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二章
19.約束だからな!
しおりを挟む城門の上に飛んだメティリートに抱っこされたまま見下ろすと、雪の熊は未だに冷気の息で門を攻撃している。
あんなもんに向かって行ったら、雪だるまにされそう。
そんなことばかり考えていたら怖くなって、ますます戦えなくなりそうだ。
落ち着け。俺。よーく見たら、ちょっと大きなクマじゃないか。冷気だって、よく考えたら涼しいだけだ。
「じゃあ、メティリート! あとは頼んだぞ!」
「……死にに行くみたい」
「死ぬって言うな! 絶対援護しろよ! 約束だからな!!」
「うん……」
「じゃあ、俺を熊の前に下ろせ! 魔石の洞窟まであいつを連れて行く!!」
叫ぶと、メティリートが俺に魔法をかけて手を離す。すると、俺の体は雪の熊めがけてゆっくりと降りていった。
だけど、熊の前に下ろせって言ったのに、熊の背中に向かって行ってないか!? 熊の前に降ろしてくれるだけでよかったのに!
嫌な予感はあっさり当たって、俺は熊の背中の上に降りた。誰も背中に下ろせとは言ってないだろ!!
空のメティリートを見上げて、目で抗議するけど、そいつは分かっているのかいないのか、俺を見下ろしているだけ。
熊はまだ、俺には気づいていないらしい。ずっと城門に向かって冷気を吐き続けている。
門からビシビシと嫌な音がする。このままだと一気に崩れる!
「おい!! 熊っ……! 来てやったぞ! こっち向けよ! おい!!」
どれだけ喚いても、熊は背中の俺に気づかない。鈍いやつだな……俺が小さすぎるだけか。
何しろ相手は城の二階まで届きそうな巨大な熊。それに比べて俺は小さなうさぎ。
だけど、このまま気付かずに門を凍らされていたんじゃ、俺がここに来た意味がない。
「くそっ……! 気づけーーーー!!」
叫んで、俺はそいつの背中に噛みついた。すると熊は、大きな悲鳴をあげて、体を震わせる。
「うわっ……!」
たまらず地面に落ちる俺。着地はできたけど、背後から熊の唸り声が聞こえた。
恐る恐る振り向けば、熊はだらだら涎を垂らして俺を見下ろしている。
「あ、あーー……ははは……あ、あの! できたら門凍らせるのやめてほしいなーって……」
愛想笑いなんか浮かべてみるけど、それでどうにかなるはずもなく。
熊は咆哮を上げて俺の方に向かって走ってくる。
慌ててメティリートに言われた方に逃げる俺。
この体、すげえ軽い! いつもの俺より、ずっと早く走れる!
空を見上げれば、魔法で飛んだメティリートが、森の北の方を指差していた。
向こうが魔石の洞窟らしい。
草木の間を抜けて、必死に走る。
途中何度か、熊に追いつかれそうになったけど、空から俺を追うメティリートが、魔法で熊の妨害をしてくれた。だけど、空から飛んでくる炎の魔法を受けても、熊は少しの間怯む程度。すぐに恐ろしい声で鳴いて迫ってくる。
追いつかれたら、俺なんか一飲みにされる。
必死に逃げる俺の背後から飛んできた冷気が、周りのものを凍らせていく。
すげー魔力……羨ましくなりそうだ。だけど呑気に羨ましがってる場合じゃない。
このままじゃ追いつかれる! かと言って、俺に魔法は使えない。
俺は、周りにあったおかしな形の葉の木の枝に飛びついた。すると熊は俺を落とそうと木を揺らし始める。その隙に次の木に飛び移った。
木の上を逃げて行くと、途中で足を滑らせて、キノコの中に飛び込んでしまう。
いて…………
「後ろっ……! ついたよ!!」
空からメティリートの声が聞こえて、俺は振り返った。
そこには、メティリートだったら何とか通れるくらいの入り口の洞窟があった。中にキラキラした石が見える。魔石だ。魔力を持つ石が、こんなに集まっているなんて。
だけど待てよ。
こんな狭い入り口じゃ、熊が入ってこれないだろ!! どう見ても、熊はこの入口の二倍くらいの大きさがある。
熊は俺目掛けて走ってきてる。今更Uターンはできない。
俺は洞窟に飛び込んだ。奥まで走ると、そこまでは明かりが届かないらしく、薄暗い。俺は足元の石に足を取られて転んでしまった。
「いってえ……」
「……大丈夫?」
そばで声がして振り向けば、メティリートが蹲っている。
「お前! 来てくれたのか!?」
「…………僕を巻き込まないでほしいし……放っておこうと思ったんだけど、君に恨まれるのも嫌だったし、渋々来ただけ……」
「理由なんてどうでもいいんだよ!! 雪の魔法! 使えるか!?」
「うん……」
そいつが返事をしたところで、洞窟の入り口からすごい音がした。
一気に洞窟の中が真っ暗になって、入り口の方から、洞窟が崩れるような音ばかりが響いている。
熊の唸り声がして、天井から、パラパラと小石が落ちてきた。
メティリートが、魔力で小さな明かりを作り出した。それは、ふわりと飛んであたりを照らす。
洞窟の入り口の方で酷いうめき声がした。雪の熊が、狭い入り口から押し入ってこようと、鼻先を突っ込んで暴れているんだ。
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