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先輩
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その後も宮野との関係は密かに続けられた。
会えば、当然のように宮野とはそういう関係になった。宮野も宮野で、そうすることが当然であるかのように優人をホテルに誘い、そして抱いた。
時には夜のドライブに連れ出し、人気のない海岸そばの駐車場に車を止めてすることもあった。が、どんな場所でも変わらないのは宮野の丹念な愛撫と尽きることのない精力で、彼の懐の中では、優人はもはやただの無力な獲物でしかなかった。
が、そんな優人も優人で、あの何かを欲するような熱い眼差しで見つめられると、それだけで熱い塊を求めて全身が疼いてしまう。
まるでパブロフの犬だ――
そう自嘲してみる。が、求められることそれ自体の快楽は否めず、結局は宮野の要求に応じてしまう。そして、ことが終わると決まって優人はそんな自分が許せなくなるのだった。
「あの、もうやめませんか」
ある時、意を決してそう切り出したことがある。
「何をだ?」
ベッドの縁に腰を下ろし、役目を終えたゴムを外しながら問う宮野に、達した直後の裸体をシーツに投げ出したまま優人は答えた。
「こういうことを……です。これって奥さんに対する裏切り行為じゃないですか」
「昔もやってたろ。今更じゃないのか?」
「いや、確かにやってましたけど……でも、あの時はまだ結婚していらっしゃらなかったでしょ。……でも今は、結婚してそれに、」
「そう思うなら、お前こそ、じゃあどうして抱かれたんだ?」
言いながら宮野は、おもむろに優人の身体にのしかかってくる。
宥めるような口づけが唇から顎へ、そして首筋へと移る。あの頃と変わらない、いや、あの頃以上に技巧の上がった絶妙の愛撫に、ついさっき達したばかりだというのに早くも身体が蕩けてしまいそうになる。
「や……めてください、っ!」
それでも無理やり突っぱねると、今度こそ本気だと思ったのだろう、宮野は聞き分けのない子供を見る目で優人を見下ろした。
「どうした。今日はやけに反抗的だな」
いたずらっぽく見下ろす宮野の目を、優人は静かに睨み返す。
「せ……先輩こそ、どういうつもりなんですか」
「と言うと?」
「とぼけないで下さい。もうすぐお子さんが生まれるのに、なんで昔振った男をわざわざ呼びつけて抱くんです。そっちの神経の方がどうかしてますよ」
「決まってるだろう。抱きたいからさ」
「こ、答えになってませんよ!」
抗うように言いながら、それでも心のどこかで嬉しく思ってしまう自分を優人は否めない。こんな自分でも抱きたいと思ってくれる人がいることに――必要としてくれる人間がいることに。
「わかったよ。じゃあ、そんな優人でも納得できるように詳しく説明してやろう」
そっと身を起こすと、宮野は今なお一糸纏わぬ優人の身体を舐めるように見回した。
「好きなんだよ。この肉付きの薄いほっそりとした身体が。抜けるように白い肌が。お前のその綺麗な顔が……まっすぐな黒髪が」
その身体が、おもむろに優人の胸板に沈み込む。そして――
「ふあっ!」
分厚い唇が、ちゅう、と胸の突起に吸い付く。途端、火花のようなものが背筋を走って優人は思わず悲鳴を上げた。
さらに宮野は、甚振るように舌先で転がしながら、指先でもう一方の突起を捉える。
「や……めてくだ……あ、うっっ」
強く押しつぶすような刺激に、早くも優人は身を悶えさせる。彼の胸が弱いことを最初に発見し、そして開発したのは、ほかでもないこの男の指であり、そして舌だった。
なおも宮野の、優人の身体を知り尽くした愛撫は続く。
「い、いや……んっっ」
「さっきまで散々それらしいことを言いながら、もうこれか。お前もしょうがないな」
「だ、だって……あんっ!」
かり、と前歯で突起を噛まれ、思わず背筋が跳ねる。駄目だと分かっていても感じてしまうのは、やはり、今もこの男を愛しているからだろう。
頭を上げた宮野が、満足そうに優人の顔を覗き込んでくる。
「だいぶ表情が色っぽくなってきたな」
声が上擦っているのは、宮野自身ふたたび昂奮を高めているせいだろう。
「そうそう、この顔。この顔がいいんだ」
男らしく骨ばった手のひらが、ぺちぺちと優人の頬を叩く。
「それに、昂奮するとすぐ上気する肌もたまらない」
強引な唇が優人の唇を奪う。先ほどの愛撫で弛緩した優人の唇は、男の荒ぶる舌先にあっけなく割られ、奥への侵入を許してしまう。
呼吸さえ塞がれながら、器用な舌に無理やり粘膜をまさぐられる感覚に、優人はどうしようもなく恍惚を感じてしまう。それが、苦しければ苦しいほどなお。
「やばい……また挿れたくなってきた」
鼻先で下卑た口調で囁かれ、不快に思いつつも優人は昂奮を高めてしまう。
求めてくれる。必要としてくれる。そういう存在に、優人は昔からおそろしく弱い。
「い……いい、ですよ」
優人の言葉に、目の前の男は嬉しそうに目を細めた。
足を割られ、膝を高々と掲げられる。あられもない恰好を晒しながら、そんな自分を見られているという事実にいっそうの昂奮を覚えてしまう。
が、宮野の視線があの場所に注がれていることに気づいたときは、さすがに恥ずかしで頭が爆発しそうになった。
「み、見ないでくださいっ!」
「どうして。こんなにピンク色で可愛いのに」
「かっ、可愛くなんか……」
あまりの恥辱に耐えられず、つい枕に頬を埋める。そんな優人を、さらに信じられない刺激が襲って優人は泣きそうになった。
見ると、宮野の顔が股の下に埋まっている。
まさか――
「な、先輩っっ何を! ……ぅあ!」
粘膜の浅い場所を、ざらりと濡れたものが舐め回す。初めての経験ではないとはいえ、久しぶりとなるとさすがに違和感を覚えずにはいられない。
「欲しいか?」
「……え?」
「だから、欲しいかって聞いてるんだよ」
あれのことに違いない。さっきも散々捩じ込まれて、正直、立て続けの挿入は身体への負担が大きい。が、それでも……
「……はい」
苦しい姿勢で見上げながら、優人は小さく頷いた。そのように答えた方が、より先輩の満足と歓心を得られることを知っているからだ。
「ほう、何が欲しい?」
宮野の顔に、甚振るような笑みが浮かぶ。
「ペ……」
「ペ?」
「……ニス、が、欲しいです、先輩の……おおきな……」
たどたどしい優人の言葉に、宮野はやや飽き足らないという顔で鼻を鳴らすと、
「まぁ、いいだろう」
と、軽く肩をすくめた。
ホテルを出ると、普段はそのまま家路につくところ、少し寄らないかと近くのカフェに連れ出された。
二人してブラックコーヒーを頼み、空いたテーブルを探す。深夜のカフェは意外なほど賑わっていて、どのテーブルも仕事帰りのサラリーマンらしき男性の姿で埋まっている。
ようやく店の奥に空いたテーブルを見つけ、二人して腰を落ち着ける。
淹れたてのコーヒーに口をつけると、さっそく宮野は切り出した。
「俺との関係を後ろめたく思うのは、お前自身のトラウマのせいか?」
「えっ?」
「昔、俺に話したことがあっただろ。自分は両親が離婚して、おかげで幼少時代は随分寂しい思いをしたと」
そういえば昔、そんなことを宮野に話した覚えがある。
自分の両親は自分が幼い頃に離婚し、以来、両親とはほとんど離れて暮らす生活を余儀なくされたこと。――その離婚の原因が、父親の浮気にあったこと。
「別に……寂しいとか、そういうのは……」
「でも、何も思わなかったわけではないんだろう。さもなければ、わざわざ俺に話して聞かせることもしなかった」
にやりと勝ち誇るように笑うと、宮野は旨そうに手元のコーヒーを啜った。
「たとえば俺が、お前を選んであいつと別れたとして」
「え?」
「それは、別にお前のせいじゃない。強いて責任を挙げるとすれば、そもそもあの時、お前を選ばなかった俺のせいだ」
「……」
「だから別に、お前がお前を責める必要はない」
「……はい」
頷きながら、しかし優人は、心の片隅では何か釈然としないものを感じていた。それが一体何であるかは、だが、この時の優人には分からなかった。
会えば、当然のように宮野とはそういう関係になった。宮野も宮野で、そうすることが当然であるかのように優人をホテルに誘い、そして抱いた。
時には夜のドライブに連れ出し、人気のない海岸そばの駐車場に車を止めてすることもあった。が、どんな場所でも変わらないのは宮野の丹念な愛撫と尽きることのない精力で、彼の懐の中では、優人はもはやただの無力な獲物でしかなかった。
が、そんな優人も優人で、あの何かを欲するような熱い眼差しで見つめられると、それだけで熱い塊を求めて全身が疼いてしまう。
まるでパブロフの犬だ――
そう自嘲してみる。が、求められることそれ自体の快楽は否めず、結局は宮野の要求に応じてしまう。そして、ことが終わると決まって優人はそんな自分が許せなくなるのだった。
「あの、もうやめませんか」
ある時、意を決してそう切り出したことがある。
「何をだ?」
ベッドの縁に腰を下ろし、役目を終えたゴムを外しながら問う宮野に、達した直後の裸体をシーツに投げ出したまま優人は答えた。
「こういうことを……です。これって奥さんに対する裏切り行為じゃないですか」
「昔もやってたろ。今更じゃないのか?」
「いや、確かにやってましたけど……でも、あの時はまだ結婚していらっしゃらなかったでしょ。……でも今は、結婚してそれに、」
「そう思うなら、お前こそ、じゃあどうして抱かれたんだ?」
言いながら宮野は、おもむろに優人の身体にのしかかってくる。
宥めるような口づけが唇から顎へ、そして首筋へと移る。あの頃と変わらない、いや、あの頃以上に技巧の上がった絶妙の愛撫に、ついさっき達したばかりだというのに早くも身体が蕩けてしまいそうになる。
「や……めてください、っ!」
それでも無理やり突っぱねると、今度こそ本気だと思ったのだろう、宮野は聞き分けのない子供を見る目で優人を見下ろした。
「どうした。今日はやけに反抗的だな」
いたずらっぽく見下ろす宮野の目を、優人は静かに睨み返す。
「せ……先輩こそ、どういうつもりなんですか」
「と言うと?」
「とぼけないで下さい。もうすぐお子さんが生まれるのに、なんで昔振った男をわざわざ呼びつけて抱くんです。そっちの神経の方がどうかしてますよ」
「決まってるだろう。抱きたいからさ」
「こ、答えになってませんよ!」
抗うように言いながら、それでも心のどこかで嬉しく思ってしまう自分を優人は否めない。こんな自分でも抱きたいと思ってくれる人がいることに――必要としてくれる人間がいることに。
「わかったよ。じゃあ、そんな優人でも納得できるように詳しく説明してやろう」
そっと身を起こすと、宮野は今なお一糸纏わぬ優人の身体を舐めるように見回した。
「好きなんだよ。この肉付きの薄いほっそりとした身体が。抜けるように白い肌が。お前のその綺麗な顔が……まっすぐな黒髪が」
その身体が、おもむろに優人の胸板に沈み込む。そして――
「ふあっ!」
分厚い唇が、ちゅう、と胸の突起に吸い付く。途端、火花のようなものが背筋を走って優人は思わず悲鳴を上げた。
さらに宮野は、甚振るように舌先で転がしながら、指先でもう一方の突起を捉える。
「や……めてくだ……あ、うっっ」
強く押しつぶすような刺激に、早くも優人は身を悶えさせる。彼の胸が弱いことを最初に発見し、そして開発したのは、ほかでもないこの男の指であり、そして舌だった。
なおも宮野の、優人の身体を知り尽くした愛撫は続く。
「い、いや……んっっ」
「さっきまで散々それらしいことを言いながら、もうこれか。お前もしょうがないな」
「だ、だって……あんっ!」
かり、と前歯で突起を噛まれ、思わず背筋が跳ねる。駄目だと分かっていても感じてしまうのは、やはり、今もこの男を愛しているからだろう。
頭を上げた宮野が、満足そうに優人の顔を覗き込んでくる。
「だいぶ表情が色っぽくなってきたな」
声が上擦っているのは、宮野自身ふたたび昂奮を高めているせいだろう。
「そうそう、この顔。この顔がいいんだ」
男らしく骨ばった手のひらが、ぺちぺちと優人の頬を叩く。
「それに、昂奮するとすぐ上気する肌もたまらない」
強引な唇が優人の唇を奪う。先ほどの愛撫で弛緩した優人の唇は、男の荒ぶる舌先にあっけなく割られ、奥への侵入を許してしまう。
呼吸さえ塞がれながら、器用な舌に無理やり粘膜をまさぐられる感覚に、優人はどうしようもなく恍惚を感じてしまう。それが、苦しければ苦しいほどなお。
「やばい……また挿れたくなってきた」
鼻先で下卑た口調で囁かれ、不快に思いつつも優人は昂奮を高めてしまう。
求めてくれる。必要としてくれる。そういう存在に、優人は昔からおそろしく弱い。
「い……いい、ですよ」
優人の言葉に、目の前の男は嬉しそうに目を細めた。
足を割られ、膝を高々と掲げられる。あられもない恰好を晒しながら、そんな自分を見られているという事実にいっそうの昂奮を覚えてしまう。
が、宮野の視線があの場所に注がれていることに気づいたときは、さすがに恥ずかしで頭が爆発しそうになった。
「み、見ないでくださいっ!」
「どうして。こんなにピンク色で可愛いのに」
「かっ、可愛くなんか……」
あまりの恥辱に耐えられず、つい枕に頬を埋める。そんな優人を、さらに信じられない刺激が襲って優人は泣きそうになった。
見ると、宮野の顔が股の下に埋まっている。
まさか――
「な、先輩っっ何を! ……ぅあ!」
粘膜の浅い場所を、ざらりと濡れたものが舐め回す。初めての経験ではないとはいえ、久しぶりとなるとさすがに違和感を覚えずにはいられない。
「欲しいか?」
「……え?」
「だから、欲しいかって聞いてるんだよ」
あれのことに違いない。さっきも散々捩じ込まれて、正直、立て続けの挿入は身体への負担が大きい。が、それでも……
「……はい」
苦しい姿勢で見上げながら、優人は小さく頷いた。そのように答えた方が、より先輩の満足と歓心を得られることを知っているからだ。
「ほう、何が欲しい?」
宮野の顔に、甚振るような笑みが浮かぶ。
「ペ……」
「ペ?」
「……ニス、が、欲しいです、先輩の……おおきな……」
たどたどしい優人の言葉に、宮野はやや飽き足らないという顔で鼻を鳴らすと、
「まぁ、いいだろう」
と、軽く肩をすくめた。
ホテルを出ると、普段はそのまま家路につくところ、少し寄らないかと近くのカフェに連れ出された。
二人してブラックコーヒーを頼み、空いたテーブルを探す。深夜のカフェは意外なほど賑わっていて、どのテーブルも仕事帰りのサラリーマンらしき男性の姿で埋まっている。
ようやく店の奥に空いたテーブルを見つけ、二人して腰を落ち着ける。
淹れたてのコーヒーに口をつけると、さっそく宮野は切り出した。
「俺との関係を後ろめたく思うのは、お前自身のトラウマのせいか?」
「えっ?」
「昔、俺に話したことがあっただろ。自分は両親が離婚して、おかげで幼少時代は随分寂しい思いをしたと」
そういえば昔、そんなことを宮野に話した覚えがある。
自分の両親は自分が幼い頃に離婚し、以来、両親とはほとんど離れて暮らす生活を余儀なくされたこと。――その離婚の原因が、父親の浮気にあったこと。
「別に……寂しいとか、そういうのは……」
「でも、何も思わなかったわけではないんだろう。さもなければ、わざわざ俺に話して聞かせることもしなかった」
にやりと勝ち誇るように笑うと、宮野は旨そうに手元のコーヒーを啜った。
「たとえば俺が、お前を選んであいつと別れたとして」
「え?」
「それは、別にお前のせいじゃない。強いて責任を挙げるとすれば、そもそもあの時、お前を選ばなかった俺のせいだ」
「……」
「だから別に、お前がお前を責める必要はない」
「……はい」
頷きながら、しかし優人は、心の片隅では何か釈然としないものを感じていた。それが一体何であるかは、だが、この時の優人には分からなかった。
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