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第1部 暴君立志編 第2話 王太子、大劇場を作る
第2話 6
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「――シンシア! おまえとの婚約は破棄させてもらう!」
わたしの肩を抱いて、グラート様がリステロ様に声を張り上げる。
「僕はこの、エリスと出会って、真実の愛を見つけたんだ!」
グラート様の手に力が込められて、わたしは思わず痛みに顔をしかめた。
――なにが起きているのかわからない。
今日の新入生歓迎パーティー、わたしは欠席するつもりでいたのに。
なのに、昼頃、寮にグラート様の使いだという侍女達が現れて、どんどんと着飾らされ、気づけば彼に連れられて、この場に来ていた。
呆然としてリステロ様を見れば、あのお方は、わずかにお顔の色が悪いものの、毅然とグラート様を見つめて胸を張ってらっしゃった。
「――それはつまり、別に好きな女性ができたから、婚約を破棄したいという事でしょうか?
家同士の結びつきである貴族の婚約で、それがまかり通らない事は、王族に連なる公爵家のグラート様なら、ご存知でしょう?」
声を押さえて告げられるリステロ様の言葉に、グラート様は嘲笑するように歯をむき出した。
「通常なら、な。
だが、最近のおまえの行動は目に余る!」
――え?
「僕が知らないと思ったか? シンシア。
おまえ、事あるごとにエリスを虐げていたそうだな?
しかもエリスが庶民の出などと、あらぬ噂まで振りまいて!」
「――グラート様! それは違います!」
わたしはグラート様を見上げて、声をあげる。
「大丈夫だ、エリス。僕はそんな噂は信じていない。
――そもそもシンシア。
おまえこそ、下賤な庶民の踊り子の娘ではないか!
大方、天使の歌声を持つエリスを妬んで、そんな事を言いだしたのだろう?」
「グラート様。わたくしの事はいかように言ってもかまいません。
けれど、母を侮辱するのはおよしになってくださいませ。
母は生まれはどうであれ、今ではしっかりと侯爵家を支えております」
目の前で目まぐるしく繰り広げられる出来事に、わたしは意識が遠のいていくような感覚になる。
なんで……なぜ、こんな事になっているの?
「それで隠し通せると思って、リステロ家はおまえを婚約者に推したのだろうがな。
ウチは王族だぞ?
誰が下賤の血など、我が家に入れるものか!」
やっぱり同じ王族でも、この人は殿下とは違うんだ。
殿下なら、そんな事は言わないはず。
リステロ様を見れば、目に涙を浮かべているのに、毅然と姿勢を崩さず、グラート様を見据えている。
――ああ、リステロ様……いいえ。いまだけはかつてのように、お姉様と呼ばせてください。
あのお方が……お姉様が窮地に立たされているのに、大恩のあるわたしが怖がっていてどうするの。
――殿下、どうかわたしに勇気をください。
「グラート様! 庶民の血が下賤と言うのなら、わたしに流れるこの血もまた、下賤の血です!」
わたしはグラート様の手を振り払って、彼にそう声を張り上げる。
「わたしの母は異国から流れてきた、平民の歌い手でした」
「――バカな。シンシアにそう言わされているんだろう?」
グラート様が再びわたしを抱き寄せようと、手を伸ばしてきたけれど、わたしはそれを避けてお姉様の元へ駆け寄った。
「お姉様はわたしが貴族令嬢として恥ずかしくないよう、指導してくださっただけです!」
「お姉様って、貴女……」
驚いたようにお姉様がわたしの顔を見る。
「えへ。あの頃はわたし、もっとボロボロでしたからね。
でも、お姉様がスラムのみんなにご飯をくれたり、勉強を教えてくれたりしたご恩、わたしは一日たりとも忘れたことはありませんでしたよ」
あれから随分と月日が経ってしまったけれど。学園に来て、お姉様を一目見て、わたしはお姉様に気づく事ができた。
お姉様がわたしに気づいてくれなかったのは寂しかったけれど、相変わらず厳しくも優しく、わたしを導いてくれて嬉しかった。
――だから。
「わたしは貴方を愛してなどいません! わたしの気持ちを勝手に決めつけないでっ!」
わたしがそう叫ぶと、グラート様は顔を真っ赤にして唸った。
「おまえまで僕を騙していたのか! エリス!」
拳を振り上げ、駆け寄ってくるグラート様を見て、わたしは身を固くして目を瞑った。
――殴られる!
まるで庇うように、お姉様がわたしを抱きしめてくれるのがわかった。
けれど、衝撃はいつまでも来ない。
かわりにふわりと知らない花の香りがして、なぜか心が安らぐのを感じた。
……ああ、この香りは――
「――好いたはずの女相手に手を上げるとは。『真実の愛』も随分と安っぽいもんだな。グラート」
目を開けると、わたしを抱きしめたお姉様の前に、パーティー用の正装をなさった黒髪の男性が、グラート様の拳を受け止めていて。
「殿下……」
わたしが呟くと、殿下は顔だけこちらを振り返り、静かに告げた。
「エリス、シンシア。そこで見ているといい」
そうして殿下は歯をむき出して笑う。
「――『真実の愛』の壊れるところをなッ!」
わたしの肩を抱いて、グラート様がリステロ様に声を張り上げる。
「僕はこの、エリスと出会って、真実の愛を見つけたんだ!」
グラート様の手に力が込められて、わたしは思わず痛みに顔をしかめた。
――なにが起きているのかわからない。
今日の新入生歓迎パーティー、わたしは欠席するつもりでいたのに。
なのに、昼頃、寮にグラート様の使いだという侍女達が現れて、どんどんと着飾らされ、気づけば彼に連れられて、この場に来ていた。
呆然としてリステロ様を見れば、あのお方は、わずかにお顔の色が悪いものの、毅然とグラート様を見つめて胸を張ってらっしゃった。
「――それはつまり、別に好きな女性ができたから、婚約を破棄したいという事でしょうか?
家同士の結びつきである貴族の婚約で、それがまかり通らない事は、王族に連なる公爵家のグラート様なら、ご存知でしょう?」
声を押さえて告げられるリステロ様の言葉に、グラート様は嘲笑するように歯をむき出した。
「通常なら、な。
だが、最近のおまえの行動は目に余る!」
――え?
「僕が知らないと思ったか? シンシア。
おまえ、事あるごとにエリスを虐げていたそうだな?
しかもエリスが庶民の出などと、あらぬ噂まで振りまいて!」
「――グラート様! それは違います!」
わたしはグラート様を見上げて、声をあげる。
「大丈夫だ、エリス。僕はそんな噂は信じていない。
――そもそもシンシア。
おまえこそ、下賤な庶民の踊り子の娘ではないか!
大方、天使の歌声を持つエリスを妬んで、そんな事を言いだしたのだろう?」
「グラート様。わたくしの事はいかように言ってもかまいません。
けれど、母を侮辱するのはおよしになってくださいませ。
母は生まれはどうであれ、今ではしっかりと侯爵家を支えております」
目の前で目まぐるしく繰り広げられる出来事に、わたしは意識が遠のいていくような感覚になる。
なんで……なぜ、こんな事になっているの?
「それで隠し通せると思って、リステロ家はおまえを婚約者に推したのだろうがな。
ウチは王族だぞ?
誰が下賤の血など、我が家に入れるものか!」
やっぱり同じ王族でも、この人は殿下とは違うんだ。
殿下なら、そんな事は言わないはず。
リステロ様を見れば、目に涙を浮かべているのに、毅然と姿勢を崩さず、グラート様を見据えている。
――ああ、リステロ様……いいえ。いまだけはかつてのように、お姉様と呼ばせてください。
あのお方が……お姉様が窮地に立たされているのに、大恩のあるわたしが怖がっていてどうするの。
――殿下、どうかわたしに勇気をください。
「グラート様! 庶民の血が下賤と言うのなら、わたしに流れるこの血もまた、下賤の血です!」
わたしはグラート様の手を振り払って、彼にそう声を張り上げる。
「わたしの母は異国から流れてきた、平民の歌い手でした」
「――バカな。シンシアにそう言わされているんだろう?」
グラート様が再びわたしを抱き寄せようと、手を伸ばしてきたけれど、わたしはそれを避けてお姉様の元へ駆け寄った。
「お姉様はわたしが貴族令嬢として恥ずかしくないよう、指導してくださっただけです!」
「お姉様って、貴女……」
驚いたようにお姉様がわたしの顔を見る。
「えへ。あの頃はわたし、もっとボロボロでしたからね。
でも、お姉様がスラムのみんなにご飯をくれたり、勉強を教えてくれたりしたご恩、わたしは一日たりとも忘れたことはありませんでしたよ」
あれから随分と月日が経ってしまったけれど。学園に来て、お姉様を一目見て、わたしはお姉様に気づく事ができた。
お姉様がわたしに気づいてくれなかったのは寂しかったけれど、相変わらず厳しくも優しく、わたしを導いてくれて嬉しかった。
――だから。
「わたしは貴方を愛してなどいません! わたしの気持ちを勝手に決めつけないでっ!」
わたしがそう叫ぶと、グラート様は顔を真っ赤にして唸った。
「おまえまで僕を騙していたのか! エリス!」
拳を振り上げ、駆け寄ってくるグラート様を見て、わたしは身を固くして目を瞑った。
――殴られる!
まるで庇うように、お姉様がわたしを抱きしめてくれるのがわかった。
けれど、衝撃はいつまでも来ない。
かわりにふわりと知らない花の香りがして、なぜか心が安らぐのを感じた。
……ああ、この香りは――
「――好いたはずの女相手に手を上げるとは。『真実の愛』も随分と安っぽいもんだな。グラート」
目を開けると、わたしを抱きしめたお姉様の前に、パーティー用の正装をなさった黒髪の男性が、グラート様の拳を受け止めていて。
「殿下……」
わたしが呟くと、殿下は顔だけこちらを振り返り、静かに告げた。
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「――『真実の愛』の壊れるところをなッ!」
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