マムシの娘になりまして~悪役令嬢帰蝶は本能寺の変を回避したい~

犬井ぬい

文字の大きさ
102 / 134
第二部

89話 敗戦ダイジェスト。そして……

しおりを挟む
 藤吉郎秀吉くんが考えていたのは「一夜城いちやじょうの建築」だった。
 あー、それ聞いたことある!ここだったんだ!と私は興奮し、日奈も満足げに頷いた。
 日奈が先に信長やみんなに伝えてもよかったんだけど、これは、秀吉がやる気を出さないとできないことだったらしい。
 たしかに、聞いてみると色んな人の助けが要りそうで、藤吉郎くんの人柄や人望あっての作戦だ。

 「こんなの成功するかわからないから、言いたくなかったんス!」とごねる藤吉郎くんをずいずいみんなの前に出して発表させると、信長も二つ返事でGOを出した。
 とりあえず面白い策はやってみたいらしい。

 で、まあここからはダイジェストでお送りしようと思います。
 だって、珍しく敗戦続きなんだもん。
 負け戦ばっかりなんて、つまらないよね。

 まず、一夜城建築の事前準備の為、私達はまあまあ強固な装備を整えて、稲葉山城を目指した。
 できたら攻め落しちゃおう、とやる気満々で、家康くんにも助力を仰いだ。
 「君の為ならいいよ☆」とかる~い感じで後方支援をしてもらったのに……

「ストップストップ、退避ー!」
「どうしましたか、帰蝶様」
「あれ見えないの!?バックバック!戻って!逃げて!!」
「……なんスかあれ!?」

 大砲だった。
 私は一応身内だから、戦には参加しないでおこうと思っていたのだけど、藤吉郎くんが心配だったので下見にだけ参加することにしていた。
 そうしたら、稲葉山城の城壁からにゅっと伸びる黒く大きな筒。どう見ても大砲が、私達を狙い見下ろしていたのだ。

 どうやらこの時代にはかなり珍しい武器だったらしく、火縄銃に慣れた織田兵のみなさんでも、驚きを隠せず撤退に時間がかかり、それなりの損害が出てしまった。
 私も、乙女ゲームで大砲が出てくるとかなんだそれ、と驚きを通り越して呆れた。
 そして日奈も驚いた。

「ゲームだと戦はナレーションで勝敗のみしか出ないから、まさか大筒おおづつが出てくるとは……でも、斎藤が大筒作ってたなんて、記録にあったかなあ……」
「あ…………」

 やべ、と私は気まずい顔をして逃げようとしたが、すぐに十兵衛と日奈にバレた。
 私を捕まえられない十兵衛のかわりに、日奈が腕をぎゅっと掴んでいる。

「なんで大筒があるの?」
「帰蝶様が、作れと言いましたね」
「わー!だって、強い武器があった方がいいと思って!敵に回るって考えてなかったのー!」

 嫁入りは決まってたんだから、気づけよ、と言う視線だった。前から後ろから刺さってくる。
 十兵衛は、私が日奈と「ゲーム」とか「ナレーション」とか変な単語を出していても、周りの人同様に気にしなくなったらしい。それ以外の理解できる単語を読み取って、私を責める。
 必死に謝りました。

「う、うちの大筒は出せないの?」
「無理ですね。あれは基本的には籠城用です」
「そぉねぇ。威力は申し分ないカンジ♡だけど、持ち運びができないのよねえ。帰蝶様が言うなら、信長様にも言われてるし、軽量化を進めさせておくわ」
「お願いします……」

 さすがは織田信長。斎藤家より銃火器の導入が遅かったのに、もう大筒があるだけでなく、軽量化の指示まで!
 私みたいに何も考えてないのかと思ったけど、やっぱり素養が違うのね。

 でも一夜城が出来ても、向こうに大砲があったんじゃ意味がない。
 せっかくやる気になってた藤吉郎くんも私も他のみんなも、やる気が急激になくなった。士気、ダダ下がり。

 ダメ押しでもう一度攻めてみたけど、やはり大筒に怯える兵を従えただけじゃ、なんの意味もなかった。
 家康くんにも「ごめんね。君のためになりたいけど、うちの兵も減らせないからさ~」とかる~い感じで支援を断られてしまった。
 せめて、うちにもう少し勝機が見えないと、助けてくれないらしい。

「信長様~、どうするの?もう兄上イケイケすぎて隙もないわよ」
「ん?そんな欲しいのか、稲葉山城」
「欲しがってるのは信長様でしょ?」
「そうだなー」

 柄にもなく弱音を吐く私に、信長はよしよしと頭をポンポンしてきた。
 こいつ、女子が困ってるときは頭撫でときゃいいと思っている。イケメンだし一応夫だから許すけど。
 それに、実際弱気になっていたので励ましてもらえるのは、少し、嬉しかった。

 以前は、部下を気遣ったり妻に優しくしたり、なんて、他人の気持ちを推し量るのは苦手というかしないタイプだったけど、だいぶ大人な態度を取れるようになったのだ。
 これは、部下みつひでに裏切られることなく天下統一も近いかな。
 それには今立ちはだかるボス・義龍兄上を倒さなきゃなんだけど。

「じゃ、出かけるか!」
「どこへ?」
「そりゃあ、お楽しみだろ!」
「こんな戦時下にどこへ行かれるおつもりですか」
「ミツも来たいのか?できれば、蝶と二人きりが良いんだけどな」
「へ……」

 ふたりきり。
 そんなこと言うなんて、珍しい。
 いつも、楽しいことは多い方がいい。お出かけなら大勢の方がいい。って言ってたのに。

「それって、デートってこと?」
「ん、そうだな、でーとだな!」
「あらまあ、デート!」

 おばちゃんみたいな声をあげてしまったが、だって、前世を合わせても、生まれて初めてかもしれないのだ。
 なんだか、ウキウキしてきたかも。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...