誰もが我儘な私ではないお方が良かったようなので、悪役の私は残忍な猛将達に手酷く扱われに行きます。戻れ? 絶対に離れるなと脅されているのですが

迷路を跳ぶ狐

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40.帰るな

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 その日の夜は、眠れなかった。

 二度と会いたくなかったのに、オーテクルテスファー様が来るなんて……

 正直、恐ろしくて仕方がない。あんな男に会いたくないし、二度と顔なんか合わせたくない。

 出来るだけ考えないようにすればするほど考えて、嫌になる。

 私は、庭をトボトボ歩いていた。

 なんとなく、こうしていると落ち着く。ホッとするし、あの城にはもういないんだって思える。私はこれからもここにいたいし、それを曲げる気なんてない。
 あそこを出た時に、これからやりたいことがたくさんあった。それだって、まだ叶えられていない。
 もう私は好きなようにやるって決めたんです!

 それに……ここにいる方々の役に立ちたい…………

 決意していたら、夜空に飛んでいるものが見えた。

 あれは……ブークリアス様の使い魔……??

 なぜこんなところに……

 誰かに伝令かもしれない。けれど、城には結界が張られている。城にたどり着くことはできないだろう。

 私は、魔法で空を飛んで、城の外に出た。城壁の下に立つと、その使い魔は待ち構えていたかのように、私の元に降りてくる。使いは不気味な虫のような姿をしていて、私に一通の手紙を押し付けた。

 うっわああああ……最悪……

 オーテクルテスファー様からの手紙だ。

 今すぐにエティレンクドとキャデリレーラを連れて戻れ、お前は俺の婚約者だろう、こんなことは契約違反だ、命令に従えないのなら、必ず処刑する……そんな感じのことが、私に対する誹謗中傷と共にながーく書いてある。

 何言ってるんだろう……この人……

 私はもう、婚約者ではないし、破棄したのはオーテクルテスファー様だし、無関係なのに契約だなんて訳がわからないし、続けるならって、私が何をしようが私の勝手。
 それに、まるで私が反乱を起こしたかのような物言いだが、赤の他人を守る義理もなければ、従う理由もない。

 身勝手はそっちだ。

 婚約だって破棄したんだから、彼はもう全く関係のない人。

 こんなものを見たら、急に腹立たしい……

 もう、無視です! 無視!!

 私はそれを丸めてしまおうとしたけど、それを背後から、誰かが取り上げてしまう。

「なんだこれは……」
「ヴィラウレルト様っ……!?」

 びっくりした。

 いつの間に、こんなところに……

 彼はじっと、私の持っている手紙を見下ろしている。

「……あいつからの手紙……? まさか、結界の中に入ってきたのか?」
「い、いえ……伝令の使い魔のようだったので、私が取りに来たんです。勝手に城を出て、申し訳ございません……」
「そんなことはいい」
「…………」

 いいんだ……

 私、一応ここに囚われているのではなかったの?

 けれど、ヴィラウレルト様は手紙を握りつぶして振り向いた。

「それで? その、お前の手元にいるのが、この手紙を持ってきた使い魔か?」
「はい……ブークリアス様が寄越した使い魔だと思います。かなりの魔力を持っているようですから……」
「ブークリアス? ああ、オーテクルテスファーのところの魔法使いか……」
「はい……随分腹を立てているようで……」
「キャデリレーラとエティレンクドのことか?」
「それもありますが、おそらく、私がここで勝手に魔法の道具の強化などを行ったことが気に入らないのでしょう」
「そんなこと、あの男には関係ないだろう。婚約は破棄したと聞いたぞ」
「はい…………もちろんです。けれど、彼にとって、私はいつまでも所有物なのです。自分のものが勝手にどこかにいったら、みんな、腹を立てるでしょう? 意志を持たないはずの物が、勝手に動き出したら、誰でも驚くし、気持ち悪いと思うはずです。それと一緒です。自分に従うだけだったはずのものが、勝手に動くことが気に入らないんですよ」
「…………」
「私は大丈夫です。帰らないし、従うこともしません。では、私はこれで……」

 彼に背を向けると、彼は私の肩を掴んで止めた。

「ヴィラウレルト様…………?」
「絶対に帰るな」
「……え?」
「帰る必要などない。絶対に帰るな」
「…………」

 もちろん、帰る気なんてなかった。だけど、そう言われると、ホッとする。だって、私はもともと、魔法の道具の代わりなんだから。魔法の道具が強化されれば、用済みなんじゃないかと思っていた。

「か、帰れと言われたら、どうしようかと思っていました……」
「なぜそんなことを言われると思うんだ? あの魔法の道具を強化したのはお前だし、使用人たちも、魔法を研究する魔法使いも、お前を頼りにしている。テクフィノレクと、ロズルラトもだ」
「あの二人が、私を、ですか?」

 ……いつもひどく呆れた顔をしているけど…………それは、ヴィラウレルト様の思い違いじゃないのかな……

 けれど、私はここにいたいし、オーテクルテスファー様に従うつもりもない。だって私は、ここで私のなりたいようになるって決めたんだから!

「あ、ありがとうございます! ヴィラウレルト様!」
「……分かればいい。こういうものが来たら、今度からはすぐに言え」
「は、はい!! それと、ヴィラウレルト様!!」
「なんだ?」
「お話があるのです!」
「なんだ? オーテクルテスファーのことか?」
「違います! あんなやつ、もうどうでもいいので!!」
「………………そうか……」
「私、お金を稼ぎたいのです! 冒険者ギルドに行ってみたいんです! 明日から、外出の許可をくれませんか!?」
「……こんな時に、よく言えたな」
「ダメですか?」
「これが終わったらな……」
「ありがとうございます!!」

 返事をすると、ヴィラウレルト様は少し困ったような顔で「呆れたやつだ」と話していた。
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