マムシの娘になりまして~悪役令嬢帰蝶は本能寺の変を回避したい~

犬井ぬい

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第二部

100話記念【???】戦国謳華をプレイして

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 よくゲームの貸し借りをする友達から借りたソフトを、ポータブル端末にセットして、電源を入れる。
 微かな起動音と共に、流麗なオープニング映像が流れはじめた。
 和のテイストを盛り込んだ主題歌。
 キャラデザもいい。
 これは、期待が高まる。

『……気がつきましたか。あなたはこれより、<先見さきみの巫女>として、戦国時代へ行ってもらいます』

 なるほど、そういうストーリーね。
 光の渦のようなイラストを背景に、テキストボックスのナレーションは続ける。これは神様だろうか。

『あなたたちが本来知る歴史より、事実がねじ曲がってしまった世界です。そこで生きる者たちを正しく導きながら、歴史をねじ曲げた原因を探してください』

『まずは、あなたのパートナーとなる人物を探して。二人で力をあわせて歴史を修正できれば、あなたは元の時代へ帰れるでしょう』

 そして、選択画面。
 5人の男性キャラのイラストが画面に表示され、選択カーソルをあわせると、カラーになる。この中から、最初の攻略キャラを選べということか。

 カチ、と決定ボタンを押す。最初は、彼にした。




 *******


――天文22年。那古野なごや城。

曲者くせものだ、であえ、であえー!」

 ヒロインわたしは、さっそく追われていた。
 今のはモブキャラだろう。テキストボックスだけで名前も立ち絵も出ない。

「大丈夫ですか?こんなかよわい女性を大勢で追い回すなど、信長様も何を考えているのやら……」

 助けてくれたのは、濃紺の髪の、いかにも王子様のような美男子。
 立ち絵も綺麗だが、助けてくれた際のスチルも素敵だ。出会いがしらでぶつかった女子を助け起こしてお姫様だっこが出来る人は、現代でもなかなかいない。

 それにしても、追い回されていた時にさらに私につっかかって来た女のひと、キャラデザは綺麗だったが、怖かった。
 ライバルキャラだろうか。




 *******


――天文22年。那古野城。

「ジイは……俺の為に、その命を使ったんだな。たいしたヤツだ。あのオヤジが見込んだだけ、ある」

 泣きそうな声に、うっ、と自分の息をつまらせる。
 まだゲームを始めたばかり、序盤だというのに。こちらまで泣いてしまいそうなほど、胸がぎゅっと締めつけられた。

「……なんだ、そんなにひっついて。慰めているつもりかよ?あのなあ、女ならもっと女らしい慰め方ってモンがあるだろ……いや、
 ……………ありがとう」

 信長は赤い髪を揺らして、ヒロインの細い背を掻き抱いた。
 肩越しに、泣いているような息遣いを感じる。
 切ないそれに、私は耐えきれずともに涙を流した。

 できるなら、この人を救ってあげたいと思った。




 *******


――永禄四年。清州城。

「オレが信長様に許して貰えたのも、アンタの……いや、貴女のおかげです。ありがとうございました。これからは貴女の思いに報いるためにも誠心誠意、私は信長様に仕えます」

 利家くんの紫のギザギザポニテが揺れる。
 あたしはそれに、思わず吹き出して笑った。だって、いきなり敬語とか、似合わなすぎ!

「え?変?いや、オレだってもう大人になろうと…………いや、たしかに、アンタの前では、こんなのしても無駄だよな」

 ジジッと読み込み音が聞こえて、笑顔の利家くんが画面いっぱいに映し出された。
 規則正しく並んだ歯がかわいい。

「ありがとう。アンタがいてくれたおかげだ!」

 よかった~~!推しピ解雇処分撤回~~~!よかったねええ~~!
 こっちまで泣けてきちゃう!

 でも性格、二重人格みたいになっちゃったの笑う。
 途中でキャラ変するとか、新しすぎでしょ。ま、これはこれでいっか。
 丁寧キャラの利家くんも、前のやんちゃキャラの利家くんもかわいいし。

 よーし、このあとは絶対、本能寺まで失敗しないぞ!
 ぜってー最良ハッピーエンド見るからな!




 *******


――永禄十年。墨俣すみまた城。

 突貫で作ったわりには立派な城を背景に、秀吉はこちらへ振り返り、笑顔を向けた。
 彼は空気を読むのが上手いから、笑顔も自然と作ることができる。
 けれどこれは、今、“私”に見せてくれているのは、作りものの顔ではなないとわかる。
 彼の本当の心だと。

「ありがとうっス。巫女さん。自分、今までずっと、自分に価値なんてないって思ってた。けど、巫女さんが、価値を教えてくれた。あんたとなら、もっと強くなれる気がするっス!」

 握られた手。
 夕陽に照らされて、いつもの明るい作りものめいた髪が、淡く光っていた。

 この子を、この人をもっと上にいかせてあげたい。
 天下を取ってほしい。その横に、私は居たい。




 *******


――永禄十年。岐阜城。

「いいかげんにしてくださる?側室をもうけるのも妾をとるのも許さないほど、わたくしは狭量ではございませんわ。ですが、その娘はなんです?先見の巫女などとわけのわからないものに傾倒して……わたくし、その女がこれ以上のさばるのでしたら、この城を出て行きます!」

 織田信長が無事、史実と同じ天下布武を掲げたのはいいけれど、例のライバルキャラが出てきてまた文句を言い出した。

 しかしその通りだ、とも思う。
 一夫多妻がゆるされている戦国時代とはいえ、帰蝶という妻がいるのに、得体のしれない女がここまでのさばってきたら、他の妻たちはさぞ嫌だろう。
 そういえば、他の攻略対象キャラたちも、普通に考えたら奥さんがいる歳だよね。
 織田信長も確か、側室が嫡男を産んでいる年のはず。その辺はスルーか。
 ま、乙女ゲームだしね。

 でもこの女、信長ルートでしゃしゃり出てくるのはわかるんだけど、一週目の利家ルートでも出てきて文句言うのよね。意味わからん。
 お前じゃなくて、まつさんが来るならわかるんだけど。
 ワガママそうな見た目だし、自分以外の女がチヤホヤされてるのが気に食わんってところだろうね。

 ま、私はまずはこの邪魔女を蹴散らして、本命・信長様とのラブラブエンドを目指しますよーっと。

 ……強そうにまだ文句を言ってるけど、蹴散らせるかな?




 *******


――天正十年。堺。

「だめだ!君を危険な目にはあわせられない。……え?僕も行っちゃだめだって?でも……信長様が危険なんだ。今、恩を返さないでいつ返すって言うんだい!?今は、いつもみたいにごまかしていられない。君に嫌われても、僕は行くよ」

 うわ、選択肢出た。
 ええと、歴史通りにするには、本能寺へ行っちゃいけないのね。攻略本代わりのまとめサイト助かるわー。

 でも本当は、家康様だって助けに行きたいよね。
 選んじゃおうかな……二週目でちゃんとしたの選べばいいわけだし。

「……泣かないで。そうか、君は、何か知っているんだね。そして僕を、守ろうとしてくれている。そうだね……一緒に行こう」

 えへへ、これこれ。
 やっぱ家康様のスチルは優美でいいわー。
 決意のこもった顔で抱きしめられ、その細い指先で涙を丁寧に拭われる主人公わたし
 彼のスチルは、いつも満開の桜が舞っているかのように、美しく華がある。

 歴史はよくわからないけど、まさか、私が選んだせいで彼、死なないよね?
 本能寺には、信長を助けに行くんだし。
 あれ、織田信長って本能寺の変で死ぬ?

 いやいや、たぶんゲームだし死なないでしょ。
 さあ、本能寺行くぞ!
 “歴史通りに”の選択肢をあまり選んで来なかったから、今回もまた良エンドかな。
 結構むずかしいなーこのゲーム。
 まあいいよ、どうせ何回かやるんだし。




 *******


――天正十年。本能寺。

「アハハハハッ」

 甲高い女のボイスが、緊迫感のある音楽と共にこだまする。
 背景は炎。女はその中心で、楽しそうに笑う歪んだ立ち絵で画面中央に君臨した。

 歴史をゆがめてた犯人って、この女だったんだ……。
 女キャラで攻略対象でもないのに、CVやあんなしっかりした立ち絵があるなんて、おかしいと思ったんだよね。

 いやいや、“歴史を変える”なんて選択肢、ここまで真面目に歴史修正してきたんだから、今さら選ばないよ。
 “歴史を変えない”っと。

 あ、斬られた。
 死んじゃったの、帰蝶?
 さすがにちょっとかわいそうだけど、仕方ないかー。
 てか、信長も一応まだ奥さん?だよね?でも斬っちゃうんだな……。

「我が覇道を阻むのなら、妻だろうと神だろうと仏だろうと、俺は斬る!そうやって生きて来た!誰にも揺るがせない!!」

 少しだけ迷ったようだけど、信長はやはり織田信長だった。
 凛として、強く、気高い。そして残酷だ。

「さて、逃げ場はない、か。せめてお前だけでも逃がしてやらないとな。俺の傍へ来れるか?」

 炎の中、差し出された手。
 この手を取るのか、取らないか。

 攻略本によれば、次が最後の選択肢。
 ここで“歴史を変える”選択肢を選んでしまうと、今までの努力がパアだ。今回こそは、最良エンドを見るんだから。

 前から決意していた方の選択肢へカーソルを合わせる。
 カチ、とボタンを押せば、主人公のセリフが表示された。

「信長様、愛しています。だから、私は歴史を変えません。どこにいても、あなたがいなくても、私はあなたを愛し続ける。きっと、待っていて。この手を、離さないで」
「ああ、わかった」

 信長は主人公の告白を聞き終えると、用意していた自害用の刀で自分を貫いた。
 そして、血濡れた唇を寄せる。
 ああ、これで最期なのだと、私は主人公とともに、泣いた。






 *******






 カサ、と。乾いた音がして、手のひらの中に小さな紙屑が落ちて来た。
 久々に触れた、キャメル色の制服。
 開いたことのなかった胸ポケットから出て来たそれを、おそるおそる開く。

 この時代にはないはずの、ノートの切れ端のような紙には、鉛筆で、こう書かれていた。

『帰蝶姫を信じないで』
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