答えた。
「ふむ。何と言うか……変わった組み合わせだが……。いや。チームワークさえ発揮できればある意味理想的なのかもしれないな。」
ラウムは小さくそんなことを言っていた。
「さて。重要なルールを伝える。迷宮は、どこまで階層が広がっているか判明していない。深部は危険があると目されている。なので、3階層までの探索を行うものとする。」
そして、ラウムはすっと手に持っていたものを見せた。
「この印石が、各階に置いてある。各階のものはそれぞれ色が違う。それを集めてくるんだ。もちろん無理だと判断したらその時点で帰還するように。その辺りで成績判断をする。ちなみに各階には多少幻獣が放ってある。敵性状態だ。見つかると襲われるだろうから、気を付けるんだぞ。」
「なるほど。わかりました。」
「最後に、帰還までの最大猶予は3日間だ。どれだけ急ごうとも、3階層までの往復は1日ほどは必要だからね。期限を3倍までと設定した。それも帰還の判断としてくれたまえ。」
「はい、わかりました。質問ですが、よろしいですか?」
「ん? エボロス君、何か分からないことが?」
「他班からの妨害行為や、印石の略奪などがあった場合はどうしますか?」
「もちろんそんな事を認めるはずがない。もしそんなことがあれば報告してくれたまえ。」
(報告、ね。死んでしまえば報告も何もないと思うが……。学園はスラムと違い、ずいぶん温い感覚なのか? 同じ世界のはずなんだがな……)
「そうですか。わかりました。」
「では、健闘を祈る。」
ラウムの説明を聞き終わり、3人は迷宮入り口へと向かった。
「うわ……廃嫡脳筋……」 「一見様……」
「エボロスも馬鹿よね~あんな班に……」
ヒソヒソ話は相変わらずだった。
侵入者を地中へ誘う大地の口かのようにぽっかりと空いた穴、迷宮の入り口に一歩踏み込んだゼントたち。
「うお、カビくっせ。」
「いや、カビだけじゃないぞ、これは……」
シャルマとエボロスは顔を顰めた。
だが、ゼントには臭気が分からない。微細な危機察知や違和感の察知に関しては、人間である2人に頼るしかないのだ。
「これは腐臭だな。」
「ほぉん。商人のわりに、修羅場を知ってるのか?」
「まぁね。シャープマン商会は貿易が主だからね。僕も子供の頃から手伝わなくてはいけない状況でね。色々あったのさ。」
「はっはっ! 商家も中々に色々あんだな!」
シャルマは笑いながらバシッとエボロスの背中を叩いた。
「ゲホッ……?! シャ……シャルマ君! 力が強いよ……!」
「はっはっ! 細けぇこと気にすんな!」
そこはちょうど短い階段を降りきって一層目だった。
「シャルマ。いるぞ、おそらく幻獣だ。大きくはないな。4体だ。」
ゼントは神力の塊である。そのおかげで人間的な感覚はまるでないが、神力の感知は長けていた。
そして、ここしばらくの狩り生活や、死体漁りのおかげで精度が増していたのだった。
「お、早速お仕事の時間ってかぁ?」
シャルマはニヤッとしながら、背中のハルバードに手を伸ばした。
普段は流石に学園にまでは持ってきてはいないが、課外授業に関しては、持ち物は各自の自由なのだ。
暗く、じめっとした石の廊下。
ヒタ……ヒタ……という足音がシャルマの耳に届く。
「エボロス、下がんな。オーズ、頼む。」
「ああ。」
ボッと掌に一瞬火を灯し、長細く火槍として前方に飛ばしたゼント。
「グギャッ?!」
悲鳴が響いたと同時に、シャルマは走る――いや、それは最早跳躍。距離をなくしたかのようだった。
そしてそこから繰り出されたハルバードの一閃。
――ボッ!!
と、激しく短い風切り音が響いたとほぼ同時に
「ギョッ?!」 「ゴッ?!」 「ビュギュッ!」
幻獣の短い断末魔であろうものが小さく聞こえた。
それは刹那の出来事だった。
シャルマは、それらがどんな形をしていたかを知る前に全て潰してしまっていた。
「よっしゃ。こんなもんだろ。」
「いや、やはり君たちは素晴らしいな。」
「はっはっ! ま、エボロスは余裕が出てきたら光くらい灯してくれたらいいぜ?」
「その前に終わってしまいそうだけどね……」
「はっはっ! まぁな! つーか、コレなんの幻獣だったんだ?」
そこには、飛び散った何かがあるだけだった。
「幻獣は半肉体だし、もうわからないな。大きさ的にはゴブリンだろうか?」
「ま、なんでもいいか。お宝さがそうぜ!」
「ま、帰りの時間を計算しながら探索するとしよう。」
「はっはっ! エボロスがいるから助かるなぁ。な、オーズ。」
「ああ、そうだな。そういう役割も重要だろう。」
「そういってもらえるとありがたいよ」
そうして3人はさらに奥へと進んでいった。
空気に溶け始めていた幻獣の残骸は光の粒子となり、うっすらと彼らの背中を照らしていた。
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