マムシの娘になりまして~悪役令嬢帰蝶は本能寺の変を回避したい~

犬井ぬい

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第二部

閑話③ 味噌唐揚げを作りまして1

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 第二部の少し前、天文18年頃のお話です。
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「こ、これは……にんにくでは!?」

 尾張に来て1年。新しい生活にもだいぶ慣れ、趣味の料理をお城の厨房でこっそり作らせてもらえるようになったある日、私は見つけてしまった。
 仕入れの行商品の中に、にんにくがあるのを!





「うえ~、その臭いヤツ使うのか?」
「ご安心を。これは絶対美味しいヤツです。未来人の私が保証します」
「蝶は面白いこと言うな~」

 カラカラ笑う信長くんを尻目に、私は一生懸命にんにくとショウガをすりおろしていた。

 にんにくとショウガがあるのなら、これはもう、からあげを作るしかないでしょ?
 ああ、からあげなんて何年振りかしら。想像しただけで今から涎が口の中に溜まってしまう。

 どうやらこの時代では、ショウガやにんにくは薬草扱いで料理にはめったに使わないらしい。
 私は誰になんと言われようと肉料理にガンガン入れますけどね!

 鶏肉は、食べたいと言ったら私に甘い信長がってきてくれた。
 彼は鷹狩たかがりが得意らしいが、これは鷹ではないと信じたい。捌かれた状態で来たので、鶏肉ということしかわからない。まあいいや。
 ここでも養鶏が行われるよう、早めに進言しておこう。
 そのためにも、今日のからあげ作りを成功させないとね!

 気合を入れてすりおろしたショウガとにんにくを、ぶつ切りにした鶏肉のボウルに全部入れて、味噌、酒、塩をひとふり。さらにちょっとだけはちみつを入れて揉み込む。

 戦国時代のポピュラーな味付けは味噌らしい。
 味噌味、好きだからいいけど、はやくお醤油できないかなあ。料理の幅が広がる。
 そしてはちみつは、我が故郷の美濃産。父上と義龍兄上がきちんと養蜂産業を続けてくれているらしい。お願いして送ってもらっておいたのだ。

「肉に蜂蜜?変な材料だなー」
「んもー!文句ばっかり言うと追い出しますよ!?」
「信長様、手伝わないなら出て行っていただけますか?帰蝶様の邪魔です」
「いや十兵衛……そこまで言わなくても……」

 相変わらず、織田信長と明智光秀は仲が悪い。毎回、私が間に入って仲裁してる。
 信長は誰にでもこんな感じの態度だけど、十兵衛は信長にだけ厳しいのよね。
 私や他の織田家の人とは普通に話すのに。むしろ優しすぎて男女ともにファンが増えてくくらいなのに。

 もちゅもちゅ音を響かせつつ、ある程度揉み込んだらしばらく放置して味を染み込ませる。すでににんにくと味噌のおかげでおいしそうな匂いがしてきた。
 はやく揚げたいけど、この漬け時間が大事なのだ。
 乾いちゃうといけないので、ガーゼくらいうっすいふきん?をかける。ラップの代わり。

「そうだ、竹千代くんにも食べさせてあげようかしら」
「チビ千代に?いいけど、あいつ来るかなあ」

 竹千代くんというのは、少し前から織田家で預かっている男の子だ。
 たしかまだ8歳くらいなのに、家族とひとり離れて暮らしている。

 普段は、かつての十兵衛のように織田家の人にお勉強やお作法などを学んでいるらしい。
 精神年齢が同年代な信長がしょっちゅう引っ張り出して遊んでいるので、私も親しくなった。

「チビ千代のヤツ、チビのくせにもう信長様とは遊びませんとか言うんだぜ?ひどいよな~」
「またケンカしたの?よくあんな小さい子とケンカできるわね……」
「私も反対ですね。竹千代様は、少々帰蝶様と距離が近すぎます」
「十兵衛まで!そんないじわる言ってるから、二人とも竹千代くんに嫌われるのよ」

 なんで男子って、小さい子をいじめるのかしら。
 手と使った調理器具を洗って、竹千代くんをお誘いすることに勝手に決めた。

「それなら、こっちから持って行ってあげればいいのよ」

 来ないなら、持ってってあげよう味噌からあげ!
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