ミナゴロシノアイカ ~生きるとは殺すこと~【神世界転生譚:ミッドガルズ戦記】

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ゼント : 学園生活は迷宮入り

1.42 - 神代の怪物【エウローン帝国・ナーストロンド迷宮 : ゼント3ヶ月】

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 エボロスに治療をしてもらったシャルマは、ゼントが動きを封じている巨大牛頭の左腕に向かい、勢いよく走り出した。
 

 「うおぉらぁぁあ!」


 左腕に迫るシャルマは、走る勢いのまま石畳を蹴った。

 そして、右下方に構えていたハルバードを、跳躍とともに大上段へ振りかぶり――弓なりにしならせた身体の反動を乗せて、一気に振り下ろした。


 ――ドッ!!
 

 『ブモオオオオ!!』

 強い手応えと、短く鈍い音と共に、左腕は石畳に叩き付けられた。
 

 (……よし。これで……)

 左腕に取り付いたままのゼントは、神力供給の途絶えた左腕の吸収に成功した。
 

 「おっしゃあ!  どぉーだ牛頭!」

 渾身の一撃を繰り出したシャルマは、ガバッと身体を起こし、左手を握り締めながら自身の胸を叩き、叫んだ。

 

 「シャルマ君!  オーズ君!  まだだ!  暗闇が動き出した!」

 注意深く観察を続けていたエボロスの声が響く。巨大牛頭の下方の暗闇が、漆黒の煙のように不気味に揺らめいた。
 

 「チッ……まぁ、腕落としてんのに血も出ねぇしな。このまま終わりゃしねぇか。」

 それを目にしながら吐き捨てるシャルマ。だが、その表情に悲壮の色はない。
 

 「ああ。おそらく、奴は神力の塊だ。……オレのような、な。」

 ゼントも体感的に、エボロスの推論と同じような結論を出していたようだ。
 

 「あー、エボロスも同じようなこと言ってたぜ。オーズが言うんなら、やっぱそうなのか。」

 感心したように目を丸くするシャルマである。
 

 「あまりに膨大で強力過ぎる力だ。即時吸収が出来ない。」

 ゼントは歯痒い思いをしているのか、その言葉尻には口惜しさが滲み出ているようだった。

 

 『ブモオオオオ!!』

 左腕を落とされ、怒りが湧いたのだろう。巨大牛頭が咆哮した。部屋を潰しそうなほどの音圧だった。
 

 だが、エボロスは、耳周りに神力を集中させ、何とか耐えた。

 シャルマは耳栓をしてはいるが、顔をしかめている。

 「やっかましい野郎だぜ……」
 

 ――ゴボボォッ!!  ビギビギィッ!!

 そして巨大牛頭は、不快な音を立てながら暗闇をまとい、首から下を徐々に形作った。
 
 黒みがかった濃い茶色の体毛に覆われた体躯は、筋肉なのかそこかしこが力強く盛り上がり、そして漏れ出た神力で妖しく輝いていた。

 
 「おーおー。しっかしデケェな。さすがに首にゃ届きそーもねぇや。」

 部屋を埋めつくしていた小型ミノタウロスのほとんどを喰らい尽くした巨大牛頭は、ゆっくりと立ち上がった。

 それは、10mを優に超えるのではないかという巨体だった。

 
 さすがのシャルマの跳躍力でも、届きはしない。そしてそれは、ゼントも同様である。

 
 「オレは水斬で上を攻めてみる。」

 「ま、俺は脚だぁな。」

 2人は短く言葉を交わし、即走り出した。

 

 「……水斬」

 ゼントは、首をいきなり狙うことはせず、腹部を水斬で攻撃した。小型ミノタウロスならば、これで内臓を撒き散らしていたのだが――

 『ブモオオオオ!!』

 確かに切れ目は入るのだが、煙を上げ、たちどころに修復しているように見える。
 

 「うぉらぁ!」

 ――ガッ!!

 
 滑り込むように左脚に斬りかかったシャルマだが、切断には及ばなかった。
 

 「チッ……硬ぇな。」

 やはり切れ目から煙が上がり、修復しているように見える。


 

 『ブモオオオオ!!』

 巨大牛頭が再び咆哮した、その瞬間。切断された両腕の傷口辺りから、煙のようなものがゆらりと立ち上った。

 「2人とも!  腕だ!  腕に気をつけろ!」
 

 ――ビョルッ!  ボヒョッ!

 形容しがたい気色の悪い音を立て、巨腕が生えた。

 

 「はぁ?!  マジかよ?!」

 驚いたシャルマ。脚を斬りつけていたが、すぐさま距離をとる。

 
 (復活しただと……?  長期戦の覚悟はしていたが……攻撃されるリスクが増えるのは不味い……! オレはともかく、2人は体力が持つか……? 危険だ……。)
 

 ゼントは、またしても右腕に向かって飛びついた。


 
 『ブモオオオオ!』

 巨大ミノタウロスは、右腕に取り付いた怪しげな黒霧を振り払おうと左手でバシバシと叩くのだが、すり抜けてしまい効果はない。

 
 やがて諦めたのか、残る小型の死骸を掻き集めてボリボリと貪り食いだした。
 

 「チッ……食い意地の張った野郎だな!」
 

 シャルマは、左手の動きに巻き込まれないように、逆側に回り込んでいた。

 
 そして、ゼントの抑えている右腕に迫った。

 
 「ぅおおらぁっ!」

 ――ガッ!

 
 「なにぃっ?!」

 力加減を間違えたわけではない。先程と変わらぬ軌道、そして威力のはずだった。だが、切断には到らない。

 着地したシャルマは驚きの声を上げた。
 

 (強度が上がっている……?  全体が具現化したからか?  それとも、小型を吸収したからか?  どちらにしろ、良くない事態だな。)

 右腕を封じながら、考えあぐねるゼントである。

 

 「2人とも!  小型が食い尽くされた!  攻撃が来るぞ!」

 エボロスが叫んだ。
 

 『ブモオオオオ!』

 ――ドォン!

 極大の左腕が石畳に打ち下ろされた。
 

 「っぶね!」

 狙われたシャルマは、間一髪で避ける。

 
 「くっそー!  神代の怪物ってのはこんなヤベぇのかよ!」

 シャルマは身を翻しながら、ハルバードの一撃を左腕に加える。カウンターで決まったはずではあるが、煙が上がるのみだった。

 

 その時、タタッと足音が響いた。

 「……閃光!」

 走り込んで来ていたエボロスが、巨大ミノタウロスに向かって閃光を放った。

 
 『ブモオオオオ?!』

 効果はそれなりにあったようで、巨大ミノタウロスは、左手を顔に持っていった。
 

 「おっし!  オーズ!  右脚やりにいくぞ!」

 シャルマは、ミノタウロスが目を眩ませた隙に、脚に攻撃を集中しようと考えたようだ。
 

 「わかった。」

 右腕に取り付いていたゼントだったが、すぐさま右脚に向かって水斬を放ちながら飛びかかっていった。

 ――ザッ! ドッ!

 水斬で半分程が切り裂かれた右脚へ、さらにシャルマの一撃が加わった。


 
 『ブモオオオオ!!』
 
 ――ドォン!!
 
 右脚を失ったミノタウロスは、切り倒された大樹のように倒れ伏した。


 
 「おっし!  次は左脚!」

 間髪入れずに左脚へ向かい飛び上がるシャルマ。エビ反りからの振り下ろしである。

 「……水斬」

 ――ザッ!  ドッ!

 ゼントの水斬、そしてシャルマの斬撃で、左脚も切断した。ゼントはすぐさま左脚も吸収する。
 

 「2人とも!  通路があるぞ!」

 エボロスは、今まで暗闇に包まれて見えなかった辺りに、新たな通路を発見したようだった。
 

 「お?  マジか!  帰り道は確保だな!  よっしゃ!  オーズ、あの野郎お寝んね中だぜ!  首取っちまうか!」

 「ああ。」

 

 『ブモオオオオ!!』

  立ち上がれず、もがくミノタウロスに、走り寄るシャルマとゼント。

 「……水斬」

 いち早くゼントの水斬で、首を狙う。激しい煙を上げるミノタウロス。
 

 『ブモオオオオ!!』

 「うるっせぇんだよ!  いい加減……黙れやァァァァ!」

 ――ザッ!!  ドッ!!

 斬り進む水斬の上から、シャルマの渾身の一撃が降り注いだ。

 
 あえなく胴と泣き別れた巨大牛頭が、石畳を滑る。走り寄り、吸収するゼントだが。

 (――ぐっ?!  くそ……かなりの負荷を感じるぞ……!)

 ゼントの黒霧の身体が、膨張するかのように境目が曖昧になる。ピリピリと電気のようなものが迸っている。何とか集中して抑え込もうとした。

 (……こ、これが神代の……怪物……か……)

 何とか落ち着いたようではあるが、内心では驚愕しきっているゼントである。

 

 「おぉっしゃあー!!  やったぜ!!  神代の怪物、討ち取ったぜ!!」

  興奮が最高潮となったのだろうシャルマは、天を仰ぐように両手を高々と掲げた。
 

 「いや……君たちには本当に驚かされるよ……」

 エボロスの表情は、安堵に包まれている。

 

 だが、ゼントは――

 (まだ胴体が残っている……こいつも吸収しておかなくては……復活しかねん……)

   黒霧の身体のまま、胴体の処理に向かうのだった。


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