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33.変な魔法使いだけど、悪くはないです
しおりを挟むしばらく、お酒を飲むオーフィザン様にワインを注いでいた僕だけど、おつまみのチーズに手を出そうとして怒られて、ワインの瓶を倒してテーブルをワインまみれにして、グラスを落として割ったら、もういいから先に部屋に戻れと言われてしまった。
なんで僕、こんなにダメなんだろう……
オーフィザン様には感謝しているし、ちゃんとお仕えしたいのに、誰がどう見ても、僕って邪魔なだけだ。
オーフィザン様、やっぱり僕を追い出す、なんて言いださないよね……ペロケの方がいいって言われたらどうしよう……
うううー……ペロケには負けたくない!! 今日こそ頑張って、オーフィザン様に満足してもらう!! そうだ! 早く部屋に帰って練習しよう!
「クラジュさん! 待ってください!」
え? 誰?
僕を呼び止める声が聞こえた方に振り向くと、パトさんが廊下を走って駆け寄って来る。
どうしたんだろう? 先に部屋に戻ったはずなのに。
パトさんは、僕の前で頭を下げた。
「さ、さっきはごめんなさい!! ちょっといいですか?」
「え? は、はい……」
「よかった。クラジュさんとは、どうしても話がしたかったんです」
「ぼ、僕と……?」
「猫耳の狐妖狼がいるって聞いていたんですけど、耳、元に戻っていたんですね」
「あ……こ、これは、朝起きたら元に戻ってて……オーフィザン様が魔法を解いてくれたんです!」
「……そうですか……あの……クラジュさん……あ! 歩きながら話しましょう」
「は、はい……」
一体、僕に何の用だろう?
不思議に思いながら、僕はパトさんと二人で廊下を歩き始めた。
みんなでお酒を飲んでいた時、パトさんは酔っちゃったから帰るって言って、先に部屋から出て行った。だけど今は元気そうだ。酔いが覚めたのかな?
「クラジュさん、お聞きしたいことがあるんです」
「僕にですか?」
「はい。あの……あの魔法使いの木に登ったというのは本当ですか?」
「え?」
「オーフィザンが育てている木です。その実を使って、魔法の道具を作れるそうじゃないですか」
「あ……あの、柿の木に似てるやつですか?」
「はい!! それです!」
「はい……確かに登りました」
「本当ですか!? 今も登れるんですか?」
「……え……そ、それは、無理……です……」
「……なんでですか?」
「それは……な、内緒です!」
さすがに話しにくい。オーフィザン様のあの変な魔法の話は、他の人にはできない。木に登ったら、イキそうになっちゃうから登れないなんて。
オーフィザン様が、あんなエッチな魔法使うから悪いんだ!! パトさんに話せないじゃん!
だけど、パトさんはあれに興味があるのか、僕の顔を覗き込んで聞いてくる。
「なんで内緒なんですか? 教えてください。同じ狐妖狼じゃないですか!」
「お、同じでもだめです。ご、ごめんなさい!! えーっと、は、話しちゃダメって言われてるんです!!」
まるっきり嘘だけど、パトさんは僕から離れてくれた。
「そうですか……残念です。では、その木、どこにあるんですか?」
「え? えーと……あ! だ、だめです! あそこは立ち入り禁止なんです!! うっかり入っちゃうと、パトさんまでお仕置きされちゃいますよ!」
「……そうですか…………」
わ、分かってくれたのかな……オーフィザン様、僕があの部屋に入ったとき、すごく怒ってたし、あの木だって、近づいたら危険だ! だって昨日、すっっごく辛かったもん! パトさんをあんな目に合わせるわけにはいかない!
絶対に話さないぞ!!
僕は決意して歩き出した。パトさんも、僕の隣を歩くけど、何だかすごく残念そう。そんなにあの木を見てみたかったのかな……
「あの……クラジュさん。あの魔法使いを信用しない方がいいですよ」
「え? あの魔法使いって、オーフィザン様のことですか??」
「だって、あなたの頭に猫耳をつけたのは、魔法使いだったんでしょう? なぜあなたはあの魔法使いを信用できるんですか?」
「え……? そ、それは……確かにここに来た時は、魔法使いっていうだけで、オーフィザン様のことがすごく怖かったけど……僕、ここに来て、やっと寝床をもらえたし、ご、ごはんも仕事も」
「クラジュさん…………あなたに猫耳をつけた魔法使いの顔を見たんですか?」
「……え……み、見てません。さっきみんなでいるときに話したじゃないですか……」
「では、声を覚えていますか?」
「……覚えてないです……」
「クラジュさん……あの……実は、僕の仲間で、盗賊に連れさらわれたけど、逃げてきた人がいるんです。その人が話していた特徴があの魔法使いに似ていて……ひどく残酷な魔法を使う男だったと言っていたので……心配で……」
「え? なんでですか? 似てるだけなのに」
「…………あの魔法使いが、あなたに魔法をかけたとは思わないんですか?」
「…………………………それはないです」
「なぜ、そんなに断言できるんですか?」
「だって、オーフィザン様の使う魔法は、その……普通の魔法じゃないんです。残酷でもないし……だから、違うんじゃないかなって思って……」
「魔法の違いがあなたにわかるんですか?」
「分からないけど……あ! パトさんの仲間が言った、残酷な魔法って、どんなのですか?」
「……それは……僕の口からは……ただ、一撃で人の命を奪うような……恐ろしい魔法だったと聞きました」
「じゃあ、大丈夫ですよ! だって、オーフィザン様の魔法は残酷じゃなくてエロ……」
しまった。つい……
オーフィザン様の魔法の話は、他の人にはできない。エロいから。そんなこと、初対面のパトさんに話せないもん。
だけど、つい途中まで話しちゃったから、パトさんに聞き返されてしまう。
「えろって、なんですか?」
「あ、あ、い、いえ……あの……ち、違うんです!! ただ、お、オーフィザン様は残酷な魔法なんか、使いません! だ、だから、安心してください!!」
「できません」
「え……なんでですか?」
「僕の仲間が言っていたからです。あの男こそ、僕の仲間を襲った男です!!」
「え……ええええ!?? オーフィザン様、パトさんの仲間にも、魔法使ったんですか!?」
「はい。そう言ったじゃないですか」
「……でも……オーフィザン様の魔法は……変態な魔法ですよ?」
「へんたい?」
「あ……え、えっと……違うんですか? 変な魔法じゃなかったんですか?」
「え……ち、違いません。そうですね! 変な魔法をかけられたんです。だから……と、とにかくっ!! あの男を信じてはいけませんっ!! あの男は、城下町でもすっっごく評判が悪いんです!!」
「……評判?? あー……オーフィザン様の魔法は、変な魔法だし……評判悪くて当然です……僕もいっぱいひどい目にあわされたし……」
「そうでしょう? あんな魔法使いを信じるべきではありません。僕に教えてくれませんか?」
「え? 何をですか?」
「クラジュさんの群れの位置です。狐妖狼の力が戻ったんだし、探知できるんでしょう? 教えてくれたら、僕が連絡を取ってあげます!! 変な魔法を使う魔法使いが、群れを狙ってるって!!」
「え? オーフィザン様、そんなことしませんよ?」
「クラジュさん! あんな怪しげな男を信じていいんですか!? あれは僕の仲間を襲った男です!!」
「……でも……変な魔法はオーフィザン様だと思うけど……オーフィザン様は誘拐なんかしません」
「いいえ。あの魔法使いは信じられません。もしかしたら、あなたの群れの仲間をとらえる気かも……あなただって、ひどいめにあわされたって言ったじゃないですか!」
「え? そうですけど……オーフィザン様、群れの仲間にいきなりあんなこと、しないんじゃないかな?」
オーフィザン様は変な魔法使いだけど、さすがのオーフィザン様でも、群れの狐妖狼全員を、いきなり泡でいじめたりしないと思う。
パトさんは少し黙ってから、低い声で言った。
「クラジュさん。そんなことを言っていていいんですか? あの男は悪い魔法使いですよ」
「悪くないですよ? エロい……じゃなくて、へんた……でもなくて……あ、へ、変な魔法使いですけど、悪くはないです」
「……あああー……これだからバカは……」
「え? 何か言いましたか?」
「…………なんでもありません。バカ過ぎて騙せね……あー……後悔するぞ」
「え?? な、なにを? …………あ、あれ?」
な、なんだか目の前が暗くなってきた。
頭がくらくらする……あれ? ね、眠い……
急に眠くなるなんて、どうしたんだろう。昨日はオーフィザン様との約束を破って、いっぱい寝たはずなのに……
だんだん体もフラフラしてきて、僕は気を失ってしまった。
頭と手首が痛くて、僕は目を覚ました。
あれ……僕、なんで寝てたの?
手首が痛い。手を下ろしたいのに、頭の上に上げられた手を下ろせない。
痛む手首を見上げると、僕の手首には手枷がかけられ、鎖で天井から吊るされていた。
なんでこんなことされてるの? それに、ここ、どこ?
木でできた小屋みたいだけど、窓のカーテンは閉められていて、外がどうなっているかは分からない。
周りには、変な植物がいっぱい入ったかごとか、動物の骨みたいなものが散らかっている。なんだか気味が悪い。
天井に吊るされたランタンも、だいぶ薄汚れていて、周りに虫が飛んでいた。
なにより、壁に立てかけられている、いくつもの銃や剣が怖い。
なんだ……ここ……? やだ……は、早く逃げないと!! オーフィザン様のところに帰らなきゃ!!
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