ミナゴロシノアイカ ~生きるとは殺すこと~【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】

Resetter

文字の大きさ
54 / 59
ゼント : 学園生活は迷宮入り

1.38 - 怪物の部屋【エウローン帝国・ナーストロンド迷宮 : ゼント3ヶ月】

しおりを挟む


 ゼントが夜番をこなす中、休息を取ったシャルマとエボロス。

 何時間を休息に充てたのかは正確には分からないが、ある程度は回復したようだった。

 
 「んで、結局何匹きたんだ?」

 シャルマはテントをたたみながら、ゼントに夜間の確認をした。

 
 「ああ、最初に5匹……その後は順番に1匹ずつきたな。……13匹だな。」

 ゼントは思い出しながら答える。集団で来られない限りは、黒霧の力を使ったゼントにすれば、牛頭狩りなどただの作業に過ぎなかったのだ。印象にも残りにくいのだろう。

 
 「そ、そんなにかい?」

 だが、そんなゼントの答えに少し顔を青くするエボロスだった。

 
 「で、結局増えたのはこのこん棒だけかよ……。」

 その無骨な棒は、全てのミノタウロスが持っているわけではないが、昨日より3本増えていた。

 
 片付けを終えたシャルマは不満顔である。一応背嚢はいのうにこん棒をくくり付けたようであるが、高値で売れるものでもなさそうだ。

 
 「そうだな。他に何も持ってはいなかったが……」

 「が?」

 言葉を区切ったゼントに、エボロスが耳聡く反応した。
 
 
 「いや、記憶を読もうとしたんだが……上手く見えなかったんだ。」

 ゼントの表情が変わることはないが、言葉尻は少々の悔しさ、残念さを含んだものだった。

 
 「なるほど。人でもない種族だし……というか、幻獣に近いのかもね、怪物というものは。そんな言葉すら通じないものの記憶……思考を覗こうだなんて、難しいだろうさ。」

 「そうだな。こんなことなら、動物で試しておくべきだった。」

 
 「おいおい、それじゃ狩りの獲物が減るだろー。」

 「ははは。たしかにそうだね。まぁ、オーズ君。無理なものは仕方がないよ。出来ることをしていこう。」

 だが、エボロスは過度な期待をそもそも持っていなかったのだ。気にした素振りすらない。その念は危険だということを、若いながら知っているのだろう。

 「ああ。そうだな。」

 そんな慰めるでもなく責めるでもないエボロスの言葉は、ゼントには心地よかったようだ。いつもと変わらない短い言葉だが、納得の色を含んでいた。



 そうして、未探索ルートに足を踏み入れた3人。

 「それにしても、今演習開始からどれくらい経っているかが正確には分からない。そこが先ず問題だね。仮に1日としておくと、成績評価という観点での猶予は、残り2日。過ぎるとかなり評価に響くだろうね。」

 マッピングをしながら口を開くエボロス。その真剣な表情からは感情が読み取りにくい。

 「そうだな。」

 「逆に言えば、それまでは救助がない可能性があるとも言えるね。」

 現状を確認・共有するように、淡々と語るエボロスである。

 
 「おー、オーネスの野郎が自首したとも思えねぇしなぁー。期限過ぎるまでは気付かれねぇだろーなぁ。いや、まぁでもこの感じならよ、別に救助はいらねぇだろ?」

 シャルマは、頭の後ろに腕を組みながら、少し目線を上げた。オーネスの事を思い出しているのだろう。

 
 「うーん。ミノタウロスに関してはそうかも知れないけどね。食料備蓄の問題もあるしね。こっちに関しては、多めにあるとはいえ、普通に消費したら1週間分だよ。」

 「1週間かぁ……。こんな辛気臭いとこにそんな長く居んのは勘弁願いてぇなぁー。」

 シャルマは、神力の流れなどは全く感じることが出来ない。それでも野生の勘のようなもので、この迷宮の異様な雰囲気――危険性のようなものを感じ取っているのだろう。

 
 「それには全く同感だよ。この際、評価なんて捨てたっていいんだ。生き残りさえ出来ればね。」

 成績も大事ではあるが、エボロスにしてみれば、それは生存の重要性と釣り合うものではないのだ。軍の要職への道を目指し良成績を目的としているならば、そもそも問題児2人と組もうなどとは思わない。

 エボロスには、商家の再興という明確な目標があるのだ。成し得るには、清濁併せ呑み、修羅場を潜り抜ける覚悟すら必要だ。

 
 「はっはっ!  そこは俺たちに任せろよ!  な、オーズ?」

 笑いながらガシッとゼントの肩を組み寄せるシャルマ。

 
 「巻き込んだ手前もある。エボロスにしたら理不尽な話のはずだ。守るさ。」

 「ははは。やはりオーズ君は"オーズ様"ではないんだね。」

 生前のオーズは、理不尽の塊だった。だが、善人ゼントは理不尽にさらされ続けた側だった。悪人となる決意をして生きる今、理不尽には真っ向から抗うと決めているのだ。

 そんな自分自身が、不当に理不尽を強いるなどとは許しがたかったのだろう。口下手でコミュ障のゼントではあるが、随分と言語化できている。

 こんな状況下ではあるが、エボロスの表情は柔らかささえ持っていた。



 そうしていくつかの曲がり角を曲がり、突き当りを戻り……と繰り返すこと数時間。

 「ん? なんか、空気が……風が動いてねぇか?」

 「風もだけど……これは……」

 「エボロス。この道しかないのか?」

 3人はそれぞれがその先の通路に違和感を抱いていた。

 
 「そうだね……」

 ゼントに言われて、紙に目を落とすエボロス。

 
 「ここが、反対側へ進める唯一の道だな……」

 小さく答えるエボロスに、ゼントは

 「そうか」

 と、短く返した。だが、ゼントには分かってしまっていたのだ。

 
 「エボロス。この先はおそらく部屋のようになっている場所がある。そこに入ったら、オレたちより後方に下がって、光術をなるべく光らせてくれ。」

 「……分かった。まさか……」

 「ああ。ミノタウロスだ。」

 
 「ほぉう? お宝はあんだろうなぁ?」
 
 「シャルマ。前に出すぎるなよ?」

 「おうよ! エボロスもいるしな。」


 
 そうして歩を進めた3人に待ち受けていた光景は――

 「おお……なんということだ……」

 「はっはっ! マジかこれ!」

 かなり広い部屋……現代的に表せば、バスケットコート程の石の部屋――

 そして、その広い部屋を埋め尽くすような、ミノタウロスの群れだった。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

転生後はゆっくりと

衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。 日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。 そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。 でも、リリは悲観しない。 前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。 目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。 全25話(予定)

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

巻き込まれ異世界召喚、なぜか俺だけ竜皇女の推しになった

ノラクラ
ファンタジー
俺、霧島悠斗は筋金入りの陰キャ高校生。 学校が終わったら即帰宅して、ゲームライフを満喫するのが至福の時間――のはずだった。 だがある日の帰り道、玄関前で学園トップスターたちの修羅場に遭遇してしまう。 暴君・赤城獅童、王子様系イケメン・天条院義孝、清楚系美少女・柊奏、その親友・羽里友莉。 よりによって学園の顔ぶれが勢ぞろいして大口論!? ……陰キャ代表の俺に混ざる理由なんて一ミリもない。見なかったことにしてゲームしに帰りたい! そう願った矢先――空気が変わり、街に巨大な魔法陣が出現。 赤城たちは光に呑まれ、異世界へと召喚されてしまった。 「お~、異世界召喚ね。ラノベあるあるだな」 そう、他人事のように見送った俺だったが……。 直後、俺の足元にも魔法陣が浮かび上がる。 「ちょ、待て待て待て! 俺は陰キャだぞ!? 勇者じゃないんだぞ!?」 ――かくして、ゲームライフを愛する陰キャ高校生の異世界行きが始まる。

処理中です...