ドジで惨殺されそうな悪役の僕、平穏と領地を守ろうとしたら暴虐だったはずの領主様に迫られている気がする……僕がいらないなら詰め寄らないでくれ!

迷路を跳ぶ狐

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28.行かないか?

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 領主様の勢いに負けて、言われた通り下がると、領主様は、オフィガタス様の方に振り向いた。

「それで? お前はわざわざ俺に剣を向けるためにここまで来たのか?」
「……いいや。そうだな…………」

 オフィガタス様が、僕の方に視線をやると、急に怖くなる。

 なんなんだ……

 なんだかニヤニヤ笑っていて、気味が悪い。

 けれどその男は、すぐに僕から顔を背け、領主様に向き直った。

「…………魔物退治に行かないか?」
「……なに?」
「近くの森にだ。どうせ、また魔物が増えているのだろう? 俺が手伝ってやる」
「……突然、どうした? 夜会のことでここへ来たのではないのか?」
「だからだ。素材も集めたい。魔物退治がてら、少し森を歩こう。森の魔物の状況に関して、報告もある」

 いきなり何を言い出すんだろう……ついさっき、領主様を襲っておきながら。

 けれど、領主様はオフィガタス様を睨みつけて言った。

「…………そうだな……俺もだ」
「……なに?」
「森の魔物の状況の報告と共に、俺も、話しておきたい事がある」
「…………それなら、ちょうどいいじゃないか。少し、森に出よう」

 え……え?

 領主様、本気で行く気なのか!?

 僕は、慌てて領主様に駆け寄った。

「あのっ…………! 領主様っ……!! ま、魔物退治でしたら、護衛の魔法使いを連れて行った方が……あ!! あの! ぼ、僕も行きます!!」
「ダメだ」
「え……なんで…………なんでですか?」
「戦闘の訓練は受けていないだろう。危険だ」
「そんなっ…………!!」
「護衛なら連れていく」
「…………」

 領主様の言うことは分かる。

 僕が行ったところで、多分、邪魔……

 だけど…………

「……そんな顔をするな」
「え…………」

 顔を上げたら、領主様は、僕をじっと見下ろしている。その顔が信じられないくらいに優しげに見えた気がして、僕は、それ以上反論する事ができなくなった。

 まだ……言いたい事があったはずなのに。

 領主様は、本当に僕のことを心配して言ってくれているんだ。

 足手纏いだ、そう突っぱねることもできるはずなのに、僕を気遣って来るなって言ってくれている。

 だけど……領主様に行ってほしくない。

 領主様がいなくなったら、この領地は王子のものになって……それから、どうなるんだろう。僕が間者になれと命じられることはなくなるのか??

 …………そうかも、しれないけど…………

 それでも嫌なものは嫌だ!!!! 大体、領主様がいなくなって、その代わりにいずれ領主様を断罪するはずだった王子が来るって言うのも嫌だ!!

 領主様には……ずっとここの領主でいて欲しい。

 魔物退治だって重要、それは、分かる。領主様の魔物退治の腕だって、知ってる。だけど、嫌なものは嫌で、心配なものは心配。

「…………領主様なら……大丈夫なんだと思います…………でも、僕……僕が、嫌で心配なんですっ……あのっ…………領主様は、少しっ……ご自分の命に無頓着ですっ……!! そ、倉庫でだって…………も、もう少しっ……護衛もちゃんとつけるべきです!! 僕、領主様が領主でないとっ…………嫌っ……なんです!」

 こんなこと……多分、僕が言うようなことじゃない。

 ここ数日、一緒にいて分かった。領主様は領地のことを本当に大切に思っている。ここを守りたいとも思っているのだろう。だから、魔物退治の時の部隊のことだって、ちゃんと考えてるんだろう。

 でも……なんとなく、絶対に嫌だ。

 感情に任せて叫んで、領主様と目が合うと、現実に戻る。

 何を大声で叫んでいるんだ。僕は……

「…………申し訳、ございません……出過ぎたことを、申し上げてしまいました……」
「……いいや……気にするな。確かに、その通りだ」
「え…………?」
「護衛は、ちゃんと連れていく。だから……あまり、心配するな」
「……は、はいっ……!」

 答えたら、領主様は、僕に手を伸ばしてくる。けれど、触れることはせずに、顔を近づけてきたかと思えば、そっと囁いた。

「……ちゃんと、待っていろよ…………」
「え……?」

 待ってろって……ちゃんと待ってる。だって、この城以外に、行くところなんてないし。

 領主様は、僕から離れると、オフィガタス様を連れて去って行った。
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