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第二部
105話 星がとてもきれいで2(本能寺の変を、止めて)
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日奈が変なことを言うから、変に意識しちゃって心臓から変な音が鳴るじゃない。
いやごめん、日奈のせいじゃない。とにかく変なのは私だ。
十兵衛を避けたのも、久々に一緒に出かけて楽しくなってしまったのも、でもそれじゃいけないって焦ってわからなくなって一人であわあわしてるのも、全部自分の問題。
目の前には、星空より眩しいくらいに綺麗な顔。
暗闇でも睫毛が長いのがわかる。
その奥で、深い青を宿した瞳が揺れてる。
私は顔の横につかれた腕にそっと手をあて、掛け声とともに思い切り払った。
「こう言う時は先手必勝!」
てやっ、と自分に掛け声をかけて、突然のことにびっくりするだけの体を転がしその上に乗り上げる。
よし、マウントとった!
丸くなった青瞳に吸い込まれないよう、ぺちんと鳴るほどに十兵衛の両頬を手のひらで押さえた。
「あなたは、私をどうしたいの?」
間違えた。
本当は、私とどうなりたいのか聞きたかったのだ。
「……そうですね、できれば、御身を上から退かしたいですね」
「ち、ちがう!間違えたの!十兵衛が今後どうなりたいのかを聞きたかったの!」
笑われてしまって、ついでに変な音を立てさせられた心臓からポンプ式に顔に血が集まってくる。
私のことをよく見ている彼は気づいていたはずだ。私が自分を避けている理由くらい。
だから、質問には答えない。
幼馴染の私を見る目がいつのまにか変わっていて、それに戸惑ってこっぱずかしくなってキャパオーバーしてるんだって、わかるでしょ!?自分が原因なんだから。
きっと信長も日奈も、私達が話し合ってこの問題を解決するように二人きりにしたに違いない。いいでしょう、企みに乗ってやりましょう。
「これから信長様は上洛するんでしょう?私は、信長様と80歳まで生きる約束をしたの。あの人が天下を取るためにできることをしたい。全員は無理でも、この手が届く範囲の人は護りたい。救いたい。これが私の今の望み。十兵衛は信長様と私が望みを叶えた時、そのとき、どうしたい?」
これは重要なことだ。
今まで、先延ばしにしてきた。
十兵衛は私を「まもりたい」と言って、私も「ずっとまもってほしい」と言ったけど、一生“織田信長の妻の護衛”でいたいかというのは、きっと別問題だ。
彼にだって野心とか、望みはあるはずだ。
十兵衛の正直な気持ちが知りたい。
彼がどんなに思ってくれても、私は妻にも、恋仲にもなれないのだから。
褒美としてお城や百万石、とかならなんとか叶えてあげられると思うけど、私自身はあげられない。
護ってくれて、いつもそばにいてくれるのは嬉しい。
熱を出した時に手を握っててくれたのも、明智城で火の粉を避けて抱きしめてくれたのも、信長から向けられた刃先に飛び込んで助けてくれたのも、ぜんぶぜんぶ嬉しかった。
「あなたが私のことを大切に思っていてくれてるのを知ってる。でも、私はあなたが自分を傷つけたり犠牲にしてまで護るべき女じゃないわ。一度護衛を解いたのも、そのせい。どれだけ尽くしてくれても、私はなにも返せないもの」
昔々、私は炎の中で誰かの手を取る夢を見た。
あの人は後悔していた。
この世界の人は、みんな真っ直ぐに、自分のやれることを必死にやって生きている。
その果てに苦しむほどの懺悔が残るのなら、きっとよっぽどのことなのだ。
あの人のようにならない。後悔しないように。一粒も心を残さないように生きたい。
「私の望みを、聞いてくれますか?」
「あなたの言葉で教えてくれるなら」
頷くと、十兵衛も頷き返した。
あのね。
こどものような声がする。
「僕は、ずっと小蝶と一緒にいたい」
頬に添えられた手は、いつか涙を拭ってくれたものよりも柔らかで、あたたかい。
十兵衛は、はじめて見る顔で笑ってた。
自分の望みを口にする時、こんなに美しく笑うんだ。
「君の後ろでも前でもなくて、隣で君と同じものを見たい。人と違う道を進もうとする君を、一番近くで見ていたい」
静かな声と、目線。
氷水を喉に流してもらったみたいに、きもちよくて、少しだけ痛い。
「でも、私の隣には信長様がいるわよ?」
「それなら、その反対側にいるよ」
それを聞いて、なぜだか涙が出た。
見られないようにごろんと横に並んで隠す。星がうるさい。
「だったら、いいかげん仲良くしてよね」
恋人じゃなくても、夫婦じゃなくても、隣にいてくれる。
よかった。十兵衛が変なことを考えてなくて、よかった。
私や日奈の考えすぎだ。この乙女ゲ脳め。
どうかこのまま、自分を見失わないでいてくれたら。
真っ直ぐで真面目で正直なまま、このまま私の隣にいてくれたら、きっと私は止められるはずだ。
大丈夫、このひとは私を裏切らない。子供のときのまま、ずっと一緒にいてくれる。
それなら、私が信長についていさえすれば彼は織田信長を裏切らない。
本能寺の変は起きない。
私が止めることが、できるはずだ。
いやごめん、日奈のせいじゃない。とにかく変なのは私だ。
十兵衛を避けたのも、久々に一緒に出かけて楽しくなってしまったのも、でもそれじゃいけないって焦ってわからなくなって一人であわあわしてるのも、全部自分の問題。
目の前には、星空より眩しいくらいに綺麗な顔。
暗闇でも睫毛が長いのがわかる。
その奥で、深い青を宿した瞳が揺れてる。
私は顔の横につかれた腕にそっと手をあて、掛け声とともに思い切り払った。
「こう言う時は先手必勝!」
てやっ、と自分に掛け声をかけて、突然のことにびっくりするだけの体を転がしその上に乗り上げる。
よし、マウントとった!
丸くなった青瞳に吸い込まれないよう、ぺちんと鳴るほどに十兵衛の両頬を手のひらで押さえた。
「あなたは、私をどうしたいの?」
間違えた。
本当は、私とどうなりたいのか聞きたかったのだ。
「……そうですね、できれば、御身を上から退かしたいですね」
「ち、ちがう!間違えたの!十兵衛が今後どうなりたいのかを聞きたかったの!」
笑われてしまって、ついでに変な音を立てさせられた心臓からポンプ式に顔に血が集まってくる。
私のことをよく見ている彼は気づいていたはずだ。私が自分を避けている理由くらい。
だから、質問には答えない。
幼馴染の私を見る目がいつのまにか変わっていて、それに戸惑ってこっぱずかしくなってキャパオーバーしてるんだって、わかるでしょ!?自分が原因なんだから。
きっと信長も日奈も、私達が話し合ってこの問題を解決するように二人きりにしたに違いない。いいでしょう、企みに乗ってやりましょう。
「これから信長様は上洛するんでしょう?私は、信長様と80歳まで生きる約束をしたの。あの人が天下を取るためにできることをしたい。全員は無理でも、この手が届く範囲の人は護りたい。救いたい。これが私の今の望み。十兵衛は信長様と私が望みを叶えた時、そのとき、どうしたい?」
これは重要なことだ。
今まで、先延ばしにしてきた。
十兵衛は私を「まもりたい」と言って、私も「ずっとまもってほしい」と言ったけど、一生“織田信長の妻の護衛”でいたいかというのは、きっと別問題だ。
彼にだって野心とか、望みはあるはずだ。
十兵衛の正直な気持ちが知りたい。
彼がどんなに思ってくれても、私は妻にも、恋仲にもなれないのだから。
褒美としてお城や百万石、とかならなんとか叶えてあげられると思うけど、私自身はあげられない。
護ってくれて、いつもそばにいてくれるのは嬉しい。
熱を出した時に手を握っててくれたのも、明智城で火の粉を避けて抱きしめてくれたのも、信長から向けられた刃先に飛び込んで助けてくれたのも、ぜんぶぜんぶ嬉しかった。
「あなたが私のことを大切に思っていてくれてるのを知ってる。でも、私はあなたが自分を傷つけたり犠牲にしてまで護るべき女じゃないわ。一度護衛を解いたのも、そのせい。どれだけ尽くしてくれても、私はなにも返せないもの」
昔々、私は炎の中で誰かの手を取る夢を見た。
あの人は後悔していた。
この世界の人は、みんな真っ直ぐに、自分のやれることを必死にやって生きている。
その果てに苦しむほどの懺悔が残るのなら、きっとよっぽどのことなのだ。
あの人のようにならない。後悔しないように。一粒も心を残さないように生きたい。
「私の望みを、聞いてくれますか?」
「あなたの言葉で教えてくれるなら」
頷くと、十兵衛も頷き返した。
あのね。
こどものような声がする。
「僕は、ずっと小蝶と一緒にいたい」
頬に添えられた手は、いつか涙を拭ってくれたものよりも柔らかで、あたたかい。
十兵衛は、はじめて見る顔で笑ってた。
自分の望みを口にする時、こんなに美しく笑うんだ。
「君の後ろでも前でもなくて、隣で君と同じものを見たい。人と違う道を進もうとする君を、一番近くで見ていたい」
静かな声と、目線。
氷水を喉に流してもらったみたいに、きもちよくて、少しだけ痛い。
「でも、私の隣には信長様がいるわよ?」
「それなら、その反対側にいるよ」
それを聞いて、なぜだか涙が出た。
見られないようにごろんと横に並んで隠す。星がうるさい。
「だったら、いいかげん仲良くしてよね」
恋人じゃなくても、夫婦じゃなくても、隣にいてくれる。
よかった。十兵衛が変なことを考えてなくて、よかった。
私や日奈の考えすぎだ。この乙女ゲ脳め。
どうかこのまま、自分を見失わないでいてくれたら。
真っ直ぐで真面目で正直なまま、このまま私の隣にいてくれたら、きっと私は止められるはずだ。
大丈夫、このひとは私を裏切らない。子供のときのまま、ずっと一緒にいてくれる。
それなら、私が信長についていさえすれば彼は織田信長を裏切らない。
本能寺の変は起きない。
私が止めることが、できるはずだ。
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