悪役令息に転生したが、全てが裏目に出るところは前世と変わらない!? 小心者な俺は、今日も悪役たちから逃げ回る

迷路を跳ぶ狐

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後日談

93.順番!?

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 さっきまで小さな竜だったのに、ヴァグデッドが男の姿になったら、急に緊張してきた。可愛らしく俺の周りを飛び回っている時は、そんなことなかったのに。

「うっ……ヴァグデッド……き、急に人の姿にならないでくれっ……」
「なんで?」
「え!?」

 ドキドキして顔も上げられなくなるから……とは言えない……

 な、なんて答えればいいんだ……くそっ……! なんでゲームに悪役令息フィーディの選択肢がなかったんだ!
 こうして誰かとデートをするのも初めてなら、二人で歩くのも初めて。ただ会話するだけなのに心臓が高鳴って、何も考えられなくなりそうだ。

 何か言わなくては……でも、何も思いつかないっ……

 もうこの際、包み隠さず正直に言うか? ドキドキして歩けなくなるからって。

 それとも。

 ごまかすか? 周りの人が驚くだろ? みたいに……

「……あ…………その……き、急に人の姿になったら、みんな驚くんじゃないかなって…………」

 ……言いながら、自分の不甲斐なさが嫌になる……俺だって、ヴァグデッドにこうされているのは嫌じゃないのに。

 絶対今、照れずに正直に言うべきだった……

 自分の選択に、後悔ばかりの俺に、ヴァグデッドは周りを見渡して言う。

「そんなことないよ。誰も見てもいないし」

 言われて、俺も周りを見渡せば、誰もこっちを向いてない。いきなり小さな竜が人になっても、それはここでは驚くことでもなんでもないらしい。

 慌てているのは俺だけ。しかも、ヴァグデッドが人になったからじゃなくて、彼がこうしてすぐそばにいるからだ。

 彼が俺を見下ろしている。そうされて、目があっただけで緊張する。

 やっぱりどうしても昨日押し倒されたことを思い出してしまうっ……!

 ベッドに倒されて、組み敷かれて、俺は微かに抵抗したが、彼はびくともしなかった。しかも、いつもの俺なら、絶対怯えていたのに、鼓動が高鳴っていくばかりだった。これはどうすればいいんだっ……嬉しいんだか怖いんだか分からないっ……!

 一人で混乱していく俺に、ヴァグデッドは首を傾げて言う。

「……フィーディ? どうしたの?」
「へっ……!? な、なんでもない!! なんでもないっ……! な、なんでもっ……ないんだ……」
「ふーーん…………だけど、顔が赤いよ?」
「へ!? ……あ、えっと……さ、寒いっ……寒いからだな!!」

 腕をさすりながら言うと、ますます彼に強く抱き寄せられてしまう。彼の体が温かくて、もう寒さなんて全く感じないどころか、熱い。

「あっ……あのっ…………ヴァグデッドっ……お、俺っ…………ち、ちょっとあのっ……」
「なに?」
「……あのっ…………お、俺っ……ひ、一人で歩けるから……あの…………」
「寒いって言ったのに?」
「そ、それはっ……」
「それに、さっきから人にぶつかりそうになってるのに?」
「そ、そんなことは……ない……」

 いいや……あるな……

 確かに彼の言うとおりで、俺はさっきから、しょっちゅう人にぶつかりそうになっている。さっきからずっとヴァグデッドのことばかり考えてしまって、彼のことばかり見上げてしまうからだ。

 ……ちょっと抱き寄せられたくらいで、こんなに心臓が高鳴るなんてっ……

 体まで熱くなってきたし、さっきから、俺の服と彼の服が擦れ合っている。俺と彼の距離が、服一枚ほどもあいていないようで、ますます恥ずかしくなってきた。しかもさっきから考えるのは昨日ベッドに押し倒されたことばかり……こんな顔、ヴァグデッドに見せられるものか!

 ずっと俯いてしまう俺に、彼は俺の耳元で言う。

「……フィーディがよくても、俺が嫌」
「へっ……!??」
「俺が嫌なんだよ……フィーディが良くても。フィーディの体が他の男に触れるの、見たくない」
「はい!???」

 ただ、道を歩いているだけなのに!?

 俺は別に誰かに触られたわけではなく、単にぶつかりそうになっただけだ。それなのに……なんだかこの前の嫉妬から、彼の独占欲が増している気がする……

 しかも、そんなことを言われて、俺は怖いどころか嬉しい。

 もうだめだ……! こんな風に肩を抱かれていたら、前を見ることすらできなくて、彼にまでぶつかってしまいそうだ!

「あ、あにょっ…………」
「フィーディ? どうしたの?」
「そのっ…………お、俺っ……そ、そのっ…………さ、さっきはすまない!! 周りの通行人を言い訳にしたりして……ただ俺がっ……そのっ…………距離が近くてひどくドキドキしてっ……お、お前の顔も見れないからっ…………!」
「…………」
「て、手を……つ、繋ぐのはどうだろうか! 手を繋げば、はぐれることもない!! な、なんていいアイデアだ!!」
「…………フィーディ……俺と手を繋ぎたいの?」
「へっ……!? あ、えっと…………そ、そうだな……つ、繋ぎたい……です……」

 何を言っているんだ俺はっ…………手を繋ぎたいだなんて、言うのも恥ずかしいのにっ……!!

 真っ赤になっていたら、ヴァグデッドのちょっと意地悪そうな声が聞こえた。

「でも、手を繋ぐのは、付き合ってからなんだろ?」
「へ!??」

 どういうことだ?

 驚いて見上げたら、彼はニヤリと笑っていた。

「フィーディ、言ってたじゃん。付き合ったら、手を繋ぐことから始めたいって」
「あ……」

 そう言えば、そんなことを言った。付き合ったら、手を繋ぐところからだって。そんなことを覚えていたのか……

 ……だからといって、肩を抱くところから始めるのは、違うんじゃないか!??

「ヴァグデッド……あ、あのっ……」
「俺たちはまだ付き合ってないから、肩にしよう」
「か、肩は……手より後かなって……お、思うんだけど…………」
「俺は手より肩が先」
「そんな無茶苦茶な……! あ、あのっ…………だ、だったら、お、お互い、順番を確認するのはどうだろう!? い、意見の相違があるかもしれない……だろう…………?」

 だんだん俺の声は小さくなっていく。だってヴァグデッドが俺の首に鼻先を近づけてくるからっ……!!

 く、くすぐったい!

 彼の髪が俺の頬に触れて、首には吐息がかかる。その柔らかな感触にいちいち反応して、俺の体が震えている。

「ヴァグデッドっ……あ、あのっ…………」
「フィーディ……いい匂いがする…………吸っていい?」
「へ!? だ、だめだっ……あ、朝、クッキーいっぱいあげたじゃないかっ……だ、だからっ……」
「ちょっとだけ」

 だから、そんな首元で離さないでくれっ……! ますますドキドキするっ……!! 彼の声が俺の体に響くようだ。

「……る、ルオンにだめだと言われているだろうっ……あ、後でまた、クッキーをやるっ……から……」
「…………約束?」
「う、うん…………」

 ビクビク震えながら頷く。すると、ヴァグデッドは、そっと俺から離れてくれた。

「約束だよー」
「あ……うん…………」

 怯えながらも、頷く。

 すると彼は微笑んでくれて、俺の肩から手を離し、手を繋いで歩き出した。

 もしかして……俺が怯えているようだったから、引き下がってくれたのかな……
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