マムシの娘になりまして~悪役令嬢帰蝶は本能寺の変を回避したい~

犬井ぬい

文字の大きさ
118 / 134
第二部

105話 星がとてもきれいで2(本能寺の変を、止めて)

しおりを挟む
 日奈が変なことを言うから、変に意識しちゃって心臓から変な音が鳴るじゃない。
 いやごめん、日奈のせいじゃない。とにかく変なのは私だ。

 十兵衛を避けたのも、久々に一緒に出かけて楽しくなってしまったのも、でもそれじゃいけないって焦ってわからなくなって一人であわあわしてるのも、全部自分わたしの問題。

 目の前には、星空より眩しいくらいに綺麗な顔。
 暗闇でも睫毛が長いのがわかる。
 その奥で、深い青を宿した瞳が揺れてる。

 私は顔の横につかれた腕にそっと手をあて、掛け声とともに思い切り払った。

「こう言う時は先手必勝!」

 てやっ、と自分に掛け声をかけて、突然のことにびっくりするだけの体を転がしその上に乗り上げる。
 よし、マウントとった!
 丸くなった青瞳に吸い込まれないよう、ぺちんと鳴るほどに十兵衛の両頬を手のひらで押さえた。

「あなたは、私をどうしたいの?」

 間違えた。
 本当は、私とどうなりたいのか聞きたかったのだ。

「……そうですね、できれば、御身を上から退かしたいですね」
「ち、ちがう!間違えたの!十兵衛が今後どうなりたいのかを聞きたかったの!」

 笑われてしまって、ついでに変な音を立てさせられた心臓からポンプ式に顔に血が集まってくる。

 私のことをよく見ている彼は気づいていたはずだ。私が自分を避けている理由くらい。
 だから、質問には答えない。
 幼馴染の私を見る目がいつのまにか変わっていて、それに戸惑ってこっぱずかしくなってキャパオーバーしてるんだって、わかるでしょ!?自分が原因なんだから。

 きっと信長も日奈も、私達が話し合ってこの問題を解決するように二人きりにしたに違いない。いいでしょう、企みに乗ってやりましょう。

「これから信長様は上洛するんでしょう?私は、信長様と80歳まで生きる約束をしたの。あの人が天下を取るためにできることをしたい。全員は無理でも、この手が届く範囲の人は護りたい。救いたい。これが私の今の望み。十兵衛は信長様と私が望みを叶えた時、そのとき、どうしたい?」

 これは重要なことだ。
 今まで、先延ばしにしてきた。
 十兵衛は私を「まもりたい」と言って、私も「ずっとまもってほしい」と言ったけど、一生“織田信長の妻の護衛”でいたいかというのは、きっと別問題だ。
 彼にだって野心とか、望みはあるはずだ。

 十兵衛の正直な気持ちが知りたい。
 彼がどんなに思ってくれても、私は妻にも、恋仲にもなれないのだから。
 褒美としてお城や百万石、とかならなんとか叶えてあげられると思うけど、私自身はあげられない。

 護ってくれて、いつもそばにいてくれるのは嬉しい。
 熱を出した時に手を握っててくれたのも、明智城で火の粉を避けて抱きしめてくれたのも、信長から向けられた刃先に飛び込んで助けてくれたのも、ぜんぶぜんぶ嬉しかった。

「あなたが私のことを大切に思っていてくれてるのを知ってる。でも、私はあなたが自分を傷つけたり犠牲にしてまで護るべき女じゃないわ。一度護衛を解いたのも、そのせい。どれだけ尽くしてくれても、私はなにも返せないもの」

 昔々、私は炎の中で誰かの手を取る夢を見た。
 あの人は後悔していた。
 この世界の人は、みんな真っ直ぐに、自分のやれることを必死にやって生きている。
 その果てに苦しむほどの懺悔ざんげが残るのなら、きっとよっぽどのことなのだ。
 あの人のようにならない。後悔しないように。一粒も心を残さないように生きたい。

「私の望みを、聞いてくれますか?」
「あなたの言葉で教えてくれるなら」

 頷くと、十兵衛も頷き返した。

 あのね。
 こどものような声がする。

「僕は、ずっと小蝶と一緒にいたい」

 頬に添えられた手は、いつか涙を拭ってくれたものよりも柔らかで、あたたかい。
 十兵衛は、はじめて見る顔で笑ってた。
 自分の望みを口にする時、こんなに美しく笑うんだ。

「君の後ろでも前でもなくて、隣で君と同じものを見たい。人と違う道を進もうとする君を、一番近くで見ていたい」

 静かな声と、目線。
 氷水を喉に流してもらったみたいに、きもちよくて、少しだけ痛い。

「でも、私の隣には信長様がいるわよ?」
「それなら、その反対側にいるよ」

 それを聞いて、なぜだか涙が出た。
 見られないようにごろんと横に並んで隠す。星がうるさい。

「だったら、いいかげん仲良くしてよね」

 恋人じゃなくても、夫婦じゃなくても、隣にいてくれる。

 よかった。十兵衛が変なことを考えてなくて、よかった。
 私や日奈の考えすぎだ。この乙女ゲ脳め。

 どうかこのまま、自分を見失わないでいてくれたら。
 真っ直ぐで真面目で正直なまま、このまま私の隣にいてくれたら、きっと私は止められるはずだ。

 大丈夫、このひとは私を裏切らない。子供のときのまま、ずっと一緒にいてくれる。
 それなら、私が信長についていさえすれば彼は織田信長を裏切らない。

 本能寺の変は起きない。
 私が止めることが、できるはずだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...