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家
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「おっ月島、ヨリが戻ったのか?」
ふと肩を叩かれ、振り返ると、中村が驚いたように優人の手元を覗き込んでいた。
「え?」
「え、じゃねぇよ。復活してんじゃねーか、ったく見せつけやがってよぉ」
はっと優人は手元の弁当に目を戻す。たったいま蓋を開いたばかりのそこには、白飯に特大サイズのハートマークがでかでかと描かれていた。
復帰早々、さっそくやりやがって、あのバカ……
「おい」
背後から首に腕を回され、ぐいと絞められる。
「な、何ですか、いきなり……」
「よかったなこの野郎」
「えっ?」
意外な激励に目だけで振り返ると、中村はにやりと笑って腕を解き、後は何事もなかったように廊下の方へと去っていった。
ドアを開くと、カレーの香ばしい匂いがふわりと部屋から漂ってきた。
「おっかえりなさぁい優人さん!」
ついでに、あの居酒屋の掛け声も。見ると朝比奈は、キッチンでぐるぐると鍋をかき混ぜながら、にまにま気色の悪い笑みを優人に投げかけている。
「……何度言ったら分かるんだよ。いちいち大声出すなって、」
「大丈夫です! 基本的に僕の声は優人さん以外には聞こえませんから、ご近所に迷惑をかける心配はありません!」
「その俺が迷惑だって言ってんだよっ!」
優人の言葉に、朝比奈は「あっ」と小さく叫ぶと、軽く握った自分の拳でこつんと額を叩いた。可愛さを装ったつもりだろうが、仕草のセンスからして古いうえに、そもそも大の男が真似たところで可愛くも何ともない。
「おい……そういうのマジでやめろ。殺意が湧く」
「え?」
何を言っているのか分からないという顔で小首をかしげる朝比奈に、優人は手元のビジネス鞄を無造作に投げつけた。
「わわっ」
お玉から手を離し、慌てて鞄をキャッチする朝比奈。その動きがやや鈍臭いところを見ると、運動神経の方はさほど良くはないらしい。
その朝比奈が、ふと、何かを思い出したように顔を上げる。
「お爺さまの様子はどうでした?」
「お爺さま? ……ああ、じいちゃんな」
指先で手早くネクタイを解きながら、ぼんやりと天井を見上げる。
「意外と元気そうだったぜ。母親の話だとリハビリの方も順調に進んでいて、一時期に比べると、足の機能も多少だが回復しているらしい」
「それは……よかったですね」
ぎゅっと鞄を抱きしめながらそう答える朝比奈の、心底嬉しそうな笑みになぜか優人はどきりとなる。男の印象を、それも自分よりガタイの立派な成人男子を評するのにふさわしい表現とは言えないが、今の朝比奈の笑みは確かに――
「どうしました?」
「い、いや、何でもねぇよ」
慌てて顔をそらす。口が裂けても、こいつの前で笑顔が可愛かったなどとは言えない。
「それで……ついでに母親とも話してきたんだが」
「お母さまと?」
「……ああ」
そもそも今日は、母と話し合うためにわざわざ早めに会社を引き上げ、電車で二時間近くはかかる実家に立ち寄ったのだ。祖父の見舞いはいわばそのついでだ。
「で、その結果、月に何度かは実家に行ってじいちゃんの通院やら介護を助けることになったんだけど……そうなると、まぁ実家に泊まることも増えるわけで、多分、お前に寂しい思いをさせることも増えると思う……」
どう思う、と伺うように朝比奈を見ると、朝比奈は答える代わりに優しく笑った。
そんな朝比奈に、優人もふっと笑い返す。
「……ありがとな」
「えっ?」
「何というか、お前のおかげで……まぁ、余計なお世話っちゃあ余計なお世話なんだけど、まぁ……今回に関しては結果的に良かったっていうか」
すると朝比奈は照れたようにえへへと笑って、
「まぁ、住む人を幸せにするのが部屋の役目ですから」
「……ごめん、やっぱ余計な世話だったわ」
優人の言葉を真に受けたのだろう、朝比奈は「そ、そんなぁ」と涙声で呻いた。
ふと肩を叩かれ、振り返ると、中村が驚いたように優人の手元を覗き込んでいた。
「え?」
「え、じゃねぇよ。復活してんじゃねーか、ったく見せつけやがってよぉ」
はっと優人は手元の弁当に目を戻す。たったいま蓋を開いたばかりのそこには、白飯に特大サイズのハートマークがでかでかと描かれていた。
復帰早々、さっそくやりやがって、あのバカ……
「おい」
背後から首に腕を回され、ぐいと絞められる。
「な、何ですか、いきなり……」
「よかったなこの野郎」
「えっ?」
意外な激励に目だけで振り返ると、中村はにやりと笑って腕を解き、後は何事もなかったように廊下の方へと去っていった。
ドアを開くと、カレーの香ばしい匂いがふわりと部屋から漂ってきた。
「おっかえりなさぁい優人さん!」
ついでに、あの居酒屋の掛け声も。見ると朝比奈は、キッチンでぐるぐると鍋をかき混ぜながら、にまにま気色の悪い笑みを優人に投げかけている。
「……何度言ったら分かるんだよ。いちいち大声出すなって、」
「大丈夫です! 基本的に僕の声は優人さん以外には聞こえませんから、ご近所に迷惑をかける心配はありません!」
「その俺が迷惑だって言ってんだよっ!」
優人の言葉に、朝比奈は「あっ」と小さく叫ぶと、軽く握った自分の拳でこつんと額を叩いた。可愛さを装ったつもりだろうが、仕草のセンスからして古いうえに、そもそも大の男が真似たところで可愛くも何ともない。
「おい……そういうのマジでやめろ。殺意が湧く」
「え?」
何を言っているのか分からないという顔で小首をかしげる朝比奈に、優人は手元のビジネス鞄を無造作に投げつけた。
「わわっ」
お玉から手を離し、慌てて鞄をキャッチする朝比奈。その動きがやや鈍臭いところを見ると、運動神経の方はさほど良くはないらしい。
その朝比奈が、ふと、何かを思い出したように顔を上げる。
「お爺さまの様子はどうでした?」
「お爺さま? ……ああ、じいちゃんな」
指先で手早くネクタイを解きながら、ぼんやりと天井を見上げる。
「意外と元気そうだったぜ。母親の話だとリハビリの方も順調に進んでいて、一時期に比べると、足の機能も多少だが回復しているらしい」
「それは……よかったですね」
ぎゅっと鞄を抱きしめながらそう答える朝比奈の、心底嬉しそうな笑みになぜか優人はどきりとなる。男の印象を、それも自分よりガタイの立派な成人男子を評するのにふさわしい表現とは言えないが、今の朝比奈の笑みは確かに――
「どうしました?」
「い、いや、何でもねぇよ」
慌てて顔をそらす。口が裂けても、こいつの前で笑顔が可愛かったなどとは言えない。
「それで……ついでに母親とも話してきたんだが」
「お母さまと?」
「……ああ」
そもそも今日は、母と話し合うためにわざわざ早めに会社を引き上げ、電車で二時間近くはかかる実家に立ち寄ったのだ。祖父の見舞いはいわばそのついでだ。
「で、その結果、月に何度かは実家に行ってじいちゃんの通院やら介護を助けることになったんだけど……そうなると、まぁ実家に泊まることも増えるわけで、多分、お前に寂しい思いをさせることも増えると思う……」
どう思う、と伺うように朝比奈を見ると、朝比奈は答える代わりに優しく笑った。
そんな朝比奈に、優人もふっと笑い返す。
「……ありがとな」
「えっ?」
「何というか、お前のおかげで……まぁ、余計なお世話っちゃあ余計なお世話なんだけど、まぁ……今回に関しては結果的に良かったっていうか」
すると朝比奈は照れたようにえへへと笑って、
「まぁ、住む人を幸せにするのが部屋の役目ですから」
「……ごめん、やっぱ余計な世話だったわ」
優人の言葉を真に受けたのだろう、朝比奈は「そ、そんなぁ」と涙声で呻いた。
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