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1.脱獄することにした
俺がこの世界に召喚されてから、もうすぐ五日が経つ。
初めてきた時には驚いた。家賃が支払えずに、どうしようか考えながら歩いてたら、ぼーっとしてたのがまずかったらしく、車道にふらふら歩き出して、気づいたら草原にいた。
何が起こったのかわからなかったが、その時俺のそばにいた魔法使いだと言う男によると、俺は異世界に召喚されたらしい。
それならチート能力の一つもあるかと思ったが、そんなものはまるでなく、見知ったゲームの世界だったわけでもなく、ただ、気づいたら変なところにいたというだけだ。
良かったことといえば、家賃支払わなくて良かったことくらい。
そして、そばにいた男は、俺をこの世界に召喚した男らしく、頭を抱えていた。
男の周りにも、幾人も豪華な格好をした人がいて、俺の目の前で舌打ちをして、なんでこんなの呼んだんだ、なんて呟いていた。
なんでだって? そんなことは俺が聞きたい。俺だって、こんなところ来たくなかった。
というのも、この世界はとんでもないクズ世界だったのだ。
俺をここに連れてきたのは、王家直属の魔法使い。何で呼んだのかと言うと、魔物の討伐に魔獣の管理、行き詰まった魔法の開発、他の種族との争いも膠着状態……そんな状況を打破するために、魔法を生み出せる人材を探していたらしい。
魔法を生み出せるって、何するのか分からないが……
どうやら俺は、そいつらにとって、ハズレだったようだ。
だって俺は、なーーーーんの役にも立たないクズ。大家から逃げる方法か喧嘩でも教えましょうかと言った時の、王様たちの絶句は今も覚えている。
そしてキレられた。何だこの役立たず、と。ひどくね?
なんだそれ。何その上から目線。来たからには役に立てっててか。死ねよ。来たくて来たんじゃねーよ!
じゃあ呼ぶなよと言いたいところだが、元の世界に帰ってもなー。
元の世界でも同じことを言われてきた。なんだこの役立たずって。俺はどうやら奴らに言わせればゴミらしい。
学校でも職場でも誰とも馬が合わず、バイトで働いていたが、いちいち嫌味言う奴と喧嘩してクビになり、腹を空かせて歩いていたら、歩いていただけなのに「こんなところで真っ昼間からふらふらしていて気持ち悪い」とかいう理由で警察を呼ばれたらしく、職務質問されて、職業聞かれて「あー……ちょっと前にクビになって無職になりました」って言ったら「ふうん……」みたいな対応されて、家に帰ったら電気とガスが止まってて、大家がすげー勢いで家賃取り立てにきた時に召喚されたから、微かに死にたくなっていたところを助けてもらったとも言える。
しかし、このままここに囚われて、争いのために使われるなんて冗談じゃない。だったら逃げるか……
そんなことを考えていた時だった。
お前の部屋だと言われて押し込められた部屋でゴロゴロしていたら、急に悲鳴が聞こえてきた。
この声、確か俺をこの世界に召喚した奴だ。なんかあったのか?
すぐに悲鳴が聞こえた方へ出て行こうとしたが、部屋のドアには鍵がかかっている。
俺をここに放り込んだ連中には、「お前が今日から使っていい部屋」なんて、恩着せがましく言われたが、部屋だなんてただの建前で、どう見ても城の地下にある独房だろ! 部屋の扉だって鉄格子だからな!!
俺は確かにアホだが、これを部屋と呼んで誤魔化せると思うなよ!!
どう考えても、ここは地下にある牢屋。だが、俺は何もしていない。俺はクズかもしれないが、俺的に、クズは犯罪じゃない。
こんなところにいつまでも囚われている俺でもない。
こんなこともあろうかと、たまに俺に食事を運んでくる見張りの男から、鍵を掠め取っておいたんだ。これで鍵を開ければ、この牢からも簡単に逃げられる。
今がその時なんじゃね?
こんなところにいることにも飽き飽きしてきたところだ!! そもそも俺は何もしてねえんだし、こんな所にいてやる謂れはない!
俺は鉄格子から手を出して、鍵穴に鍵を差し込んだ。
だけど、鍵はなかなか開かない。
おかしい……なんで開かないんだ?
あー……もしかして、鍵、間違えたのか!!?? せっかく見張りから掠め取ったのに、意味ねー……
俺はたまにこういう馬鹿なことをやる。だが、よく考えてみたら、鍵が開かないなら開かないで、もうそれでいいじゃないか。
最初から鍵とか面倒くさかったんだっ……! 鉄格子なんか破壊しよう。
一応「部屋」と言い張るためなのか、ここにはいくつか家具が揃っている。ベッドに棚に、あとは小さなテーブルらしきもの。
最近尋問だなんだって言われて長時間聞きたくもない話聞かされてストレス溜まってたんだ。
ちょうどいい。
そばにあった、脚が折れかけのテーブルを持ち上げる。
「ここからっ…………出せえぇぇっっ……!!」
振りかぶったそれを、扉のあたりにぶつける。すると、馬鹿でかい音を立ててテーブルは崩れていったけど、扉は開かない。
完全に折れてしまったテーブルの脚を振り上げ、何度も扉を叩く。すると、扉が微かにひしゃげてきた。
いい感じじゃないか!? あと少しだ!
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