51 / 59
ゼント : 学園生活は迷宮入り
1.35 - 迷宮一層・謎の痕跡【エウローン帝国・ナーストロンド迷宮 : ゼント3ヶ月】
しおりを挟む迷宮実習に来ているエウローン帝国学園の生徒たちは、班ごとに分かれて3層までを探索することになっている。
ゼントたちは、入り口付近で早々と幻獣に出くわしたが、その能力で難なく撃破し、探索を続けていた。
「うーん。ルール説明自体はあったが、まさか本当に……こんな"迷宮"だとまでは予想していなかったよ……」
エボロスが不意にそうこぼした。
これまでの道程は、まさに迷わせることを目的としている造りだったといえる。
最初の幻獣を撃破した地点から程なく、三叉路となった。その全てが通路の太さが違うものだ。
中央が一番太い道のように見えたが、エボロスが選んだのは左の道だった。
「おお、暗ぇしな。道も迷路って感じだしよ。オーズ、神力感知はどうだ?」
そこからもさらに分岐は続き、もう何度曲がったかすら、体感では分からない。
重たく澱んだ空気も、感覚を鈍らせにかかってきているようだった。
そして、教師が配置したという幻獣の襲撃にも警戒しなくてはいけないのだ。
「ああ、近くには何もいないな。」
ゼントは、人間の五感の内、まともに使えるのは視覚と聴覚的感覚のみだ。
リンドとの実験で、触覚的な感覚も得ているが、人間の鋭敏な感覚には遠く及ばない。
これらの感覚は、神力で構成された身体を介して理解しているからだ。
その分、人間よりは神力の感知に長けているのだった。集中していれば、意識を向けた先10m程度まで感知出来る。
「それよりも、先発の生徒たちにもまだ会っていないな。」
ゼントは、ここまでの道程で、他の班に出くわしていないことを少し疑問に思ったようだった。
「言われてみりゃあ確かにそうだなぁ……」
シャルマは頭の後ろに腕を組みながら答える。
「ふむ。まぁ、マッピングの重要性も気が付かずに、とりあえずで進んでしまったのかも知れないね。」
エボロスは、紙に道順を記しながらそう言った。
「はっはっ! いやぁ、ウチの班はエボロスがいて楽なもんだぜ!」
ゼントたちの班は、最初の分岐の段階でエボロスが提案した、"左方の壁伝いに進み、マッピングしていく"という方法を採っていたのだ。
この方法は、進み自体は早くはない。
だが、確実性を重要視するエボロスの意見は、シャルマとゼントにその真意が即座に伝わったのだ。反対意見などは全くでなかった。
そうして、それなりの時間をかけつつも慎重に進んでいく3人だった。
それからしばらく後……
「お、あれ、なんか落ちてねぇか?」
エボロスの照らす光術に照らし出された何かが、シャルマの視界でキラリと光ったらしい。
「ああ、敵性物は感じない。近付いてみよう。」
ゼントの神力感知にも異常はないらしく、その反射光源を確認することにした。
「む、剣かぁ。錆びてらぁ。」
石畳に落ちていた何かを拾ったシャルマ。どうやら剣のようだ。
「少し古いみたいだね。というか、腐臭の原因はこれか?」
それを横から覗くエボロス。そして、視線を床に落とすと、錆びた剣の横には白骨死体らしきものがあった。
「あーそうかもな。つーかよ、こいつ、なんでこんなとこでひとりで死んでんだ?」
周囲を見渡しても、他に死体らしきものは転がっていなかった。シャルマは疑問に思ったようだ。
「む……確かにそうだね。うーん。考えられる事としてはみっつ……かな。」
その疑問に対して、エボロスが考え込んだ。
「ほぉん? なんだ?」
「先ずひとつは、探索にひとり来て、迷い、死んだ。」
「ふむふむ。」
「ふたつめは、探索に数人で来て、仲間割れなどで殺された。」
「ほうほう。」
「みっつめは、怪物がこの一層にも来ていた。それに殺された。」
「なーるほどなー。エボロスは賢いじゃねぇか! はっはっ!」
「ちょっと、しっかり見てみるよ。」
そう言ってエボロスは白骨死体に近寄って、検分しているかのように見まわした。
「この剣、錆びてるのは血錆びだね。餓死の線はないな。すでに白骨状態で判りづらいが、骨折しているところを見ると、争ったのは間違いないだろうね。」
「おいおい、商人ってなぁ、そんな事まで出来るんかよ?」
シャルマはエボロスの答えに感嘆の声を上げる。
「目利きと同じ要領さ。」
事も無げにサラリと返答するエボロスに、ゼントがさらに問う。
「となると、鈍器で殴り殺されたか、人でないものに殴打されたか、そんなところということか?」
「オーズ君、さすがだ。冴えてるね。」
「だが、ここは一層だ。仲間割れをするにしても、早くないか?」
「そうだね。もしそんな状況なのであれば、最初から殺すつもりで連れ込んでいたのかもね。」
「ほーん。ようは嫌われ者ってことかぁ? はっはっ!」
「ま、とりあえず業物でもなさそうだけど、ひとまず第一のお宝は"錆びた剣"だね。」
「かーっ! シケてんなぁ……。うっし! もっといいもん探そうぜ!」
学園の演習ではあるが、夢見る男心は止められないようであった。
(――ん? 気のせいか? やはりまだまだ黒霧の身体の感覚に、慣れきっていないかの知れないな……)
ふと、一瞬振り返ったゼントだったが、――そこには闇しかなかった。
それから歩くこと数分。エレボスが立ち止まった。
「音の原因はこれか……?」
通路の真ん中に大きな穴が開いている箇所があったのだ。
下からの空気が漏れているのか、不気味な音が鼓膜を揺らす。
「ほぉー。こりゃ……中々雰囲気あるじゃねぇか!」
シャルマは穴の縁に立ち、中を覗き込んでいる。
つられてエボロスとゼントも、その穴に近づいていった。
だがその時、ゼントは違和感を感じた。
「……貴様が……全部……」
それは声にすらならない声だった。その場にいた3人には聞き取れないほどの、微かなもの。
「シャルマ! 後ろだ!」
珍しくゼントが大きな声を出した――その時。
ドンッ!
「……お? おおっ……?!」
シャルマはふわりと浮き上がり――
伸ばした腕は虚空を泳いだ。
そして覗き込んでいた暗い穴に、吸い込まれるように消えていく。
「……廃嫡脳筋がっ! 調子に乗りすぎなんだよっ! なんっで貴様のような落伍者が、オーズ様の班なんだ! 消えろっ! クソがっ!」
オーネスが、どこかに潜んでいたのか、つけて来ていたのか……
シャルマを突き飛ばしたのだった。
「オーネス君?! 君はなんてことを……!」
突然のことに顔を青くし、オーネスと穴の中を交互に見やるエボロス。
得意の思考も停止しているのか、言葉すら紡げずにいる。
「うるせぇ! 商人風情は黙ってろ! オーズ様! これでほら、邪魔者はいないっすよ、ねぇ?」
カタカタと小刻みに震えながらオーネスはゼントを見上げるように、縋るように見ている。
「……ねぇ? ほら……オーズ様……ねぇ? これでいつも通りっすよ……ねぇ?」
だが……
「エボロス、行くぞ。」
「え……?」
ゼントはオーネスに一瞥もすることなく、即座に固まったままのエボロスを抱えると、自ら穴へと飛び込んで行った。
「オーズ様……なんで……なんでっすか……」
それを呆然と見送るオーネスは、崩れ落ちるように膝をつき、小さく呟いた。
(くそっ……油断した。神力感知は指向性だ……後方への注意が足りなかった……。シャルマなら、死にはしないだろうが、はぐれるのはマズイ……早く追わなくては……)
ゼントは穴を落下しながらそんな後悔を覚えたようだった。
穴は階層を跨いでいるのか、思いのほか深いようだった。
次第に大きくなる呼び声のような音に、エボロスは恐怖を覚えていた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身
にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。
姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる