3 / 134
第一部(幼少編)
2話 自分の評価の低さを知りまして
しおりを挟む
起きたらいつもの6畳1K、低めの天井。を期待したのだけど、私は変わらず9歳のお姫様、小蝶だった。
子供になってしまったせいか、天井も高めに感じる。
今の小蝶の人生に不満があるわけでも、前世の面白味のない人生に未練があるわけでもないけど。読み途中だった漫画や、イベントストーリーの更新待ちだったアプリゲームの行く末は少々気になる。
課金して頑張ってたのにな。
ちょっとだけ肩を落としつつ布団から身を出すと、肌寒さに一度身震いした。
季節は、前世で言うなら10月後半くらいの、だいぶ肌寒くなってくる、秋。
暦の数え方や四季があるところは、江戸時代くらいの日本って感じ。カレンダーがないのが少々不便。
なんの作品だか知らないが、和風ファンタジー世界に転生してしまったものは仕方ない。
せめて作品が判明するまで、現代人の知識を利用しつつ、ここでうまくやっていくことを考えよう。
用意してあった着物に着替え、長い髪を梳かして、ポニテに結いあげた。
子どもの短い手指と映りのよくない鏡のせいで苦戦したが、それなりにできたのでよしとする。
以前の小蝶はいかにも時代劇のお姫様ってかんじの、豪華な着物と流した髪形を好んでいたけれど、正直あれは動きにくそうなので、却下。
まだ子供なんだし、生地や模様も、こだわらなくていい。贅沢は破滅しそうだし。
身支度を整えたので顔を洗いに行こうと部屋を出たところで、鈴加と鉢合わせた。
「おはよう、鈴加。昨日はありがとう」
鈴加はいきなり部屋から出てきた私に驚いて、さらに私がひとりで起きて身支度を整えていたことに二重で驚いた。
小蝶は転生ものではありがちな、ワガママお姫様だった。
朝一人で起きられたことも、着替えも満足に出来たことがない。というか、自分で自分のことを何かしようと、思ったことすらない。
そんな他人任せの状態だったくせに、侍女のみなさんが丁寧に用意してくれた服や髪は基本的に一回は「気に入らない」と言ってやり直しをさせる。嫌な子供だった。
おかげで着物の着付けは少々手間取ったけど、毎日やり方を見てたのでなんとかできた。
着付けも髪もけっこう大変なのに、やってもらっておいてその態度とは。
今日からは絶対あらためる。そんな悪役令嬢みたいな生活してたまるか。
鈴加はしばらく黙ったのち、けれど冷静沈着な自分を思い出したようで、スン、と顔を戻して私に挨拶を返してくれた。
「すみません姫様。何に対しての、お言葉でしょうか?」
「え?ほら、昨日、木から落ちた時に受け止めようとしてくれたでしょ?そのあとも介抱してくれたみたいだし。ありがとね」
「いえ……お怪我をさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「いやいやいや!あれは私が木に登ったのが悪いんだし、いいのよ!」
「いえ……」
鈴加はじいっと私を見た後、静かに目を伏せて反らす。
なにか考えているようだけど、まさか私の中に前世の記憶があるという事実に気付く、なんてこと、ないわよね。私だって信じられないんだし。
異世界転生ものの漫画はけっこう読んだけど、実際なってみると不思議な感覚だ。
自分の中に、自分じゃない意識がもうひとつあるような。今まで自分だけのものだと思っていたこの身体を、急に別の誰かと共有することになったような、そんな感覚。
記憶がごちゃごちゃして大変だったのは、一晩寝てだいぶ落ち着いた。
自分や、父も医者も気付かなかったことでも、ずっと私の世話をしてくれていた彼女の方が、なにか気付くことがあるかもしれない。
「ねえ鈴加、私の婚約の相手って、知ってる?」
鈴加は視線を床に向けたまま、申し訳なさそうに答えた。
「……いいえ。申し訳ございません」
「えっ、あ、謝らなくてもいいわよ。こっちこそいきなりごめんね?」
「はい。申し訳ございません」
アッだめだ……鈴加の友好度がほんとにゼロだ。
よく考えたら、私のワガママのせいで教育係だった乳母も、何人かいた同僚もみんな辞めてしまったのよね。そのうえ、私の噂が城内でずいぶん広まってるのだろう、新しくお側係になりたいって人もいない。
一人でワガママな子供の世話をして、大変だっただろう。
物静かで無口な彼女は、私が暴れて叩いても口汚く罵っても、いつもただ黙って耐えてた。
それなのに、昨日は木に登る私を必死に追いかけ、落ちたときは受け止めようとまでしてくれた。
もっと前に池に入って鯉を投げつけた時も、無言で耐えていた。この時のことを思い出すと、鯉達にも申し訳ない。
ワガママパワハラ暴力癇癪。
思い返せる小蝶の記憶は、すべてが可愛げのないものばかり。
そりゃ、信頼度ゼロ友好度マイナスにもなるわ。
これからは、せめて周りの人とは仲良くしよう。
この子にこれ以上、辛い思いをさせないように。
ぐ、と拳を握って決意すると、きちんと鈴加に向き直った。
「あのね、鈴加、お願いがあって」
「はい、なんでございましょう」
「勉強を、したいと思って」
鈴加はまたもや、その黒目がちな瞳を丸くした。
ただ話を反らすためだけに言ったわけじゃない。私には、この世界での知識が必要だ。
「……かしこまりました。伝えてまいります」
平静を装い、彼女はスス、と静かに廊下の奥へ消えて行った。
するとすぐに「え~!小蝶姫様が勉強を!?」「やはり昨日頭を打っておかしくなられたのでは!?」「なにかまた悪いことでも企んでるんじゃないだろうね!?」などと老若男女様々な声が聞こえて来た。
聞こえないふりして顔を洗う。
子供だから気付いてなかったけど、
えっ、もしかして、私のお城での評価、低すぎ……?
子供になってしまったせいか、天井も高めに感じる。
今の小蝶の人生に不満があるわけでも、前世の面白味のない人生に未練があるわけでもないけど。読み途中だった漫画や、イベントストーリーの更新待ちだったアプリゲームの行く末は少々気になる。
課金して頑張ってたのにな。
ちょっとだけ肩を落としつつ布団から身を出すと、肌寒さに一度身震いした。
季節は、前世で言うなら10月後半くらいの、だいぶ肌寒くなってくる、秋。
暦の数え方や四季があるところは、江戸時代くらいの日本って感じ。カレンダーがないのが少々不便。
なんの作品だか知らないが、和風ファンタジー世界に転生してしまったものは仕方ない。
せめて作品が判明するまで、現代人の知識を利用しつつ、ここでうまくやっていくことを考えよう。
用意してあった着物に着替え、長い髪を梳かして、ポニテに結いあげた。
子どもの短い手指と映りのよくない鏡のせいで苦戦したが、それなりにできたのでよしとする。
以前の小蝶はいかにも時代劇のお姫様ってかんじの、豪華な着物と流した髪形を好んでいたけれど、正直あれは動きにくそうなので、却下。
まだ子供なんだし、生地や模様も、こだわらなくていい。贅沢は破滅しそうだし。
身支度を整えたので顔を洗いに行こうと部屋を出たところで、鈴加と鉢合わせた。
「おはよう、鈴加。昨日はありがとう」
鈴加はいきなり部屋から出てきた私に驚いて、さらに私がひとりで起きて身支度を整えていたことに二重で驚いた。
小蝶は転生ものではありがちな、ワガママお姫様だった。
朝一人で起きられたことも、着替えも満足に出来たことがない。というか、自分で自分のことを何かしようと、思ったことすらない。
そんな他人任せの状態だったくせに、侍女のみなさんが丁寧に用意してくれた服や髪は基本的に一回は「気に入らない」と言ってやり直しをさせる。嫌な子供だった。
おかげで着物の着付けは少々手間取ったけど、毎日やり方を見てたのでなんとかできた。
着付けも髪もけっこう大変なのに、やってもらっておいてその態度とは。
今日からは絶対あらためる。そんな悪役令嬢みたいな生活してたまるか。
鈴加はしばらく黙ったのち、けれど冷静沈着な自分を思い出したようで、スン、と顔を戻して私に挨拶を返してくれた。
「すみません姫様。何に対しての、お言葉でしょうか?」
「え?ほら、昨日、木から落ちた時に受け止めようとしてくれたでしょ?そのあとも介抱してくれたみたいだし。ありがとね」
「いえ……お怪我をさせてしまい、申し訳ございませんでした」
「いやいやいや!あれは私が木に登ったのが悪いんだし、いいのよ!」
「いえ……」
鈴加はじいっと私を見た後、静かに目を伏せて反らす。
なにか考えているようだけど、まさか私の中に前世の記憶があるという事実に気付く、なんてこと、ないわよね。私だって信じられないんだし。
異世界転生ものの漫画はけっこう読んだけど、実際なってみると不思議な感覚だ。
自分の中に、自分じゃない意識がもうひとつあるような。今まで自分だけのものだと思っていたこの身体を、急に別の誰かと共有することになったような、そんな感覚。
記憶がごちゃごちゃして大変だったのは、一晩寝てだいぶ落ち着いた。
自分や、父も医者も気付かなかったことでも、ずっと私の世話をしてくれていた彼女の方が、なにか気付くことがあるかもしれない。
「ねえ鈴加、私の婚約の相手って、知ってる?」
鈴加は視線を床に向けたまま、申し訳なさそうに答えた。
「……いいえ。申し訳ございません」
「えっ、あ、謝らなくてもいいわよ。こっちこそいきなりごめんね?」
「はい。申し訳ございません」
アッだめだ……鈴加の友好度がほんとにゼロだ。
よく考えたら、私のワガママのせいで教育係だった乳母も、何人かいた同僚もみんな辞めてしまったのよね。そのうえ、私の噂が城内でずいぶん広まってるのだろう、新しくお側係になりたいって人もいない。
一人でワガママな子供の世話をして、大変だっただろう。
物静かで無口な彼女は、私が暴れて叩いても口汚く罵っても、いつもただ黙って耐えてた。
それなのに、昨日は木に登る私を必死に追いかけ、落ちたときは受け止めようとまでしてくれた。
もっと前に池に入って鯉を投げつけた時も、無言で耐えていた。この時のことを思い出すと、鯉達にも申し訳ない。
ワガママパワハラ暴力癇癪。
思い返せる小蝶の記憶は、すべてが可愛げのないものばかり。
そりゃ、信頼度ゼロ友好度マイナスにもなるわ。
これからは、せめて周りの人とは仲良くしよう。
この子にこれ以上、辛い思いをさせないように。
ぐ、と拳を握って決意すると、きちんと鈴加に向き直った。
「あのね、鈴加、お願いがあって」
「はい、なんでございましょう」
「勉強を、したいと思って」
鈴加はまたもや、その黒目がちな瞳を丸くした。
ただ話を反らすためだけに言ったわけじゃない。私には、この世界での知識が必要だ。
「……かしこまりました。伝えてまいります」
平静を装い、彼女はスス、と静かに廊下の奥へ消えて行った。
するとすぐに「え~!小蝶姫様が勉強を!?」「やはり昨日頭を打っておかしくなられたのでは!?」「なにかまた悪いことでも企んでるんじゃないだろうね!?」などと老若男女様々な声が聞こえて来た。
聞こえないふりして顔を洗う。
子供だから気付いてなかったけど、
えっ、もしかして、私のお城での評価、低すぎ……?
0
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
ねえ、今どんな気持ち?
かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた
彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。
でも、あなたは真実を知らないみたいね
ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
悪役令嬢の心変わり
ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。
7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。
そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス!
カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる