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1章
9話 ベル・エポックの終わり
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「えっ」
驚いたように振り返る将司に、嶋野はにっこりと微笑む。
「実を言いますと、私もまたギフテッドの一人なのです。私が与えられたギフトは〝権威〟。私の絵を目にした者は、否応なく私を権威ある存在として仰がざるをえなくなる」
「絵? ……ま、まさか、あの名刺の殴り書きが、」
「ドローイング、です。たとえ一本のラインでも、何かしらの輪郭を取ればそれは既にアートなのですよ。そして……あなたは賢い方なので、すぐにご理解頂けるはずです。このような力を野放しにすれば、社会にとって、どれほどの脅威になりえるか。例えば、私がその気になりさえすれば、この国すら容易に牛耳ることができる」
ひゅっ、と将司が大きく息を呑む。それが合図だったかのように嶋野は上体を起こすと、何事もなかったように元の席に座り直し、コーヒーを啜る。一方の将司は、なおも天井を見据えたまま呆然としていた。あれほど大きかったはずの父の姿が、今の漣にはやけに小さく見える。
やがて将司は身を起こすと、今度は萎れるように項垂れ、両手で顔を覆う。
「あれが……全部、こいつのせいだったと……」
こいつ、とは、漣のことだろう。
「とんでもないことが起きているとは、感じていた……いくら病理検査を試みても、何の異常も見当たらない。なのに次々と患者が亡くなってゆく。……どうしようも、なかった。患者の遺族に、何度も、何度も頭を下げて……俺はこれから、どの面を下げて医師を続ければいい」
「と……父さん、」
「触るな人殺しがッッ!」
肩に伸ばされた息子の手を、将司は容赦なく払いのける。そのまま跳ねるようにソファを立つと、リビング脇のダイニングテーブルでのろのろと椅子を引き、力なく腰を下ろした。
そんな父の横をすり抜けるように、キッチンから母の美香が現われる。その顔は、父に負けず劣らす蒼褪めていて、今にもくずおれそうな身体を気力だけでどうにか保っているようだった。
「漣、行きなさい」
その固く強張った顔が、蒼褪めたまま優しく笑む。
「本当を言うとね、ずっと……あなたに謝りたいと思ってた。あんなに絵を描くことが好きだったあなたから、受験勉強のためと言って、無理やり絵筆を取り上げてしまった。……絵を描くことは、ずっと、あなたの一部だった。それなのに、私たちは……」
「そ、んな……いいんだよ、もう……」
むしろ、今更謝られたところで何をどうしろというのか。……そう、どうしようもなかったのだ。父が息子に医師への道を強いたのも、母がそれに従ったのも、全て、どうしようもなかった。
それ以外の結末など、誰も、想像すらしなかったのだ。
「……嶋野さん」
すると名を呼ばれた嶋野は、やんわりと笑んだままカップから顔を上げる。完璧な美貌に完璧な微笑を乗せると、本当に、ただのマネキンみたいだ。
「何でしょう」
「その、施設ってのは……一度入ったら、もう二度と出られなかったりするんすか」
さっき嶋野も示したとおり、ギフテッドは野放しにすれば危険な存在だ。であれば当然、その管理も刑務所かそれ以上に厳しいものになるだろう――
「いえ」
「えっ?」
「ご覧のとおり、私はギフテッドにも関わらず堂々と外を出歩いています。確かに、原則は施設内での生活が強制されますが、外に出る方法や機会は皆無ではありません」
その言葉に漣はほっとする。思わず母を振り返ると、美香も安堵したように頬を緩めていた。これが今生の別れになることを、母も気に病んでいたのだろう。
「その代わり、と言っては何ですが、できればこのまま、我々の保護下に入ることをお勧めします」
「えっ?」
振り返ると、嶋野は口元の微笑はそのままに、心なしか険しい眼差しで漣を見据えている。
「詳細は伏せますが……君は今、極めて危うい状況に置かれているのです。先程、私が示したとおり、ギフトはいくらでも悪用が叶ってしまう。今回、我々が最初に君にコンタクトできたのは、多くの幸運と、そして、多くの人間の努力の賜物だと考えて頂きたい」
「それって……水面下では、俺を狙う奴がごろごろいるって事すか」
「そういう解釈で構いません」
そして嶋野は、飲み終えたカップをそっとテーブルに戻すと、テーブルに置かれたスマホを懐にしまいながら立ち上がる。そんな嶋野につられるように、漣もまたソファを立つ。
「わかりました。行きます」
漣の返事に、ダイニングの父は弾かれたように顔を上げる。幽鬼のように蒼褪めた顔はほとんど無表情で、もはや一切の感情を読み取ることができない。いや、きっと父自身、何を思い、何を考えればいいのか途方に暮れているのだろう。それを言えば漣自身、自分の身に起きたことは悪夢か何かだと思えてならなかった。今でも。
やがて父は、力なく項垂れ、溜息をつく。引き留める様子はない。確かに……たとえ引き留めたところで、すでに多くの人間を殺めてしまった息子に継がせる看板などあるわけがない。
こんな……人殺しに。
「荷物などは後ほど、協会の人間が引き取りに伺います。また、荷物が届くまでに必要な日用品や着替え等は、協会の方で用意させて頂きます」
説明を続けながら、嶋野は玄関へと向かう。と、ホールに出たところで、なぜか男物の革靴を手にした美海とばったり遭遇してしまう。
その美海は、漣の隣に立つ嶋野を見上げると、慌てて靴を三和土に戻した。
「私の靴が、どうかしましたか」
どうやら靴の主は嶋野だったらしい。
「えっ……あ、いえ何でも……暇だし、ちょっと磨いておこうかな、なんて」
「そうですか。ありがとうございます」
やんわり礼を言うと、さっそく嶋野は足を靴につっかける。と、途中で違和感を覚えたのか足を抜き、代わりに指を突っ込んで中から小さな紙片を取り出す。どうやら正体は、美海の電話番号やLINEのアドレスが書かれたメモらしい。こんな時でも美海は美海かと漣は呆れ、しかし、こんな日常もこれで最後なのかと今更のように胸が締め付けられる。いまいち歯車の噛み合わない家族だったが、それでも漣にとっては唯一の、愛すべき家族だったのだ。
一方の嶋野は、上がり框に腰を下ろすと、膝に置いた鞄を下敷きにメモ裏に何かを描き込み、それを美海に差し出す。
「残念ですが、立場上このメモを受け取ることはできません。……代わりと言っては何ですが、ご自身の生き方に迷ったときは、このメモを見て、どうか私のことを思い出してください」
「……はぁ」
どこか残念そうにメモを受け取った美海は、瞬間、はっと顔を上げ、まっすぐに嶋野を見る。一目惚れとも違う、例えば何か、ずっと待ち焦がれた巨匠の作品にようやく会えたような目。
「これからはあなたが、ご両親の希望になってください」
「は……はいっ! あたし、が、頑張り、ますっ!」
今の今までしょぼくれていた美海の、突然の変貌に漣は面食らう。さっきの裏書きが嶋野のドローイングだったとして、これもギフトの力だろうか。確かに……その気になればどれだけでも悪用できそうだ。
その危険な力を、漣もまた手にしている……
「ああ、確かにこれはミュシャだ」
見ると嶋野が、玄関脇のステンドグラスを眩しそうに見上げている。あれは確か、母が趣味で設置させた特注品だ。いや、それを言えば母は昔からデザインにうるさく、今の家を建てる時も設計士に細かく注文を入れていたことを思い出す。
「ああ、母の趣味です。ベル・エポック……でしたっけ」
「それは、パリが最も美しかった時代を指す言葉ですね。当時のパリを象徴するアートの潮流の一つがアール・ヌーヴォー。ミュシャは、その代表的なアーティストです。……なるほど、君のアートに対するセンスは、お母様によって養われたのですね」
ふと視線を感じて振り返ると、いつしか玄関ホールに現れた美香が、今にも泣き出しそうな目でじっと息子を見つめていた。父の姿は、やはりどこにもない。
「辛いこともあったでしょう。でも、ここでの暮らしは間違いなく、あなたにとっての美しい時代だったのだろうと思います」
「はい」
母への遠慮でも何でもなく、心から同意し、頷く。
「行きましょうか」
「……はい」
もう二度と、この家に戻ることはないだろう。
そう胸の内では予感しつつ、それでも強いてにこやかに笑むと、漣は母に、美海に、二十年間暮らした家に告げる。
「じゃ、いってきます」
驚いたように振り返る将司に、嶋野はにっこりと微笑む。
「実を言いますと、私もまたギフテッドの一人なのです。私が与えられたギフトは〝権威〟。私の絵を目にした者は、否応なく私を権威ある存在として仰がざるをえなくなる」
「絵? ……ま、まさか、あの名刺の殴り書きが、」
「ドローイング、です。たとえ一本のラインでも、何かしらの輪郭を取ればそれは既にアートなのですよ。そして……あなたは賢い方なので、すぐにご理解頂けるはずです。このような力を野放しにすれば、社会にとって、どれほどの脅威になりえるか。例えば、私がその気になりさえすれば、この国すら容易に牛耳ることができる」
ひゅっ、と将司が大きく息を呑む。それが合図だったかのように嶋野は上体を起こすと、何事もなかったように元の席に座り直し、コーヒーを啜る。一方の将司は、なおも天井を見据えたまま呆然としていた。あれほど大きかったはずの父の姿が、今の漣にはやけに小さく見える。
やがて将司は身を起こすと、今度は萎れるように項垂れ、両手で顔を覆う。
「あれが……全部、こいつのせいだったと……」
こいつ、とは、漣のことだろう。
「とんでもないことが起きているとは、感じていた……いくら病理検査を試みても、何の異常も見当たらない。なのに次々と患者が亡くなってゆく。……どうしようも、なかった。患者の遺族に、何度も、何度も頭を下げて……俺はこれから、どの面を下げて医師を続ければいい」
「と……父さん、」
「触るな人殺しがッッ!」
肩に伸ばされた息子の手を、将司は容赦なく払いのける。そのまま跳ねるようにソファを立つと、リビング脇のダイニングテーブルでのろのろと椅子を引き、力なく腰を下ろした。
そんな父の横をすり抜けるように、キッチンから母の美香が現われる。その顔は、父に負けず劣らす蒼褪めていて、今にもくずおれそうな身体を気力だけでどうにか保っているようだった。
「漣、行きなさい」
その固く強張った顔が、蒼褪めたまま優しく笑む。
「本当を言うとね、ずっと……あなたに謝りたいと思ってた。あんなに絵を描くことが好きだったあなたから、受験勉強のためと言って、無理やり絵筆を取り上げてしまった。……絵を描くことは、ずっと、あなたの一部だった。それなのに、私たちは……」
「そ、んな……いいんだよ、もう……」
むしろ、今更謝られたところで何をどうしろというのか。……そう、どうしようもなかったのだ。父が息子に医師への道を強いたのも、母がそれに従ったのも、全て、どうしようもなかった。
それ以外の結末など、誰も、想像すらしなかったのだ。
「……嶋野さん」
すると名を呼ばれた嶋野は、やんわりと笑んだままカップから顔を上げる。完璧な美貌に完璧な微笑を乗せると、本当に、ただのマネキンみたいだ。
「何でしょう」
「その、施設ってのは……一度入ったら、もう二度と出られなかったりするんすか」
さっき嶋野も示したとおり、ギフテッドは野放しにすれば危険な存在だ。であれば当然、その管理も刑務所かそれ以上に厳しいものになるだろう――
「いえ」
「えっ?」
「ご覧のとおり、私はギフテッドにも関わらず堂々と外を出歩いています。確かに、原則は施設内での生活が強制されますが、外に出る方法や機会は皆無ではありません」
その言葉に漣はほっとする。思わず母を振り返ると、美香も安堵したように頬を緩めていた。これが今生の別れになることを、母も気に病んでいたのだろう。
「その代わり、と言っては何ですが、できればこのまま、我々の保護下に入ることをお勧めします」
「えっ?」
振り返ると、嶋野は口元の微笑はそのままに、心なしか険しい眼差しで漣を見据えている。
「詳細は伏せますが……君は今、極めて危うい状況に置かれているのです。先程、私が示したとおり、ギフトはいくらでも悪用が叶ってしまう。今回、我々が最初に君にコンタクトできたのは、多くの幸運と、そして、多くの人間の努力の賜物だと考えて頂きたい」
「それって……水面下では、俺を狙う奴がごろごろいるって事すか」
「そういう解釈で構いません」
そして嶋野は、飲み終えたカップをそっとテーブルに戻すと、テーブルに置かれたスマホを懐にしまいながら立ち上がる。そんな嶋野につられるように、漣もまたソファを立つ。
「わかりました。行きます」
漣の返事に、ダイニングの父は弾かれたように顔を上げる。幽鬼のように蒼褪めた顔はほとんど無表情で、もはや一切の感情を読み取ることができない。いや、きっと父自身、何を思い、何を考えればいいのか途方に暮れているのだろう。それを言えば漣自身、自分の身に起きたことは悪夢か何かだと思えてならなかった。今でも。
やがて父は、力なく項垂れ、溜息をつく。引き留める様子はない。確かに……たとえ引き留めたところで、すでに多くの人間を殺めてしまった息子に継がせる看板などあるわけがない。
こんな……人殺しに。
「荷物などは後ほど、協会の人間が引き取りに伺います。また、荷物が届くまでに必要な日用品や着替え等は、協会の方で用意させて頂きます」
説明を続けながら、嶋野は玄関へと向かう。と、ホールに出たところで、なぜか男物の革靴を手にした美海とばったり遭遇してしまう。
その美海は、漣の隣に立つ嶋野を見上げると、慌てて靴を三和土に戻した。
「私の靴が、どうかしましたか」
どうやら靴の主は嶋野だったらしい。
「えっ……あ、いえ何でも……暇だし、ちょっと磨いておこうかな、なんて」
「そうですか。ありがとうございます」
やんわり礼を言うと、さっそく嶋野は足を靴につっかける。と、途中で違和感を覚えたのか足を抜き、代わりに指を突っ込んで中から小さな紙片を取り出す。どうやら正体は、美海の電話番号やLINEのアドレスが書かれたメモらしい。こんな時でも美海は美海かと漣は呆れ、しかし、こんな日常もこれで最後なのかと今更のように胸が締め付けられる。いまいち歯車の噛み合わない家族だったが、それでも漣にとっては唯一の、愛すべき家族だったのだ。
一方の嶋野は、上がり框に腰を下ろすと、膝に置いた鞄を下敷きにメモ裏に何かを描き込み、それを美海に差し出す。
「残念ですが、立場上このメモを受け取ることはできません。……代わりと言っては何ですが、ご自身の生き方に迷ったときは、このメモを見て、どうか私のことを思い出してください」
「……はぁ」
どこか残念そうにメモを受け取った美海は、瞬間、はっと顔を上げ、まっすぐに嶋野を見る。一目惚れとも違う、例えば何か、ずっと待ち焦がれた巨匠の作品にようやく会えたような目。
「これからはあなたが、ご両親の希望になってください」
「は……はいっ! あたし、が、頑張り、ますっ!」
今の今までしょぼくれていた美海の、突然の変貌に漣は面食らう。さっきの裏書きが嶋野のドローイングだったとして、これもギフトの力だろうか。確かに……その気になればどれだけでも悪用できそうだ。
その危険な力を、漣もまた手にしている……
「ああ、確かにこれはミュシャだ」
見ると嶋野が、玄関脇のステンドグラスを眩しそうに見上げている。あれは確か、母が趣味で設置させた特注品だ。いや、それを言えば母は昔からデザインにうるさく、今の家を建てる時も設計士に細かく注文を入れていたことを思い出す。
「ああ、母の趣味です。ベル・エポック……でしたっけ」
「それは、パリが最も美しかった時代を指す言葉ですね。当時のパリを象徴するアートの潮流の一つがアール・ヌーヴォー。ミュシャは、その代表的なアーティストです。……なるほど、君のアートに対するセンスは、お母様によって養われたのですね」
ふと視線を感じて振り返ると、いつしか玄関ホールに現れた美香が、今にも泣き出しそうな目でじっと息子を見つめていた。父の姿は、やはりどこにもない。
「辛いこともあったでしょう。でも、ここでの暮らしは間違いなく、あなたにとっての美しい時代だったのだろうと思います」
「はい」
母への遠慮でも何でもなく、心から同意し、頷く。
「行きましょうか」
「……はい」
もう二度と、この家に戻ることはないだろう。
そう胸の内では予感しつつ、それでも強いてにこやかに笑むと、漣は母に、美海に、二十年間暮らした家に告げる。
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