怖いお兄さん達に誘拐されたお話

安達

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優先事項

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「…星秀さん。」



俺が車を出るとそこには星秀さんがいたんだ。よかった。無事だった。傷も無さそうだ…。だから俺は星秀さんのところに駆け寄ろうとした。けど…。



「待て誠也。あいつとの面会はまた後でな。」



と、言って游さんが俺の腕を掴んできた。やっと会えたんだ。なのにどうして話もさせてくれないんだ…!



「な、なんでだよ…。」

「何でもだ。おい銀時。星秀に言っとけ。誠也と話せんのはまた今度ってよ。」

「承知しました。」

「銀時さんまで…!」

「悪いな誠也。先に慎都さんに挨拶してくれ。そこまで游さんが案内してくれるはずだから。だからその後で星秀と話すんだ。それまでは耐えてくれ。」



そうだ…。この人たちは俺の事を救ってくれた。あの治から解放してくれたんだ。その理由は游さんがさっき話してた若頭のおかげ。だから俺はその人に挨拶しなきゃいけない。自分勝手に行動するのも慎まねぇと…な。



「分かりました銀時さん。」

「いい子だ誠也。じゃあ游さん、誠也をお願いしますね。」

「ああ。誠也行くぞ。」

「うん。」



俺はそう返事をして歩き出そうとした。けど何故か游さんが歩き出さなかったんだ。俺はこのマンションの事を何も知らないから游さんが動かねぇと入り方すらわかんねぇ。なのになんで游さんは動いてくれてねぇんだ?



「…游さん?」

「あ?」



え…なんで怒ってんだよ游さん。いや怒ってるって言うよりかは拗ねてる…って言った方が正しいか?けどなんで急に…。



「な、なんで怒ってんだよ。」

「お前のせいだろ。」

「…俺?」



俺が優先事項を考えずに星秀さんのところに行こうとしたことを怒ってんのか?それは確かに俺が悪い。だから俺はとりあえず游さんに謝ることにした。



「ご、ごめん…。」

「あ?何謝ってんだよ誠也。」



なんだよもう!謝っても不機嫌のままじゃねぇか!どうしろって言うんだよ!



「じゃあなんで游さんは怒ってんだよ…!」

「お前が銀時ばっか見てるからじゃねぇか。」

「…えぇ。」



俺は決してそんなつもりはなかった。けど確かに俺は銀時さんを尊敬している。まだ出会ったばかりでそんな事言える立場じゃねぇけど未知の土地に連れて行かれて俺は不安でたまらねぇんだ。だから出来るだけ銀時さんの言うことを聞いていようと無意識のうちに考えていたのかもしれない。別に銀時さんばっかり見てるとかそういうじゃないのに。



「そんなつもりは…」

「いいや、あるな。お前銀時が好きなのかよ。」

「そんなわけねぇじゃん…!」



游さんがまた変なことを聞いてきた。だから俺は失礼かもしれねぇけど声を荒らげずにはいられなかった。だってもし仮に好きになったとしても俺なんかじゃ銀時さんには釣り合わない。そもそも好きになることなんてねぇけどな。俺はノンケだし。ノンケ…のはずだし。



「ふーん。ならいいわ。」

「…なんだよもう。游さんって変なことばっかり言うよな。」

「変な事じゃねぇよ。重要な事だ。いいから行くぞ誠也。頭が待ってる。」



なんだよそれ!まるで俺のせいで時間くってたみたいじゃねぇか!まぁいいけどさ!



「…行くってさ、慎都さん?って人のとこに?」

「おお、よく分かったな。さすがだ誠也。」

「話の流れで大体だけどな。」

「そうかそうか。けど不安そうな顔してんなお前。」

「そりゃ…怖いに決まってんだろ。色々あったし…。」



あの屋敷での出来事は死ぬという選択をしなければ忘れることは出来ないだろう。それぐらいには苦痛だった。今は游さん達がそばにいてくれるし、脅されていた星秀さんもここにいる。だから安心していいはずなのに頭の片隅に治や健二が残ってる。そんでまたいつか襲われるんじゃないかって怖くなるんだ。



「なぁ誠也。お前ってさ、意外に俺の事信用してんだな。」

「…え?」



信頼…?俺が…?今日会ったばかりの人のことを…?そんな事ある訳…。



「なーにとぼけた顔してんだ。いい事だろ。怖いって感情を口に出せるってのはそういう事だ。だからそれでいいんだぜ誠也。俺にはなんでも口に出せ。守ってやるから。」

「…遠慮…しとく。」

「はは、正直じゃねぇやつ。」



本当にそうだな。俺は正直に言えない。なんか…恥ずかしいし。俺は男だから男らしくいたいんだよ。そう思ってるはずなのに多分俺はこれから游さんに頼りっきりになるんだろうなと自分でも分かった。



「…うるさい游さん。」

「うるさいってなんだお前。」

「事実だ。」

「はぁ?ほんっと生意気なやつ。あ、ここが頭の部屋だ。」



游さんと話してたからあっという間に慎都さんって人の部屋の前に着いてしまった。けどその分俺は心の準備をすることが出来ていない。だから部屋に入る勇気がなかった。男らしくいたいとか言いながら矛盾してるよな。



「………ゆ、游さん。もう入るのか?」

「ああ。なんだよ怖気付いたか?」

「そんなんじゃねぇし…っ。」



やべぇ…っ。また強がっちまった。本当は怖くて仕方ないのに。どうしよう…っ。



「たく、お前は相変わらず俺には嘘がつけねぇな。ほらおいで。抱きしめてやるから。」

「い、いらねぇし…!」

「いいから抱きしめられてろ。お前が落ち着くまで待っててやる。」

「……………っ。」



誰かのためでもない。脅されてる訳でもない。ここにいろと脅迫もされてない。游さんは純粋に俺を落ち着かせようとしてくれてる。それが俺は嬉しかった。渚さん達も優しかったけどあの人たちは俺をあの屋敷から出してくれるという選択はしてくれなかった。なのに游さんは…あの人たちとは全然違ったんだ。



「……ありがとう。」

「お。誠也、お前礼が言えるのか。立派だな。」

「なっ、そんぐらい言えるに決まってんだろ!!俺もう16歳だぞ!」

「はは、そうかそうか。」



俺は游さんに馬鹿にされるような事を言われ思わず声を荒らげた。游さんには悪気はないようだが俺からしたら馬鹿にされてるとしか思えなかった。だからちょっと怒ったのに游さんは楽しそうに笑いながら俺のほっぺを摘んでくる。



「ちょっ…何してんだよ游さん。」

「お前って頬っぺたも可愛いよな。」

「…なんだよそれ。」



と、俺が言ったその瞬間閉ざされていた目の前のドアが開いた。そしてその直後部屋の中から見知らぬ男が出てきた。この人が…。



「おい游。さっきから騒がしいぞ…って誠也がいたのか。」

「あ、お疲れ様です頭。」
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