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18 思わせぶりな手
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マジか。
てっきり上手いこと立ち回っているものとばかり思っていた。追放するはずだった悪役令嬢とイチャコラしながら破滅ルートを回避、そのまま王様に即位してリッチな異世界ライフをエンジョイする気満々だったんだわ。
それが全部、そう、全っっっ部裏目に出るとはなぁ。――いやいや、まだ生き延びる目は残されているっ! 今すぐバカ王子に戻って婚約破棄、追放後は最近流行りの田舎でスローライフでハーレムチートってやつをやっちゃいますか!
……なんてね。
正直、もうそんな気分じゃない。こう見えて俺、マジで怖かったんだぜ? このままじゃ世界に殺される、運良く生き延びたとしても幽閉とか、身ぐるみ剥がされて追放だとか、とにかくエグい末路が待ってるって。だからこそ、立派な王子になれるよう血眼で努力したんだぜ? それを、全部無意味でした、むしろ逆効果でしたと一刀両断されてみ? 萎えるぜマジで。
「アル?」
名を呼ばれ、俺は我に返る。手元では、俺の右手に握られたスプーンが延々とスープを掻き回している。俺の意識とは関係なく。それを、なんかちょっと面白いなと思ってしまう。ショックで情緒と思考が麻痺しているんだろう。
「その……大丈夫か?」
心配顔で覗き込むウェリナに、俺は「ああ、まぁ」と曖昧に笑む。
本音を言えば、大丈夫なんてもんじゃない。ただ、その説明すら今は鬱陶しくて、俺としては苦笑いで茶を濁すしかない。ところがウェリナの方は、何か察するものがあったのだろう。俺に負けず劣らず深刻な顔で、はぁ、と重い溜息をつく。伏せられた睫毛がそれはもう長くて、こんな時でもとりあえず目の保養に役立つイケメンはつくづく得だなと俺は思う。
「すまない……君も、記憶がないなりに精一杯王子らしく振舞ってくれたんだろう。そんな君をがっかりさせる物言いになってしまったことは……その、謝る」
いや、こいつに謝られてもな。
そもそも、こいつはこいつなりに俺を精一杯護ろうとしてくれたんだ。……まぁ、そういう事情があるなら早く言ってくれても良かったのに、と、本音を言えば思わなくもないが、それこそ後の祭りというやつだ。
「ただ……これだけは信じてほしい。たとえ君が忘れても、交わした約束は有効だ。この心臓が動く限り、俺は、君を護り続ける」
ウェリナの長い腕が伸び、俺の右手を引き留めるように強く握る。その手が悔しいほどに優しくて、俺は少し居た堪れなくなる。お前がいま握っているのは、お前が愛するアルカディアの手じゃない。見知らぬ異世界人の手なんだよ。アルカディアのガワを纏っているだけの。
そんな恋人のガワを纏うだけの男を、ウェリナはまっすぐに見つめてくる。その視線に、俺はまた苦しくなる。そういえば……あいつは、アルカディアはこいつをどう思っていたのかな。愛していたのかな。相思相愛だったのかな。だとしたら……本当に悪いことをした。まるで二人を引き裂くような真似をして。
同じ感情を、俺がウェリナに返せるわけじゃない。それでも、せめて生き延びよう。俺のためだけじゃない。ウェリナのためにも。
「わかった。ただ……具体的に、じゃあ俺はどうすればいい」
「うん。とりあえず、しばらくは療養と称してここに留まってくれ。うちで雇う侍女や使用人はみな身辺がはっきりしているし、各種マナーもぬかりなく仕込んである。宮殿ほどではないが、それなりに快適に過ごせるはずだ」
「……了解」
で、俺の安全を確保した上で今回の黒幕を探す、というわけか。確かに……その方が効率としては良いだろう。ただ、全てがウェリナ任せというのも気が乗らない。俺とて事件の当事者なのだ。何か、手伝えることはないだろうか。
「俺にもできることがあったら何でも言ってくれ。大した手伝いは出来ないかもしれないが……」
するとウェリナは、なぜかニヤリと意地悪く笑う。えっ、ここ笑うところか?
「そうだな。確かに、君には重要な仕事がある」
俺の右手に置かれたままの手が、する、と妖しげに蠢く。その絡みつくような手つきに、やべ、これ藪蛇だったなと俺は悟る。
「そう。君には……これからたくさんのことを思い出してもらわなきゃいけない。……わかるだろ、アル?」
てっきり上手いこと立ち回っているものとばかり思っていた。追放するはずだった悪役令嬢とイチャコラしながら破滅ルートを回避、そのまま王様に即位してリッチな異世界ライフをエンジョイする気満々だったんだわ。
それが全部、そう、全っっっ部裏目に出るとはなぁ。――いやいや、まだ生き延びる目は残されているっ! 今すぐバカ王子に戻って婚約破棄、追放後は最近流行りの田舎でスローライフでハーレムチートってやつをやっちゃいますか!
……なんてね。
正直、もうそんな気分じゃない。こう見えて俺、マジで怖かったんだぜ? このままじゃ世界に殺される、運良く生き延びたとしても幽閉とか、身ぐるみ剥がされて追放だとか、とにかくエグい末路が待ってるって。だからこそ、立派な王子になれるよう血眼で努力したんだぜ? それを、全部無意味でした、むしろ逆効果でしたと一刀両断されてみ? 萎えるぜマジで。
「アル?」
名を呼ばれ、俺は我に返る。手元では、俺の右手に握られたスプーンが延々とスープを掻き回している。俺の意識とは関係なく。それを、なんかちょっと面白いなと思ってしまう。ショックで情緒と思考が麻痺しているんだろう。
「その……大丈夫か?」
心配顔で覗き込むウェリナに、俺は「ああ、まぁ」と曖昧に笑む。
本音を言えば、大丈夫なんてもんじゃない。ただ、その説明すら今は鬱陶しくて、俺としては苦笑いで茶を濁すしかない。ところがウェリナの方は、何か察するものがあったのだろう。俺に負けず劣らず深刻な顔で、はぁ、と重い溜息をつく。伏せられた睫毛がそれはもう長くて、こんな時でもとりあえず目の保養に役立つイケメンはつくづく得だなと俺は思う。
「すまない……君も、記憶がないなりに精一杯王子らしく振舞ってくれたんだろう。そんな君をがっかりさせる物言いになってしまったことは……その、謝る」
いや、こいつに謝られてもな。
そもそも、こいつはこいつなりに俺を精一杯護ろうとしてくれたんだ。……まぁ、そういう事情があるなら早く言ってくれても良かったのに、と、本音を言えば思わなくもないが、それこそ後の祭りというやつだ。
「ただ……これだけは信じてほしい。たとえ君が忘れても、交わした約束は有効だ。この心臓が動く限り、俺は、君を護り続ける」
ウェリナの長い腕が伸び、俺の右手を引き留めるように強く握る。その手が悔しいほどに優しくて、俺は少し居た堪れなくなる。お前がいま握っているのは、お前が愛するアルカディアの手じゃない。見知らぬ異世界人の手なんだよ。アルカディアのガワを纏っているだけの。
そんな恋人のガワを纏うだけの男を、ウェリナはまっすぐに見つめてくる。その視線に、俺はまた苦しくなる。そういえば……あいつは、アルカディアはこいつをどう思っていたのかな。愛していたのかな。相思相愛だったのかな。だとしたら……本当に悪いことをした。まるで二人を引き裂くような真似をして。
同じ感情を、俺がウェリナに返せるわけじゃない。それでも、せめて生き延びよう。俺のためだけじゃない。ウェリナのためにも。
「わかった。ただ……具体的に、じゃあ俺はどうすればいい」
「うん。とりあえず、しばらくは療養と称してここに留まってくれ。うちで雇う侍女や使用人はみな身辺がはっきりしているし、各種マナーもぬかりなく仕込んである。宮殿ほどではないが、それなりに快適に過ごせるはずだ」
「……了解」
で、俺の安全を確保した上で今回の黒幕を探す、というわけか。確かに……その方が効率としては良いだろう。ただ、全てがウェリナ任せというのも気が乗らない。俺とて事件の当事者なのだ。何か、手伝えることはないだろうか。
「俺にもできることがあったら何でも言ってくれ。大した手伝いは出来ないかもしれないが……」
するとウェリナは、なぜかニヤリと意地悪く笑う。えっ、ここ笑うところか?
「そうだな。確かに、君には重要な仕事がある」
俺の右手に置かれたままの手が、する、と妖しげに蠢く。その絡みつくような手つきに、やべ、これ藪蛇だったなと俺は悟る。
「そう。君には……これからたくさんのことを思い出してもらわなきゃいけない。……わかるだろ、アル?」
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