転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。

前森コウセイ

文字の大きさ
34 / 54
第1部 暴君立志編  第5話 王太子、暴君となる

第5話 5

しおりを挟む
 数日後、俺はクレストス家主催のガーデンパーティーに招待されていた。

 ソフィアの婚約発表の為に開かれるパーティだ。

 同じく招待されていたグレシア将軍と共に、ユリアンを護衛として連れて、俺達はやってきた。

 広いクレストス家の庭園に、白いテーブルクロスに彩られた丸テーブルがいくつも並ぶ。

 どうやら立食形式のパーティーらしい。

 俺達が到着した時には、パーティーはもう始まっていて。

 正直気乗りしない俺は、挨拶だけして、さっさと帰ろうと考えていたのだが。

「ラ――ララー……」

 どこかで聞いた歌声だと思って、前の方に設けられた演台に目を向けると、エリスが歌い、その周囲でシンシアが舞いを披露していた。

 彼女達は大劇場の落成式の後も舞台に立ち続けてくれていて、今では庶民の間で「天上の歌姫」「天上の舞姫」と呼ばれて有名となっていた。

 エリスの父親であるグレシア将軍に目を向けると、娘に向けるその眼差しは、ひどく優しい父親のもので。

「――将軍、頬が緩んでるぞ」

「おっと、これは失礼」

 グレシア将軍は咳払いして照れくさそうに頭を掻いた。

 やがてエリスの歌が終わり、それに合わせてシンシアの舞いが余韻を含んで止まる。

 誰もが見惚れる二人の歌舞に、招待客達はみんな万雷の拍手を浴びせる。

 そんな中――

「おまえ達、下賤な歌女と踊り女にしては、見目が良いな。こっちに来て酌をしろ」

 そんな事を言い出すバカが居た。

 キノコのような髪型に、やたら細い目がいやらしく垂れ下がっている。

 肩幅も腕も細いのに、やたら突き出した腹をしているそいつは、ソフィアをかたわらに置いて、エリスとシンシアに手招きしている。

 いまや王都でエリスとシンシアの存在を知らない者はいないだろうに、下賤などと。

「――アレがキムジュン王子です」

 グレシア将軍が耳打ちする。

 その顔は、娘を下賤扱いされて、明らかに苛立っている。

「――殿下、彼女達は貴族令嬢です。そんな娼婦のような真似事はできないのですよ」

 ソフィアがキムジュンをたしなめ、俺達に気づいたエリスとシンシアが、こちらに逃げてくる。

「これはいい! ホルテッサでは貴族令嬢が歌女のマネごとをするのか!
 所詮は未熟な国家だな!」

 そうしてエリス達の行方を目で追った彼は、二人に囲まれた俺を見て、その細い目を吊り上げた。

 不意に立ち上がり、ズンズンとこちらへ歩いてくる。

 お? ようやく挨拶する気になったか?

 いやー、どうやらそんな雰囲気じゃなさそうだが……文句でも言うつもりだろうか?

 そんな事を考えていると、ヤツはいきなり右手を振りかぶり。

 目の前がブレて、地面に転がったところになって、ようやく俺は殴られた事に気づいた。

 ――こいつ、いきなりっ!

 頭おかしいんじゃねえのか?

「――殿下!」

 庇うようにグレシア将軍とユリアンが前に立つ。

「気に食わない目つきをしてると思ったら、おまえがホルテッサの王太子か。
 これしきも避けられないとは、ホルテッサも程度が知れるな」

 普通、この場、この場面でいきなり暴力振るう奴がいるなんて、誰も思わないだろう?

 しかも、互いの立場というものがあるというのに。

「――なんだ、その目は? やり返しても良いんだぞ?
 そうなったら、戦争するだけだけどな。やりたくないよな? 戦争」

 ゲラゲラ笑って、キムジュンは俺を煽る。

 それからふと気づいたように、ヤツはユリアンに目を向け。

「なんだ? ホルテッサでは、令嬢が歌女の真似事をするだけではなく、犬が騎士の格好もするのか!」

 こいつ――

 俺がパルドス王国を好かない理由が、その選民意識の高さと、獣属を奴隷にしている点だ。

 他国にも奴隷制度のある国はあるが、それはそれなりの理由があっての事で、パルドスのように、「獣属だから」という、その一点だけで奴隷にしていたりはしない。

「ほら、犬は犬らしくしろ! さっさと裸になって、跪くんだよ!」

 と、この頭のおかしい王子は、腰からナイフを取り出して、ユリアンの鎧を切り裂き、強引に服を剥ぎ取っていく。

「――っ!」

「殿下! 今は――」

 俺が前に出ようとすると、グレシア将軍が俺を後ろから押さえつけ、エリスとシンシアも涙を浮かべて両手を掴んだ。

「なんだ犬、おまえ女だったのか! こいつはいい! ほら、お座りしてみろ!」

「ユリアン……」

 呻く俺を振り返る、裸にされたユリアンの目尻に光る涙が見えて、目の前が真っ赤に染まる。

「……オレア様、見ないで――」

 その呟きが脳を焼いた。

 ちくしょう。アイツっ、殺す!

 身じろぎするが、グレシア将軍は離してくれない。

「――殿下、お戯れはそこまでに……」

 と、ソフィアがやってきて、キムジュンの腕に両手を絡める。

「そんな娘は放って置いて、わたしとあちらで楽しみましょう?」

「ソフィア……おまえ、本当に良いのか?」

 俺の問いに、ソフィアは深い笑みを浮かべて俺を見る。

「ええ、わたし、真実の愛に目覚めたの。
 ごめんなさい。オレア殿下。
 これからは、キムジュン殿下を旦那様として尽くす事にするわ」

 そう言って、ソフィアはキムジュンに口付けする。

「――そういう事だ。残念だったな」

 高笑いをあげて去っていくキムジュンと、それに付き従うソフィア。

 俺は裂けるほど唇を噛み締めて、それを見送るしかなかった。

「――ジュリア様!」

 エリスとシンシアが、俺から離れてユリアンに駆け寄る。

 彼女を守れなかった俺には、かけてやる言葉が見つからず……

「これで隠してやれ」

 羽織っていたマントを放って、俺は屋敷の外に向かって歩き出した。

「あ、殿下! お待ちを!」

 グレシア将軍が呼ぶが、俺はもう、こんなところに一秒も居たくなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...