極道の密にされる健気少年

安達

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創始

154話 温もり

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「駿里?どうしたの?」


ドアの方を見つめ嗚咽を漏らしながら大量に涙を流し始めた駿里を見て伊吹らは不思議に思い、駿里がみている方向を見ようとした。



カチャリ



ーーが、すぐにそれは制止されてしまう。5人全員の後頭部に銃口が押し付けられた為に。


「今すぐ駿里から離れろ。」


巽らを見据えた寛也の目には、思わず息を呑む獰猛さがあった。森廣は寛也がこのままコイツらを殺してしまうのではないかと焦ってしまうほどに。それはまずい。こいつらを簡単に死なせるわけにはいかないから。


「………は?なんで、嘘だろ。」

「どういうことだよお前ら!!さっき帰ったって言ってたじゃねぇかよ!!」


ずっと地下室に居た雅紀が叫んだ。帰ったと言っていたはずなのになぜここにいるのだ、と。だが巽らも帰ったはずの寛也達がいることに訳が分からない様子だった。


「何とか言え、…っく゛あぁっ!」


松下が寛也の指示で迷わず雅紀に発砲した。松下はこの組の誰よりも目標をとらえ狙撃するのがうまい。今回も血管を避けて出血死しない箇所を狙い見事命中させた。絶対に殺さず痛みのみを与えるために。



「黙れ。今すぐ汚ぇ口を閉じろ。許可無く話すな。俺の大切なもんに手を出したんだ。ただで済むと思うなよ。毒薬でも飲ませて死ぬギリギリまで苦しめてから解毒薬を飲ませてやる。それを毎日のようにな。でも安心しろよ。殺しはしないからな。本当の生き地獄を味あわせてやるよ。」

「っ、だとしても駿里はもう俺らのもんなんだよ!ははっ!見ろよこいつの体。俺らがつけた印だらけだろ?馬鹿みたいに抱き潰したからな。駿里は一生俺達のことを忘れられねぇ!恐怖で支配したからなあ!!」



もう何もかもどうでも良くなったのだろう。巽が寛也をわざと怒らせようと挑発し始めた。だが寛也がそんなに挑発に乗るはずがない。ただただ無表情で雅紀らを見ている。負け犬の遠吠えを。



「残念だったな!自分についてる跡を見る度怖くなる。思い出す。俺たちのことを!駿里はもう外に出ることすらままならねぇ体になっちまうかもなあ!俺たちを簡単に殺せると思うな、ーーっあ゛あ゛ぁっ!」

「黙れ。」



今度は志方が発砲した。巽に続くように寛也を挑発し始めた響の足を撃ち抜いたのだ。それも寛也の指示なしに。こいつらの言うこと一語一句に腹が立ち我慢できなくなったのだ。大切な駿里をこんな目に遭わせた挙句に反省の色も無いこいつらに。もう一度発砲しそうな勢いの志方を抑え寛也は前に出た。



「俺の部下は優秀だな。聞こえなかったか?俺は黙れと言ったんだ。」



そう言った寛也は怒り狂った顔をしていた。今すぐにでも殺したい衝動に必死に耐えているようだ。志方はその表情を見て1歩後ろに下がった。その様子を圷がじっくりと見ていた。なぜなら自分自身も伊吹らを撃ってしまっていたかもしれないから。いや、撃つだけならまだいい。撃ち殺していたかもしれない。

そして寛也から渡された毒薬を握りしめていた。寛也がなぜ毒薬を選んだのか。それにはちゃんとした理由があった。それは伊吹らが少年を始末する時に使っていたから。響らは苦しむ少年を見て、あろうことか楽しんでいたのだ。



「島袋、煙草谷、圷。」



寛也は名前を呼んだだけであったが指示が的確に伝わったようで3人は動き始めた。そして圷らが響たち全員を縛りあげて壁側に後ろ向きで膝立ちせた。寛也はそこからのこと全て部下に任せて一直線に駿里の元に向かう。


「駿里。遅くなってすまない。早く家に帰ろうな。」


寛也は駿里の拘束を全て解いて自分のスーツを被せた。


「……………っち、かや?」

「ああ、俺だよ。」


そう言って寛也は駿里のことを抱きしめた。こんなに酷い事をされるまで駿里を待たせてしまったことに後悔してもしきれなかった。もっと早く気づくべきだったと手遅れになった今、臍を噛んだ。でも、駿里は違った。寛也が迎えに来てくれたことが嬉しかった。だから、幸せそうに微笑んでいた。

ーーー寛也だ。やっぱり迎えに来てくれたんだ。夢じゃない。幸せだなぁ。

駿里は大好きな人の匂いに包まれて安心したのか倒れるように眠りについた。



「森廣、ここは任せた。」

「お任せを。指示通りこいつらをあの場所へ連れていきます。」

「ああ。おい志方と松下、お前らは俺と一緒に来い。」

「「はい。」」


寛也にそう言われて松下と志方は伊吹らを鋭い目付きで睨んだ後、急いで駿里を抱きかかえている寛也を追った。その2人の返事には怒気が混じっていた。駿里がこんな目に遭わせられて怒らないはずがない。ここで駿里の姿を見てその怒りが頂点に立った。一体どんな目に遭ったのか一目瞭然だったから。許すことなんて出来るはず無かった。


「待て寛也。その前に駿里の容態が見たい。」


念の為に寛也は司波も呼んでいた。その司波が駿里の顔色を見てただ事ではない、そう思い問診をしたいと言い出したのだ。


「車の中でしろ。ここにいると虫唾が走る。誤ってこいつらを殺してしまいそうだ。」

「ああ、分かった。」


司波も急いで寛也の後を追った。皆はすぐにでもこの空間から駿里を出したいのか、かなりの駆け足で車に向かっていた。

誰もが自分のせいだと責任を感じながら。













**********



「容態が酷すぎる。志方、駿里の体に何の薬を入れたのかアイツらから聞き出すように言っとけ。それが何か分からない限り治療すらまともに出来ねぇ。」


駿里は不整脈だけでなく体の所々に発疹もあった。確実に副作用を起こしている。このまま放置すれば命の危険もあるかもしれない。発作をいつ起こすか分からない。今の駿里は1秒たりとも油断出来ない状態だった。焦った司波は叫ぶように助手席に座っている志方言った。


「分かった。」


志方は司波に言われて直ぐに圷に電話をした。


『こんな時にどうした。何かあったのか?』


志方が圷に電話かけてすぐに圷が電話に出た。状況が状況なのでまた駿里に何かあったのではないかと心配になったのだ。その圷と繋がっている志方には伊吹らのものであろう。苦痛の声が聞こえてきた。寝てはいるのもも駿里に聞かせる訳にはいかないので志方はすぐに携帯の音量を下げた。


 「早急に頼みたい。そいつらに駿里に何の薬を入れたのか言わせろ。言わないようなら爪一枚でも剥いでやれ。」

『了解。』


志方が電話を切って数分もしないうちに圷からメールが来た。そこには司波が望むものが書かれていた。


「司波状況を説明してくれ。」

「ああ、そうだな悪い。不安にさせたな。でも大丈夫だ。これは軽い副作用であって気を抜かずに様子を見ていれば問題ない。駿里は助かるがここ数日は安静にする必要がある。」


司波は落ち着いた口調で話した。その話を聞いて寛也だけでなく志方と松下も心から安堵した。駿里が無事だと分かればやるべき事は1つだ。あいつらに制裁を下すのみ。


「感謝する。」

「俺は当たり前のことをしただけだ。それと1つ頼みがある。薬や治療では直せないものがあるからな。」


司波は優しく微笑みながら寛也を見た。


「どういうことだ。」

「お前だよ。」

「は?」


寛也は司波が何を言っているのかさっぱり分かっていないようだった。


「寛也、お前がそばにいてやれ。片時も離れずにな。今の駿里はかなりの精神的ショックを受けている。そんな駿里を支えらることが出来るのはお前だけだ。」


駿里が負った心の傷は寛也しか治すことが出来ない。それは寛也のことを駿里が誰よりも信頼し、愛しているから。


「…ああ。当たり前だ。」

「組長、あいつらの始末は俺らに任せてください。」


松下は寛也の分までアイツらに重い制裁を下そうと固い決意をしていた。


「いや、康二もそばにいてやってくれ。」


今の松下は怒り狂って何をするか分からない。それもあるが松下は駿里と過ごした時間がとても長い。だから松下もそばにいた方が駿里の心も休まるだろう、と寛也はそういったのだ。


「良いのですか?」

「その方が駿里も回復する。それと志方、お前には別に頼みたいことがある。後で話すからとりあえずお前も俺の家に来い。」

「承知しました。」


寛也はそう言っている間も駿里を強く抱き締め片時も離さなかった。だが駿里をこんな目に遭わせた伊吹らへの怒りは一向に消えなかった。駿里が目覚め、元気に笑う姿を見るまでは絶対に消えないだろう。


「駿里。」


愛する駿里の寝顔を見ながら寛也は数時間前のことを思い返していた。
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